パーキンソン病の水中運動療法とは?バランス・歩行への研究と安全上の注意

· パーキンソン病関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病の水中運動療法(アクアティックセラピー)とは?バランス・歩行への研究と限界を正直に解説

「陸での運動は転びそうで怖いけれど、プールの中なら安心して動けるのでは?」——これは、バランスやふらつきに悩むパーキンソン病の方から、よく聞かれる質問です。水中運動療法(アクアティックセラピー)は、プールなどの水の中で行う運動で、水の浮力や抵抗を利用してバランスや歩行の練習を行う方法です。この記事では、パーキンソン病の方の水中運動について、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、バランスや歩きやすさ、生活の質の指標に良い変化を示した研究は複数ありますが、運動症状そのものへの効果ははっきりせず、研究の質にも限りがあるため、陸上の運動に代わるものというより、選択肢の一つとして考えるのが現実的です。

監視のある環境でパーキンソン病の水中運動を始める場面
水中運動は、監視や付き添いがあり安全を確保できる環境で行います。
この記事の要点
・水中運動療法とは、水の浮力・抵抗・水圧を利用して、水の中でバランスや歩行などの運動を行う方法です1
・10件の研究(298人)をまとめた分析では、バランスの指標(Berg Balance Scale、平均差2.23)や、立ち座り・歩きの動作テスト(Timed Up and Go、平均差−0.91秒)、生活の質(PDQ-39、平均差−5.06)で良い変化が示されました。一方、運動症状の総合指標(UPDRS)には明確な差がありませんでした1
・15件の研究(435人)の分析でも、水中運動は通常のケアと比べてバランスの指標が高く、陸上の運動と比べても近い、または一部で良い結果でした2
・多くの運動を比べた大規模な分析では、水中運動はバランス、とくにじっと立つ安定性で上位の選択肢とされました3,4
・ただし研究数や参加人数が少なく、質にばらつきがあるため、証拠はまだ限られます。溺水や転倒などの安全面から、必ず監視のもとで行う必要があります1,5
SECTION 01
水中運動療法とは

水中運動療法(アクアティックセラピー、水中理学療法)は、プールなどの水の中で行う運動全般を指します。水には浮力があり、体にかかる重力の負担が軽くなるため、陸の上よりも転倒の不安が少ない状態でバランスや歩行の練習ができると考えられています3。同時に、水の抵抗や水圧が全身にかかるため、動くだけで軽い筋力や持久力の運動にもなります3

パーキンソン病では、動きが小さくなる、バランスが取りにくい、すくみ足が出るといった症状から、転倒が心配になる方が少なくありません。水中では「転んでも水に支えられる」という安心感のなかで、普段は挑戦しにくいバランスの練習に取り組める点が特徴とされています3。パーキンソン病では運動そのものを続けることが大切で、陸上でもさまざまな運動が研究されています。基本的な運動の考え方はパーキンソン病のリハビリ運動について解説した記事もあわせて参考になります。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「水中運動は、バランスや歩きやすさ、生活の質の指標に良い変化を示した研究が複数ある」一方で、「運動症状そのものへの効果ははっきりせず、研究の質には限りがある」というのが現状です。代表的な研究をみていきます。

バランス・歩行・生活の質についての研究
10件の研究・298人をまとめたメタアナリシス(2023年)では、水中運動を行った群が、通常のケアの群と比べて、バランスの指標(Berg Balance Scale、平均差2.23)、立ち上がって歩いて戻る動作テスト(Timed Up and Go、平均差−0.91秒。短いほど良い)、生活の質(PDQ-39、平均差−5.06。低いほど良い)で良い結果を示しました。一方で、運動症状の総合指標(UPDRSのパートIII)には明確な差はみられませんでした1

15件の研究・435人をまとめた別の分析(2020年)でも、水中運動は通常のケアと比べてバランスの指標が高く(平均差9.1)、陸上の運動と比べても、バランスや移動動作、生活の質で近い、または一部で良い結果でした。ただし転倒への不安は陸上の運動のほうが良い結果だった項目もあります2
たくさんの運動と比べた研究
さまざまな運動の種類を比べた大規模な分析もあります。199件の研究・約9,500人を対象に24種類の運動を比べたネットワークメタアナリシス(2023年)では、水中運動は全体のバランスで良い選択肢(効果量0.94)とされ、とくに「じっと立っているときの安定性」で最も高く評価されました4。73件の研究・約3,700人を対象にした別の分析(2025年)でも、水中運動はバランスに役立つ運動の一つとされ、目安として週あたり中等度の運動量(およそ700 METs・分)あたりで良い結果が示されました3。これらの分析では、ダンスやトレッドミル歩行、ピラティスなども上位に挙げられています。あわせて、パーキンソン病のダンス療法について解説した記事や、パーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事も参考になります。
療法士の見守りのもと水中でバランス練習を行うパーキンソン病の方
水の浮力と抵抗を利用し、状態に合わせてバランス練習を行います。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
これらの研究には共通した限界があります。バランスへの効果を示した分析でも、含まれた研究の数や参加人数が少なく、長期の追跡が乏しいこと、運動の内容(時間・回数・水温・深さ)が研究ごとにばらばらであることが指摘されています1。研究の質を厳密に評価した分析(GRADEという方法を用いた2024年の研究)では、バランスへの効果は「質の低い証拠」と判断され、筋力やうつ症状には明確な差がありませんでした5。多くの運動を比べた分析でも、参加人数の少ない研究が大半で、証拠の質は低いとされています4。良い結果を示した研究があっても、すべての方に同じ効果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、水中運動について、どのくらいの時間・回数・期間、どんな水温・深さで行うのが最も役立つのかは、十分に定まっていません1,7。研究では運動の量が不十分な場合も多いと指摘されています7。また、陸上の運動とくらべて明確に優れているのか、効果がどのくらい長く続くのか、どの重症度の方に最も向いているのかも、まだ検証が足りません2,5。プールでバランスの指標が高まっても、それが日常生活での歩きやすさや転倒の減少にどこまでつながるかも、今後の研究課題です。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、水中運動は「バランスや歩きやすさ、生活の質の指標に良い変化を示しうる選択肢」と考えるのが現実的です1,2,3。水の浮力で転倒の不安が少ないなか、普段は挑戦しにくいバランスの練習に取り組みやすいこと、水の抵抗で軽い運動になることは利点です3。陸での運動に不安が強い方にとって、運動を始めるきっかけになる可能性もあります。

一方で、「水中運動が運動症状そのものを軽くする」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません(運動症状の総合指標で差がなかった分析があります)1。また、陸上の運動より明確に優れているとまでは言えず、転倒への不安のように陸上の運動のほうが良い項目もあります2。水中運動は万能ではなく、陸上の運動や薬物治療などと組み合わせて、全体の生活の目標につなげていくのが現実的です。

SECTION 05
どんな人に向いているか

研究の対象を見ると、比較的軽度〜中等度のパーキンソン病の方(多くはホーン・ヤール分類でI〜III程度)で、バランスや歩行に課題があり、陸での運動に不安がある方が想定されています1,6。水が苦手でない方、プールに安全に出入りできる方に向いていますが、健康状態によっては向かない場合もあります。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
水中運動には、水ならではの注意点があります。最も大切なのは安全の確保で、溺水や転倒を防ぐため、必ず監視のもと、専門職や指導者が付き添える環境で行う必要があります。プールへの出入りや更衣の際に転びやすいこと、水に濡れた床は滑りやすいことにも注意します。心臓や血圧、呼吸に持病がある方、てんかんの既往がある方、皮膚に傷や感染がある方、飲み込みにむせがある方などは、向かない場合や医師への確認が必要な場合があります。また、パーキンソン病では急に薬が切れて動きにくくなる(ウェアリング・オフ)ことがあるため、体調や薬のタイミングにも配慮します。自己流で始める前に、まず主治医とリハビリ専門職に相談してください。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、効果をすべての方に保証するものではありません。
SECTION 06
進め方・頻度・水温の目安

研究で用いられた方法には幅がありますが、目安としては、1回あたり45〜60分ほど、週に2〜3回、数週間から2〜3か月続ける形が多く報告されています1。水温はおおむね30〜34度前後、水深は胸〜腰あたりで行うことが多く、内容は立ち位置でのバランス練習、歩行、方向転換、上下肢の運動などが組み合わされます1。これはあくまで研究の目安であり、実際の時間や内容は一人ひとりの状態や体力、持病に合わせて調整します。

大切なのは、安全な環境で、無理なく続けられる範囲から始めることです。プールへの出入りに介助が必要な場合は必ず付き添いをつけ、体調や薬の効き具合を見ながら行います。水中運動だけに頼らず、陸上での運動や生活動作の練習と組み合わせることで、生活での目標につなげやすくなります。すくみ足やバランスの練習の全体像を知りたい方は、陸上での運動を解説した記事もあわせて参考にしてください。

水中運動後に体調と運動計画を療法士と確認するパーキンソン病の方
体調、持病、薬の時間帯、陸上での運動との組み合わせを個別に確認します。
SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
当施設でのリアルな経験
訪問リハビリでご一緒するなかで、「陸だと転びそうで怖いけれど、水の中なら動けそう」というお声はよくいただきます。私たちは訪問という性質上、プールそのものでの運動を直接提供する場面は限られますが、地域のプールや水中運動教室を利用されている方から、進め方や安全面のご相談を受けることがあります。その際にまず大切にしているのは、水中運動を単独の目的にせず、陸上での歩行やバランスの練習、生活動作とつなげて考えることです。プールへの出入りや更衣で転びやすい方には、その動線の確認も一緒に行います。実際に、水の中では動きやすいと感じても、陸に戻ると同じようにはいかない、という声も聞かれます。水中運動は、運動を続けるきっかけや選択肢の一つとして、体調や薬のタイミング、安全を確認しながら取り入れることを心がけています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
バランスや歩行の状態を一緒に確認しながら、生活に合ったリハビリの進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。水中運動は、持病や体調、飲み込み、皮膚の状態によって向き・不向きがあり、安全の確保が特に重要です。実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談し、必ず監視のもとで行ってください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
水中運動はパーキンソン病に役立ちますか?
バランスや歩きやすさ、生活の質の指標に良い変化を示した研究が複数あります。ただし運動症状そのものへの効果ははっきりせず、研究の質にも限りがあるため、陸上の運動に代わるものというより選択肢の一つと考えるのが現実的です。
陸での運動と水中運動はどちらがよいですか?
研究では、水中運動と陸上の運動はバランスなどで近い結果が多く、水中運動が明確に優れているとまでは言えません。転倒への不安のように陸上のほうが良い項目もあります。どちらが合うかは状態や好み、安全面によって異なるため、専門職と相談してください。
どのくらいの頻度・時間が目安ですか?
研究では、1回45〜60分ほど、週2〜3回、数週間〜2〜3か月続けた報告が多くみられます。ただしこれは目安であり、適切な内容は体力や持病によって異なります。無理のない範囲から、専門職と相談しながら進めてください。
一人でプールに行って行っても大丈夫ですか?
安全のため、必ず監視や付き添いがある環境で行ってください。溺水や転倒、プールの出入りでの転倒に注意が必要です。心臓・血圧・呼吸の持病やてんかんの既往がある方は、事前に主治医に確認してください。
どんな水温・深さがよいですか?
研究では水温はおおむね30〜34度前後、水深は胸〜腰あたりで行うことが多いです。冷たすぎる水は体に負担がかかることがあります。実際の設定は施設や体調に合わせ、専門職と相談してください。
薬が切れて動きにくいときはどうすればよいですか?
パーキンソン病では薬の効き具合で動きやすさが変わります。水中では安全が特に大切なので、動きにくい時間帯を避ける、体調の良いタイミングで行うなど、主治医・専門職と相談してタイミングを調整することをおすすめします。
REFERENCES
参考文献
1. Dai S, Yuan H, Wang J, Yang Y, Wen S. Effects of aquatic exercise on the improvement of lower-extremity motor function and quality of life in patients with Parkinson's disease: A meta-analysis. Frontiers in Physiology. 2023. DOI:10.3389/fphys.2023.1066718. PMID:36818451. PMCID:PMC9935607. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36818451/
2. Gomes Neto M, Pontes SS, Almeida LO, da Silva CM, Sena CC, Saquetto MB. Effects of water-based exercise on functioning and quality of life in people with Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis. Clinical Rehabilitation. 2020. DOI:10.1177/0269215520943660. PMID:32715810. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32715810/
3. Optimal dose and type of exercise improve the overall balance in adults with Parkinson's disease: a systematic review and Bayesian network meta-analysis. Neurological Sciences. 2025. DOI:10.1007/s10072-025-08244-1. PMID:40423886. PMCID:PMC12394369. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40423886/
4. Comparative efficacy of 24 exercise types on postural instability in adults with Parkinson's disease: a systematic review and network meta-analysis. BMC Geriatrics. 2023. DOI:10.1186/s12877-023-04239-9. PMID:37641007. PMCID:PMC10463698. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37641007/
5. de Oliveira MPB, Lima CR, da Silva SLA, Figueira ECFV, Truax BD, Smaili SM. Effect of aquatic exercise programs according to the International Classification of Functionality, Disability and Health domains in individuals with Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis with GRADE quality assessment. Disability and Rehabilitation. 2024. DOI:10.1080/09638288.2022.2164800. PMID:36644928. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36644928/
6. Cugusi L, Manca A, Bergamin M, et al. Aquatic exercise improves motor impairments in people with Parkinson's disease, with similar or greater benefits than land-based exercise: a systematic review. Journal of Physiotherapy. 2019. DOI:10.1016/j.jphys.2019.02.003. PMID:30904467. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30904467/
7. Carroll LM, Morris ME, O'Connor WT, Clifford AM. Is Aquatic Therapy Optimally Prescribed for Parkinson's Disease? A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Parkinson's Disease. 2020. DOI:10.3233/JPD-191784. PMID:31815701. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31815701/