パーキンソン病のノルディックウォーキングとは?歩行・バランスへの効果と注意点

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病のノルディックウォーキングとは?歩行・バランス・生活の質への研究と限界を正直に解説

「歩幅が狭くなってきた」「歩くときの不安定さが気になる」——パーキンソン病の方やご家族から、こうしたお悩みをよくいただきます。ノルディックウォーキング(2本のポールを使って上半身も動かしながら歩く運動)は、もともと北欧で生まれた有酸素運動ですが、近年はパーキンソン病の歩行やバランスに対しても研究が進んでいます。この記事では、パーキンソン病のノルディックウォーキングについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、通常の運動や歩行練習に「加える」形で、歩幅・歩行速度・バランスの指標に良い変化を示した研究がまとまってきていますが、研究の質にはばらつきがあり、まずは専門職による評価が大切です。

パーキンソン病の方が専門職の見守りでノルディックウォーキングを行う様子
この記事の要点
・ノルディックウォーキングとは、2本のポールを地面につきながら、上半身も大きく使って歩く運動です。腕を振りやすく、歩幅を出しやすいのが特徴です1
・複数の運動療法をまとめた分析では、ノルディックウォーキング(3試験・73人)で運動症状(効果量SMD 0.74)、バランス(0.99)、6分間歩行(0.94)、Timed Up and Go(0.55)に良い変化が示されました1
・13の研究(318人)をまとめたレビューでも、4〜24週間の実施で歩行速度や歩き方、症状の程度に良い変化が報告され、比較的安全で続けやすい運動とされています2
・33人を対象にポールなしの歩行と比べた試験では、どちらも運動症状やバランスに良い変化がみられ、機能的な移動の面ではノルディックウォーキングでより良い結果が報告されました3
・一方で、研究の質にばらつきがあり、最適な頻度や長期的な影響ははっきりしていません。自己流で始める前に、まず主治医・リハビリ専門職に相談することをおすすめします2,5
SECTION 01
ノルディックウォーキングとは

ノルディックウォーキングは、専用の2本のポールを地面につきながら歩く運動です。もともとはクロスカントリースキーの夏場のトレーニングとして北欧で生まれ、現在は幅広い年代の有酸素運動として親しまれています。普通のウォーキングと違い、腕を大きく振ってポールで地面を押すため、上半身も使いながら歩けるのが特徴です1

パーキンソン病では、歩幅が小さくなる、腕の振りが減る、歩く速さが落ちる、といった歩き方の変化が起こりやすくなります。ノルディックウォーキングは、ポールと腕の動きが歩くリズムのきっかけ(外的な手がかり)になり、腕を振って歩幅を出しやすくする運動として研究されています4。歩くための運動としては、ほかにトレッドミルを使った練習もよく行われます。歩行練習全般の考え方についてはパーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事もあわせてご覧ください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「ノルディックウォーキングは、歩幅・歩行速度・バランス・運動症状の指標に良い変化を示した研究がまとまってきている」一方で、「研究の数や質にはまだ限りがあり、確実といえるほどではない」というのが現状です。代表的な研究をみていきます。

複数の運動療法をまとめた分析での位置づけ
パーキンソン病の理学療法を幅広くまとめた分析(2020年)では、ノルディックウォーキングを扱った3つの試験(73人)で、運動症状の指標(効果量SMD 0.74)、バランスの指標(Berg Balance Scale:0.99)、6分間歩行(0.94)、Timed Up and Go(0.55)に、それぞれ良い方向の結果が示されました。この分析では、一般的なバランス・歩行練習(28試験・1069人)でもバランス(0.57)や運動症状(0.34)に良い変化がみられており、ノルディックウォーキングはその中でも比較的大きめの効果量が報告されています1。ただし、ノルディックウォーキングの試験数は少なく、この点は注意が必要です。
レビューでの全体像
ノルディックウォーキングだけを対象に13の研究(318人、主に軽度〜中等度の方)をまとめたレビュー(2020年)では、4〜24週間の実施によって、症状の程度、歩く速さ、歩き方に良い変化が報告されました。効果はお薬が効いている時間帯(ON期)で比較的一貫していた一方、お薬の切れている時間帯や、練習をやめた後の追跡ではばらつきがありました。全体として「比較的安全で、受け入れられやすい運動」と評価されています2
ポールなしの歩行との比較
33人を対象に、ノルディックウォーキング(16人)とポールを使わない自由歩行(17人)を6週間比べた試験(2017年)では、どちらのグループも運動症状(UPDRS III)、バランス、Timed Up and Goの指標に良い変化がみられました。そのうえで、機能的な移動の指標では、ノルディックウォーキングのほうがより良い結果を示しました3。また、14人を対象にした別の研究では、ノルディックウォーキングで歩幅が広がり(約0.63mから0.73m)、歩数のペースが落ち着き、歩行のリズムが健康な方に近づく変化が観察されました。ただしこれは短期間・少人数のその場の変化をみた研究です4
専門職がノルディックウォーキングのポール操作を説明する様子
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
これらの研究には共通した限界があります。まず、ノルディックウォーキングを扱った試験は数が少なく、参加人数も小規模なものが中心です1,2。運動の研究では、参加者や担当者に「どちらの運動か」を伏せることが難しく、期待による影響が入りやすい点も指摘されています。複数のレビューをまとめて質を評価した2026年の報告では、もとになったレビューの信頼性が「中程度から非常に低い」まで幅があり、結果は慎重に解釈すべきとされています5。良い結果を示した研究があっても、すべての方に同じ変化が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、ノルディックウォーキングを週に何回・何分・どのくらいの期間続けると最も役立つのかは、はっきり定まっていません2,5。多くの研究が軽度〜中等度の方を対象にしているため、症状が進んだ方や、すくみ足・転倒の多い方にどこまで向いているのかも十分には分かっていません2。また、練習をやめた後に効果がどのくらい続くのか、実生活での転倒の少なさや外出のしやすさにどこまでつながるのかも、今後の課題です2。ポールを使う運動のため、バランスが不安定な方では、かえって扱いにくい場合もあります。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、ノルディックウォーキングは「通常の運動や歩行練習に組み合わせることで、歩幅・歩行速度・バランス・運動症状の指標に良い変化を示しうる選択肢」と考えるのが現実的です1,3。屋外で行える有酸素運動でもあり、体力づくりや外出の機会づくりにつながる点も利点です。ポールという支えがあることで、腕を振って大きく歩く感覚をつかみやすい方もいます4。運動を続けやすく、比較的安全という評価も、日々の習慣にしやすい理由の一つです2

一方で、「ノルディックウォーキングだけで症状が止まる」「これだけで転ばなくなる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません2,5。反応には個人差があり、変化を感じにくい方もいます。ノルディックウォーキングは単独の決め手ではなく、筋力づくりやバランス練習、お薬の調整などと組み合わせる「一部」として位置づけるのが現実的です。運動を組み合わせて続ける考え方についてはパーキンソン病の筋力トレーニングについて解説した記事も参考になります。

SECTION 05
どんな人に向いているか

研究の対象を見ると、主に軽度〜中等度で、屋外をある程度歩ける方が想定されています2。歩幅が狭くなってきた方、腕の振りが減ってきた方、体力づくりも兼ねて外で歩きたい方などに向いている運動といえます。一方で、ポールの扱いには少し慣れが必要で、立っているだけでもふらつきが強い方や、すくみ足・転倒が多い方では、最初は支えのある環境や別の運動から始めるほうが安全なことがあります。運動の効果を確認するときの指標についてはパーキンソン病のリハビリで使う評価指標について解説した記事もご覧ください。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
ノルディックウォーキングは比較的安全な運動ですが、注意点があります。屋外で行うことが多いため、地面の段差や傾き、天候で転倒の危険が高まります。すくみ足が出やすい方は、動き出しや方向転換で急に足が止まり、バランスを崩すことがあります。お薬が切れている時間帯は動きにくく、転びやすくなることもあります。ポールの長さや使い方が合っていないと、かえって歩きにくくなることもあります。急に増えた歩きにくさ、強い立ちくらみ、胸の苦しさなどがあるときは運動を続けず、医療機関に相談してください。運動を始める前に、まず主治医・リハビリ専門職に、自分の状態に合う運動の種類や強さ、安全な環境を相談することをおすすめします。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、成果をすべての方に保証するものではありません。
ノルディックウォーキング中に休憩し体調を確認する様子
SECTION 06
進め方・頻度の目安

研究で用いられた方法には幅がありますが、週に2〜3回、1回あたり30分から1時間ほどを、4〜24週間続ける形などが報告されています2。多くの研究で、ノルディックウォーキングは通常の運動や生活に「加える」形で行われていました1。ポールの長さを体に合わせ、最初は平らで安全な場所から始め、慣れに合わせて距離や時間を少しずつ増やしていくのが一般的です。可能であれば、最初はポールの使い方を専門家に確認すると安心です。

これはあくまで研究の目安であり、実際の頻度や強さは一人ひとりの症状や体力、お薬の効き方に合わせて調整します。お薬が効いている時間帯に行う、暑さ・寒さを避ける、水分をとる、疲れたら休むといった工夫も大切です。動いていて強いめまい・胸の苦しさ・転倒しそうな不安が出たときは中止し、無理をしません。

SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
現場で感じること
これまでのリハビリ現場では、ポールを持つだけで歩き方が良くなるのではなく、ポールの長さや接地位置、腕を振るタイミングをその方に合わせることが大切だと感じています。最初から長い距離を歩くよりも、お薬が効いて動きやすい時間帯に、平らな場所で短い距離から練習した方が、姿勢を起こしやすくなったり、歩幅を意識しやすくなったりする方がいます。一方、腕の動きを意識しすぎるとかえって足が止まる方や、方向転換・人混み・段差ですくみ足が強くなる方もいます。その場合はポールの使用にこだわらず、通常の歩行練習や外的キューなど、より安全な方法へ戻します。運動後の疲れが翌日まで残らないか、屋外で安全に扱えるかまで確認しながら進めることが重要です。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩き方やバランスの状態を一緒に確認しながら、生活に合った運動の進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。パーキンソン病の症状や体の状態は一人ひとり異なり、適した運動も変わります。実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。急に強くなった歩きにくさや、めまい・胸の苦しさ・転倒を伴う場合は、運動を続けず速やかに医療機関に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
ノルディックウォーキングは普通のウォーキングと何が違いますか?
2本のポールを使い、上半身も動かしながら歩く点が違います。腕を振りやすく、歩幅を出しやすいのが特徴で、ポールが支えにもなります。研究では、ポールなしの歩行と比べて機能的な移動の指標でより良い結果を示した報告もあります。
どのくらいの頻度で行えばよいですか?
研究では週2〜3回、1回30分〜1時間ほどを4〜24週間続けた報告があります。ただしこれは目安で、適切な頻度や強さは症状や体力によって異なります。無理のない範囲で、専門職と相談しながら進めてください。
すくみ足があっても大丈夫ですか?
すくみ足があると、動き出しや方向転換で急に足が止まり、バランスを崩すことがあります。屋外では特に注意が必要です。まずは専門職に状態を確認してもらい、安全な環境や進め方を相談することをおすすめします。無理にひとりで始めないようにしてください。
ポールはどんなものを使えばよいですか?
ノルディックウォーキング用のポールを、身長に合った長さで使うのが基本です。長さや使い方が合っていないと、かえって歩きにくくなることがあります。最初は専門家にポールの選び方や使い方を確認すると安心です。
薬が切れている時間に行っても大丈夫ですか?
研究では、お薬が効いている時間帯(ON期)のほうが良い変化が一貫していました。お薬が切れていると動きにくく転びやすくなることがあるため、運動する時間帯は主治医と相談して決めるとよいでしょう。
これだけ続ければ転倒は防げますか?
ノルディックウォーキングだけで転倒がなくなると保証することはできません。研究では良い変化が報告されていますが、個人差があり、転倒には環境や体調などさまざまな要因が関わります。筋力づくりやバランス練習、環境の工夫と組み合わせ、専門職と相談しながら進めることが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. Radder DLM, Silva de Lima AL, Domingos J, et al. Physiotherapy in Parkinson's Disease: A Meta-Analysis of Present Treatment Modalities. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2020. DOI:10.1177/1545968320952799. PMID:32917125. PMCID:PMC7564288. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32917125/
2. De Santis KK, Kaplan I. The motor and the non-motor outcomes of Nordic Walking in Parkinson's disease: A systematic review. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2020. DOI:10.1016/j.jbmt.2020.01.003. PMID:32507150. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32507150/
3. Monteiro EP, Franzoni LT, Cubillos DM, et al. Effects of Nordic walking training on functional parameters in Parkinson's disease: a randomized controlled clinical trial. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2017. DOI:10.1111/sms.12652. PMID:26833853. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26833853/
4. Warlop T, Detrembleur C, Buxes Lopez M, et al. Does Nordic Walking restore the temporal organization of gait variability in Parkinson's disease? Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation. 2017. DOI:10.1186/s12984-017-0226-1. PMID:28222810. PMCID:PMC5320697. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28222810/
5. Sánchez-Basallote ML, Monge-Pereira E, Machado de Oliveira I, et al. Effects of nordic walking in individuals with Parkinson's disease: A review of systematic reviews. Rehabilitación (Madrid). 2026. DOI:10.1016/j.rh.2026.100971. PMID:41855948. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41855948/