高齢者の心臓血管手術前プレハビリテーション(フレイル)とは?研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
高齢者の心臓血管手術前プレハビリテーション(フレイル)とは?研究と限界を正直に解説
公開日:2026年9月12日/最終更新:2026年9月12日

心臓の手術(冠動脈バイパス術・弁膜症手術など)が決まったとき、「手術までの間、何かできることはないか」と考えるご本人・ご家族は少なくありません。特に高齢でフレイル(虚弱)が進んでいる方ほど、その不安は大きくなります。結論から先にお伝えします。手術前の運動(プレハビリテーション)は、術後の肺炎・無気肺といった呼吸器合併症を減らし、入院期間を短縮する可能性を示す研究が複数ありますが1,4,5、フレイルの高い方を対象にした研究では、身体機能や生活の質(QOL)への上乗せ効果がある一方で2、回復の質そのものには差がなかったという報告もあります3。この記事では、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを、できるだけ正直に整理します。

SECTION 01
プレハビリテーションとは何か

プレハビリテーション(prehabilitation)とは、手術が決まってから手術当日までの期間を使い、あらかじめ体力・筋力・呼吸機能を整えておく取り組みです。心臓手術の分野では、呼吸筋トレーニング(息を吸う力を鍛える器具を使ったトレーニング)、有酸素運動、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)、教育・栄養指導などが組み合わせて行われます1,4,5。手術後のリハビリ(心臓リハビリテーション)と対になる考え方で、「手術に向けて、少しでも体力の貯金をしておく」というイメージです。高齢者のフレイル・虚弱そのものについては、高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。

専門職の見守りで手術前の呼吸筋トレーニングを行う高齢者
呼吸筋トレーニングは、器具の使い方と負荷を確認し、体調を見ながら行います。(場面イメージ)
SECTION 02
研究では合併症・回復にどう報告されているか

おおまかにまとめると、「呼吸器合併症や入院期間には、術前の運動・呼吸筋トレーニングで改善が期待できる報告が複数ある」という内容です。

コクランレビュー(2015年・心臓/腹部手術12試験・695人)

心臓手術・主要腹部手術予定の成人を対象に、術前の呼吸筋トレーニング(IMT)の効果を検討したコクランレビューです。IMTは、通常ケアと比べて術後の無気肺(リスク比0.53、95%信頼区間0.34〜0.82)と肺炎(リスク比0.45、0.26〜0.77)を減らし、入院期間も平均1.33日短縮しました。ただし、肺炎の確実性は中程度、無気肺・全死亡・入院期間の確実性は低い〜非常に低いと評価されています。全死亡への効果は不確実(リスク比0.40、0.04〜4.23)でした。全12試験に盲検化不能などのバイアスリスクがあり、最大規模の試験1件が結果の約半分を占めている点にも注意が必要です1

メタアナリシス(2020年・心臓手術6試験・752人)

術前運動と心臓手術後の回復の関係を検討したメタアナリシスです。ICU滞在日数は運動群で有意に短縮し(平均差-1.35日、異質性I²=88%)、身体機能も運動群で有意に優れていました(異質性I²=12%)。一方、術後7日目の白血球数異常や精神的健康には、両群間で有意差がありませんでした。著者は「術前運動は術後回復に役立つ可能性がある」としつつ、サンプルサイズが小さい点への注意を促しています2

システマティックレビュー(2014年・心臓手術17試験・2689人)

冠動脈バイパス術・弁膜症手術予定の患者を対象に、術前の教育・呼吸筋トレーニング・運動などの介入を検討したレビューです。術前介入は抜管までの時間(平均差-0.14日)と術後肺合併症(リスク比0.39)を有意に減らしましたが、ICU・入院期間の短縮は、高齢者のサブグループを除いて有意ではありませんでした。介入の中でも呼吸筋トレーニングが、肺合併症と入院期間の両方を有意に減らしていました5

システマティックレビュー(2025年・CABG5試験・616人)

冠動脈バイパス術(CABG)予定の患者を対象に、運動を中心としたプレハビリテーションの効果を検討したレビューです。抄録レベルでは、機能的な運動能力の改善に強いエビデンス、術後合併症・入院期間の減少に中程度のエビデンスが示された一方、QOLへの効果は研究間で結果が分かれ、不安・抑うつ・自己効力感・フレイル・血管内皮機能への効果は限定的なエビデンスにとどまるとされています6

SECTION 03
フレイルが強い高齢者を対象にした研究では

上記の研究は必ずしもフレイルの強い方に限定していません。フレイル(虚弱)そのものを対象にしたプレハビリテーション研究では、少し異なる結果も報告されています。

RCT(2025年・軽〜中等度フレイル51人)

冠動脈・弁膜症手術を控えた軽〜中等度のフレイル患者(Fried基準)を対象に、教育・栄養最適化・ストレス管理・個別化した抵抗運動を組み合わせた4週間以上のプログラムを検証したRCTです。プレハビリ群は手術前日の身体機能(Short Physical Performance Battery)が有意に改善し(β=0.99)、フレイルの程度も有意に軽減、生活の質(MacNewアンケート)も改善しました(効果量Hedges' g=0.89〜1.18)。アドヒアランスは89%と高く、重大な有害事象もありませんでした。著者は「実施可能かつ安全」としつつ、本格的な検証試験が必要と結論づけています3

RCT(2025年・Clinical Frailty Scale 4〜6・138人)

よりフレイルの進んだ患者(Clinical Frailty Scale 4〜6)を対象に、週2回・5週間の運動プレハビリを検証したRCTです。実施率は82%と高く、運動中の有害事象もありませんでしたが、主要評価項目である術後3日目の回復の質(QoR-15スコア)には、通常ケア群との有意差がありませんでした。一方、術後90日時点の障害の程度(WHODAS 2.0)は、プレハビリ群で有意に低い(平均差-9%)という結果でした。著者は「回復の質のスコアは向上しなかったが、90日後の障害軽減には臨床的に意味のある差があった」と結論づけています4

つまり、フレイルが強い集団を対象にした研究でも「安全に実施できる」という点では一致していますが、「どのアウトカムに効果が出るか」は研究によってばらつきがあります。抵抗運動を中心にした小規模RCTでも、CABG待機中の軽〜中等度フレイル患者において、6分間歩行距離や心不全重症度(NYHA分類)の改善が報告されています7

SECTION 04
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

呼吸器合併症・入院期間についてはコクランレビューを含む複数の一致した報告がありますが1,2,5、全体的なエビデンスの質は「中程度〜非常に低い」にとどまります1。フレイルに特化した研究はまだ数が少なく、多くが50〜150人規模の単施設研究またはパイロット試験です3,4。QoR-15という主要評価項目で有意差が出なかった研究がある一方、90日後の障害では差が出たという結果は4、「何を、いつ測るか」によって結論が変わりうることを示しています。

まだ分かっていないこと

1. どの程度のフレイル(軽度〜重度)まで安全かつ有効に実施できるかは、まだ十分に検証されていません3,4
2. 至適な運動の種類・強度・期間(今回の研究では4週間〜8週間とばらつきがあります)は確立していません1,3,4,7
3. 死亡率や重大合併症への影響は、研究間で確実性が低く、はっきりした結論が出ていません1
4. 手術までの待機期間が短い場合(緊急性が高い場合)に、どこまで実施可能かは十分に検証されていません。

研究の数値は集団の平均的な傾向です。心疾患の種類・重症度、フレイルの程度、手術までの残り時間によって、実施できる内容や見込める変化は一人ひとり異なります。自己判断で強い運動を始めることは想定されておらず、必ず医師・リハビリ専門職の評価のもとで行うものです。

心臓血管手術前に見守り下で立ち座り練習を行う高齢者
運動は、心疾患の状態・フレイル・手術までの期間に合わせて個別に設定します。(場面イメージ)
SECTION 05
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
研究で前向きな変化が報告されているもの
・術後の無気肺・肺炎などの呼吸器合併症1,5
・入院期間(特に高齢者のサブグループ)1,5
・手術前日時点の身体機能・フレイルの程度(フレイル特化プログラム)3
・術後90日時点の障害の程度4
変わりにくい・はっきりしないもの
・全死亡率への効果(確実性が非常に低い)1
・術後3日目時点の回復の質スコア(QoR-15)4
・精神的健康・不安/抑うつへの効果2,6

プレハビリテーションは「手術さえ乗り切れば終わり」という考え方ではなく、術後のリハビリ(心臓リハビリテーション)に橋渡しする準備期間と捉えることが大切です。すでに心血管疾患をお持ちの状態で運動する際の注意点は、心血管疾患がある高齢者の運動の進め方について解説した記事もご参照ください。

SECTION 06
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

研究の多くは、冠動脈バイパス術・弁膜症手術が予定されており、手術まで数週間程度の準備期間がある方を対象としています1,3,4,5。フレイルが進んでいる方でも、医師の評価のもとで安全に実施できたという報告がありますが3,4、心不全症状が不安定な場合や、緊急手術が必要な場合はこの限りではありません。

⚠ 次のような場合は、自己判断で運動を始めず、必ず主治医・専門職に確認してください
・不安定狭心症、コントロール不良の不整脈がある
・安静時にも息切れ・胸痛がある(心不全症状が不安定)
・手術までの期間が非常に短い、または緊急手術が予定されている
・運動中にめまい・胸痛・強い息切れが出たことがある
・骨粗鬆症や整形外科的な問題があり、転倒リスクが高い
心臓血管手術前の運動計画を家族と専門職に相談する高齢者
実施内容は主治医の許可を前提に、息切れ・胸痛・めまいなどの中止基準も共有します。(場面イメージ)
SECTION 07
訪問リハビリで検討するときの視点
臨床判断で確認する視点

プレハビリテーションを検討するときは、まず主治医・循環器チームと連携し、心疾患の重症度や手術までの残り期間、実施可能な運動強度を確認することが大切です。そのうえで、呼吸筋トレーニング・下肢筋力・歩行・生活動作を評価し、「合併症予防に上乗せ効果が期待できる部分」と「まだはっきりしない部分(死亡率・精神面への効果など)」を分けて説明することを心がけています。フレイルが強い方ほど、無理のない強度から始め、体調変化を都度確認しながら進める姿勢が基本です。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。心臓血管手術前の運動の可否・内容は、心疾患の重症度や併存疾患によって大きく異なります。実施を検討する際は、必ず主治医・循環器専門医・担当のリハビリ専門職にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
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執筆・確認と運営上の立場

本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月12日に確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の医療機器・治療メーカーから本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。

田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 手術前に運動をすると、本当に手術後の合併症が減りますか?
A. 呼吸器合併症(無気肺・肺炎)を減らしたという報告は複数ありますが1,5、エビデンスの質は中程度〜非常に低いレベルにとどまります。すべての方に同じ効果を保証するものではありません。
Q. フレイル(虚弱)が進んでいても運動して大丈夫ですか?
A. 軽〜中等度のフレイル患者を対象にした研究では、医師の評価のもとで安全に実施できたと報告されています3,4。ただし心不全症状が不安定な場合などは注意が必要なため、必ず主治医に確認してください。
Q. どのくらいの期間、運動すれば良いですか?
A. 研究では4週間〜8週間程度のプログラムが多く報告されていますが1,3,4,7、手術までの残り時間や体調によって調整が必要です。医師・リハビリ専門職と相談しながら決めることをおすすめします。
Q. 手術までの期間が短い場合はどうすれば良いですか?
A. 今回ご紹介した研究の多くは、数週間程度の準備期間がある方を対象としています。期間が短い場合に何ができるかは個別性が大きいため、主治医・リハビリ専門職に直接ご相談ください。
Q. 運動すれば死亡リスクや重い合併症を防げますか?
A. その点については、研究間で確実性が非常に低く、はっきりした結論は出ていません1。呼吸器合併症・入院期間など、比較的一致した報告がある項目とは分けて理解することが大切です。
Q. 手術後のリハビリと、手術前の準備運動は何が違いますか?
A. プレハビリテーションは手術「前」に体力の土台を整える取り組み、心臓リハビリテーションは手術「後」に回復を進める取り組みです。両方をつなげて考えることが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. Katsura M, Kuriyama A, Takeshima T, Fukuhara S, Furukawa TA. Preoperative inspiratory muscle training for postoperative pulmonary complications in adults undergoing cardiac and major abdominal surgery. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015. doi:10.1002/14651858.CD010356.pub2. PMID: 26436600. PMCID: PMC9251477. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26436600/

2. Zheng YT, Zhang JX. Preoperative exercise and recovery after cardiac surgery: a meta-analysis. BMC Cardiovascular Disorders. 2020. doi:10.1186/s12872-019-01308-z. PMID: 31914929. PMCID: PMC6947961. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31914929/

3. Li PWC, Yu DSF, Chan DTL, et al. Prehabilitation for patients with mild to moderate frailty undergoing coronary artery and valve surgery: a pilot randomized controlled trial. European Journal of Cardiovascular Nursing. 2026. doi:10.1093/eurjcn/zvag084. PMID: 41860247. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41860247/

4. Yau DKW, Ng FF, Wong MH, et al. Effect of exercise prehabilitation on quality of recovery after cardiac surgery: a single-centre randomised controlled trial. British Journal of Anaesthesia. 2025. doi:10.1016/j.bja.2024.08.039. PMID: 39510897. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39510897/

5. Snowdon D, Haines TP, Skinner EH. Preoperative intervention reduces postoperative pulmonary complications but not length of stay in cardiac surgical patients: a systematic review. Journal of Physiotherapy. 2014. doi:10.1016/j.jphys.2014.04.002. PMID: 24952833. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24952833/

6. Yamikan H, Ahiskali GN, Demirel A, Kütükcü EC. The effects of exercise-based prehabilitation in patients undergoing coronary artery bypass grafting surgery: A systematic review of randomized controlled trials. Heart & Lung. 2025. doi:10.1016/j.hrtlng.2024.09.007. PMID: 39307000. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39307000/

7. Sahar W, Waseem M, Riaz M, Nazeer N, Ahmad M, Haider Z. Effects of prehabilitation resistance training in mild to moderate clinically frail patients awaiting coronary artery bypass graft surgery. J Investig Med. 2024. doi:10.1177/10815589231207795. PMID: 37804162. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37804162/