
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病が進行し、内服薬だけでは症状の波(オン・オフ)が十分にコントロールできなくなると、脳深部刺激療法(DBS)やレボドパ持続経腸療法、アポモルヒネ持続皮下注入といった「装置補助療法」が検討されます。こうした治療を始めたあと、リハビリテーションはどのような役割を果たすのでしょうか。この記事では、装置補助療法導入後のリハビリについて、研究で分かっていることと、まだはっきりしていないことを正直に整理してお伝えします。
・装置補助療法の開始後に個別リハビリを行った群で、日常生活動作の動作の質や認知機能の指標に上乗せの改善が報告された研究があります。
・DBS後の理学療法については、まだ質の高いRCTがなく、専門家の合意(デルファイ法)が現時点での主な根拠です。
・実施条件・注意点・まだ分かっていないことまで、研究をもとに整理しています。
装置補助療法(Device-Aided Therapy)は、脳深部刺激療法(DBS)、レボドパ・カルビドパ経腸持続注入療法(LCIG)、アポモルヒネ持続皮下注入療法(CSAI)の総称です。いずれも、内服薬だけでは症状の波が大きくなってきた進行期のパーキンソン病患者に検討される治療で、進行期の目安として、1日2時間以上のオフ症状、1日1時間以上の問題となる不随意運動、1日5回以上の経口レボドパ内服などが挙げられています3。
装置補助療法そのものの効果を比較した研究では、生活の質(QOL)の臨床的に意味のある改善がみられた人の割合は、標準治療と比べてDBSで25名増(100名あたり)、LCIGで14名増、CSAIで10名増と報告されています3。一方で、重篤な有害事象もDBSで20名増、CSAIで5名増と報告されており(LCIGはむしろ7名減)、効果と負担の両方を理解したうえで治療が選ばれます3。装置補助療法を受けるかどうかの判断そのものは主治医・専門医との相談で決まりますが、この記事では「治療を始めたあと」のリハビリの役割に焦点を当てます。
結論から言うと、装置補助療法を始めたあとに個別のリハビリを行うことで、日常生活動作の動作の質や認知機能の指標に上乗せの変化がみられたという報告があります。ただし、この分野の研究はまだ少なく、「必ず効果がある」と言い切れる段階ではありません。
DBSを受けた方への理学療法については、質の高いランダム化比較試験がまだ存在しないため、国際的な専門家21名によるデルファイ法(意見を集約して合意を形成する手法)が現時点で参考になる情報源です。この専門家合意では、理学療法が運動症状や生活の質の向上に役立つ可能性がある、刺激効果を最大限に引き出す助けになりうる、という意見に約9割が強く同意しています2。有酸素運動、筋力強化、認知的な運動課題、柔軟性運動は効果的と評価された一方、マッサージなどの手技療法やロボット支援歩行訓練は推奨されないという意見が多数を占めました2。

中心となるランダム化比較試験は、当初90名を目標にランダム化を予定していましたが、コロナ禍や登録の遅れにより実際にランダム化できたのは54名、完了したのは45名にとどまりました。著者ら自身も、この検出力不足によって副次的な指標では差が出にくかった可能性を指摘しています1。また、この研究は非盲検(誰がどちらの群か分かる)デザインであり、リハビリを受けると分かっていることによる期待の影響(プラセボ的な効果)を完全には否定できません1。さらに興味深いのは、実際に提供されたリハビリの量が、パーキンソン病で一般に推奨される量(週170分)を大きく下回っていたにもかかわらず、一定の効果が確認された点です1。これは「少ない量でも効果が出る」とも、「十分な量を行えばさらに効果が上乗せされる可能性がある」とも解釈でき、どちらとも結論づけられていません。
・装置の種類(DBS・レボドパ持続経腸療法・アポモルヒネ注入)ごとに、どのリハビリが最も適しているかは十分に検証されていません。
・どのくらいの頻度・量のリハビリが最適かは確立しておらず、少量でも効果が出た今回の結果をどう解釈するかは今後の検証が必要です1。
・認知機能への上乗せ効果は1年以内の観察にとどまり、長期的な影響は分かっていません1。
研究結果を踏まえると、比較的変わりやすいとされているのは、日常生活動作を実際に行う際の「動作の質」(どれだけスムーズに、効率よく動作を行えるか)と、認知機能の指標です1。一方で、運動変動そのもの(オン・オフの時間の長さ)は装置補助療法自体の効果が大きく、追加のリハビリによる群間差ははっきり確認されていません1。主観的な健康感については、3〜6ヶ月では改善がみられても12ヶ月では差が消えており、短期と長期で結果が変わる可能性がある点にも注意が必要です1。
評価に使われる指標そのものについては、パーキンソン病のリハビリで用いる評価指標について解説した記事でも取り上げています。数値の改善がそのまま生活のしやすさすべてに直結するわけではなく、指標ごとに意味合いが異なる点を踏まえて読み取ることが大切です。
研究で紹介したリハビリは、装置補助療法を開始し、臨床状態がある程度安定した方を対象にしています12。DBSを受けた方については、術後の刺激調整が続く時期と、状態が安定した慢性期の両方でリハビリを行う意義があるという専門家合意があります2。一方で、認知機能の低下が大きい方や、術後間もなく全身状態が不安定な方については、今回紹介した研究の対象から外れていることが多く、個別に医療チームと相談しながら進め方を決める必要があります。
研究で使われた内容を目安として紹介します。中心となったランダム化比較試験では、装置補助療法の開始1ヶ月後から3ヶ月間、理学療法士(中央値11回・1回44分)、作業療法士(中央値5回・1回62分)、言語聴覚士(中央値4.5回・1回42分)による個別リハビリが行われました1。DBS後の理学療法に関する専門家合意・スコピングレビューでは、1回40〜60分、週2〜5回、期間2〜8週間というプログラムが典型例として紹介されています2。ただし、これらはあくまで研究・専門家合意で示された目安であり、実際の頻度・強度は体調や刺激調整の状況によって個別に調整する必要があります。歩行やバランスの練習内容は、パーキンソン病のバランス運動について解説した記事でも取り上げています。



作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Guidetti M, Marceglia S, Bocci T, et al. Is physical therapy recommended for people with Parkinson's disease treated with subthalamic deep brain stimulation? A Delphi consensus study. J Neuroeng Rehabil. 2025. DOI:10.1186/s12984-025-01616-w. PMID:40211348. PMCID:PMC11987424.
3. Nijhuis FAP, Esselink R, de Bie RMA, Groenewoud H, Bloem BR, Post B, Meinders MJ. Translating Evidence to Advanced Parkinson's Disease Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis. Mov Disord. 2021. DOI:10.1002/mds.28599. PMID:33797786. PMCID:PMC8252410.
