
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
高齢者の尿もれ(尿失禁)と骨盤底筋トレーニング|研究で分かっていることと限界を正直に解説
くしゃみや咳、立ち上がった拍子にもれてしまう。トイレに行きたいと思ってから間に合わない。外出のたびにトイレの場所が気になり、だんだん出かけるのがおっくうになる。高齢の方、とくに女性から、こうした尿もれ(尿失禁)の悩みをよく伺います。年齢のせいと諦めて、誰にも相談していない方も少なくありません。
結論から正直にお伝えします。腹圧性(お腹に力が入るともれる)を中心とした女性の尿失禁では、骨盤底筋トレーニングが最初に試す方法として研究の裏づけを持っています。高齢の方でも一定の変化が報告されています。一方で、研究の多くは追跡期間が短く、「効果がどのくらい続くか」ははっきりしていません。この記事では、コクランレビューと高齢女性を対象にしたランダム化比較試験をもとに、分かっていることと限界を整理します。
尿失禁のタイプと骨盤底筋の役割
骨盤の底には、膀胱や子宮、直腸を下から支える「骨盤底筋(こつばんていきん)」という筋肉の層があります。出産や加齢、体重の増加などでこの筋肉のはたらきが弱くなると、尿道を締める力や、腹圧がかかったときの支えが不十分になり、尿もれが起こりやすくなります。
咳・くしゃみ・笑う・重い物を持つ・立ち上がるなど、お腹に力が入ったときにもれるタイプ。骨盤底筋トレーニングが最も研究されているのがこのタイプです1。
急に強い尿意が起こり、トイレまで我慢できずにもれるタイプ。膀胱訓練(トイレを我慢する間隔を少しずつ延ばす)などと組み合わせます。
腹圧性と切迫性の両方があるタイプ。高齢の方ではこの混合型が多く見られます。
尿もれには、尿路感染症、骨盤臓器脱、前立腺の病気(男性)、薬の影響、神経の病気など、ほかの原因が隠れていることもあります。脳卒中や多発性硬化症など神経の病気が関わる場合は考え方が異なり、それぞれ脳卒中後の尿もれについて解説した記事、多発性硬化症の排尿トラブルと骨盤底筋トレーニングについて解説した記事で扱っています。まずは泌尿器科・婦人科などでの評価が出発点です。

骨盤底筋トレーニングとは
骨盤底筋トレーニング(PFMT)は、骨盤底の筋肉を意識して締める・引き上げる動きを、繰り返し行う運動です。研究では次のような要素が共通しています1,2。
お腹・お尻・太ももに力を入れて代わりにしてしまう方が多いため、最初に専門職が触診などで動きを確認します。ここがずれると効果が出にくくなります。
数秒間の収縮を8〜12回で1セット、これを1日に2〜3セット行うプログラムが多く使われています。寝た姿勢・座った姿勢・立った姿勢と、少しずつ難しくしていきます。
咳・くしゃみ・立ち上がりの前に、意識して骨盤底筋を締めてから動く練習です。日常動作と結びつけます。
研究のプログラムは8〜12週間以上が中心です。数回で判断せず、記録をつけながら続けます。
膣内に入れる器具(バイオフィードバック機器など)を併用する方法もありますが、後述のとおり、器具の追加が結果を大きく良くするとは限らず、器具に伴う軽い有害事象(おりもの・少量の出血・違和感)も報告されています2。
研究でわかっていること
骨盤底筋トレーニングを「治療なし・偽の治療」と比べた試験をまとめたものです。腹圧性尿失禁では、トレーニングを行った人は「治った」と報告する割合が約8倍高く(56%対6%、リスク比8.38、95%信頼区間3.68〜19.07、確実性は高い)、「治った・良くなった」を合わせると約6倍でした(74%対11%)。あらゆるタイプの尿失禁を合わせても「治った」割合は約5倍でした(35%対6%、確実性は中程度)。1日のもれ回数は腹圧性で平均1回ほど減り、生活の質も良くなりました。有害事象はまれで軽微でした。著者らは「骨盤底筋トレーニングは尿失禁の一次治療(最初に行う保存的な方法)に含めてよい」と結論しています1。
女性の尿失禁に対する保存的な方法をまとめた「レビューの総括」です。すべてのタイプの尿失禁で、骨盤底筋トレーニングは治療なしより「治る・良くなる」割合と生活の質が良く、確実性は高いとされました。さらに「より高い強度・頻度で行う」「個別に指導を受ける」「行動面の工夫や継続の支援を組み合わせる」と、効果が高まる可能性が中程度の確実性で示されています5。
高齢女性に絞り、保存的・薬物・手術の治療を横並びで比べた解析です。「治る」という結果では、理学療法(主に骨盤底筋トレーニング。教育や補助療法との併用を含む)が最も良い順位で、骨盤底筋トレーニング単独のオッズ比は7.20(95%信頼区間2.59〜20.03)でした。ただし、いずれの結果も確実性は「非常に低い」とされ、試験数が少なく規模も小さいため、確かな結論は出せないと著者らは述べています。なお、保存的な治療では重い有害事象の報告はありませんでした4。
高齢女性を対象にした個別の試験でも、65歳以上・平均72歳の方で骨盤底筋トレーニングが膀胱訓練より腹圧性尿失禁に良い結果を示した報告6や、平均75歳・切迫性尿失禁のある方で、身体運動に骨盤底筋トレーニング(二重課題を含む)を加えた群で、もれや頻尿とともにバランス・転倒リスクも良くなったという報告7があります。
個別とグループ、頻度・期間の目安
腹圧性・混合性尿失禁のある60歳以上の女性を、「8人のグループでの骨盤底筋トレーニング」と「個別指導」に分けた非劣性試験です。最初に個別で骨盤底筋の動かし方を学んだあと、12週間のトレーニングを行いました。1年後のもれ回数の減少は、個別で70%(95%信頼区間44〜89%)、グループで74%(46〜86%)と同程度で、グループが個別に劣らないことが確認されました。他の指標も1年後まで同等で、有害事象は軽微でまれでした3。
骨盤底筋トレーニングの「やり方」を比べたレビューです。骨盤底筋そのものをはっきり収縮させる「直接的な運動」は、遠回しな運動よりも生活の質でやや良い可能性がありました(確実性は低い)。個別指導とグループ指導の差はほとんどありませんでした(確実性は中程度)。週により多くの日数行うほうが生活の質は良くなる可能性が示されました(確実性は低い)。有害事象は1,083人中66人(6%)で、そのほとんどが膣内・直腸内に入れる器具に伴うものでした。第7回国際失禁会議は、骨盤底筋トレーニングを女性の尿失禁の第一選択(グレードA)としています2。
まとめると、目安は「まず正しい動かし方を専門職に確認 → しっかり締める運動を1日2〜3セット、できるだけ多くの日 → 8〜12週間以上続ける → もれそうな場面の前に締める使い方を練習」です。個別かグループかは、通いやすさや好みで選んで差し支えありません2,3。

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
つまり、「このやり方が正解」「必ずもれがなくなる」と言える段階ではありません。研究で比較的一貫しているのは「腹圧性を中心に、正しく行えば、もれの回数や困りごとが減る方が多い」という点で、そこを目安に、続けやすい形を一緒に探していく進め方が現実的です。
生活のなかでの進め方
トイレの回数、もれた回数と量(下着が湿る程度か、こぼれる程度か)、もれた場面(咳・立ち上がり・急な尿意)を数日分。タイプの見きわめと、変化を判断する基準になります。
息を止めず、お腹・お尻・太ももに力を入れずに、肛門と膣を「奥に引き上げる」感覚です。自己流だと別の筋肉を使っていることが多いため、可能なら専門職に確認してもらいます1。
歯みがき中、テレビのCM中、椅子から立つ前など、決まった場面とセットにすると続けやすくなります。研究でも「できるだけ多くの日に行う」ほうが良い結果でした2。
咳・くしゃみ・重い物を持つ・立ち上がりの前に、先に骨盤底筋を締めてから動きます。
強くいきむ習慣や過度の体重は骨盤底の負担になります。一方で、もれを気にして水分を極端に減らすと、かえって膀胱が刺激に敏感になったり便秘になったりします。急がず全体を整えます。
「トイレに急ぐ」「夜間に何度も起きる」は、高齢の方では転倒のきっかけになります。切迫性尿失禁と転倒不安が重なる場合の関わりは転倒への恐怖心と認知行動療法について解説した記事も参考になります。
血尿がある、排尿時に痛みや強い違和感がある、急にもれる量や回数が増えた、下腹部の違和感や「何か下がってくる感じ」がある、尿がほとんど出ない・残っている感じが強い。これらはトレーニングより先に泌尿器科・婦人科などの受診が必要です。

個別支援で確認する視点
実際の支援では、排尿記録をもとにタイプ(腹圧性・切迫性・混合性)の傾向を整理し、骨盤底筋を正しく動かせているかを確認します。運動は生活動作に結びつけて量を確保し、便秘・体重・水分・服薬の状況もあわせて見ます。夜間のトイレ動線や、トイレまで間に合うかといった安全面も一緒に確認します。数か月続けても記録上の変化が乏しい場合は、泌尿器科・婦人科への再相談をご案内します。医師の診察や内診が必要な部分は、その領域の専門職につなぎます。
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療を代替するものではありません。尿もれは、尿路感染症・骨盤臓器脱・前立腺の病気・神経の病気・薬の影響など、さまざまな原因で起こります。トレーニングの内容や適否は原因やタイプによって異なるため、開始前に主治医・泌尿器科・婦人科・リハビリ専門職へご相談ください。掲載した研究データは執筆時点のもので、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
よくある質問
参考文献
2. Hay-Smith EJC, et al. Comparisons of approaches to pelvic floor muscle training for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2024. PMID: 39704322. PMCID: PMC11660230.
3. Dumoulin C, et al. Group-Based vs Individual Pelvic Floor Muscle Training to Treat Urinary Incontinence in Older Women: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2020. PMID: 32744599. PMCID: PMC7400216.
4. Vesentini G, et al. Interventions for treating urinary incontinence in older women: a network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2025. PMID: 41307301. PMCID: PMC12658956.
5. Todhunter-Brown A, et al. Conservative interventions for treating urinary incontinence in women: an Overview of Cochrane systematic reviews. Cochrane Database Syst Rev. 2022. PMID: 36053030. PMCID: PMC9437962.
6. Sherburn M, et al. Incontinence improves in older women after intensive pelvic floor muscle training: an assessor-blinded randomized controlled trial. Neurourol Urodyn. 2011. PMID: 21284022.
7. Mihaľová M, et al. Pelvic floor muscle training, the risk of falls and urgency urinary incontinence in older women. Z Gerontol Geriatr. 2022. PMID: 34309740.
