
心不全の高齢者を対象としたREHAB-HF試験では、個別化した多要素リハビリにより身体機能の指標が改善しました。一方、6か月時点で再入院や死亡などの主要な臨床転帰に明確な差は示されませんでした。運動の可否・強さ・開始時期は心不全の安定度や主治医の指示に基づいて決め、息切れやむくみなどの変化を共有してください。
心不全と診断されたあと、「運動してよいのか」「息切れが出たら危ないのでは」と迷う方は少なくありません。心臓リハビリテーションの研究では身体機能の改善が報告されていますが、病状が不安定な時期に自己判断で運動を始めてよいという意味ではありません。研究の対象と限界を確認し、生活の中で活動を調整する考え方を紹介します。
- 心不全と身体活動:運動の可否は状態で変わる
- 研究では何が示されているのか
- エビデンスの質と、まだ分かっていないこと
- 生活での具体例:日課を分けて活動を考える
- 作業療法士の視点:運動と日常生活をつなぐ
- 安全上の注意:開始・中止・受診の目安
- よくある質問・参考文献
心不全と身体活動:運動の可否は状態で変わる
心不全では、心臓の働きや体液の状態、併存疾患、服薬によって疲れやすさ・息切れ・むくみなどが変化します。「心不全なら一切動かない」「運動すれば必ずよくなる」と単純には言えません。治療が安定しているか、どの程度の活動が許可されているかを主治医に確認する必要があります。
心臓リハビリテーションは運動だけでなく、病気や薬の理解、生活上の調整、状態の観察を含む医療プログラムです。心筋梗塞後の心臓リハビリと比べると、心不全では日々の体液量や症状の変動にも注意を払います。
研究では何が示されているのか
REHAB-HF:急性心不全で入院した高齢者349名のRCT
Kitzmanらの2021年ランダム化比較試験(REHAB-HF)は、急性心不全で入院した高齢者349名(平均年齢72.7歳)を対象としました。入院中から退院後12週間にかけ、バランス、移動、筋力、持久力の4領域を個別に調整するリハビリ介入を通常ケアに追加しました。3か月後、SPPBは対照群より平均1.5点高く、6分間歩行距離は平均34m長い結果でした。
一方、6か月の再入院や死亡を含む主要な臨床転帰では有意な差は示されませんでした。身体機能の改善と、入院や死亡の予防を同じ結果として扱わないことが大切です。

心不全の運動療法をまとめたシステマティックレビュー
MolloyらのCochraneレビュー(2024年)は、心不全の運動ベースの心臓リハビリを対象とした60件のRCT、8,728名をまとめました。全死亡はRR 0.93(95%CI 0.71–1.21)で明確な差がなく、全入院はRR 0.69(0.56–0.86)で減少する可能性が報告されました。これは心不全全体の研究であり、急性心不全で入院した高齢者だけの効果ではありません。レビュー本文を入手できていないため、ここでは抄録で確認できる結果に限って紹介します。
実施形式を比べた2024年ネットワークメタ解析
Huaらのレビューは33件のRCTと11種類の運動プログラムを比較しました。施設型・在宅型・組み合わせ型などの順位を推定していますが、再入院の解析は6試験に限られ、有害事象の情報も十分ではありません。施設や在宅のどれがすべての方に最適かを決めた結果ではありません。
自宅で行う場合も、開始時には病院の心臓リハビリ担当者や主治医との相談、症状の記録、緊急時の連絡方法などを決めておくことが重要です。
エビデンスの質と、まだ分かっていないこと
REHAB-HF試験は無作為化比較試験で、入院から地域生活への移行期に複数領域を支援した点が特徴です。ただし参加者は平均年齢72.7歳で、すべての高齢者を代表するとは限りません。介入は多要素で、筋力・バランス・歩行のどれが結果に寄与したかを単独で判断できません。
身体機能指標の改善は報告されていますが、再入院や死亡のリスクが下がると断定できる試験結果ではありません。また、最適な開始時期、頻度、強度、心不全の病型や併存疾患による違いも十分に確立していません。運動に参加できた人の結果が、病状が不安定な人や重い認知・運動障害のある人に当てはまるとは限りません。
運動療法研究の平均値を、個人への運動処方として直接用いることはできません。主治医・心臓リハビリ担当者と相談し、現在の症状、血圧、脈拍、体重やむくみの変化などを踏まえて内容を調整してください。
生活での具体例:日課を分けて活動を考える
運動の許可が出ている場合でも、生活活動は一度に詰め込まず、休憩を挟む方法があります。例えば、洗面や着替えの後に座って休む、食事の準備は椅子を使って行う、買い物を一度に済ませず配送や家族の協力を利用するなどです。家の中の段差や手すりの位置も、疲労と転倒の両方に影響します。
活動記録には、行った時間だけでなく、その前後の息切れ、疲れ、むくみ、体重の変化などを記録し、主治医の指示に従って共有します。症状が普段と違う日は活動を増やさず、事前に決めた連絡先へ相談してください。

作業療法士の視点:運動と日常生活をつなぐ
作業療法士は、歩行距離や筋力だけでなく、入浴、着替え、調理、買い物、外出などの生活動作がどの程度負担になっているかを確認します。心不全がある方では、家事を続けて行うと疲労が強くなることがあるため、優先順位をつける、座ってできる作業を増やす、物品を手元に置く、活動と休憩を交互にするなどの方法を検討します。
こうした工夫は心不全を治療するものではなく、医療者の運動指示に沿って日々の活動を組み立てるための支援です。ふらつきがある方は、心血管疾患のある高齢者の転倒予防も参考にし、環境と介助方法を見直しましょう。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについてはサービス案内をご覧ください。心不全の診断・治療や心臓リハビリテーションは医療機関へご相談ください。

安全上の注意:開始・中止・受診の目安
運動中に胸痛、強い息切れ、冷汗、動悸、めまい、ふらつき、強い疲労、失神しそうな感覚が出たら直ちに中止し、安全な場所で休んでください。症状が続く場合、急激に悪化した場合は医療機関に連絡します。意識障害や強い胸痛など緊急性の高い症状では救急要請を検討してください。
本記事は一般的な情報であり、診断・治療の指示ではありません。運動の強さや時間を自己判断で増やさず、薬の変更も行わないでください。
まとめ
高齢者の心不全に対する個別化した心臓リハビリは、身体機能を支える可能性が示されています。ただし、身体機能の変化は再入院や死亡の予防を保証せず、最適な運動量も個人で異なります。活動を始める前に主治医・心臓リハビリ担当者と相談し、日常生活では体調に応じた分割、休憩、環境調整を行いましょう。
よくある質問
Q. 心不全があっても運動してよいですか?
A. 運動が取り入れられる場合はありますが、心不全の状態によって異なります。開始前に主治医や心臓リハビリ担当者へ確認してください。
Q. 自宅で散歩を始めてもよいですか?
A. 事前に主治医から活動範囲や中止サインの説明を受けてください。新しい息切れやむくみなどがある場合は、開始せず医療機関へ相談します。
Q. 心臓リハビリで再入院を防げますか?
A. 研究では身体機能や生活の質の改善が報告されていますが、特定の試験では主要な再入院・死亡転帰に明確な差が示されませんでした。個人の再入院予防を保証できるものではありません。
参考文献
- Kitzman DW, Whellan DJ, Duncan P, et al. Physical Rehabilitation for Older Patients Hospitalized for Heart Failure. N Engl J Med. 2021;385:203-216. PMID: 33999544. PMCID: PMC8353658. DOI: 10.1056/NEJMoa2026141. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33999544/
- Molloy C, Long L, Mordi IR, et al. Exercise-based cardiac rehabilitation for adults with heart failure. Cochrane Database Syst Rev. 2024;3:CD003331. PMID: 38451843. DOI: 10.1002/14651858.CD003331.pub6. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38451843/
- Hua W, et al. Effects of exercise based cardiac rehabilitation delivery modes on chronic heart failure: a systematic review and network meta-analysis. Sci Rep. 2024. PMID: 39732888. PMCID: PMC11682296. DOI: 10.1038/s41598-024-82608-z. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39732888/
- Japanese Circulation Society. JCS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. 2025. Clinical practice guideline. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf