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心筋梗塞後の心臓リハビリとフレイル|研究と参加時の注意点

自費リハビリ情報 読了目安 約12分 文・田中 光(作業療法士)
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表

田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立

心筋梗塞後の心臓リハビリとフレイル|研究と参加時の注意点
原稿作成:2026年9月16日

心筋梗塞のあと、「高齢だから」「フレイル(虚弱)があるから」という理由で心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)を諦めてしまう方がいます。結論から先にお伝えすると、心臓リハビリ参加者の研究では、フレイルが強い人ほどその後の健康上のリスクが高く、参加中にフレイル指標が改善する傾向が報告されています1。ただし、これだけで個々の人の治療効果や心筋梗塞後の予後を断定することはできません。この記事では、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、できるだけ正直に整理します。

SECTION 01
フレイルとは何か・なぜ心臓リハビリで問題になるのか

フレイルとは、加齢に伴って筋力や活動性、予備能力が低下し、ちょっとした体への負荷でも心身の状態を崩しやすくなった状態を指します。歩く速さの低下、握力の低下、体重減少、疲れやすさ、活動量の低下などで評価されることが多く(Fried Frailty Phenotypeなど)、日本では基本チェックリスト(Kihon Checklist)が使われることもあります1

心筋梗塞などの心血管疾患を経験した高齢者では、フレイルが高い頻度で見られます。あるシステマティックレビューでは、心血管疾患患者のフレイル有病率は疾患の種類によって幅があり、心不全患者では最大80%、大動脈弁疾患患者では最大74%に達すると報告されています2。フレイルは「心臓リハビリに耐えられないのではないか」という懸念から、参加を控える理由にされることがありますが、実際に運動を伴う心臓リハビリがフレイルの人にどう影響するかは、近年ようやく研究が積み重なってきた段階です1。心臓血管の手術を控えている方向けの運動の考え方は、高齢者の心臓血管手術前プレハビリテーションについて解説した記事でも扱っています。

医療者の見守りで歩行運動を行う高齢者

SECTION 02
研究では何が示されているのか
心臓リハビリとフレイルについてのシステマティックレビュー・メタアナリシス(2024年・34件の研究・19,360人)

観察研究26件とランダム化比較試験8件、合計19,360人(平均年齢71.1歳)を統合した解析です。心臓リハビリ開始時点でのフレイル有病率は、評価方法によって40〜46%と高頻度でした。心臓リハビリに参加した人では、プログラム終了後にフレイルの指標が改善する傾向が見られました(標準化平均差0.68、95%信頼区間0.37〜0.99、p<0.0001、6研究)。ただし、大規模な研究を除外する感度分析を行うと、この差は統計的に有意ではなくなりました(p=0.212)。一方、心臓リハビリ開始時点でフレイルの程度が強いほど、その後の全死亡リスクが高いという関連も示されました(ハザード比9.24、95%信頼区間2.93〜29.16、p=0.0001、4研究)。著者は「フレイルの評価方法や心臓リハビリのプログラム内容が研究間で大きくばらついており、ランダム化比較試験による裏付けはまだ限定的」としながらも、「心臓リハビリはフレイルと身体機能を改善させる」と結論づけています1

イタリアの多施設ランダム化比較試験のサブグループ解析(2026年・65歳以上512人)

心筋梗塞から回復期にある65歳以上の患者512人を、2対1の比率で多面的な心臓リハビリ群と通常ケア群に無作為に割り付けた試験の、フレイル別サブグループ解析として報告されました。Fried Frailty Phenotypeで評価したところ、参加者の68.4%がプレフレイルまたはフレイルに該当しました。フレイル・プレフレイルの患者は、フレイルのない患者と比べて、心血管死亡または心血管関連の予定外入院という主要評価項目のリスクが高い傾向にありました。そのうえで、フレイル・プレフレイルの患者に限定して心臓リハビリ群と通常ケア群を比べると、心臓リハビリ群のほうがこの主要評価項目のリスクが低いという結果でした。研究チームは「フレイルは予後を悪くする要因だが、心臓リハビリの恩恵を減らすものではない。フレイルはリハビリを制限する理由ではなく、評価して個別に対応する理由として使うべきだ」と述べています3

心血管疾患全体を見渡した別のシステマティックレビューでも、フレイルは女性で約1.6倍多く、フレイルのある患者は無い患者と比べて死亡リスクが2.5〜3.5倍高いと報告されています。この研究では、フレイルの評価に20種類近い異なるツールが使われていることも指摘されており、「フレイル」と一言でいっても、研究によって測っているものが異なる点には注意が必要です2

SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

心臓リハビリとフレイルの関係を扱った34研究のメタアナリシスでは、「フレイルの評価ツールと心臓リハビリのプログラム内容の変動が大きく、ランダム化比較試験の貢献が限定的」という限界が明記されています。フレイル改善の効果量も、大規模研究を除くと有意差が消えるなど、結果の安定性には注意が必要です1。フレイルの有病率そのものについても、評価ツールが最大20種類近くあり、研究間の比較が難しいことが指摘されています2

まだ分かっていないこと

1. どの程度のフレイルまでなら通常の心臓リハビリに安全に参加できるか。重度フレイルに絞った質の高い研究はまだ少ないです1
2. フレイルの人に最適化した心臓リハビリの内容(強度・頻度・期間)。多くのプログラムは、フレイルの有無を問わない標準的な内容で行われています1
3. フレイル改善効果の確実性。大規模研究を除くと統計的な有意差が消える結果もあり、効果の大きさには幅があります1
4. 長期的な予後への影響。多くの研究は数か月〜1年程度の追跡にとどまります1
5. 日本人高齢者における実態。紹介した研究は主に欧米の集団が対象で、体格・医療制度・生活習慣が異なる日本人での検証は限られています。

研究の数値は、参加した集団の平均的な傾向です。心臓の状態、フレイルの程度、併存疾患、生活環境は人によって大きく異なるため、ある研究で報告された結果が、そのままご自身やご家族に当てはまるとは限りません。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
研究で前向きな変化が報告されているもの
・心臓リハビリ参加によるフレイル指標の改善傾向(ただし感度分析では消える場合あり)1
・フレイル・プレフレイルの患者における、心臓リハビリと通常ケアの比較(フレイル群でも心臓リハビリ側が良好な傾向)3
変わりにくい・はっきりしないもの
・フレイルの人ほど死亡・再入院のリスクが高いという傾向そのもの(多くの研究で一貫)1,2
・効果量の確実性(大規模研究の有無で結果が変わる)1
・フレイルの評価方法(研究間で統一されていない)1,2

全体として、「フレイルがあるほど予後は厳しくなりやすい」ことと、「フレイルがあっても心臓リハビリの恩恵は失われにくい」ことは、矛盾する話ではなく両立する結果として報告されています1,3。フレイルへの運動療法全般の考え方は、高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事でも整理しています。

心臓リハビリで生活動作を確認する様子

SECTION 05
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

紹介した研究の多くは65歳以上、心筋梗塞や心血管疾患からの回復期にある方が対象です1,3。フレイル・プレフレイルの状態であっても、医療機関の管理下で心臓の状態を評価したうえで参加している点が共通しています。心血管疾患のある方の転倒予防運動については、心血管疾患がある高齢者の運動の進め方について解説した記事もあわせてご覧ください。

⚠ 次のような場合は、自己判断で運動を始めず、必ず主治医・循環器専門医・リハビリ専門職の管理のもとで進めてください

・胸の痛み、強い息切れ、動悸が安静時にもある
・心不全症状(むくみ、体重の急な増加、横になると息苦しい)がある
・不整脈が不安定、または最近発症した
・心筋梗塞や心臓の手術から日が浅く、主治医の運動許可が出ていない
・重度のフレイルで、日常生活動作にも介助が必要な状態

心臓リハビリは、心電図モニタリングや医師の管理のもとで運動強度を調整しながら行う医療行為です。フレイルがある場合は、通常より慎重な評価と、個別化された運動処方が必要になります3

SECTION 06
心臓リハビリの内容と進め方の目安

下記は研究や一般的な心臓リハビリのプログラムで扱われる内容であり、「これが唯一の正解」という意味ではありません。実際の内容は、心臓の状態・フレイルの程度・体力によって個別に決められます。

・評価:心肺運動負荷試験や6分間歩行試験などで運動耐容能を確認したうえで運動強度を設定1,3
・内容:有酸素運動(歩行・自転車エルゴメーターなど)と筋力トレーニングを組み合わせる「多面的(マルチドメイン)」なプログラムが研究で扱われています3
・フレイル評価:Fried Frailty Phenotypeや基本チェックリストなどで定期的に状態を確認1,3
・期間:数か月単位の外来通院プログラムとして行われることが多い1

大切なのは「フレイルがあるかどうか」で参加をあきらめることではなく、フレイルの程度を評価したうえで、安全に行える範囲の運動を個別に組み立てることです。

安全な歩行計画を医療者と相談する様子
SECTION 07
訪問リハビリの現場で大切にしていること
実践時に確認したい点

心筋梗塞後の活動量は、心臓の状態とフレイルの程度を合わせて評価して決めます。運動中の息切れ、胸部症状、疲労を確認し、循環器の主治医と心臓リハビリの担当者から個別の指示を受けて進めます。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。心臓リハビリの可否や内容は、心臓の状態・フレイルの程度によって大きく異なります。新しい運動を始めるときや内容を変えるときは、必ず主治医・循環器専門医・リハビリ専門職にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
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執筆・確認と運営上の立場

本記事は、株式会社Journey Rehabの医療情報記事として作成し、文献内容を2026年9月16日に確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の医療機関・製薬・医療機器事業者から本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医・循環器専門医へご相談ください。

田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表

執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.

FAQ
よくある質問
Q. フレイルがあると心臓リハビリは受けられませんか?
A. 研究では、フレイル・プレフレイルの患者でも心臓リハビリに参加し、通常ケアと比べて良好な傾向が報告されています3。フレイルは参加を制限する理由ではなく、評価して個別に対応する材料として使うべきだと考えられています。
Q. 心臓リハビリを受ければフレイルは改善しますか?
A. メタアナリシスでは改善の傾向が報告されていますが、大規模研究を除いた感度分析では統計的な有意差が消えており1、確実な効果とまでは言い切れません。
Q. フレイルがあると予後はどのくらい違いますか?
A. 心血管疾患全体を見た研究では、フレイルのある患者は無い患者と比べて死亡リスクが2.5〜3.5倍高いと報告されています2。ただし評価方法が研究によって異なるため、数値の解釈には幅があります。
Q. どんな運動をするのですか?
A. 心肺運動負荷試験などで運動耐容能を確認したうえで、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせたプログラムが研究で扱われています3。内容は心臓の状態・フレイルの程度に応じて個別に決められます。
Q. フレイルはどうやって評価するのですか?
A. 歩く速さ・握力・体重減少・疲れやすさ・活動量などで評価するFried Frailty Phenotypeや、日本の基本チェックリストなどが使われます1,3。評価方法は研究や医療機関によって異なります。
Q. 訪問リハビリで心臓リハビリを受けられますか?
A. 心臓リハビリは心電図モニタリングなど医療機関での管理が前提となるプログラムです。訪問リハビリでは、医療機関での心臓リハビリと並行して、生活動作や日常の活動量の調整をご相談いただけます。
Q. 日本人でも同じ結果になりますか?
A. 紹介した研究は主に欧米の集団を対象にしています。体格や医療制度、生活習慣が異なるため、日本人高齢者にそのまま当てはまるかどうかは、今後さらに検証が必要な段階です。
REFERENCES
参考文献
1. MacEachern E, Quach J, Giacomantonio N, Theou O, Hillier T, Abel-Adegbite I, Gonzalez-Lara M, Kehler DS. Cardiac rehabilitation and frailty: a systematic review and meta-analysis. European Journal of Preventive Cardiology (Eur J Prev Cardiol). 2024. doi:10.1093/eurjpc/zwae239. PMID: 39036978. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39036978/

2. Marinus N, Vigorito C, Giallauria F, Haenen L, Jansegers T, Dendale P, Feys P, Meesen R, Timmermans A, Spildooren J, Hansen D. Frailty is highly prevalent in specific cardiovascular diseases and females, but significantly worsens prognosis in all affected patients: A systematic review. Ageing Research Reviews (Ageing Res Rev). 2021. doi:10.1016/j.arr.2020.101233. PMID: 33333322. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33333322/

3. Dal Passo B, Tonet E, Raisi A, Zagnoni S, Chiaranda G, Pasanisi G, Pavasini R, Cimaglia P, Piva T, Casella G, Caglioni S, Zerbini V, Cocco M, Menegatti E, Mandini S, Mazzoni G, Biscaglia S, Volpato S, Grazzi G, Campo G. Effectiveness of Multidomain Cardiac Rehabilitation After Myocardial Infarction by Patient Frailty: Prespecified Subgroup Analysis of the PIpELINe Trial. Circulation: Population Health and Outcomes (Circ Cardiovasc Qual Outcomes / Circ Popul Health Outcomes). 2026. doi:10.1161/CIRCOUTCOMES.126.013410. PMID: 42605666. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42605666/

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