
入院中の運動や早期リハビリは、選ばれた患者さんの退院時の身体機能を支える可能性があります。ただし、Cochraneレビューでは日常生活動作への平均効果は小さく、確実性も低い結果でした。誰でも同じ運動を始めるのではなく、病状、治療、転倒リスク、普段の生活を踏まえ、病棟スタッフの指示のもとで行うことが大切です。
入院中にベッドで過ごす時間が増えると、立ち上がりや歩行、着替えなどが入院前より難しくなることがあります。一方、病気の状態や治療内容によっては、無理に動くことが適さない時期もあります。ここでは高齢者の入院中の運動研究を紹介し、研究から言えること・言えないこと、家族が医療チームと相談できる点をまとめます。
- 入院中に起こる「動作の変化」とは
- 研究では何が示されているのか
- 研究の限界と、まだ分かっていないこと
- 本人・家族が病棟で相談できる具体的なこと
- 作業療法士の視点:病棟での一日を活動として見る
- 安全上の注意・中止基準と相談の目安
- よくある質問・参考文献
入院中に起こる「動作の変化」とは
急な病気で入院すると、検査や治療のために活動が制限されたり、痛み・息切れ・疲れなどからベッドで過ごす時間が長くなったりします。高齢者では、入院前にはできていた移動や整容、トイレ動作が退院時に難しくなることがあります。これは病気の重症度だけでなく、入院前の体力、栄養状態、認知機能、環境の変化など複数の要因が関わります。
入院中の「運動」は、筋トレだけを意味しません。寝返り、端座位、ベッドからの移乗、トイレまでの歩行、着替えなど、生活に必要な動作を安全に行うことも活動の一部です。高齢者のフレイルと運動で紹介した地域の運動とは、病状や監視の必要性が異なります。
研究では何が示されているのか
急性期入院高齢者370名のランダム化比較試験
Martínez-Velillaらの単施設・単盲検RCTは、平均年齢87.3歳の内科系入院患者370名を対象にしました。個別化された中等度の筋力・バランス・歩行運動を1日2回実施し、中央値は5日でした。通常ケア群と比べ、退院時にSPPBは平均2.2点、Barthel Indexは平均6.9点高い結果でした。試験中に介入による有害事象は観察されませんでした。
これは医療チームが病状を確認したうえで病棟内で行ったプログラムです。数値をそのまま自宅での運動量に置き換えることはできません。また、単一施設の試験であり、すべての入院患者さんに当てはまるとは限りません。

Cochraneレビュー:24研究・7,511名
Hartleyらの2022年Cochraneレビューは、急性期に入院した65歳以上の医療患者を対象とする24研究、計7,511名をまとめました。運動介入は退院時のBarthel Indexで平均1.8点の上乗せでしたが、臨床的に意味のある差の目安として示された11点より小さく、確実性は低いと評価されました。移動能力への効果は非常に低い確実性で、結論は不確実でした。
入院中の転倒については介入群で増加する結果は確認されませんでした。ただし、このことは個々の患者さんに転倒リスクがないことを意味しません。状態の変化、監視の有無、実施環境に応じた安全対策が必要です。
2025年のシステマティックレビュー・メタ解析
Etayo-Urtasunらは、急性期の入院場所や運動介入を検討したレビューで、入院中の運動介入21研究(うち在宅急性期ケア1研究)を含めました。退院時の身体機能はSMD 0.42、日常生活の自立度はSMD 0.45の改善が報告されました。3ただし、研究の対象や介入が異なり、入院場所の比較と運動の効果を同じ問いとして解釈しないことが大切です。
研究の限界と、まだ分かっていないこと
研究ごとに病気、入院前の機能、介入内容、運動量、通常ケアが異なります。Cochraneレビューでは複数のアウトカムで確実性が低い、または非常に低いと評価されました。Martínez-Velillaらの試験は具体的なプログラムを検証した点が強みですが、1施設の研究です。退院後の生活、再入院、長期的な自立への影響が一律に分かったわけではありません。
「入院中に何分動けばよいか」「どの運動を選べばよいか」という共通の答えもありません。発熱や血圧・酸素状態の変化、点滴や医療機器、骨折リスク、認知面の変化などによって安全な活動は変わります。研究の平均値を個人への運動指示として使うことはできません。
安全性の報告があった試験でも、医療者の監視のもとで参加条件を確認して行われています。報告された有害事象がなかったことを根拠に、自己判断で歩行や筋トレを始めることは勧められません。
WHOの転倒予防資料も、入院中を含む活動は安全性を確認しながら支援する考え方を示しています。これは個別の運動処方を定めるものではなく、病状と環境に応じた評価が必要です。4
本人・家族が病棟で相談できる具体的なこと
入院前にできていた生活動作をスタッフに伝えると、目標を共有しやすくなります。「家でトイレまで歩いていた」「朝は自分で着替えていた」など、実際の動作を短く説明します。入院前に使っていた杖や歩行器、眼鏡、補聴器が必要かも確認してください。
当日の体調が安定している場合、病棟スタッフの指示に沿って、ベッド上の寝返り、端座位、椅子への移乗、洗面、食事準備などを練習することがあります。家族が付き添う場合も、転倒や点滴抜去の危険があるため、単独で立たせる前に担当者へ確認してください。
退院後の環境については、段差、寝室・トイレの位置、家族の支援、必要な福祉用具などを退院前に相談します。退院支援と在宅への移行の考え方は、脳卒中後の退院支援の記事も参考になります。

作業療法士の視点:病棟での一日を活動として見る
作業療法士は、筋力検査だけでなく、起き上がり、食事、整容、着替え、トイレ、病棟内の移動など、本人が退院後に必要とする活動を確認します。動作を一つずつ練習するだけでなく、どの順番なら疲れにくいか、椅子の高さや手すりが必要か、休憩をどこに入れるかも検討します。
例えば、朝の洗面・着替えで疲れて午後の練習が難しい場合、時間や順序を変えると活動しやすくなることがあります。作業療法士、理学療法士、看護師、医師など病棟チームで共有し、本人の目標と治療上の制限を両立させます。
退院後の自費リハビリについてはJourney Rehabのご案内をご覧ください。急性期の医療機関で行う治療や入院中のリハビリを置き換えるものではありません。

安全上の注意・中止基準と相談の目安
動作中に胸痛、息苦しさの急な悪化、冷汗、強い動悸、めまい、ふらつき、意識が遠のく感じ、痛みの急な増加があれば中止してスタッフを呼びます。発熱、強い眠気や混乱、急な麻痺・しびれ、転倒や頭部打撲があった場合も、すぐに医療スタッフへ伝えてください。
家族が病院外で運動を追加する前には、主治医や担当療法士に相談しましょう。運動量は病気の状態によって変わるため、本記事に記した試験の量を個人の目安として使わないでください。
まとめ
入院中の運動は、適切な患者さんに対して医療チームが状態を確認しながら行うことで、退院時の身体機能を支える可能性があります。一方、研究全体では効果の大きさや確実性に幅があり、全員に同じ運動が適するわけではありません。入院前の生活動作と退院後の目標を伝え、その日の状態に合った活動を病棟スタッフと相談してください。
よくある質問
Q. 入院中に歩くほど回復しやすくなりますか?
A. 一律には言えません。研究では、病状を確認したうえで行う運動が一部の身体機能を支える可能性がありますが、個人に必要な活動量は医療チームが判断します。
Q. 家族がベッドから起こしてもよいですか?
A. 先に病棟スタッフへ確認してください。点滴などの医療機器、血圧変化、転倒リスクがあるため、家族だけで起こすことが安全とは限りません。
Q. 入院で歩きにくくなった場合、退院後に元に戻りますか?
A. 経過は病気や入院前の状態、合併症、支援環境などによって異なります。戻ると約束することはできないため、退院後の生活目標と必要な支援を担当者と相談します。
参考文献
- Martínez-Velilla N, Casas-Herrero A, Zambom-Ferraresi F, et al. Effect of Exercise Intervention on Functional Decline in Very Elderly Patients During Acute Hospitalization: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2019;179(1):28-36. PMID: 30419096. PMCID: PMC6583412. DOI: 10.1001/jamainternmed.2018.4869. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6583412/
- Hartley P, Keating JL, Jeffs KJ, Raymond MJ, Smith TO. Exercise for acutely hospitalised older medical patients. Cochrane Database Syst Rev. 2022;11(11):CD005955. PMID: 36355032. PMCID: PMC9648425. DOI: 10.1002/14651858.CD005955.pub3. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9648425/
- Etayo-Urtasun P, Sáez de Asteasu ML, Izquierdo M. Comparison of hospitalisation settings and exercise interventions in acute care: a systematic review and meta-analysis. Age Ageing. 2025;54(2):afaf035. PMID: 39982004. DOI: 10.1093/ageing/afaf035. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39982004/
- World Health Organization. Step safely: strategies for preventing and managing falls across the life-course. 2021. Guidance report. https://cdn.who.int/media/docs/default-source/documents/social-determinants-of-health/who_stepsafely_digital.pdf