変形性膝関節症のVRリハビリ|痛み・機能への研究と注意点

· 整形疾患情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
変形性膝関節症へのVRリハビリとは?痛み・機能・バランスへの研究と限界を正直に解説

変形性膝関節症(膝OA)による痛みや動かしにくさに対して、ゲーム感覚で取り組めるVR(バーチャルリアリティ)を活用したリハビリが研究され始めています。「楽しく続けられそう」という期待がある一方、実際にどこまで効果が確かめられているのかは気になるところです。この記事では、変形性膝関節症へのVRリハビリについて、研究で分かっていることと、まだはっきりしていないことを正直に整理してお伝えします。

この記事の要点
・従来のリハビリにVR運動を組み合わせたランダム化比較試験で、痛み・機能・生活の質の指標に改善が報告されています。
・ただし効果は短期間(数週間)の評価が中心で、10週間の介入後に一度改善した痛みが、4週間後には差が小さくなったという研究もあります。
・痛みの主観的な訴えは軽くなっても、痛みの生理的な指標(圧痛閾値)自体は変化していない研究もあり、効果の仕組みは完全には分かっていません。
・重篤な有害事象の報告は今のところありませんが、対象は軽度〜中等度の膝OAが中心です。
SECTION 01
VRリハビリとは

膝OAへのVRリハビリには、ゴーグルを装着して仮想空間に没入する「没入型」と、テレビやモニター画面を見ながら体を動かす「非没入型」があります。研究で報告されている膝OAへの実践例では、市販のセンサーやゲーム機(Microsoft Kinectや、体感型ゲーム機のRing Fit Adventureなど)を使った非没入型の方が多く使われています。画面上のアバターやキャラクターに合わせて足を動かすことで、膝の曲げ伸ばしやスクワット、バランス練習をゲーム感覚で行える点が特徴です。

膝OA以外の運動器疾患でも、同じ股関節まわりの変形性関節症に対する運動療法については変形性股関節症の運動療法について解説した記事で取り上げています。手術(人工膝関節全置換術)を受けたあとのリハビリについては人工膝関節全置換術後のリハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から言うと、従来のリハビリにVR運動を組み合わせることで、痛み・機能・生活の質の指標に改善がみられたという報告が複数あります。ただし、その効果がどのくらいの期間続くのか、どういう仕組みで効いているのかについては、まだ研究が発展途上です。

研究から読み取れること
症候性の膝OA患者60名を対象にしたランダム化比較試験では、非没入型VR運動(Microsoft Kinect使用)と従来リハビリを組み合わせた群を、従来リハビリ(TENS・超音波・温熱療法)のみの群と比較しました。週5日・3週間の介入後、痛みの指標(VAS)はVR併用群でより大きく低下し(6.86→3.06 vs 対照群7.00→3.90)、膝の症状全般を測るWOMACスコアや、体全体の身体機能(SF-36)でも統計的に有意な差が確認されています1

別のランダム化比較試験(高齢者60名、軽度〜中等度の膝・股OA)では、従来の理学療法にVRエクサーゲーム(Nintendo Ring Fit Adventure使用)を追加した群で、週3回・10週間の介入直後に痛みが大きく改善しました(VAS 14.03 vs 対照群39.47)。全体の76.7%が臨床的に意味のある改善を経験したと判定されています2。膝OAを含む技術活用型の運動プログラム全体を統合した解析(VR以外に電話・アプリなども含む12件のRCT)でも、痛みと生活の質は有意に改善したと報告されています4。複数のRCTを統合した最新の解析でも、痛み・機能・バランスのいずれにも改善が報告されており、同じ方向の結果が積み重なりつつあります5
変形性膝関節症の方が専門職の見守りでVR運動に取り組む場面
VR機器の種類にかかわらず、姿勢・膝の痛み・転倒リスクを確認しながら行います(場面イメージ)。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

ただし、効果がどこまで続くのかについては、慎重に見る必要があります。10週間のVRエクサーゲームで大きく痛みが改善したという研究では、介入直後には対照群と大きな差がありましたが、4週間後のフォローアップではその差がかなり小さくなっていました2。同じ研究では、痛みの主観的な訴え(VAS)は改善した一方、痛みの感じやすさを測る生理的な指標(圧痛閾値)には有意な変化がなく、著者らは「注意をそらす効果や意欲の向上といった心理的な仕組みが関わっている可能性がある」と考察しています2。人工膝関節全置換術後のVRリハビリを対象にした解析でも、痛みの改善は1ヶ月以内では確認されたものの、2〜3ヶ月後には有意差が消えており、バランス能力(TUG)や生活の質(SF-36・EQ-5D)では明確な差が出ていません3。「技術を使った運動なら何でも身体機能まで改善する」わけではなく、痛みや生活の質は改善しても身体機能では有意差が出なかった解析もあります4

まだ分かっていないこと
・多くの研究が3週間〜10週間程度の短期評価にとどまり、数ヶ月〜年単位の長期的な効果は十分に検証されていません。
・痛みが軽くなる仕組みが、関節そのものの変化によるものか、注意をそらす・楽しく続けやすいといった心理的な要因によるものかは、まだ十分に解明されていません2
・研究の対象は軽度〜中等度の膝OAが中心で、重度の変形や強い痛みがある方に同じ結果が当てはまるかは確立していません。
・研究によって使用機器・介入時間・頻度が大きく異なり、「どのVR機器・どのくらいの量が最も効果的か」は定まっていません。
SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究結果を踏まえると、比較的変わりやすいとされているのは、痛みの主観的な訴え(VAS)や、日常生活での動きにくさを測るWOMACスコアです12。一方で、痛みの生理的な感じやすさそのもの(圧痛閾値)や、バランス能力の一部の指標(歩行に関する検査など)は、VR併用でもはっきりした差が出ていない研究が複数あります123。生活の質についても、研究によって改善が確認されたものと、明確な差が出なかったものがあり、一貫していません34

つまり「VRを使えば膝OAに関わるすべての指標が良くなる」というより、「痛みや日常の動きにくさの自覚には変化が出やすいが、関節の構造や生理的な痛みの感じやすさそのものまで変わるとは限らない」と捉えるのが現実に近いと考えています。

SECTION 05
どんな人に向いているか・注意したい人

これまで紹介した研究の多くは、軽度〜中等度の膝OA(Kellgren-Lawrence分類2〜3程度)で、立って動作を行える方を対象にしています12。ゲーム感覚で体を動かすことに抵抗がない方や、従来の運動だけでは続けにくさを感じている方には選択肢になりえます。一方で、重度の変形や強い痛みがある方、立位でのバランスに大きな不安がある方については、研究の対象から外れていることが多く、そのまま同じ結果が当てはまるとは限りません。

⚠ 忘れたくない大切なこと
画面に集中するあまり足元への注意がそれ、転倒につながる可能性があります。バランスに不安がある方が自己流でVRエクサーゲームを行うのは避け、見守りや手すりの有無を確認したうえで、専門職の指導のもとで始めることをおすすめします。強い痛みが続く、腫れや熱感がある場合は、運動の前に主治医に相談してください。
SECTION 06
頻度・時間・期間の目安

研究で使われた内容を目安として紹介します。ある研究では週5日・1回30分・3週間(計15セッション)というプログラムが用いられました1。別の研究では、従来の理学療法30分に加えてVRエクサーゲームを20分、週3回・10週間(計30セッション)続ける形が採用されています2。いずれも比較的短期集中型のプログラムで、長期間続けた場合の研究はまだ多くありません。実際にどの程度の頻度・時間から始めるかは、膝の状態や体力に合わせて専門職と相談しながら決めることをおすすめします。

変形性膝関節症の方が座位で安全に膝のVR運動を行う場面
立位が不安定な場合は、座位など安全な姿勢に調整し、運動後の痛みも確認します(場面イメージ)。
変形性膝関節症の方が自宅で見守りのもとVR運動を行う場面
自宅で行う場合も、足元を片づけ、必要に応じて支えや見守りを用意します(場面イメージ)。
SECTION 07
支援で重視する確認ポイント
🏥 運動だけで判断しないために
膝の痛みがある場合は、VRの導入だけでなく、痛みの部位・性質、腫れや熱感の有無、日常生活での困りごと(階段昇降・正座・立ち上がりなど)、住環境や生活動線を一緒に確認することが大切です。VRエクサーゲームは自宅でも取り入れやすい一方、動作の代償(かばい方)が癖になっていないかは画面越しでは分かりにくいため、定期的に専門職が動作を直接確認することをおすすめします。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。運動の内容や強度は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。強い痛みや腫れが続く場合、転倒などのけがをした場合は、早めに医療機関へご相談ください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。(公開日:2026年8月13日)
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
膝の状態や生活での困りごとを一緒に確認しながら、運動の進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
VRリハビリをすれば膝の痛みはなくなりますか?
痛みの指標が改善したと報告する研究がありますが、なくなることを保証するものではありません。効果の続きやすさにも研究によって差があり、個人差もあります。
効果はどのくらい続きますか?
研究では介入直後に大きな改善がみられても、数週間後のフォローアップでは差が小さくなったという報告があります。長期的にどこまで効果が続くかは、まだ十分に検証されていません。
どんな機器を使いますか?酔ったりしませんか?
研究の多くはゴーグルを使わない非没入型(モニターを見ながら体を動かすタイプ)を使っており、有害事象の報告はありませんでした。ゴーグル型(没入型)では、以前の研究で軽い吐き気や一時的な頭痛が報告された例もあるため、体調に合わせて選ぶことが大切です。
人工膝関節全置換術(手術)を受けたあとでもVRリハビリはできますか?
術後のVRリハビリを対象にした研究もあり、術後早期の痛み・機能の指標に改善が報告されています。ただしバランスや生活の質では明確な差が出なかった研究もあり、術後の状態に応じて主治医・専門職と相談しながら進めることをおすすめします。
自宅でVRリハビリをしても大丈夫ですか?
研究で使われた機器の中には家庭用ゲーム機もありますが、画面に集中するあまり足元がおろそかになり転倒するリスクがあります。バランスに不安がある場合は、まず専門職と一緒に動作を確認してから取り入れることをおすすめします。
どのくらいの期間・回数で行われた研究が多いですか?
週3〜5回・1回20〜30分程度を、3週間〜10週間続けたという研究が中心です。ただし研究によって内容が大きく異なり、最適な量はまだ定まっていません。
REFERENCES
参考文献
1. Cigdem-Karacay B, Eraslan SS, Canlı İ, Turhan A. The effectiveness of virtual reality-based exercises in patients with symptomatic knee osteoarthritis: randomized controlled study. Rev Assoc Med Bras (1992). 2026. DOI:10.1590/1806-9282.20260294. PMID:42525073. PMCID:PMC13399397.
2. Guede-Rojas F, Mendoza C, Rodríguez-Lagos L, Soto-Martínez A, Ulloa-Díaz D, Jorquera-Aguilera C, Carvajal-Parodi C. Effects of Non-Immersive Virtual Reality Exercise on Self-Reported Pain and Mechanical Hyperalgesia in Older Adults with Knee and Hip Osteoarthritis: A Secondary Analysis of a Randomized Controlled Trial. Medicina (Kaunas). 2025. DOI:10.3390/medicina61071122. PMID:40731752. PMCID:PMC12298013.
3. Peng L, Zeng Y, Wu Y, Si H, Shen B. Virtual reality-based rehabilitation in patients following total knee arthroplasty: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Chin Med J (Engl). 2021. DOI:10.1097/CM9.0000000000001847. PMID:34908004. PMCID:PMC8769147.
4. Chen T, Or CK, Chen J. Effects of technology-supported exercise programs on the knee pain, physical function, and quality of life of individuals with knee osteoarthritis and/or chronic knee pain: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Am Med Inform Assoc. 2021. DOI:10.1093/jamia/ocaa282. PMID:33236109. PMCID:PMC7883981.
5. Liu HW, Tsai TL. Virtual Reality-assisted Physiotherapeutic Training for Patients With Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Phys Med Rehabil. 2026. DOI:10.1097/PHM.0000000000002914. PMID:42468005.