圧迫骨折とリハビリの重要性

「腰や背中の痛みが取れない」「一人で歩けるようになるのだろうか」「外を歩くのが不安だ」「また転んだらどうしよう」。脊椎の圧迫骨折を経験された方やそのご家族は、このような尽きない不安を抱えていらっしゃる方が多いです。
この記事では、漠然としたアドバイスにとどまらず、科学的根拠に基づいた、そして少し意外かもしれない「回復を成功させるための鍵」を具体的にお伝えします。あなたのリハビリが、より明確で効果的なものになるための一助となれば幸いです。
目標は曖昧じゃなく。「屋外を歩ける」には具体的な数値基準があった

リハビリの目標としてよく掲げられる「屋外を自立して歩けるようになる」という状態。実はこれは曖昧な願望ではなく、客観的な数値で測れる具体的な目標です。これらの数値を知ることは、リハビリの明確なゴール設定につながります。
研究によって、屋外歩行の自立や安定した自立歩行には、以下の指標が目安となることが示されています。
- 歩行速度: 0.8m/秒以上(Studenski, 2011)
- TUGテスト (Timed Up & Go Test): 13秒未満(Podsiadlo & Richardson, 1991)
- バーグバランススケール (Berg Balance Scale): 45点以上(Berg, 1992)
これらの具体的な目標があることで、リハビリは大きく変わります。TUGテストやバーグバランススケールは、理学療法士・作業療法士が能力を評価するために用いる標準的な検査です。ご自身の現在の能力を専門家に客観的に評価してもらい、目標との差を把握することで、やるべきことが明確になります。これにより、患者様もご家族も進捗を確認しながら、モチベーションを維持してリハビリに取り組むことができるのです。
回復への道のりは、暗闇を手探りで進むものではありません。歩行速度、TUG、バランススコアといった明確な「地図」と「コンパス」を手に、確かな一歩を踏み出す旅なのです。
「これだけでOK」は無い。効果的なリハビリは3種の運動の組み合わせ
圧迫骨折からの回復において、「この運動さえやっていれば大丈夫」という魔法のような単一のエクササイズは存在しません。最も効果的だと推奨されているのは、複数の要素を組み合わせた「多成分(マルチコンポーネント)」な運動プログラムが痛みに関して、身体機能面、歩行能力、QOL、転倒リスクの軽減などの改善を報告しています。(Bennell, 2010)(Li, 2023)(Evstigneeva, 2016)(Pratelli, 2010)
特に、マルチコンポーネントの運動の中でも報告されている以下の4つの要素を組み合わせることが強く推奨されています。方法などを解説していきます。
1.筋力トレーニング

- 筋力トレーニング(レジスタンス運動): 背筋・下肢を中心に強化し、姿勢や歩行を改善すると報告されています。ハーフスクワットやスクワット、ブリッジなどの下肢を鍛える筋力訓練や、手を挙げながら歩行する動作、ダンベルなどを使用した背筋の筋力トレーニングなどを実施しています。痛み、TUG、姿勢の改善などが運動をしていない群と比べて有意に改善したと報告されています。Li, 2023らの研究では筋力トレーニングの推奨する回数は週2回から3回と報告されており、これらは少なくとも10週間以上継続することが効果があると報告されています。
2.バランス訓練

バランス訓練: 転倒予防に有効で、片脚立ちや太極拳などが推奨されています。ほぼ毎日15〜20分を目安に取り入れます。注意点として骨折直後や痛みが強い時期には過度な負荷を避ける必要があります。またバランス訓練は片足立ちなど、少なからず転倒する可能性がある種目がほとんどです。専門家の指導下、または安全な環境で行うことが前提ですので注意が必要です。こちらも少なくとも10週間以上継続することが効果的と報告されています。
3.ストレッチ

ストレッチ: 胸・肩・股関節などを伸ばし、円背を防ぐ目的で行います。ほぼ毎日続けることが勧められています。丸めたタオルの上に仰向けに寝る、立った状態で頭を壁につける、立ったまま壁に手を上げて歩くなど胸椎をはじめとした体幹の可動域の改善を図り、姿勢の改善や痛みの改善をはかります。
「やってはいけない動き」を知ることが、回復への一番の近道
リハビリにおいて、どの運動を「やるか」と同じくらい、何を「やらないか」を知ることが重要です。回復を急ぐあまり無理をしたり、誤ったフォームで運動したりすることは、効果がないばかりか、かえって身体を危険に晒すことになりかねません。
安全にリハビリを進めるために、以下の注意点を必ず守ってください。
- 避けるべき動作: 脊椎に強い負荷をかける前かがみやひねる動きは避けましょう。
- 中止のサイン: 運動中に鋭い痛みやしびれを感じたら、すぐに中止して理学療法士などの専門家に相談してください。
- 絶対条件: 転倒を防ぐため、リハビリや自主トレーニングは必ず安全な環境で実施してください。
回復の道のりは、理学療法士・作業療法士など、あなたの状態を一番よく知る専門家と二人三脚で進むことが不可欠です。決して無理をしないことが、確実な回復への最も賢明なアプローチです。
リハビリにおける最速の道は、常に「安全」という名の道です。痛みのサインは「止まれ」の信号。それを無視しては、ゴールが遠のくだけです。
まとめ
圧迫骨折後のリハビリを成功させる鍵は、3つのシンプルな事実に集約されます。
- 具体的な数値目標を掲げる: 「歩行速度0.8m/秒」などを目指し、リハビリの進捗を可視化する。
- 4種類の運動をバランス良く組み合わせる: 筋力、バランス、有酸素、ストレッチを組み合わせ、包括的に身体機能を高める。
- 「安全第一」の原則を徹底する: やってはいけない動きを理解し、体のサインを見逃さず、無理をしない。
これらの知識は、あなたやあなたのご家族が、自信を持って回復への道のりを歩むための力強い味方となるはずです。
あなたの回復の旅を、今日からより安全で効果的なものにするために、まず専門家に何から相談してみますか?
※本記事は教育・情報提供を目的としています。個別の診療判断は医療機関で行ってください。
よくある質問集
Q1.運動は週何回行えば良いですか?
・最低でも週2回ー3回実施することが望ましいです。
・論文ではストレッチやバランス訓練などの運動種目は毎日実施したほうがより効果的という報告があります。筋力トレーニングなどは週2回ー3回で効果が報告されています。
Q2.運動はどの程度の期間行えば良いですか?
・10週間以上でより効果が高いと報告されています。
・少ないものでは4週間からと報告があります。
・上記は、身体機能の指標が改善を報告したものとなります。どの程度の期間を行ったほうが良いかは、現状の身体機能の能力や、目標としているところで具体的な期間は変わってきます。
Q3.自主トレーニングだけで良くなりますか?
・論文では週1回のセラピストの介入➕自主トレーニングで改善を報告しているものもございます。(Bennell KL、2010)
・ただし、状態として「1人で自宅内の歩行も転びそう」、「日中ほとんど寝たきりな生活」といったような転倒リスクが高く、1人で運動を行うことが危険な状況の時にはお勧めしません。
・ある程度、お一人でも運動をすることが危険ではない状況になれば、自主トレーニングを積極的に実施することが、機能回復を助長される要因になると考えています。
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参考文献
- Studenski S, Perera S, Patel K, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50–58. https://doi.org/10.1001/jama.2010.1923
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142–148. https://doi.org/10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x
- Berg KO, Wood-Dauphinee SL, Williams JI, Maki B. Measuring balance in the elderly: validation of an instrument. Can J Public Health. 1992;83(Suppl 2):S7–S11. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1468055/
- Bennell KL, Matthews B, Greig A, et al. Effects of an exercise and manual therapy program on physical impairments, function and quality of life in people with osteoporotic vertebral fracture: a randomized controlled trial. BMC Musculoskelet Disord. 2010;11:36. https://bmcmusculoskeletdisord.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2474-11-36
- Evstigneeva L, Lesnyak O, Bultink IE, et al. Effect of twelve-month physical exercise program on patients with osteoporotic vertebral fractures: a randomized controlled trial. Osteoporos Int. 2016;27(8):2515–2524. https://link.springer.com/article/10.1007/s00198-016-3560-4
- Li X, Zhang W, Wang L, et al. Effects of resistance and balance exercises for athletic ability and quality of life in people with osteoporotic vertebral fracture: systematic review and meta-analysis. Front Med (Lausanne). 2023;10:1135063. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10033532/
執筆者情報

株式会社Journey Rehab 代表|田中
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍
▪️経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
▪️ 研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
▪️論文執筆