東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
効果があるのか?研究結果が分かれる理由を正直に解説
腰が急に痛くなったとき、「まず温めた方がよいのか」「動かした方がよいのか」と迷う方は多いと思います。ドラッグストアには使い捨てカイロ型の温熱シートが並び、「温めながら軽く運動するとよい」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。
この記事では、急性腰痛(発症からおおむね6週間未満の腰痛)に対する温熱療法(ホットパック・ヒートラップ)と運動の併用について、研究でどこまで分かっているのかを整理します。実は、この分野は「昔の研究では良い結果」「最新の質の高い研究では上乗せ効果が確認されなかった」という、結果が分かれている領域です。都合のよい情報だけでなく、その分かれ方まで正直にお伝えします。
最終更新日:2026年8月16日
最新レビュー日:2026年8月16日
足のしびれや筋力低下、排尿・排便の異常、発熱、転倒やケガの後の痛み、がん・骨粗しょう症などのリスクがある場合は、温熱療法や運動を自己判断で始めず、医療機関で確認してください。また、感覚が鈍い部位、皮膚が弱い部位、血流障害がある部位への温熱の使用は、低温やけどのリスクがあるため注意が必要です。
温熱療法(表在性の温熱)は、皮膚の上から患部を温めることで、血流を促し、筋肉の緊張をやわらげ、痛みの感じ方に働きかけることを目的とした保存的なケアの一つです。ホットパック、蒸しタオル、市販の使い捨てカイロ型ヒートラップなどが含まれます。
一方、急性腰痛の運動については、「痛みが強い時期に無理に動かすべきではない」という考え方と、「安静にしすぎず、できる範囲で活動を続けた方がよい」という考え方の両方が過去から議論されてきました。近年は、危険サインがなければ、過度な安静よりも活動性を保つ方向が支持される傾向にあります。この2つ、温熱と運動を組み合わせたらどうなるのか、というのが本記事のテーマです。
結論から先にお伝えすると、「温熱と運動を組み合わせると単独より上乗せの効果がある」とした比較的古い研究がある一方で、2026年に発表された、より厳密な条件で行われた最新のランダム化比較試験(RCT)では、その上乗せ効果は確認されませんでした。以下、順番に紹介します。
発症から3か月未満の急性腰痛の方100名を、「ヒートラップのみ」「運動のみ」「ヒートラップ+運動」「案内冊子のみ(対照)」の4群に分け、5日間の介入を行ったRCTでは、治療終了2日後の時点で「ヒートラップ+運動」群が、他のどの群よりも大きな機能改善を示したと報告されています(発症前の機能まで戻った方の割合は、併用群72%に対し、ヒートラップのみ・運動のみ・対照群はいずれも約20%前後)1。
腰痛に対する表在性の温熱・冷却療法をまとめたコクランレビューでは、急性〜亜急性の腰痛を対象にした研究で、ヒートラップ療法がプラセボと比べて5日後の痛みを軽くする方向のわずかな効果(中程度の質のエビデンス)と、運動を追加するとさらに痛みが軽くなる可能性が報告されています2。ただし著者自身が「根拠となる研究数が少なく、より質の高い研究が必要」と述べています。
カナダ・ケベックシティの研究センターで行われた最新の多群RCTでは、急性腰痛の成人99名を「ヒートラップ+運動」「ヒートラップのみ」「見せかけのヒートラップ(対照)」の3群に分け、7日間の介入後1週間時点の痛みに伴う支障の程度(Oswestry Disability Index)を比較しました。その結果、「ヒートラップ+運動」は「ヒートラップのみ」(平均差 -1.6点、95%信頼区間 -6.2〜3.0)とも「見せかけのヒートラップ」(平均差 -0.5点、95%信頼区間 -5.0〜4.2)とも、統計的に差がありませんでした。「ヒートラップのみ」も見せかけの対照と比べて有意な効果は確認されませんでした3。
つまり、2005年の研究では「温熱+運動」の組み合わせに大きな利点が示された一方、より新しく、見せかけの対照群(プラセボ)まで用意した2026年の研究では、その利点は再現されませんでした。研究の著者自身も「これまでの文献やガイドラインとは異なる結果だった」と述べています3。医学研究では、こうした「新しい・より厳密な研究で以前の結果が再現されない」ことは珍しくなく、現時点では「温熱と運動の併用で上乗せの効果が必ず得られる」とは言い切れない状況です。
現在の研究でも、どのような痛みの性質・重症度の方に温熱療法が向いているのか、温める時間や温度、運動を組み合わせるタイミング(同時か、時間をずらすか)が最適かは十分に分かっていません。紹介した2026年の最新RCTと、それより前の研究とで結果が異なった理由(対象者の違い、痛みの重症度、対照群の設定方法の違いなど)も、まだ十分には説明されていません。
また、急性腰痛は多くの場合、温熱療法の有無にかかわらず時間の経過とともに軽くなっていくことが知られています。そのため、「温めたら軽くなった」という体感が、温熱そのものの働きなのか、自然な経過なのかを区別することは、日常生活の中では簡単ではありません。
温熱療法そのものは、正しく使えば比較的取り入れやすいセルフケアです。「絶対に効果がある」とは言えない一方で、大きな害も少ないとされています。試す場合は、以下の点に注意してください。
・就寝中の使用は避ける(温度調整ができないため)
・感覚が鈍い部位、血流障害がある部位には使わない
・熱感や違和感があればすぐに外す
・温めた後、痛みが増えない範囲で軽い動作(短い歩行、立ち座りなど)を試す
腰椎の骨折後のように安静度や運動の可否が個別に異なるケースでは、自己判断でストレッチや運動を進める前に専門職へ確認することが大切です。腰椎圧迫骨折後のリハビリとストレッチについて解説した記事もあわせてご覧ください。
急性期を過ぎても腰の痛みが長引く場合は、対面でのリハビリだけでなく、慢性腰痛の遠隔リハビリ(オンライン運動指導)の研究を解説した記事も選択肢の一つとして参考にしていただけます。
Journey Rehabでは、急な腰痛について温熱を使うかどうかだけで判断せず、危険サインの有無、痛みの変化、日常動作への影響を確認したうえで、必要に応じて医療機関への相談をご案内する方針です。温熱の感じ方や活動できる範囲には個人差があるため、一律の方法は勧めません。
大切にしているのは、温熱を「痛みをゼロにする方法」としてではなく、動きやすくするための準備の一つとして位置づけ、そのうえで痛みが増えない範囲の動作を少しずつ確認していくことです。温熱に頼りきるのではなく、生活の中でどう体を動かしていくかをあわせて考えるようにしています。
急性腰痛への温熱療法と運動の併用については、古い研究では上乗せの効果が示された一方、2026年発表の最新の厳密なRCTではその効果が確認されませんでした。研究結果が分かれている以上、「必ず効く」とも「意味がない」とも言い切れません。温熱は比較的安全に試しやすいセルフケアの一つですが、それだけに頼らず、痛みが増えない範囲で体を動かし続けることの方が、現時点の研究全体とは合いやすい考え方です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。腰痛の原因や適切なケア方法は個別に異なります。足のしびれ、筋力低下、発熱、排尿・排便の異常、外傷後の強い痛みがある場合は、医師やリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
