
先に結論
研究のまとめでは、ゴムバンドの運動を行ったグループで足の筋力やバランスの評価が良い方向に変化した結果が報告されています1。ただし、研究ごとの結果のばらつきが大きく、どのくらいの強さ・量が最適かはまだはっきりしていません1。
「ジムに通うのは難しいけれど、家で足腰を鍛えたい」「ダンベルは重くて怖い」――そんな高齢の方やご家族に向け、ゴムバンド(エラスティックバンド、セラバンドなど)を使った運動について整理します。この記事では、高齢の方のゴムバンドを使った筋力トレーニングについて、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、研究のまとめでは、ゴムバンドの運動を行ったグループで足の筋力やバランスの評価が良い方向に変化した結果が報告されています1。ただし、研究ごとの結果のばらつきが大きく、どのくらいの強さ・量が最適かはまだはっきりしていません1。
ゴムバンドを使った筋力トレーニングとは
ゴムバンドを使った筋力トレーニングは、伸び縮みするゴム製のバンドやチューブを引っ張ったり踏んだりして、その抵抗を利用して筋肉を鍛える方法です。バンドは色や厚みによって強さが分かれており、伸ばす長さや持つ位置を変えることで、負荷を細かく調整できます23。
重りやマシンを使う筋力トレーニングと比べると、道具が軽く場所をとらないため、自宅や椅子に座ったままでも取り組みやすいのが特徴です。研究のまとめでは、虚弱(フレイル)の方や車いすを使っている方など、さまざまな状態の高齢の方に用いられてきたことが紹介されています2。
年齢とともに筋肉の量や力が落ちる「サルコペニア」への対応としては、運動と栄養の組み合わせも大切です。サルコペニアと運動・たんぱく質の組み合わせについて解説した記事もあわせてご覧ください。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
胸の痛みや強い息切れ、めまいがある方、血圧が高い状態が続いている方、最近骨折や手術をした方、関節に強い痛みや腫れがある方は、運動を始める前に主治医に相談してください。また、劣化したゴムバンドは切れて顔や目に当たることがあります。ひび割れや伸びきった部分がないかを使う前に確認し、顔の近くで強く引っ張る動きは避けましょう。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、「ゴムバンドの運動で、足の筋力や立ち上がり・歩き出しのしやすさ、バランスの評価が良い方向に変化した」という結果は複数の研究で報告されていますが、研究ごとの差が大きく、確かさには注意が必要です。
高齢の方を対象に、普段の生活や基本的な対応に加えてゴムバンドの運動を行ったグループと、行わなかったグループを比べたランダム化比較試験25件(1,318名)をまとめた研究です1。ゴムバンドの運動を行ったグループでは、膝を伸ばす力(標準化平均差1.01)、椅子からの立ち座りテスト(同2.04)、椅子から立って歩いて戻る時間(TUG、同−1.41)、手を前に伸ばせる距離(ファンクショナルリーチ、同1.63)のいずれでも、良い方向の結果でした1。健康な高齢の方と、何らかの持病がある高齢の方の両方で、良い方向の結果が見られました1。
数値で効果を調べた研究25件と、参加者へのインタビューなどを含む研究3件、合わせて28件(1,697名)をまとめた研究です2。数値の研究からは、柔軟性、持久力、上半身の筋力、バランス、心肺の働き、気分などの心の健康で良い方向の結果が示されました2。インタビューの研究では、多くの参加者が体の変化を感じていた一方で、続けるうえでの好みや困りごとも語られていました2。
筋肉量が少なく体脂肪が多い「サルコペニア肥満」の60〜80歳の女性56名を、12週間のゴムバンド運動のグループと、運動をしないグループに分けた研究です3。理学療法士の見守りのもと、週3回、1回あたりウォーミングアップ10分・ゴムバンド運動40分・クールダウン5分を行いました3。その結果、運動のグループでは、運動をしないグループと比べて全身の骨格筋の量が3か月後に平均0.70kg、9か月後に平均0.72kg多い結果となり、身体機能の評価でも良い方向の結果でした3。
足腰の筋力をつける方法には、ゴムバンドのほかに、素早く力を出す練習を取り入れる方法もあります。高齢者のパワートレーニングについて解説した記事で紹介しています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
ゴムバンドの運動の研究には、次のような限界があります。
どのくらいの強さで、何回、何週間続けるのが最もよいかは、まだはっきりしていません1。転倒そのものが減るか、効果がどのくらい長く続くかについても、十分に検証されていません。気分や睡眠、血圧などへの影響も報告されていますが、研究数が少なく、慎重に解釈する必要があります2。
研究全体では一定の傾向がありますが、対象者の健康状態や運動の内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません12。数字が大きく見える結果でも、研究の質やばらつきを考えると、期待しすぎないことが大切です。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
膝を伸ばす力、椅子からの立ち座り、立って歩き出すまでの時間、手を前に伸ばせる距離などの評価で、良い方向の結果が報告されています1。上半身の筋力や柔軟性、持久力でも良い方向の結果がありました2。
筋力の変化は、8週間を超えるプログラムのほうが安定して見られた一方、バランスは短い期間でも変化が見られたとされています1。筋肉の量の変化は数百グラム程度で3、見た目ではっきり分かるほどとは限りません。転倒の回数そのものへの影響は、まだはっきりしていません。
つまり、ゴムバンドの運動は「すぐに体が変わる方法」ではなく、「生活の中で無理なく続けやすい筋力トレーニングの選択肢の一つ」と考えるのが実際に近いと思います。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で対象になってきたのは、地域で暮らす健康な高齢の方のほか、サルコペニアや肥満、呼吸器の病気など持病のある高齢の方です13。重りを持つのが不安な方、外出しにくく自宅で運動したい方、椅子に座ったまま運動したい方にとって、検討しやすい方法です2。
心臓や血圧の持病がある方は、運動中に息を止めて力むと血圧が上がりやすいため、息を吐きながら動かすよう注意し、事前に主治医へ確認してください。骨粗しょう症が強い方や関節の痛みがある方は、動かす方向や負荷を専門職と一緒に決めることが大切です。運動中に痛みやめまい、強い息切れが出たら中止してください。

回数・頻度・期間の目安
研究の量や下記の進め方は一般的な例です。個人に合う内容・量は、状態を評価した担当医や専門職と決めてください。
2025年のまとめに含まれた研究では、期間は4〜28週間、頻度は週2〜4回で、多くの研究がバンドの強さを少しずつ上げていく方法をとっていました1。2024年のまとめでは、1回30〜80分・週2〜5回の研究が多く、インタビューでは「1回40〜60分・週3回」程度が好まれていたと報告されています2。
週2〜4回程度が多く使われていました1。
4〜28週間。筋力の変化は8週間を超えるプログラムで安定して見られた傾向がありました1。
2018年の研究では、きつさを感じる程度(自覚的運動強度)を「ややきつい」程度までにとどめ、理学療法士が見守りながら行っていました3。
まずは軽いバンドで正しい動きを覚え、10〜15回をゆっくり繰り返せるようになってから、バンドの強さや回数を少しずつ増やしていきます。
最適な回数や期間はまだ分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です1。立ち座りの練習そのものを安全に進める工夫は、高齢者の立ち上がり練習について解説した記事で紹介しています。
作業療法士の視点
ゴムバンドは手軽な道具ですが、「どの強さを選ぶか」「どの姿勢で行うか」によって、体への負担は大きく変わります。研究からは、足の筋力やバランスの評価が良い方向に変化する可能性が示されている一方で、研究の質やばらつきにはまだ課題があり、決まった正解のプログラムはありません。今の体の状態と生活の中で困っている動きを確認したうえで、無理なく続けられる内容を専門職と一緒に考えることが大切だと考えています。
