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肩を上げると痛い「肩峰下インピンジメント」の運動療法とは?研究で分かっていることと限界を解説

整形疾患情報 読了目安 約11分 文・
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記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

先に結論

運動療法は研究のまとめで「まず検討される方法」として位置づけられていますが1、研究の質は高いとは言えず、どの運動がどの人に一番合うのかはまだはっきりしていません13。

「洗濯物を干そうと腕を上げると、肩の外側がズキッと痛む」「髪を結ぶ、高い棚の物を取る動きがつらい」――こうした肩の痛みで受診すると、「肩峰下(けんぽうか)インピンジメント」や「肩峰下疼痛症候群」と説明されることがあります。この記事では、肩峰下インピンジメントに対する運動療法について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、運動療法は研究のまとめで「まず検討される方法」として位置づけられていますが1、研究の質は高いとは言えず、どの運動がどの人に一番合うのかはまだはっきりしていません13。

肩峰下インピンジメントとはどんな状態か

肩峰下インピンジメントは、腕を上げたときに、肩の骨の出っ張り(肩峰)の下を通る腱板(肩を支える筋肉の腱)や滑液包のあたりに痛みが出る状態を指す言葉です。最近は、痛みの原因を「骨にはさまること」だけで説明できないとして、「肩峰下疼痛症候群」や「腱板関連の肩の痛み」と呼ぶことも増えています23。

研究のまとめによると、肩の痛みのなかでもこの状態は最も多く、肩の不調全体の約36%を占めると報告されています1。肩の不調そのものは、45〜64歳の方や女性に多い傾向があるとされています1。

よく似た肩の痛みとして、肩全体が固くなる五十肩(肩関節周囲炎)や、腱板が切れてしまう腱板断裂があります。五十肩の運動療法については、五十肩(肩関節周囲炎)の運動療法について解説した記事で紹介しています。どの状態かによって進め方が変わるため、まずは医療機関で肩の状態を確認してもらうことが出発点になります。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
転んで肩を強く打ったあとに腕が上がらなくなった、肩が腫れて熱を持っている、夜も眠れないほど痛む、腕や手にしびれや力の入りにくさがある、発熱がある、といった場合は、運動を始める前に整形外科などで診察を受けてください。骨折や腱板断裂、首の神経の問題など、別の原因が隠れていることがあります。

肩の状態について専門職と相談する女性
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

研究では何が分かっているか

先にまとめると、「運動をしないよりは、運動をしたほうが痛みが軽くなりやすい」という方向の結果は複数の研究のまとめで一致していますが、どの運動を選ぶのが最もよいかについては、まだ研究ごとに結論がそろっていません。

システマティックレビュー・メタアナリシス 2017年(スイス)

肩峰下インピンジメントの大人を対象にしたランダム化比較試験を幅広く集め、運動、徒手療法、注射、飲み薬、物理療法などの手術以外の方法を比べた研究です1。痛みについては184件の研究(約1万500名)が分析に使われました1。その結果、運動を行ったグループは、運動以外の対応のグループより痛みが軽くなる結果で(5件・189名、標準化平均差−0.94)、肩の状態に合わせた「特定の運動」は、一般的な運動よりも痛みが軽くなる結果でした(2件・145名、標準化平均差−0.65)1。運動に徒手療法を組み合わせると、運動だけよりも痛みが軽い結果でしたが、その差が見られたのは最も短い追跡期間のみでした1。注射や飲み薬にも偽薬よりよい結果がありましたが、運動と比べてどうかははっきりしないとされています1。

システマティックレビュー・メタアナリシス 2024年(中国)

肩甲骨(けんこうこつ)を安定させる運動に注目し、8件のランダム化比較試験(387名)をまとめた研究です2。通常の理学療法に肩甲骨の安定化運動を加えたグループは、通常の理学療法だけのグループと比べて、痛みの評価(VAS)と、肩の痛みと生活の支障の評価(SPADI)の両方で、より良い結果でした(平均差:VAS −0.94、SPADI −10.10)2。一方で、肩の動く範囲(可動域)には、はっきりした差は見られませんでした2。

ネットワークメタアナリシス 2025年(中国)

腱板が関係する肩の痛みに対して、7種類の運動の方法を互いに比べた研究です3。痛みについて15件(913名)、肩の機能について16件(947名)の研究が分析されました3。肩の機能では、筋肉を縮めながら力を出す一般的な筋力トレーニング(求心性の筋力トレーニング)が最も良い順位になり、筋肉を伸ばしながら力を出すトレーニング(遠心性の筋力トレーニング)や従来型の運動が中程度とされました3。痛みについては、方法どうしの差の多くがはっきりしませんでした3。

このように、運動の「種類」の比べ方は研究によって異なり、肩甲骨の運動を重視する研究2と、腱板まわりの筋力トレーニングを重視する研究3があります。実際の場面では、どちらか一方というより、痛みの出方や肩甲骨の動き、筋力を確認しながら組み合わせることが多いと考えています。

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

肩峰下インピンジメントの運動療法の研究には、次のような限界があります。

1.2017年の大規模なまとめでは、多くの研究でバイアス(結果のゆがみ)のリスクが高く、根拠の確かさは「非常に低い」と判定されています1
2.研究ごとに、症状が続いている期間、診断の基準、男女の割合、追跡期間がばらばらでした1
3.肩甲骨の運動のまとめは8件・387名と規模が小さく、研究間で結果のばらつきが大きいことも示されています2
4.運動の研究では、参加者が自分がどの方法を受けているかを知っていることが多く、結果に影響した可能性があります3
5.肩峰下インピンジメントの呼び方や診断基準が統一されておらず、同じ名前でも対象者の状態が少しずつ異なります2
まだ分かっていないこと

どの種類の運動を、どのくらいの強さ・回数で、どのくらいの期間続けるのが最もよいかは、まだはっきりしていません23。また、痛みが出始めたばかりの時期と長く続いている時期で、合う運動が違う可能性も指摘されていますが、十分に検証されていません2。長期的に痛みが再びぶり返しにくくなるかについても、研究は限られています。

エビデンスの質と限界

研究全体では「運動は検討する価値がある」という一定の傾向がありますが、研究の質が低いものが多く、対象者や運動の内容も研究ごとに異なります1。この研究結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。

何が変わりやすく、何は変わりにくいか

変わりやすいと報告されているもの

痛みの強さや、肩の痛みによる生活の支障の評価で、運動をしたグループのほうが良い結果が報告されています12。肩の機能では、筋力トレーニングを含む運動で良い結果が出やすい傾向がありました3。

変わりにくい・研究ごとに差があるもの

肩の動く範囲(可動域)は、肩甲骨の運動を加えてもはっきりした差が出ませんでした2。どの運動の種類が痛みに最も合うかは、研究どうしで差がはっきりしていません3。徒手療法を組み合わせた場合の上乗せも、短い期間に限られていました1。

つまり、運動療法は「肩をすぐに治す方法」ではなく、「痛みと付き合いながら、肩を使える場面を少しずつ増やしていくための方法」と考えるのが実際に近いと思います。

肩の痛みは、首のこりや姿勢、パソコン作業の時間なども重なって感じられることがあります。仕事の合間にできる短い運動については、職場でできる首・肩の短い運動について解説した記事もあわせてご覧ください。

どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か

検討する場面があるケース

研究で対象になってきたのは、腕を上げたときの肩の痛みがあり、医療機関で肩峰下インピンジメント(肩峰下疼痛症候群)と判断された大人の方です12。「腕を上げると痛いが、手で支えれば上げられる」「特定の動きで痛む」といった場合に、運動の進め方を専門職と相談する意味があります。

注意が必要なケース

強い外傷のあと、腕がまったく上がらない、夜間の痛みが強い、腕のしびれや脱力がある場合は、腱板断裂や首の神経の問題などを先に確認する必要があります。腱板が切れている場合の保存的なリハビリについては、腱板断裂の保存療法とリハビリについて解説した記事で紹介しています。また、運動中や運動後に痛みが強くなり翌日まで続く場合は、内容や量を見直すサインです。

テーブルを挟んで専門職と話す女性
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

回数・頻度・期間の目安

肩甲骨の運動のまとめに含まれた研究では、多くが週3回の頻度で、期間は4〜12週間でした2。1回の内容は、肩甲骨を安定させる運動に、ストレッチ、腱板や三角筋の筋力トレーニング、日常生活での使い方の助言などを組み合わせたものが中心でした2。

頻度の目安(研究での例)

週3回程度が多く、毎日に近い頻度の研究もありました2。

期間の目安(研究での例)

4〜12週間の研究が中心でした2。

内容の例

肩甲骨を安定させる運動、腱板まわりの筋力トレーニング、ストレッチ、生活の中での動かし方の工夫などの組み合わせ23。

進め方の考え方

痛みが強く出ない範囲から始め、運動の翌日に痛みが残らないかを確かめながら、負荷や回数を少しずつ増やしていきます。

最適な回数や期間はまだ分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です23。

作業療法士の視点

肩の痛みがあると、つい肩を使わないようにしてしまい、かえって動かしにくさが続くことがあります。研究からは、運動が検討する価値のある方法であることが示されている一方で、研究の質はまだ十分ではなく、決まった正解のプログラムはありません。まずは医療機関で肩の状態を確認し、そのうえで「どの動きで痛むか」「生活のどの場面で困っているか」を専門職と一緒に整理していくことが大切だと考えています。

台所の食器の配置について専門職と確認する女性
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まとめ

・肩峰下インピンジメントは、腕を上げたときに肩の外側に痛みが出る、肩の痛みのなかでも多い状態です1
・研究のまとめでは、運動をしたほうが痛みが軽くなりやすい結果ですが、根拠の確かさは非常に低いと判定されています1
・肩甲骨を安定させる運動を加えると、痛みと生活の支障で良い結果が出た一方、可動域には差がありませんでした2
・どの運動の種類が最もよいかは研究ごとに異なり、筋力トレーニングを重視する研究もあります3
・強い外傷のあとやしびれがある場合は、運動の前に医療機関での確認が必要です

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。リハビリや運動の方法については、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。

よくある質問

Q. 肩を上げると痛いとき、動かさないほうがいいですか?

強い痛みが出る動きを無理に繰り返す必要はありませんが、まったく動かさない状態が続くと、肩が固くなったり筋力が落ちたりすることがあります。どの範囲なら動かしてよいかは、医師やリハビリ専門職と相談して決めましょう。

Q. どんな運動をすればいいですか?

研究では、肩甲骨を安定させる運動や、腱板まわりの筋力トレーニングなどが使われています。ただし、どの運動が最もよいかは研究ごとに結論が異なり、肩の状態によって合う内容も変わります。

Q. どのくらい続ければ変化を感じますか?

研究では週3回程度・4〜12週間のプログラムが多く使われていました。変化の感じ方には個人差が大きく、すべての方に同じ経過が当てはまるわけではありません。

Q. 運動したら翌日に痛みが強くなりました。続けても大丈夫ですか?

運動のあとに痛みが強くなり、翌日まで残る場合は、負荷や回数が多すぎる可能性があります。自己判断で続けず、内容を見直すために専門職に相談してください。

Q. 注射や手術とどちらがいいですか?

研究のまとめでは、注射にも一定の結果がありましたが、運動と比べてどちらがよいかははっきりしていません。治療の選び方は、肩の状態や生活の状況をふまえて主治医と相談することが大切です。

Q. 五十肩とは違うのですか?

五十肩は肩全体が固くなり、いろいろな方向に動かしにくくなるのが特徴です。肩峰下インピンジメントは、腕を上げる途中で痛むことが多いとされます。見分けには診察が必要なので、まずは医療機関で確認してください。

参考文献

1. Ruedi Steuri, Martin Sattelmayer, Simone Elsig, Chloé Kollyほか. Effectiveness of conservative interventions including exercise, manual therapy and medical management in adults with shoulder impingement: a systematic review and meta-analysis of RCTs. British journal of sports medicine. 2017. PubMed DOI 公開本文
2. Ziyi Zhong, Wanli Zang, Ziyue Tang, Qiaodan Panほか. Effect of scapular stabilization exercises on subacromial pain (impingement) syndrome: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Frontiers in neurology. 2024. PubMed DOI 公開本文
3. Wei Zhang, Minghui Du, Liang Xia, Fengqi Haoほか. Effects of seven types of exercise in the treatment of rotator cuff-related shoulder pain (RCRSP): a systematic review and Bayesian network meta-analysis. Journal of orthopaedic surgery and research. 2025. PubMed DOI 公開本文
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