
先に結論
32件の研究をまとめたコクランレビューでは、運動プログラムによって、痛みが出るまでに歩ける距離が平均でおよそ82m、最大で歩ける距離がおよそ120m延びたと報告されています(質の高いエビデンス)1。一方で、足の血流の指標そのものは変わらなかったことも示されています1。
「しばらく歩くとふくらはぎが痛くなり、立ち止まって休むとまた歩ける」――こうした症状は「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼ばれ、足の動脈が狭くなる末梢動脈疾患(PAD)でみられる代表的な症状です。痛みが出るため歩くのを控えるようになり、外出や買い物の範囲が狭まってしまう方も少なくありません。この記事では、間欠性跛行に対する運動療法について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、32件の研究をまとめたコクランレビューでは、運動プログラムによって、痛みが出るまでに歩ける距離が平均でおよそ82m、最大で歩ける距離がおよそ120m延びたと報告されています(質の高いエビデンス)1。一方で、足の血流の指標そのものは変わらなかったことも示されています1。
この記事でわかること
間欠性跛行と運動療法の基本
末梢動脈疾患は、主に動脈硬化によって足の動脈が狭くなったり詰まったりし、歩くときに筋肉へ届く血液が足りなくなる病気です。そのため、歩くとふくらはぎや太ももが痛くなり、休むとおさまるという症状が出ます。運動療法は、手術やカテーテル治療に比べて体への負担が少なく、費用も抑えられる方法とされています1。
研究で比べられてきた運動の進め方には、主に次のようなものがあります。
運動の種類は歩行(トレッドミルを含む)が中心ですが、筋力トレーニングや腕・脚を使った運動なども研究されています1。なお、歩くと足がしびれる・痛むという症状は、腰の神経が圧迫される腰部脊柱管狭窄症でも起こります。前かがみになると楽になるなど症状の特徴が異なるため、腰部脊柱管狭窄症の運動療法について解説した記事もあわせて参考にしてください。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、運動療法は歩ける距離を延ばす方向の結果がはっきりしており、特に専門職の見守りのもとで行う運動で大きな結果が報告されています。一方で、血流の指標や命に関わる出来事への影響ははっきりせず、自宅での運動は進め方によって結果が大きく異なります。
間欠性跛行のある方に対する運動プログラムを調べた32件のランダム化比較試験(1,835名)をまとめた研究です1。通常のケアや偽の治療と比べて、運動した群では、痛みが出るまでに歩ける距離が平均82m(9件・391名)、最大で歩ける距離が平均120m(10件・500名)延び、いずれも質の高いエビデンスとされています1。こうした結果は最長2年まで続いていました1。一方、足の血流の指標(足関節上腕血圧比)は変わらず、死亡や足の切断への影響もはっきりしませんでした1。生活の質では、6か月の時点で身体面・精神面の評価に小さな改善がみられました1。
監視下運動療法、在宅運動療法、歩くようにという助言の3つを比べた21件の研究(1,400名)をまとめた報告です2。3か月の時点で、監視下運動療法は在宅運動療法より最大歩行距離がおよそ120m、助言のみよりおよそ210m長い結果でした2。一方、在宅運動療法と助言のみの間には、はっきりした差がみられませんでした2。運動療法に関連した死亡はなく、監視下運動療法を予定どおり続けられた割合はおよそ80%でした2。
末梢動脈疾患のある305名(平均69歳)を対象に、自宅での歩行運動の「強さ」を比べた研究です3。週5回、1回最大50分の歩行を12か月続け、活動量計の記録をもとに毎週電話で指導を受けました3。足に中くらい〜強い痛みが出るペースで歩いた群では、6分間に歩ける距離が平均34.5m延びた一方、痛みが出ない楽なペースで歩いた群では変化がなく、運動をしなかった群との差もみられませんでした3。
自宅での歩行運動を調べた研究をまとめた報告です4。運動をしない群と比べて、痛みが出るまでに歩ける距離は延びる方向の結果でした。ただし、抄録と本文で対象研究数や最大歩行距離の結果に不一致があり、この報告だけで結論づけることはできません4。研究ごとの結果のばらつきは大きいものでした4。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
安静にしていても足が痛む、足先が冷たく色が悪い、足の傷がなかなかふさがらないといった症状は、血流がより強く不足しているサインのことがあり、運動よりも先に医療機関での確認が必要です。また、末梢動脈疾患のある方は心臓の病気を併せ持つことも多いため、運動中に胸の痛みや強い息切れ、めまいが出た場合はすぐに中止してください。運動を始める前には、必ず主治医に相談しましょう。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
間欠性跛行と運動療法の研究には、次のような限界があります。
自宅での運動では、どのくらいの強さ・量で、どのような支援(記録や電話での指導など)を組み合わせるのが最もよいかは、まだはっきりしていません34。運動を続けることが、足の切断や命に関わる出来事を減らすかどうかも分かっていません1。
歩行距離については質の高いエビデンスがある一方、監視下運動療法で延びた距離の臨床的な意味は、まだはっきり示されていないとされています2。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や運動の内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
痛みが出るまでに歩ける距離と、最大で歩ける距離は、運動によって延びる結果が報告されています1。専門職の見守りのもとで行う運動では、その差がより大きく2、自宅での運動でも、足に痛みが出るペースで歩く方法では6分間に歩ける距離が延びていました3。
足の血流の指標(足関節上腕血圧比)は、運動をしても変わりませんでした1。死亡や足の切断への影響ははっきりしていません1。痛みが出ない楽なペースだけで歩く方法では、歩ける距離に変化がみられませんでした3。
つまり、運動療法は「詰まった血管そのものを広げる方法」ではなく、「血流の指標に明確な変化がなくても、歩く能力の変化を目指す方法」と考えるのが、研究の内容に近いと思います。糖尿病のある方は足の感覚が鈍くなっていることもあるため、糖尿病性末梢神経障害と運動について解説した記事もあわせて参考にしてください。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で主に対象になってきたのは、末梢動脈疾患と診断され、歩くと足が痛む症状が安定している方です1。「歩くとすぐ足が痛くなるので、外出を控えるようになった」「買い物や散歩の距離を延ばしたい」という方では、主治医の方針のもとで運動を取り入れる意味があります。
安静時にも足が痛む方、足になかなかふさがらない傷がある方、心臓の病気がある方、最近カテーテル治療や手術を受けた方は、運動の内容や開始時期について必ず主治医に確認してください。末梢動脈疾患のある方は、脳卒中や心臓病の危険因子を併せ持つことも多いため、脳卒中後の生活習慣と運動について解説した記事も参考になります。

回数・頻度・期間の目安
監視下運動療法の研究では、週3回程度の運動が多く用いられてきました2。運動プログラムを調べた研究全体でも、見守りのもとでの運動は少なくとも週2回行われていることが一般的でした1。自宅での運動を調べた米国の研究では、週5回・1回最大50分の歩行を12か月続ける方法が使われ、足に痛みが出るペースで歩いて休むことを繰り返す方法で良い結果がみられました3。
実際には、主治医に運動してよいことを確認したうえで、「足に痛みが出てきたら立ち止まって休み、おさまったらまた歩く」を繰り返す形が、研究の内容に近い進め方です3。歩いた時間や距離、休んだ回数を記録しておくと、変化を確かめやすくなります。通院先で監視下の運動療法を受けられるかどうかも、主治医に確認してみましょう2。
作業療法士の視点
歩くと足が痛む症状があると、「痛いのだから歩かないほうがいいのでは」と考えてしまうのは自然なことです。研究からは、痛みが出たら休むことを繰り返しながら歩く練習を続けることで、歩ける距離が延びる結果が報告されている一方で、血流の指標そのものは変わらないことや、自宅での運動は進め方によって結果が大きく異なることも分かります。主治医の方針を確認したうえで、その方の生活の中で続けやすい歩き方を一緒に探していくことが大切だと考えています。

