
先に結論
10代のスポーツ選手を対象にした研究では、受傷後まもない時期から症状を悪化させない強さの有酸素運動を行ったグループのほうが、症状が落ち着くまでの日数が短い結果が報告されています1。一方、大人で症状が長引いている場合のリハビリは、研究の確かさがまだ低い段階です2。
「頭を打ってから頭痛やふらつきが続いている」「脳振盪と言われたけれど、どのくらい安静にしていればいいのか分からない」――転倒や交通事故、スポーツなどで頭を打ったあと、こうした不安を抱える方は少なくありません。この記事では、脳振盪(軽度の外傷性脳損傷)のあとのリハビリについて、特に「症状が強くならない範囲の運動」と「めまい・ふらつきに対するリハビリ(前庭リハビリ)」の研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、10代のスポーツ選手を対象にした研究では、受傷後まもない時期から症状を悪化させない強さの有酸素運動を行ったグループのほうが、症状が落ち着くまでの日数が短い結果が報告されています1。一方、大人で症状が長引いている場合のリハビリは、研究の確かさがまだ低い段階です2。
この記事でわかること
脳振盪とはどんな状態か・なぜリハビリが話題になるのか
脳振盪は、頭や体に強い衝撃が加わったことで脳の働きが一時的に乱れる状態で、「軽度の外傷性脳損傷」とも呼ばれます。CTやMRIでは異常が見つからないことも多い一方で、頭痛、めまい・ふらつき、吐き気、集中しにくさ、疲れやすさ、眠りの変化など、さまざまな症状が出ることがあります。
多くの方は数日〜数週間で症状が落ち着いていきますが、なかには症状が長引く方もいます。大人を対象にした研究のまとめでは、4週間を超えて続く症状を「長引く脳振盪後症状」として扱い、どのようなリハビリが役立つかが検討されています2。
以前は「症状が完全になくなるまで暗い部屋で安静に」と言われることもありました。しかし近年は、受傷直後の短い休息のあとは、症状が強くならない範囲で少しずつ活動を戻していく考え方が広がり、運動やリハビリの研究が進んでいます3。より重い頭部外傷のあとのリハビリについては、外傷性脳損傷(TBI)後のリハビリテーションについて解説した記事で紹介しています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
頭を打ったあとに、意識を失った、何度も吐く、頭痛がどんどん強くなる、手足に力が入らない・しびれる、ろれつが回らない、けいれんした、ぼんやりして様子がおかしい、といった場合は、すぐに救急受診してください。とくに血液をさらさらにする薬を飲んでいる方や高齢の方は、時間がたってから頭の中で出血が起こることがあります。この記事のリハビリの話は、医師の診察で重い損傷がないことを確認したあとの内容です。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、「受傷後まもない若い方への症状を悪化させない有酸素運動」については比較的質の高い研究があり、「症状が長引いている大人へのリハビリ」については、いくつかの方法に弱い推奨が出ている段階です。
スポーツで脳振盪を起こした13〜18歳の103名を、受傷後平均約5日の時点で、有酸素運動のグループと、体への負担がごく軽いストレッチのグループに分けた研究です1。有酸素運動は、最初のトレッドミル検査で症状が強くなったときの心拍数の80%を目標に、1日約20分、エアロバイクやウォーキングなどで行いました1。症状が2段階以上強くなったら中止する決まりでした1。その結果、症状が落ち着くまでの日数(中央値)は有酸素運動のグループで13日、ストレッチのグループで17日と、有酸素運動のグループのほうが短い結果でした1。30日以上長引いた人の割合は4%と14%で、差の傾向はあったものの統計的にははっきりしませんでした1。
4週間を超えて症状が続く18歳以上の方を対象に、ランダム化比較試験19件(2,007名)をまとめ、7つのリハビリの方法を検討しました2。その結果、早い時期の情報提供と助言、段階的な運動、前庭リハビリ(めまい・ふらつきの練習)、首や背中への徒手的な治療、心理的な支援、多職種によるリハビリについて、「行うことを弱く推奨する」とされました2。ただし、根拠の確かさは「非常に低い〜低い」と判定されています2。目の動きの訓練については、条件に合う研究が見つかりませんでした2。
受傷後2〜12週間の18〜60歳の方203名を、すぐに理学療法を始めるグループと、6週間待ってから始めるグループに分けた研究です3。両グループとも、理学療法士が6週間で8回(1回60分)のプログラムを行い、首、心肺(有酸素運動)、静的バランス、動的バランスの4つの練習を約15分ずつ組み合わせ、毎日の自主練習も行いました3。最終的には両グループとも同じくらいまで症状が軽くなりましたが、早く始めたグループのほうが、めまいによる生活の支障の改善が速く進みました3。
前庭リハビリは、頭や目を動かしながらバランスや視線を安定させる練習を少しずつ重ねる方法です。上記のまとめでは、前庭リハビリの推奨は2件の研究に基づいており、どちらも運動や首・背中への治療と組み合わせて行われていました2。めまいの原因が内耳にある場合の前庭リハビリについては、末梢性めまいの前庭リハビリテーションについて解説した記事もあわせてご覧ください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
脳振盪後のリハビリの研究には、次のような限界があります。
大人で症状が長引いている場合に、どの方法をどの順番で、どのくらいの量行うのがよいかは、まだはっきりしていません2。リハビリを始める最適な時期も、若いスポーツ選手と一般の大人では異なる可能性があります3。また、高齢の方の転倒による脳振盪を対象にした研究は少なく、今後の課題です。
研究全体では一定の傾向がありますが、年齢、受傷の原因、症状の種類が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
若いスポーツ選手では、症状が落ち着くまでの日数が短くなる結果が報告されています1。大人では、めまいによる生活の支障や、症状全体の負担、体の機能で良い方向の結果があります23。
症状が長引く大人で、どの方法がどれくらい役立つかの確かさは低く2、1か月以上長引く人の割合を減らせるかもはっきりしていません1。頭痛、集中しにくさ、気分の不調などは原因が複数重なることが多く、運動だけで対応できるとは限りません2。
つまり、脳振盪後のリハビリは「動かずに待つ」よりも、「症状を確かめながら少しずつ活動を戻す」ことを支える方法と考えるのが実際に近いと思います。首の痛みやこりがあると、ふらつきや頭痛が重なることもあります。首と視線・バランスの関係については、首の痛みと視覚・前庭覚エクササイズについて解説した記事で紹介しています。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で対象になってきたのは、医師の診察で脳振盪と診断され、重い損傷が否定された方です13。運動の研究は受傷後まもない10代のスポーツ選手1、リハビリの時期の研究は受傷後2〜12週間の18〜60歳の方3、症状が長引く方のまとめは4週間を超えて症状が続く大人が対象でした2。めまい・ふらつきが続く、体を動かすと頭痛が強くなる、といった場合にリハビリの専門職に相談する意味があります。
救急受診が必要な症状がある場合は、リハビリより先に医療機関の受診が必要です。心臓病や高血圧などの持病がある方は、運動の強さについて主治医に確認してください。運動の研究では、症状が強くなる手前の心拍数を検査で確かめたうえで運動の強さを決めていました1。自己判断で強い運動を行うのは避けましょう。

回数・頻度・期間の目安
受傷後まもない若い方の研究では、症状が強くなる手前の心拍数の80%を目安に、1日約20分の有酸素運動を、症状が落ち着くまで毎日続けていました1。症状が2段階以上強くなったらその日は中止する、という決まりがありました1。
大人の研究では、理学療法士による6週間で8回(最初の2週間は週2回、その後は週1回、1回60分)のプログラムに、毎日の自主練習を組み合わせていました3。症状が長引く方のまとめでは、段階的な運動や前庭リハビリは「週1回以上・4週間以上」を目安として検討されています2。最適な回数や期間はまだ分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です2。
作業療法士の視点
脳振盪のあとの症状は外から見えにくく、「気のせい」「怠けている」と受け取られてしまうことがあります。研究からは、長すぎる安静より、症状を確かめながら少しずつ動くことを支える方向に考え方が変わってきていることが分かります。ただし、大人で症状が長引く場合の研究はまだ十分ではなく、決まった正解はありません。まずは医師の診察を受け、そのうえで症状に合わせた進め方を専門職と相談することが大切だと考えています。
