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大人の脳性麻痺と運動療法とは?筋力・歩行・体力への研究と限界を正直に解説

神経難病情報 読了目安 約10分 文・
椅子に座る男性と専門職に「成人の脳性麻痺 運動と暮らし 筋力・歩行の研究と限界」と記したサムネイル
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

先に結論

大人の脳性麻痺の方を対象にした研究をまとめた分析では、筋力トレーニングなどで脚の筋力が高まる方向の結果が報告されている一方、歩く速さや歩ける距離でははっきりした差がみられませんでした3。研究の数や質はまだ十分ではありません23。

「子どもの頃はリハビリを受けていたけれど、大人になってからは何もしていない」「年齢とともに歩くのが疲れやすくなってきた」――脳性麻痺のある大人の方やご家族で、こうした疑問をもつ方に向けて整理します。脳性麻痺のリハビリの研究は子どもを対象にしたものが多く、大人向けの情報は意外と少ないのが現状です。この記事では、大人の脳性麻痺の方の運動(筋力トレーニング・有酸素運動など)について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、大人の脳性麻痺の方を対象にした研究をまとめた分析では、筋力トレーニングなどで脚の筋力が高まる方向の結果が報告されている一方、歩く速さや歩ける距離でははっきりした差がみられませんでした3。研究の数や質はまだ十分ではありません23。

この記事でわかること

大人の脳性麻痺と運動の関係

脳性麻痺は、生まれる前後の時期に脳が傷ついたことによって起こる、体の動きや姿勢の障害です。脳の傷そのものは進行しませんが、成長や年齢を重ねるにつれて、筋肉のこわばり、関節の動かしにくさ、痛み、疲れやすさなどが変化していくことがあります。

大人の脳性麻痺の方を対象にした研究のまとめでは、運動や体を動かす機会を増やすことが、体力や健康の維持に役立つ可能性がある一方で、子ども向けの研究に比べて大人向けの研究が少ないことが繰り返し指摘されています123。脳性麻痺の方の運動の研究29件をまとめたコクランレビューでも、大人だけを対象にした研究は1件しかありませんでした1。

運動の種類としては、筋力トレーニング(重りやゴムバンド、自分の体重を使う)、有酸素運動(エアロバイクなど)、歩く練習、バランス練習、それらを組み合わせた運動などが研究されています23。

安定した椅子に座って支援者と話す成人男性
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

研究では何が分かっているか

先にまとめると、「脚の筋力」は運動で良い方向の結果がみられる一方、「歩く速さ」や「歩ける距離」でははっきりした差がありません。また、研究の確かさは全体として低い段階です。

システマティックレビュー・メタアナリシス 2025年(イギリス)

平均年齢18歳以上の脳性麻痺の方を対象にした22件の研究を調べ、そのうち9件をまとめて分析した研究です3。運動(筋力トレーニング・有酸素運動・組み合わせ)を行ったグループでは、脚の筋力が比べたグループより高い結果でした(標準化平均差0.59)3。一方、10m以内の歩く速さや、2分・6分間で歩ける距離では、はっきりした差はみられませんでした3。気持ちの面、生活の質、運動を続けられるかどうかを調べた研究はわずかでした3。

システマティックレビュー 2023年(アメリカ)

大人の脳性麻痺の方を対象にした25件の研究(ランダム化比較試験8件、非ランダム化の比較研究7件、前後比較の研究10件)をまとめました2。研究の進め方に大きな問題が少ないランダム化比較試験は6件にとどまり、全体として根拠の確かさは「非常に低い」とされています2。

コクランレビュー 2017年

脳性麻痺の方を対象にした運動の研究29件(926名)をまとめた分析で、ほとんどは子どもと10代が対象でした1。有酸素運動では体の大きな動き(粗大運動)にわずかな良い変化がみられた一方、歩く速さの差ははっきりしませんでした1。筋力トレーニングでも、短期的な粗大運動や歩く速さにははっきりした差がみられませんでした1。いずれも根拠の確かさは「低い〜非常に低い」と判定されています1。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
筋力トレーニングの研究では、筋肉痛や腰の痛みが報告されたものもあります2。コクランレビューでは、重い有害事象の報告は限られますが、有害事象をきちんと報告していない研究も多く、安全性が保証されたわけではありません1。強い痛み、関節の変形の進行、てんかん発作がある方などは、運動の内容を主治医やリハビリ専門職と相談してから始めてください。

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

大人の脳性麻痺の運動の研究には、次のような限界があります。

1.1つの研究の参加者が少なく、研究の質も低いものが多いこと123
2.運動の種類・量・評価方法が研究ごとに異なり、まとめて比べにくいこと2
3.筋力の分析に使われた3件の研究は、測った筋肉がそれぞれ異なり、同じ参加者のデータが重なっていること3
4.研究の多くは自分で歩ける方が対象で、車いすを使う方や歩くのが難しい方の研究はとても少ないこと13
5.重い知的障害のある方は、研究にほとんど含まれていないこと2
まだ分かっていないこと

どのくらいの強さ・回数・期間の運動が最も合うのか、運動を長く続けたときに歩く力や生活がどう変わるのかは、まだ分かっていません23。また、運動が気持ちの面、自信、生活の質、社会参加にどう関わるかを調べた研究は少なく、今後の大きな課題とされています3。

研究全体では一定の傾向がありますが、脳性麻痺のタイプ、動ける範囲、年齢が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。

何が変わりやすく、何は変わりにくいか

変わりやすいと報告されているもの

脚の筋力では、運動を行ったグループで良い方向の結果がまとめて報告されています3。有酸素運動では、体力の指標(最大酸素摂取量など)が高まった前後比較の研究もあります2。

変わりにくい・研究ごとに差があるもの

歩く速さや、一定時間に歩ける距離では、はっきりした差はみられていません13。筋力が高まっても、それがそのまま歩き方や日常生活の変化につながるとは限らないと考えられます13。

つまり、大人の脳性麻痺の方にとって運動は、「歩き方を大きく変える方法」というより、「筋力や体力を保ち、年齢を重ねても今の生活を続けやすくするための土台づくり」と考えるのが実際に近いと思います。日常で特に使う動作として、椅子からの立ち上がり練習について解説した記事も参考になります。

どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か

検討する場面があるケース

研究で主に対象になってきたのは、自分で歩ける、または歩行補助具を使って歩ける大人の脳性麻痺の方です3。「最近疲れやすくなった」「筋力が落ちてきた気がする」「体を動かす習慣をつくりたい」といった場合に、運動を生活に取り入れる意味があります。筋肉のこわばりや関節の硬さがある方は、ストレッチも組み合わせて考えます(関節の動く範囲を保つストレッチについて解説した記事は脳卒中の方向けですが、考え方の参考になります)。

注意が必要なケース

歩くのが難しい方や車いすを使う方の研究はとても少なく13、研究結果をそのまま当てはめることはできません。痛みが強い、最近急に歩きにくくなった、しびれが出てきた、といった変化がある場合は、運動を始める前に医師の診察を受けてください。股関節や背骨の変化、首の病気などが隠れていることがあります。

背もたれのある運動用自転車に座る男性と見守る専門職
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

回数・頻度・期間の目安

大人の研究では、筋力トレーニングは8〜14週間、週2〜3回、1回60〜90分程度で行われていました2。有酸素運動の研究では、エアロバイクを8週間、週2回、1回30分行ったものがあります2。

最適な回数や期間はまだ分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です23。研究では、運動を長く続けられるかどうかも大切な課題とされています3。体力づくりの全体的な考え方は、高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事も参考になります。

作業療法士の視点

大人の脳性麻痺の方は、子どもの頃に比べてリハビリを受ける機会が減りやすく、「何をすればいいのか分からない」と感じることがあります。研究はまだ少なく、「この運動で歩き方が変わる」とは言えませんが、筋力や体力を保つための運動を、その方の体と生活に合わせて続けていくことには意味があると考えています。年齢による変化も含めて、専門職と一緒に確認しながら進めることが大切です。

自宅のテーブルで活動と休息について相談する男性と専門職
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
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まとめ

・大人の脳性麻痺の方の運動の研究は、子どもに比べてまだ少ない状況です12
・研究をまとめた分析では、運動で脚の筋力が高まる方向の結果が報告されています3
・歩く速さや歩ける距離でははっきりした差がなく、研究の確かさも低い段階です13
・歩くのが難しい方の研究は少なく、運動の内容は専門職と相談して決めることが大切です

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。リハビリの方法については、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。

よくある質問

Q. 大人になってから運動を始めても意味はありますか?

大人の脳性麻痺の方を対象にした研究では、運動によって脚の筋力が高まる方向の結果が報告されています。ただし研究の数や質は十分ではなく、すべての方に当てはまるとは言えません。

Q. 筋力トレーニングをすると、つっぱりが強くなりませんか?

研究をまとめたレビューでは、筋力トレーニングで重い有害事象はほとんど報告されていません。ただし筋肉痛や腰の痛みが出た例もあるため、強さや量は専門職と相談しながら調整しましょう。

Q. 運動で歩くのが楽になりますか?

これまでの研究では、歩く速さや歩ける距離にははっきりした差がみられていません。筋力や体力を保つことは大切ですが、歩き方の変化については個人差が大きいと考えられます。

Q. どのくらいの頻度で運動すればいいですか?

大人の研究では、筋力トレーニングを週2〜3回、8〜14週間行ったものが多くみられました。最適な量は分かっていないため、体調に合わせて続けられる量から始めることが大切です。

Q. 車いすを使っていても運動はできますか?

車いすを使う方を対象にした研究はとても少なく、はっきりしたことは言えません。座ったままできる腕や体幹の運動など、その方に合った内容を専門職と一緒に考えることになります。

Q. 年齢とともに歩きにくくなってきたのは、脳性麻痺が進んでいるからですか?

脳の傷そのものは進行しないとされていますが、筋力や関節、痛み、疲れやすさの変化によって歩きにくさが出てくることがあります。急な変化があるときは、別の原因がないか医師に相談してください。

参考文献

1. Jennifer M Ryan, Elizabeth E Cassidy, Stephen G Noorduyn, Neil E O’Connell. Exercise interventions for cerebral palsy. The Cochrane database of systematic reviews. 2017. PubMed DOI 公開本文
2. Danielle Januszyk, Ellen Schafer, Holly J Thompson, Barbara Sargent. Effect of Exercise and Motor Interventions on Physical Activity and Motor Outcomes of Adults with Cerebral Palsy: A Systematic Review. Developmental neurorehabilitation. 2023. PubMed DOI 公開本文
3. Georgia Andreopoulou, John B Meharry, Kavi C Jagadamma, Marietta L van der Linden. Physical activity and exercise interventions in adults with cerebral palsy: a systematic review of quantitative and qualitative studies. Disability and rehabilitation. 2025. PubMed DOI
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