脳卒中後のVRリハビリとは?効果・注意点・研究結果を作業療法士が解説

· 脳卒中上肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
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脳卒中後のVRリハビリ(バーチャルリアリティ)とは?研究で分かっていることと進め方

「ゲームのような画面を見ながら手を動かすリハビリ」「ヘッドセットを着けて行う練習」を見聞きしたことはありませんか。これらはVR(バーチャルリアリティ)や、テレビゲーム機を使ったリハビリと呼ばれ、脳卒中後の手と腕のリハビリで研究が進んでいる方法です。この記事では、VRリハビリについて、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、回数や期間の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

脳卒中後のVRリハビリで、療法士が見守りながら上肢を動かす練習場面
▲ 画面やヘッドセットを使う練習では、姿勢や疲労、酔いやすさを確認しながら安全に進めます。
この記事の要点
・VRリハビリは、画面やヘッドセットの中の課題に合わせて手や腕を動かす、ゲーム性のある練習です。
・大規模なレビューでは、通常のリハビリに加えると、腕の運動機能や日常生活の自立度で良い傾向が報告されています1
・没入型(ヘッドセット型)や、中等度〜重度の麻痺の方で、より良い傾向がみられたとする報告があります2
・一方で、指先の細かい動きでは差がはっきりせず、練習をやめた後も効果が続くかは不確かです1
SECTION 01
VRリハビリとは

VRリハビリは、コンピューターがつくった画面の中の課題(風船をつかむ、料理を運ぶなど)に合わせて、実際に手や腕を動かす練習です。動きに合わせて画面が反応し、得点や効果音でフィードバックが返ってくるため、ゲーム感覚で取り組みやすく、練習を続けやすくする工夫がされています。テレビ画面の前で行う「非没入型」と、ヘッドセットを着けて映像の中に入り込む「没入型」があります。

VRリハビリのねらいは、同じような動きを楽しみながら数多く繰り返し、手や腕を使う機会を増やすことです。市販のゲーム機を使うものから、リハビリ専用のシステムまで幅があります。多くの研究では、通常のリハビリに「加える」形で用いられています。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、VRリハビリは通常のリハビリに加えると、腕の運動機能や日常生活の自立度で良い傾向が示されています。ただし効果の大きさは中程度までで、すべての場面で差が出るわけではなく、「これだけで麻痺が元通りになる」というものではありません。

研究から読み取れること
43件の試験(1,893名)をまとめたレビューでは、VRを使った運動療法を加えたグループで、腕の運動機能(Fugl-Meyer評価で標準化平均差0.45、外れ値を除くと0.35)や日常生活の自立度(標準化平均差0.23)が、通常のリハビリのみと比べて良い傾向を示しました1。腕の運動機能や自立度については、根拠の質は高めと評価されています1。一方で、手指の細かい動き(巧緻性)でははっきりした差がみられず、練習が終わった後も効果が続くという十分な根拠は得られませんでした1。別の40件(2,018名)のレビューでも、腕の機能(効果量0.28)や麻痺の程度(0.36)、日常生活動作(0.24)で良い傾向が示され、特に没入型(効果量0.60)や、中等度〜重度の麻痺の方(0.71)でより大きい傾向が報告されています2。なお、19件(565名)の古いレビューでは、サンプル数が小さく方法もばらつくため、効果は限定的に解釈すべきとされていました3
画面型VRリハビリとヘッドセット型機器を使い分けながら上肢練習を行う場面
▲ 画面型とヘッドセット型では、没入感だけでなく安全性や酔いやすさも含めて選びます。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究で良い傾向が見えやすいのは、腕全体の運動機能や、日常生活の自立度といった「大きな動き」の部分です1,2。逆に、指先の細かい動き(ボタンをとめる、小さな物をつまむなど)では、はっきりした差が出にくいことが報告されています1。また、練習をやめた後も効果が続くかどうかは、まだ十分に分かっていません1

大切なのは、VRを単独の「特効薬」と考えないことです。多くの研究は通常のリハビリに加える形で行われており、ゲームの中での動きが、そのまま生活動作に置き換わるとは限りません。生活で使いたい動作の練習と組み合わせて考えるのが現実的です。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

繰り返しの練習が単調に感じてしまう方、ゲーム性があると取り組みやすい方には、続けるきっかけとして相性が良いことがあります。研究では、中等度〜重度の麻痺の方でも良い傾向が報告されています2。一方で、画面酔いやめまいが起こりやすい方、てんかんの既往がある方、強い注意の問題がある方、立位や座位のバランスが不安定な方は、機器の種類や姿勢、難易度の調整に注意が必要です。特にヘッドセット型は、視界がふさがれるため転倒に注意します。

⚠ 忘れたくない大切なこと
VRは比較的取り入れやすい方法ですが、画面酔い、めまい、目の疲れ、転倒などに注意が必要です。気分が悪くなったときは中止してください。てんかんの既往がある方や、光の点滅で体調が変わったことがある方は、開始前に必ず主治医に相談しましょう。ヘッドセット型は視界がふさがれるため、座って行うなど安全な姿勢で、見守りのもとで始めることをおすすめします。
SECTION 05
回数・頻度・期間の目安

研究では設定がさまざまですが、いくつかのレビューでは、合計でおよそ15時間を超える練習量や、1か月を超える期間で取り組んだ場合に、良い傾向が見えやすいと報告されています2。多くは1回30〜60分程度を週数回、数週間続ける形です。練習量を十分に確保し、難易度を少しずつ調整していくことが意識されています。

ただし、これらはあくまで研究上の目安です。目や体の疲れ、酔いやすさ、生活リズムによって、続けやすい量は異なります。無理のない範囲から始め、時間・難易度・休憩の取り方は専門職と一緒に調整していくことが大切です。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
現時点で、Journey Rehabでは専用のVR機器を用いたリハビリは導入していません。一方で、脳卒中後の上肢リハビリやバランス練習では、目標に合わせた課題を反復するトレーニングを多く行っています。VRリハビリの研究は、比較的、運動麻痺が軽度から中等度の方を対象にしたものが多く、重症度が高い利用者さんにそのまま適応できるケースは限られる印象があります。

また、VRリハビリが課題指向型訓練や他のリハビリ内容と比べて、著しく優れているとまでは言い切れないと考えています。ただ、リハビリはどの方法であっても、単調で反復的な練習になりやすく、継続やモチベーションの維持が難しくなることがあります。そのような場面で、ゲーム性のある課題を取り入れることで、ご本人の意欲が高まり、練習を続けやすくなることは大きな意味があります。回復を目指すうえでは、適切な練習を十分な量で継続することが重要だからです。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
脳卒中後の手や腕の練習、バランス練習、生活動作の進め方など、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。リハビリの内容は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
VRリハビリをすれば麻痺は元通りになりますか?
元通りを保証するものではありません。研究では腕の運動機能や日常生活の自立度で良い傾向が示されていますが、効果の大きさは中程度までで、通常のリハビリに加える形が一般的です。
市販のゲーム機でもよいですか?
研究では市販のゲーム機を使ったものも含まれています。大切なのは機器の種類より、目的に合った動きを安全に続けられるかどうかです。どのソフトや姿勢が合うかは専門職と相談すると安心です。
指先の細かい動きにも役立ちますか?
研究では、腕全体の大きな動きで良い傾向が出やすい一方、指先の細かい動きでははっきりした差が出にくいと報告されています。巧緻性には別の練習を組み合わせて考えるのが現実的です。
ヘッドセット型と画面型はどちらがよいですか?
没入型(ヘッドセット型)でより良い傾向を示した報告もありますが、酔いや転倒の注意も必要です。状況によって向き不向きがあるため、専門職と相談して選ぶのがおすすめです。
画面酔いやめまいが心配です。
酔いやめまいが起こることがあります。気分が悪くなったら中止してください。てんかんの既往や、光の点滅で体調が変わったことがある方は、開始前に主治医に相談しましょう。
どれくらい続ければよいですか?
研究では合計15時間を超える練習量や、1か月を超える期間で良い傾向がみられています。ただし研究上の目安であり、続けやすい量は人によって異なるため、無理のない範囲で進めてください。
REFERENCES
参考文献
1. Chen J, Or CK, Chen T. Effectiveness of Using Virtual Reality-Supported Exercise Therapy for Upper Extremity Motor Rehabilitation in Patients With Stroke: Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. J Med Internet Res. 2022. DOI:10.2196/24111. PMID:35723907. PMCID:PMC9253973.
2. Jin M, Pei J, Bai Z, et al. Effects of virtual reality in improving upper extremity function after stroke: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2022. DOI:10.1177/02692155211066534. PMID:34898298.
3. Laver KE, George S, Thomas S, Deutsch JE, Crotty M. Virtual reality for stroke rehabilitation. Cochrane Database Syst Rev. 2011. DOI:10.1002/14651858.CD008349.pub2. PMID:21901720.