脳卒中後のTENS(経皮的電気神経刺激)とは?つっぱり・歩行への研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のTENS(経皮的電気神経刺激)とは?つっぱり・歩行への研究と限界を正直に解説

「足首がつっぱって歩きにくい」「ふくらはぎのこわばりで足が前に出づらい」——脳卒中の後に残る痙縮(けいしゅく:筋肉のつっぱり・こわばり)は、多くの方が悩む症状です。その対策のひとつとして研究が進んでいるのが、TENS(テンス/経皮的電気神経刺激)です。皮膚の上から弱い電気を流す方法で、もともとは痛みをやわらげる目的で使われてきました。この記事では、脳卒中後のTENSについて、研究で分かっていること・期待しすぎないほうがよい点・実施上の注意を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

脳卒中後のTENSについて説明を受ける場面のイメージ
脳卒中後のTENSについて説明を受ける場面のイメージ
この記事の要点
・TENSは皮膚の上から弱い電気を流す方法で、筋肉を強く収縮させる電気刺激とは目的が異なります。
・研究をまとめた解析では、TENSを他のリハビリに追加すると痙縮(つっぱり)が軽くなる可能性が示されています(17件・913名、標準化平均差 −0.64)1
・効果は発症からの時期で異なり、急性期で大きい傾向が報告されています1
・歩く能力(歩行速度など)にも小〜中程度の後押しが示されていますが、確実性は高くありません1,2,3
・TENSは「単独の治療」ではなく、運動療法に上乗せする補助として研究されています1,2。研究間のばらつきや報告の偏りも指摘されています1
SECTION 01
TENSとは何か・他の電気刺激との違い

TENS(経皮的電気神経刺激)は、皮膚の上に貼った電極から弱い電気を流し、おもに感覚の神経を刺激する方法です。もともとは痛みをやわらげる目的で広く使われてきました。脳卒中のリハビリでは、筋肉のつっぱり(痙縮)をやわらげたり、歩行を後押ししたりする補助として研究されています。多くの場合、筋肉が目に見えて強く収縮するほどではない、弱めの刺激で行われます。

似た言葉に「NMES(神経筋電気刺激)」や「FES(機能的電気刺激)」がありますが、目的が異なります。NMESは筋肉をしっかり収縮させて動かすこと、FESは歩行など動作のタイミングに合わせて筋肉を働かせることを狙います。一方TENSは、感覚神経への刺激を通じてつっぱりや痛みをやわらげることを主な目的とします。手や足の電気刺激について詳しくは、脳卒中後の手の電気刺激(NMES)について解説した記事下垂足とFESについて解説した記事もあわせてご覧ください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、TENSは「単独で痙縮を治す方法」ではありませんが、運動療法などに上乗せすると、つっぱりが軽くなる可能性が複数の解析で示されています。歩く能力への小さな後押しも報告されています。ただし、研究ごとのばらつきが大きく、確実性はまだ高くありません。

研究から読み取れること
2025年に報告されたシステマティックレビュー・メタアナリシス(17件のランダム化比較試験、913名)では、TENSを行った群は行わなかった群に比べて痙縮(Modified Ashworth Scaleなど)が有意に軽くなりました(標準化平均差 −0.64、95%信頼区間 −0.91〜−0.37、I²=69%)。時期別では急性期で最も大きく(−1.77)、亜急性期(−0.61)、慢性期(−0.44)の順でした。刺激の頻度では100Hzで有意な改善がみられ、上肢の運動機能や日常生活動作の点数にもわずかな上乗せが報告されています1

別の解析でも方向性は一致しています。下肢の痙縮を調べた解析では、TENSを他の理学療法に追加すると、追加しない場合よりつっぱりが軽くなりました(15件、下肢で標準化平均差 −0.64)2。また、歩行に注目した解析(11件、439名)では、TENSの追加で歩く能力が小〜中程度改善し(Hedges' g 0.392)、とくに1回60分の刺激で有意でした3
エビデンスの質と限界
2025年の解析では、研究間のばらつき(異質性)がやや大きく(I²=69%)、刺激の条件(頻度・時間・貼る場所)が試験ごとに異なる点が限界として挙げられています。また、統計的な検討では報告の偏り(出版バイアス)の可能性も指摘されました。痙縮の評価に使うModified Ashworth Scaleそのものにも限界があります1。さらに、複数の刺激方法を比べたネットワーク解析では、痙縮を軽くする効果はTENSよりも反復末梢磁気刺激や振動、神経筋電気刺激のほうが上位にランクされており、TENSの効果は控えめと位置づけられています4。これらから、TENSは「補助的な選択肢のひとつ」と理解するのが妥当です。
まだ分かっていないこと
現在の研究でも、「どの周波数で・どのくらいの時間・どこに貼るのが最も良いのか」という最適な条件は確定していません1。上肢の痙縮に対する効果は、下肢に比べて研究が少なく、はっきりしていません2。また、痙縮の点数が下がることが、実際の生活動作の楽さにどこまでつながるのかも、十分には分かっていません。効果の多くは運動療法と組み合わせた結果であり、TENS単独でどこまで役立つかも不明な点が残ります。
TENSと歩行練習を組み合わせるリハビリ場面のイメージ
TENSと歩行練習を組み合わせるリハビリ場面のイメージ
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究をていねいに読むと、TENSで比較的変化がみられやすいのは「下肢のつっぱり(痙縮の点数)」と「歩く能力の一部」です1,2,3。とくに、他の運動療法と組み合わせ、ある程度まとまった時間(1回30〜60分など)行うと、つっぱりが軽くなりやすい傾向が報告されています2,3。一方で、TENS単独で麻痺そのものが大きく回復するといった効果は示されていません。あくまで「動きやすさを後押しする補助」という位置づけです。

また、痙縮の点数が下がることと、日常生活が楽になることは必ずしも一致しません。つっぱりが少し軽くなっても、歩行や手の使いやすさが自動的に良くなるとは限らないため、TENSは運動やストレッチ、装具などと組み合わせて考えることが大切です。つっぱり・こわばりへの自宅での取り組みについては、痙縮に対する自宅でできるリハビリについて解説した記事もあわせて参考にしてください。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

研究で用いられたのは、主に下肢のつっぱりがあり、運動療法とあわせてTENSを行う進め方です1,2,3。「ふくらはぎや足首がつっぱって歩きにくい」「こわばりで動作がしづらい」という方は、運動やストレッチと組み合わせる補助として、専門職と相談してみる価値があります。ただし、TENSは医療機器を使う方法であり、貼る場所や刺激の強さの調整には知識が必要です。自己判断で強い刺激を続けるのではなく、専門職の確認のもとで行うことが大切です。

⚠ 注意したい人・気をつけたいこと
ペースメーカーなど体内に電気機器が入っている方、てんかんのある方、電極を貼る部分に皮膚のトラブルや強い感覚障害がある方、妊娠中の方などは、電気刺激に注意や制限が必要です。頸の前面など、刺激を避けるべき部位もあります。また、感覚が鈍い部位では、刺激が強すぎても気づきにくく、皮膚が赤くなることがあります。TENSを行ってよいか、どの設定で行うかは、必ず主治医や担当のリハビリ専門職に確認してください。市販の低周波機器を使う場合も、開始前に専門職へ相談すると安心です。
SECTION 05
回数・頻度・進め方の目安

研究では、刺激の条件は試験ごとにさまざまで、「この設定なら必ず効く」という一律の正解は示されていません1。ただし、傾向としては、100Hz前後の刺激を、1回30〜60分ほど、神経や筋肉の上に貼って行った研究で、つっぱりの軽減や歩行の後押しが報告されています1,2,3。また、TENS単独ではなく、運動療法に上乗せする形で行われている点が共通しています1,2

ここから言えるのは、「TENSだけをがんばる」よりも、「運動やストレッチと組み合わせ、専門職が設定を確認しながら続ける」ことが現実的だということです。刺激の強さは、痛みが出るほど強くする必要はありません。無理のない範囲で、皮膚の状態を確認しながら行うことが大切です。ご家庭で機器を使う場合は、貼る位置・強さ・時間・行ってよい体調かどうかを、事前に専門職に確認しておくと安全に続けやすくなります。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
現場では、TENSを単独で使うというより、ストレッチや歩行練習の前後に組み合わせて、つっぱりが少し和らいだ状態で運動に入りやすくする、という使い方を意識しています。刺激で一時的にこわばりがやわらぐ方もいれば、あまり変化を感じない方もいて、反応には個人差が大きい印象です。訪問リハビリでは、ご自宅にある機器の設定や貼る位置を一緒に確認できるのも利点です。TENSはあくまで運動を進めやすくする補助と考え、過度な期待をせずに、生活の中で続けやすい形を一緒に探すことを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
つっぱりや歩きにくさについて、身体の状態やご自宅の環境を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。TENSは医療機器を用いる方法で、体調や既往(ペースメーカー・てんかん・皮膚のトラブル・感覚障害・妊娠など)によっては注意や制限が必要です。行ってよいか、どの設定で行うかを含め、始める前に主治医や担当専門職に相談しながら進めてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
TENSと低周波治療器は同じものですか?
家庭用の低周波治療器の多くはTENSと同じ仕組みで、皮膚の上から弱い電気を流します。ただし、脳卒中の痙縮に用いる際は、貼る位置や強さ、時間の設定が大切です。市販機器を使う場合も、始める前に専門職へ相談すると安心です。
TENSだけで痙縮は治りますか?
研究では、TENSは運動療法に上乗せする補助として用いられ、単独で痙縮を治す方法とはされていません。つっぱりが軽くなる可能性は示されていますが、確実性は高くなく、効果には個人差があります。運動やストレッチと組み合わせて考えるのがよいでしょう。
痛みは出ますか?
TENSは痛みが出るほど強くする必要はありません。多くの研究では、心地よい範囲の弱めの刺激で行われています。感覚が鈍い部位では刺激に気づきにくく皮膚が赤くなることがあるため、皮膚の状態を確認しながら行うことが大切です。
どのくらいの時間・頻度で行うのですか?
研究では条件がさまざまですが、1回30〜60分ほど、100Hz前後で行った試験でつっぱりの軽減や歩行の後押しが報告されています。ただし最適な設定は確定していません。状態に合った時間・強さは専門職と相談して決めるのが安心です。
使わないほうがよい人はいますか?
ペースメーカーなど体内に電気機器がある方、てんかんのある方、電極部に皮膚トラブルや強い感覚障害がある方、妊娠中の方などは注意や制限が必要です。頸の前面など避けるべき部位もあります。行ってよいかは必ず主治医・専門職に確認してください。
NMESやFESとどう違いますか?
NMESは筋肉をしっかり収縮させて動かすこと、FESは歩行など動作のタイミングに合わせて筋肉を働かせることを狙います。TENSは主に感覚神経を刺激し、つっぱりや痛みをやわらげることが目的です。どれが向いているかは状態によって異なります。
REFERENCES
参考文献
1. Diao Y, Niu X, Huang J, You C, Lin X, Pan J, Cheng J. Superior efficacy of 100-Hz transcutaneous electrical nerve stimulation in reducing post-stroke spasticity: a systematic review and meta-analysis. J Neuroeng Rehabil. 2025;22(1):210. DOI:10.1186/s12984-025-01744-3. PMID:41068908. PMCID:PMC12512259.
2. Mahmood A, Veluswamy SK, Hombali A, Mullick A, Manikandan N, Solomon JM. Effect of Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation on Spasticity in Adults With Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2019;100(4):751-768. DOI:10.1016/j.apmr.2018.10.016. PMID:30452892.
3. Kwong PWH, Ng GYF, Chung RCK, Ng SSM. Transcutaneous electrical nerve stimulation improves walking capacity and reduces spasticity in stroke survivors: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2018;32(9):1203-1219. DOI:10.1177/0269215517745349. PMID:29232981.
4. Wang Y, Liang Q, Li X, Tao S, Bian R. Peripheral somatosensory stimulation for post-stroke spasticity: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials. Eur J Phys Rehabil Med. 2026. DOI:10.23736/S1973-9087.26.09387-1. PMID:42394541.