
この記事の結論
「ロボットで腕を動かすと、つっぱりがゆるむと聞いた」「肘が曲がったまま固くなるのが心配で、機械の練習が合うか知りたい」。脳卒中後の手や腕の麻痺がある方やご家族にとって、こうした点が気になることがあります。
この記事では、ロボット支援上肢訓練そのものの紹介ではなく、「ロボットを使った腕の練習で、痙縮(つっぱり)はどのくらい変わるのか」「練習の量を増やすほどよいのか」に焦点を当て、2025〜2026年に発表された研究をもとに分かっていることと限界を整理します。
目次
痙縮(つっぱり)とロボット支援上肢訓練とは?
痙縮(けいしゅく:Spasticity)とは、脳卒中などで脳からの指令がうまく伝わらなくなり、筋肉が勝手に強く縮もうとして、腕や手がつっぱったり曲がったまま固くなったりする状態です1。
腕では、肘が曲がる、手首や指が握り込む、脇がしまるといった形で現れやすく、着替え・食事・手洗いなどの生活動作の妨げや、痛みの原因になることがあります1。痙縮の程度は、関節を他の人が動かしたときの抵抗の強さを0〜4の段階で評価する修正アシュワーススケール(Modified Ashworth Scale:MAS)でよく測られます1。
ロボット支援上肢訓練(Robot-assisted therapy:RAT)とは、ロボットや電動の機器が腕の重さを支えたり動きを手伝ったりしながら、画面の課題に合わせて腕を何度も動かす練習の方法です1,2。手先を支える「エンドエフェクタ型」と、腕全体に沿わせる「外骨格型」があり、肩から手首までを動かす機器と、手指だけを動かす機器があります1。
ロボット練習の全体的な研究結果は脳卒中の手の麻痺に対するロボットリハビリについて解説した記事で紹介しています。この記事では、そこで詳しく扱っていない「つっぱり」と「練習量」に絞って解説します。

研究では、つっぱりは変わる?
結論から言うと、ロボットを使った腕の練習で、肘と手首のつっぱりは「わずかに」小さくなる傾向が報告されていますが、その変化は小さいものです1。
腕の痙縮がある脳卒中後の方を対象に、ロボット支援上肢訓練と、ロボットを使わない練習(通常の理学療法・作業療法など)を比べた29件のランダム化比較試験をまとめた分析です1。
肘を曲げる筋肉のつっぱりは、10件(402人)のまとめでMASが平均0.25段階小さくなりました(確かさは中程度)1。手首を曲げる筋肉は7件(221人)のまとめで平均0.22段階小さくなりました(確かさは低い)1。一方、脇をしめる肩の筋肉のつっぱりは7件(299人)のまとめで、はっきりした差はみられませんでした1。
腕の動かしやすさを表すフーグル・マイヤー評価(Fugl-Meyer Assessment:FMA)は平均1.97点高くなりましたが、生活動作や生活の質は一貫した差がみられませんでした1。
・手首を曲げる筋肉のつっぱり1
・肩から手首まで複数の関節を動かす機器を使った研究1
・手指だけを動かす機器を使った研究1
・発症から5か月までの時期の、肘のつっぱり1
・生活動作や生活の質1
慢性期に絞ると、肘のつっぱりは平均0.36段階小さくなった一方、発症から1週〜5か月の時期の研究では0.12段階で、はっきりした差はみられませんでした1。ただし、この2つの時期の違い自体は統計的にはっきりしたものではありませんでした1。
MASは1段階ごとの違いが大きい評価です。平均0.2〜0.3段階という変化は、「つっぱりが目に見えてなくなる」というより、「少しゆるむ方がいる」程度と受け止めるのが現実的です。研究者らも、ロボットは痙縮を治療するための第一選択ではなく、安全に多くの練習を行うための道具と位置づけています1。
ロボット練習で、生活の中の腕の使いやすさは変わる?
練習の時間をそろえて比べると、ロボット練習と通常の練習の差は小さく、生活動作の差ははっきりしないという結果が出ています2。
ロボット練習と通常の練習を「同じ時間」行った54件のランダム化比較試験をまとめた分析です2。
物をつかむ・運ぶなどの腕の能力は、練習直後にロボット練習のほうがわずかに高い結果でしたが(標準化平均差0.14)、その後の追跡時点では差がみられなくなりました(0.05)2。生活動作は、練習直後も追跡時点もはっきりした差がありませんでした2。研究者らは、生活で実感できるほどの差ではないと結論づけています2。
機器の特徴で分けると、腕の動きを「一部だけ手伝う」機器(10件)、肘より先(前腕・手首・手指)を動かす機器(16件)、麻痺側だけに付ける機器(35件)を使った研究で、比較的はっきりした差がみられました2。
この結果から、ロボットそのものに特別な力があるというより、「自分で動かす部分を残しながら、たくさん練習できる」ことが大切なのではないかと考えられます2。
練習の量を増やすほどよい?
現時点の研究では、ロボット練習の時間や回数を増やすほど結果がよくなる、というはっきりした関係は確認されていません3。
上肢・下肢のロボット訓練を含む研究から、練習の「量」と結果の関係を調べるために、1回の時間・週の回数・期間・総時間など5つの指標を分析した研究です3。
ロボット訓練を行った群では、通常の練習と比べて腕の動かしやすさ(FMA)が平均2.89点(20件・1,270人)、生活動作がやや高い結果でした(確かさは中程度)3。しかし、5つの量の指標のいずれにも直線的な関連はなく、非直線的な関係を調べられた4指標でも明確な関連は認められませんでした3。
ただし、多くの研究で「実際にどれだけ腕を動かしたか」が報告されておらず、量の分析は慎重に解釈すべきとされています3。つっぱりの分析に含まれた研究の中には、1回120分の高い量の練習を行った群で、6か月後につっぱりが強くなっていたという報告もありました1。「多ければ多いほどよい」とは限らない点に注意が必要です。
ボツリヌス療法と組み合わせるとどうなる?
つっぱりが強い場合は、ボツリヌス療法(筋肉をゆるめる注射)とロボット練習を組み合わせる方法が研究されていますが、まだ小規模な研究の段階です4。
慢性期で腕の痙縮がある42人を、ボツリヌス療法とロボット練習の「タイミング」が異なる4つの群に分けて比べた研究です4。ロボット練習は1日約30分(腕を伸ばす動き640回)、週5回、4週間でした4。
4週まででは、注射を受けた2群で肘のつっぱりの改善がみられましたが、腕の動かしやすさ(FMA)の変化に群間差はありませんでした4。8週間の変化では、注射の1か月後からロボット練習を始めた群で、両方を4週後から始めた群よりFMAの改善が大きい結果でした(解析40人)4。研究者らは、注射でつっぱりがゆるんでいる時期に練習を重ねることが大切ではないかと考察しています4。
ボツリヌス療法そのものについては脳卒中後の痙縮とボツリヌス療法について解説した記事で詳しく紹介しています。注射の時期や練習の始め方は、必ず主治医と相談して決めます。

どんな人は注意が必要?
重い有害事象はロボット練習によるものとは報告されていません。ただし安全性の根拠の確かさは非常に低く、次のような方は事前に医師やリハビリ専門職と相談することが大切です1。
ロボット練習は、つっぱりを「治す」方法ではありません。研究で示された変化は小さく、生活動作の差もはっきりしていません1,2。
つっぱりが急に強くなった、痛みや腫れが増えた、といった変化があるときは、練習を続ける前に主治医へ相談してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
つっぱりの分析では、確かさは「非常に低い〜中程度」と評価されました1。ロボット練習は参加者に隠せないため、すべての研究で「どちらの練習を受けているか分かる」ことによる偏りがあり、割付を隠す手順の報告が不十分な研究も多くありました1。
また、ロボット練習を通常の練習に「上乗せ」した研究では、ロボット群のほうが練習時間が長くなることがあり、ロボットそのものの影響なのか、練習量が増えた影響なのかを分けにくいという限界があります1。練習時間をそろえた分析でも、全体の差は小さいものでした2。
ボツリヌス療法との組み合わせの研究は42人の予備的な研究で、対象は慢性期の方に限られています4。
どのくらいの頻度・期間で行われている?
研究で多かったのは、1回30〜60分程度を週3〜5回、2〜12週間ほど行う方法でした1,4。ただし最適な量は分かっておらず、目安として受け止めてください3。
手指の練習に使う機器についてはロボットグローブ・ハンド外骨格ロボットについて解説した記事で紹介しています。
作業療法士の視点
最新の研究のまとめからは、ロボットを使った腕の練習で、肘と手首のつっぱりがわずかに小さくなる傾向が報告されています1。一方で、変化は小さく、肩や手指だけの機器でははっきりせず、生活動作の差も明確ではありません1,2。
大切なのは、ロボットを使うかどうかよりも、つっぱりの状態に合わせて、自分で動かす練習を安全に積み重ね、それを生活の中の動作につなげていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。つっぱりが急に強くなった、腕や手に強い痛み・腫れがあるなどの場合は、すぐに主治医に相談してください。練習やボツリヌス療法の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. ロボットで腕の練習をすると、つっぱりはゆるみますか?
A. 肘と手首のつっぱりがわずかに小さくなる傾向はありますが、その変化は小さいものです1。29件の試験のまとめでは、修正アシュワーススケールで平均0.2〜0.3段階の変化で、肩のつっぱりにははっきりした差がありませんでした1。
Q. ロボット練習は、どの時期に向いていますか?
A. 肘のつっぱりの変化は、発症から6か月以上たった慢性期の研究で目立ちました1。ただし時期による違いは統計的にははっきりしておらず、発症から間もない時期の研究は少ないため、時期だけで向き不向きは決められません1。
Q. ロボット練習の時間を長くするほど、よい結果になりますか?
A. 時間や回数を増やすほどよいという関係は、現時点では確認されていません3。1回120分の高い量の群で、6か月後につっぱりが強くなった報告もあり、量より質を保つことが大切と考えられます1。
Q. 手指だけを動かすロボットでも、つっぱりは変わりますか?
A. 手指だけを動かす機器を使った研究では、つっぱりのはっきりした変化はみられませんでした1。変化がみられたのは、肩から手首まで複数の関節を動かす機器を使った研究でした1。
Q. ボツリヌス療法とロボット練習は一緒に行えますか?
A. 組み合わせる方法は研究されていますが、まだ42人の予備的な研究の段階です4。注射でつっぱりがゆるんでいる時期に練習を重ねることが大切と考えられており、時期は主治医と相談して決めます4。
Q. ロボット練習に危険はありますか?
A. 研究では、重い副作用はロボット練習によるものとは報告されていません1。安全性の根拠の確かさは非常に低く、一時的な痛み、皮膚の刺激、手のむくみなども報告されているため、練習中は体の状態をこまめに確認します1。