東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「退院してしばらく経ってから、急に体がガクガクして意識が遠のいた」「主治医から、脳卒中のあとはてんかんが起こることがあると言われた」。訪問リハビリの現場で、ご本人やご家族からこうしたお話をうかがうことがあります。
そして必ずと言っていいほど続くのが、「運動して大丈夫なのでしょうか」「リハビリを続けても発作が起きませんか」というご質問です。これはとても大切な問いです。
結論から正直にお伝えすると、脳卒中のあとに発作が起こる方は一部で、成人では10人に1人よりやや少ない割合と報告されています1。また、てんかんのある方が運動をした場合、多くの研究では発作の回数が増えていません2。ただし個人差が大きく、「誰でも同じように大丈夫」と言い切れるだけの根拠はありません。
この記事では、脳卒中後のてんかんについて研究で分かっていること、まだ分かっていないこと、そして生活と運動をどう考えるかを、数字と一緒に整理します。診断や薬の判断は医師の領域ですので、ここではリハビリ職の立場から「生活と運動の側」を中心にお話しします。
脳卒中では、脳の一部が傷つきます。その傷あとが原因となって、脳の電気的な活動が一時的に乱れ、けいれんや意識の変化などが起こることがあります。これが脳卒中後の発作です。
研究では、起こった時期によって大きく2つに分けて扱われます1。
特徴:多くの研究では発症7日以内に起こったものをこう呼びます1
注意:この段階で1回起きたことが、そのまま「てんかん」の診断になるとは限りません
特徴:研究上は「誘因のない発作が少なくとも1回」あり、今後も起こりやすいと判断される場合を含みます1
注意:診断・治療方針は脳神経内科の主治医が判断する領域です
ご本人やご家族にとって大切なのは、「いつ起きたか」で意味合いが変わるという点です。入院中に一度だけ起きた場合と、退院して半年後に起きた場合とでは、医師の受け止め方も、その後の方針も違ってきます。ご心配なことがあれば、時期と様子をできるだけ具体的に主治医へお伝えください。
この点については、128件の研究をまとめた大規模な解析があります1。
全体:早期発作 7%(95%信頼区間5〜10%)/脳卒中後てんかん 10%(同8〜13%)
成人:早期発作 5%(同4〜7%)/脳卒中後てんかん 7%(同5〜9%)
小児:早期発作 30%(同20〜42%)/脳卒中後てんかん 29%(同19〜41%)
含まれた研究はすべて観察研究で、後ろ向きの研究が62.5%を占めていました1。
成人の数字で見ると、脳卒中を経験した方のうち、その後に発作が繰り返し起こりうる状態になるのはおよそ7%です1。裏返せば、9割以上の方には起こっていないということでもあります。
同じ解析では、起こりやすさに関わる要素も整理されています1。数字はオッズ比(起こりやすさの倍率の目安)です。
2. 出血性の脳卒中:2.14倍(同1.44〜3.18)1
3. 出血性変化を伴った場合:2.70倍(同1.58〜4.60)1
4. 重症の脳卒中:2.68倍(同1.73〜4.14)1
2. 重症の脳卒中:4.92倍(同3.43〜7.06)1
3. 前方の循環領域の梗塞:3.28倍(同1.34〜8.03)1
4. 脳の表面(皮質)に及ぶ病変:3.20倍(同2.13〜4.81)1
5. なお、この解析では出血性の脳卒中は明確な要素として示されませんでした(1.34倍、p=0.30)1
最も大きな数字になったのは「入院中に一度発作があったかどうか」でした1。急性期に発作があった方は、その後も注意して経過をみる対象になりやすい、ということです。
もう一点、10万2008名を対象とした別の解析でも、脳卒中後の発作の頻度は同じような範囲で報告されています8。また、脳卒中後てんかんのある方はない方に比べて長期的な死亡率が高いという報告もありますが7、これは発作そのものの影響なのか、もともと重症だった方に多いためなのかを、観察研究だけで切り分けることはできません。
・「早期」の区切りが研究によって1週間から4週間までばらついており、定義がそろっていません1
・出版バイアス(結果が出た研究ほど論文になりやすい偏り)の存在も示されています1
・地域・医療体制・脳卒中の種類が研究ごとに異なるため、日本の在宅生活の方にそのまま当てはめられる数字とは限りません1
・発作が起きた場合に、生活動作や歩行、リハビリの進み方がどう変わるのかを、質の高い研究で検証したものはほとんどありません1
・運動の量や強さが発作の起こりやすさにどう関わるのかは、人によって結果が分かれており、はっきりしていません2,5,6
・運動が将来の発作の起こりにくさにつながるかどうかは、動物を対象とした研究で検討されている段階で、人での結論は出ていません9
「発作が心配だから、先に薬を飲んでおいたほうがよいのでは」というご質問をいただくことがあります。この点は、国際的な検証報告がまとめています3。
発作が起こった方の割合:リスク比0.65(95%信頼区間0.34〜1.26)。統計的にはっきりした差とは言えない範囲でした3
死亡:リスク比0.97(同0.73〜1.27)。差は示されていません3
エビデンスの確実性:いずれも「中等度」(信頼区間が広いことを理由に格下げ)3
著者らは「脳卒中後の発作に対して、一律に薬を使うことを支持する十分な根拠はない」と結論づけています3。
大切なのは、これは「予防的に一律に使うこと」についての結論であり、すでに発作が起きている方の治療を否定するものではないという点です。すでに薬が処方されている場合、自己判断で減らしたり中止したりすることは危険です。必ず主治医にご相談ください。
ここが、リハビリを受けている方にとって最も気になる部分だと思います。てんかんのある方の運動については、42件の研究をまとめたシステマティックレビューがあります2。
・多くの場合、運動によって発作の回数は増えていませんでした2
・ただし結果は一様ではなく、運動が発作のきっかけになった方と、ならなかった方の両方が報告されています2
・207名を対象とした調査では、53%が「活動によって誘発された発作を経験したことがない」と回答した一方、11%は練習の10%以上の場面で発作があったと回答しています2
・てんかんのある方は、一般の人と比べて身体活動量や体力が低い傾向が、15研究中11研究で確認されています2
・17研究中16研究で、身体活動と生活の質・気分の面に良い関連が示されていました2
・運動に関連したけがのリスクは、全体としては一般の人と同程度かそれ以下と報告されています2
・一方で、含まれた研究の方法論的な質は全体的に低く、ランダム化や対照群のない研究が大半でした2
331名を対象とした別のまとめでも、運動によって発作の回数がはっきり減ったとは言えない一方で、生活の質の指標が平均4.72ポイント上がったと報告されています(95%信頼区間0.58〜8.86、p=0.03)5。46件の研究をまとめた報告でも、運動を取り入れた4つの介入研究すべてで活動量と生活の質の指標が上がった一方、研究の質はほぼ一律に低いと評価されています6。
同じレビューでは、活動の種類をリスクの大きさで整理する考え方も紹介されています2。
2. 中等度の群:スキー、体操、水泳など。個別のリスク評価が必要とされています2
3. リスクが大きい群:クライミング、モータースポーツ、サーフィンなど2
水にかかわる活動は、おぼれる危険があるため特別な評価が必要とされています2。
在宅でのリハビリに置きかえると、歩行練習や立ち上がり練習、椅子に座って行う運動などは、この整理でいえばリスクの小さい側に入ります。一方で、ひとりでの入浴、高いところでの作業、水辺での活動は、慎重に考えたい場面です。歩行中のふらつきや転びやすさが気になる方は、脳卒中後の転倒について解説した記事もあわせてご覧ください。
運動を始めるとき、あるいは強度を上げるときは、必ず事前に主治医へご確認ください。発作の頻度、薬の内容、睡眠不足や体調の波によっても判断は変わります。
発作そのものへの対応は医療の領域ですが、生活の側でできることもあります。ここでは、リハビリの場面でよくお話しする内容を整理します。
ご自身の状態を把握しながら生活を組み立てていく考え方については、脳卒中後のセルフマネジメント(自己管理支援)について解説した記事もあわせてご覧いただくと、整理しやすいかもしれません。
2. 起こりやすさに関わる要素として、急性期の発作(7.24倍)、重症度、脳の表面に及ぶ病変などが挙げられています1
3. 発作が起きていない段階から一律に薬を使うことを支持する十分な根拠は示されていません3。すでに服薬中の方の自己判断での中止は危険です
4. てんかんのある方の運動については、多くの場合発作の回数が増えていないと報告されていますが、人によって結果が分かれています2
5. 水にかかわる活動や高所での作業は、個別の評価が必要とされています2
6. 元になった研究はいずれも質やばらつきに限界があり、日本の在宅生活にそのまま当てはめられるとは限りません1,2
7. 運動を始めるとき・強度を上げるときは、必ず主治医にご相談ください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
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