
この記事の結論
「認知運動療法(認知神経リハビリテーション)を受けてみたい」「目を閉じて、手で触ったものを当てる練習をしていると聞いたけれど、本当に麻痺に役立つの?」という疑問について整理します。日本でも、この方法を取り入れているリハビリの現場があります。
この記事では、脳卒中後の認知運動療法(ペルフェッティ法)について、研究をまとめたシステマティックレビューとランダム化比較試験(RCT)をもとに、分かっていることと分かっていないことを分けて整理します。
目次
認知運動療法(ペルフェッティ法)とは?
認知運動療法(ペルフェッティ法:Perfetti method、認知感覚運動トレーニング:Cognitive Sensory Motor Training Therapy)とは、注意・知覚・記憶・イメージといった頭の働き(認知)を使いながら、体で感じた情報を手がかりに動きを組み立て直していくリハビリの方法です1。1970年代にイタリアのカルロ・ペルフェッティ氏が考案しました1。
この方法では、目で見ずに(多くは目を閉じて)手でスポンジや棒、ばねなどの物に触れ、硬さや形、位置の違いを感じ分ける課題を行います3。「どのくらい硬かったか」「どこに手があるか」を考えて答えることで、感覚と動きのつながりを練習するという考え方です1,3。
筋肉を鍛えたり、同じ動作をくり返したりする練習とは発想が異なり、「動きの質は、体の感覚をどう捉え、どう考えるかに左右される」という理論が土台になっています1。手の感覚に着目した練習としては、感覚再学習という方法もあり、脳卒中後の手の感覚障害と感覚再学習について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、認知運動療法が手や腕の麻痺に対して、通常のリハビリより優れていることを示した質の高い研究は、現時点ではほとんどありません。研究の数自体がとても少ないのが実情です。
2026年1月までの研究を調べたシステマティックレビューでは、一定の質を満たした研究は4件のみでした(レビューの分類ではRCT1件と予備研究3件。予備研究には小規模な無作為化試験も含む)。参加者の数は1つの群で4〜20人程度でした1。
手や腕の機能を群の間で比べた研究のうち、統計的に明確な差を示したのは、発症から時間がたった慢性期の16人を対象に、1日60分・週5日・8週間行った小規模な予備研究1件のみでした。全体としては認知運動療法の群で変化が大きい傾向はあるものの、群の差は多くの場合はっきりせず、著者らは「根拠の質は主に低い」と述べています1。
タイで行われた研究では、初めて脳卒中を発症した急性期の40人を、認知運動療法と通常の作業療法の2つに分け、どちらも1回30分・週5回・4週間行いました2。
腕の機能(Action Research Arm Test:ARAT)、生活動作の自立度(拡大バーセルインデックス)、手の大まかな器用さ(Box and Block Test)のいずれも、群の間に統計的な差はみられませんでした2。
亜急性期の33人を登録し27人が介入後評価を完了した研究で、通常の入院リハビリに加えてセラピストによる認知運動療法と、同じ考え方の課題をロボット機器で行う方法(1回45分×15回・4週間)を比べた研究では、腕の麻痺の程度を表すFugl-Meyer評価(上肢)が両方の群で約7点上がり、ロボットの群は通常の方法に劣らない結果でした3。
ただしこれは「認知運動療法同士」の比較で、認知運動療法そのものがほかの練習より優れているかを確かめた研究ではありません3。
脳卒中後の練習では、方法だけでなく開始時期も検討されています。たとえば発症早期の340人を対象にした研究では、認知運動療法と別の手技(PNF)の違いより、開始時期の違いのほうが長期的な結果に関係していたと報告されています4。同じように「考え方」が特徴的な方法として、ボバースコンセプトについて解説した記事もあわせてご覧ください。
認知運動療法を受けることで麻痺が回復すると保証できる研究結果はありません。また、ほかの練習をやめて認知運動療法だけにすることを勧める根拠もありません。方法を選ぶ際は、担当の医師やリハビリ専門職と、目標や今の状態に合っているかを相談してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
このレビューに含まれた研究は数が少なく、急性期の40人を対象にしたRCTと、1つの群が4〜8人程度の予備研究が中心です1。研究ごとに対象者の時期(急性期・亜急性期・慢性期)、練習の時間や期間、評価の方法が大きく異なり、結果を単純に比べることができません1。
統計的な結果が十分に報告されていない研究もあり、レビューの著者らは「結果は探索的なものとして扱い、質の高い研究で確かめる必要がある」と述べています1。研究全体では一定の傾向はありますが、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくい?
研究からは、認知運動療法を行った群でも手や腕の機能に変化はみられますが、「通常の練習よりも大きい」とはっきり言える結果は少ないのが現状です。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象は、重い認知機能の低下や重い失語症のない方が中心でした2,3。課題に答えるために、注意を向けて考え、言葉やしぐさで伝えることが必要になるためです。
・くり返しの運動だけでなく、考えながら取り組む練習に関心がある方
・ほかの練習と組み合わせて、練習の幅を広げたい方
・腕に強い痛みがある方(研究では強い痛みのある方は対象外)3
・「この方法だけ」で練習量が大きく減ってしまう場合
手や腕の練習では、生活の中の具体的な動作を目標にした練習も大切です。考え方は課題指向型アプローチの進め方はこちらで紹介しています。
どのくらいの頻度で行う?
研究では「1日30〜60分・週3〜5日・4〜10週間」と幅があり、最適な量は分かっていません1。
これらは研究で用いられた量の例で、すべての方に最適な量ではありません。体の状態や目標に合わせて調整してください。

作業療法士の視点
認知運動療法は「感覚に注意を向けて考えながら動く」という点で、感覚の障害がある方の練習を考えるうえで参考になる視点を含んでいます。一方で、研究の数は少なく、通常の練習より優れているとはまだ言えません1,2。
大切なのは、特定の方法名にこだわることよりも、ご本人の目標(何をできるようになりたいか)に合わせて、十分な量の練習を続けられる形を一緒に考えることだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 認知運動療法で脳卒中の麻痺は回復しますか?
A. 認知運動療法で麻痺が回復すると保証できる研究結果はなく、通常の練習との差もはっきりしていません1,2。練習を行った群でも変化はみられますが、通常の練習を行った群でも同じように変化しています。
Q. 認知運動療法と認知神経リハビリテーションは同じものですか?
A. 日本では、ペルフェッティ氏の考え方にもとづく方法が「認知運動療法」や「認知神経リハビリテーション」と呼ばれています。海外の研究では「ペルフェッティ法」「認知感覚運動トレーニング」などの名前で調べられています1。
Q. 目を閉じて物を触る練習にはどんな意味があるのですか?
A. 目で見ずに手で触れることで、硬さや形、位置といった体の感覚に注意を向け、感覚と動きのつながりを練習するという考え方です1,3。この練習だけでどこまで手の機能が変わるかは、研究ではまだ十分に分かっていません。
Q. ほかのリハビリと比べてどちらがよいですか?
A. 急性期の40人を対象にした研究では、認知運動療法と通常の作業療法の間で、腕の機能などに差はみられませんでした2。現時点ではどちらがよいとは言えないため、目標や体の状態に合わせて方法を選ぶことが大切です。
Q. どのくらいの期間続ければよいですか?
A. 研究では4〜10週間とさまざまな期間で行われており、最適な期間はまだ分かっていません1。手の使いやすさを確認し、見直す時期やほかの練習との組み合わせを専門職と相談してください。
Q. 自宅でも認知運動療法はできますか?
A. 研究で行われた認知運動療法は、セラピストが課題を準備して一緒に行うものが中心でした2,3。ご自宅で感覚に注意を向ける練習を取り入れる場合は、安全な方法や内容を専門職と相談してください。