
この記事の結論
「パーキンソン病でもヨガをしてよいの?」「体が硬くなってきたので、ヨガで少しでも動きやすくなれば」という疑問について整理します。ヨガは自宅でも取り組みやすい運動として、パーキンソン病の分野でも研究が増えてきました。
この記事では、パーキンソン病のヨガについて、複数の研究をまとめた分析(メタアナリシス)と、100人以上を対象にした比較的大きなランダム化比較試験(RCT)を中心に、分かっていることと分かっていないことを分けて整理します。
目次
パーキンソン病のヨガとはどんな運動?
パーキンソン病のヨガとは、ゆっくりとした姿勢(ポーズ)と呼吸の練習、心を落ち着ける練習(瞑想・マインドフルネス)を組み合わせ、体の柔軟性や姿勢の安定、気持ちの落ち着きを目指す運動です。
研究で使われたヨガは、立ったり座ったりして行う基本的なハタヨガのポーズに、呼吸の練習と「今の体の感覚に注意を向ける」練習(マインドフルネスヨガ:Mindfulness Yoga)を組み合わせたものが中心でした2。たとえば香港の研究では、1回90分のうち、ポーズの練習が60分、呼吸の練習が15分、瞑想が15分という構成でした2。
パーキンソン病では、手足のふるえや動きの遅さ(運動症状)だけでなく、不安や気分の落ち込みといった「運動以外の症状(非運動症状)」もよくみられます。ヨガはこの両方に関わる可能性がある運動として研究されてきました1。体をゆっくり動かしながらバランスを保つ運動としては太極拳も研究されており、パーキンソン病の太極拳について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、複数の研究をまとめた分析と2件の比較的大きなRCTで、ヨガを行った群に動作の症状や不安の指標で良い結果が報告されています。ただし、すべての項目で差が出たわけではありません。
10件のRCT・計359人をまとめた分析では、ヨガを行った群は対照群(通常のケア、ストレッチや筋力トレーニングなど)と比べて、パーキンソン病の動作の症状を医師が評価する尺度(UPDRS パートIIIなど)が平均5.64点低く(数値が低いほど症状が軽い)、良い結果でした1。
ほかにも、バランスの指標(標準化平均差0.42)、椅子から立って3m歩いて戻る時間(Timed Up and Go:TUG、平均1.71秒短縮)、不安(標準化平均差−0.72)、気分の落ち込み(同−0.92)、生活の質(同−0.54)で、ヨガの群に良い結果がみられました1。ヨガの内容は1回30〜90分、週1〜2回、8〜12週間とさまざまでした1。
香港で行われた研究では、軽症〜中等症(ホーン・ヤール重症度分類1〜3度)のパーキンソン病の方138人を、マインドフルネスヨガ(週1回90分×8週間)と、ストレッチ・筋力トレーニング(週1回60分×8週間)の2つに分けました。どちらの群も自宅で20分の練習を週2回行うよう勧められました2。
8週間後と、終了から3か月後の時点で、ヨガの群は不安と気分の落ち込みの尺度が、ストレッチ・筋力トレーニングの群より大きく下がりました2。一方、動作の症状の尺度は両方の群で下がり、群の差(約5点)は「臨床的に意味のある差とは言えない」と著者らは述べています。TUGの時間には群の差がみられませんでした2。
同じ研究グループが159人を、瞑想・ヨガ・通常のケアの3つの群に分けた研究では、ヨガ(1回90分×8週間)を行った群で、2か月後の不安、動作の症状、生活の質が通常のケアの群より良い結果でした3。
ただし、ヨガの群では気分の落ち込みに差はみられず、動作の症状や生活の質の差も6か月後には続いていませんでした(6か月後まで続いたのは瞑想の群)3。
不安や気分の落ち込みは、パーキンソン病の生活のしづらさに大きく関わります。不安への心理的な支援についてはパーキンソン病の不安と認知行動療法について解説した記事でも紹介しています。
ヨガは、薬の治療や通常のリハビリの代わりになるものではありません。研究の多くは、薬の治療を続けながら行われています。転びやすさ、立ちくらみ、骨の弱さなどによっては、合わないポーズもあります。始める前に主治医やリハビリ専門職に相談してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
まとめられた研究の多くは1つの群が7〜15人程度と小規模で、運動の性質上、参加者に「どちらの運動をしているか」を隠すことができません1。10件のうち、割り付けの方法を十分に隠していたと報告した研究は3件のみで、動作の症状の結果は研究ごとのばらつきが大きいとされています1。
比較的大きな2件の研究も、同じ地域(香港)の同じ研究グループによるもので、自ら参加を希望した方が中心でした2,3。研究全体では一定の傾向がありますが、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくい?
研究からは、ヨガでは「不安や気分」「動作の症状の尺度」に変化が報告されやすく、「歩く・立ち上がる速さ」や「長期的な持続」は研究ごとに結果が分かれています。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象になったのは、支えなしで立つことができ、歩ける(杖などの使用は可)軽症〜中等症の方でした2。
・不安や気分の落ち込み、体のこわばりが気になる方
・自宅で続けられる、ゆっくりした運動を探している方
・立ちくらみ(起立性低血圧)がある方
・骨粗しょう症や背骨の圧迫骨折があり、強い前かがみやねじりが負担になる方
・膝や手首に痛みがある方(研究では膝や手首の一時的な痛みが報告されています)2,3
ふらつきや転倒が心配な方は、ヨガの前にバランスの状態を確認しておくと安心です。バランス練習の考え方はパーキンソン病のバランス運動と転倒対策について解説した記事で紹介しています。
どのくらいの頻度で行う?
研究では「週1〜2回・1回30〜90分・8〜12週間」が多く、これに自宅での短い練習を組み合わせる形がとられていました1,2。
これらは研究で用いられた量の目安で、すべての方に最適な量ではありません。体の状態に合わせて調整してください。

作業療法士の視点
ヨガの研究で興味深いのは、体の動きだけでなく、不安や生活の質にも変化が報告されている点です1,2。パーキンソン病は体の症状と気持ちの負担が重なりやすい病気なので、「気持ちが少し楽になる時間」を持つことにも意味があると考えられます。
一方で、ヨガだけで転倒が防げる、病気の進行が止まるといった研究結果はありません。ヨガは数ある運動の選択肢のひとつとして、ご本人が楽しく安全に続けられるかどうかを大切に選ぶのがよいと考えます。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. パーキンソン病でもヨガをしてよいですか?
A. 支えなしで立てる軽症〜中等症の方を対象にした研究では、重い副作用は報告されていません2,3。ただし転倒しやすい方や立ちくらみがある方は合わないポーズもあるため、始める前に主治医やリハビリ専門職に相談してください。
Q. ヨガでパーキンソン病の症状は軽くなりますか?
A. 研究では、ヨガを行った群で動作の症状の尺度が良い結果になったと報告されていますが、症状が軽くなることを保証できるものではありません1。差が小さく臨床的な意味ははっきりしないとする研究もあり2、薬の治療の代わりにはなりません。
Q. ヨガは不安や気分の落ち込みにも役立ちますか?
A. まとめた分析と2件のRCTで、ヨガの群に不安の尺度の低下が報告されています1,2,3。ただし気分の落ち込みについては研究によって結果が異なり2,3、つらさが強い場合は医師への相談が大切です。
Q. どのくらいの頻度でヨガをすればよいですか?
A. 研究では週1〜2回・1回30〜90分・8〜12週間という頻度が多く用いられていました1。最適な量は分かっていないため、体力や体調に合わせて専門職と相談しながら決めてください。
Q. ヨガで転倒は防げますか?
A. ヨガで転倒が減るかどうかを直接確かめた研究は少なく、現時点では分かっていません。バランスの指標に良い結果を示した研究はありますが1、転倒が心配な方は転倒対策と組み合わせて考えることが大切です。
Q. ヨガと太極拳はどちらがよいですか?
A. ヨガと太極拳を直接比べてどちらが優れているかを示した研究は十分ではなく、現時点では決められません。ご本人が安全に楽しく続けられる運動を選ぶことが大切です。