
この記事の結論
「病院でMoCAという検査を受けたら、点数が低いと言われた」「認知症になってしまったの?」。脳卒中のあと、こうした不安を抱えるご本人やご家族は少なくありません。
MoCAやMMSEは、脳卒中後の病院やリハビリの現場で広く使われている認知機能の検査です。この記事では、複数の研究をまとめたレビューと大規模な追跡研究をもとに、点数から分かること・分からないこと、点数の解釈で注意したい点を整理します。
目次
MoCA・MMSEとは?
MoCA(Montreal Cognitive Assessment:モントリオール認知評価)とは、記憶・注意・言葉・図形をとらえる力・段取りを考える力(遂行機能)などを、質問と紙と鉛筆の課題で短時間に確かめる、30点満点の認知機能の検査です1,2。教育年数が12年以下の方には1点が加えられます1。
MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)も30点満点の検査で、記憶・見当識(日付や場所が分かるか)・注意・言葉・図形を写す力などを確かめます2。もともとは認知症を見つけるために作られた検査で、段取りを考える力を調べる課題がほとんど含まれていません1,2。
脳卒中後の認知機能の低下とリハビリについては、脳卒中後の認知障害(PSCI)とリハビリについて解説した記事で紹介しています。

研究では、どのくらい正確に分かると分かっている?
結論から言うと、MoCAとMMSEはどちらも一定の正確さがあり、とくにMoCAは軽い障害も見つけやすいとされています。一方で、どの点数を「区切り」にするかは研究によって異なり、一つに決められていません1,2。
脳卒中後の認知機能の検査の正確さを調べた21件の研究をまとめ、詳しい検査(神経心理学的検査)と比べた正確さと、現場での使いやすさを評価した研究です1。
12種類の検査のうち、このレビューで正確さと使いやすさの全基準を満たしたのはMoCAでした。MMSEは認知症の可能性を見つける用途では正確さを示しましたが、軽い障害の検出には限界がありました1。MMSEは認知症の可能性を見つけるのに向いている一方(区切り23/24点)、軽い障害を見つける力は研究によってばらつきがありました1。MoCAは段取りを考える力の課題を含むため、軽い障害にも気づきやすいとされています1。
中国・シンガポール・韓国で行われた11件の研究(レビュー記載の検査別集計は延べ3,735人)をまとめ、アジアの脳卒中の方でのMoCA・MMSEの正確さを調べた研究です2。
どちらの検査もおおむね十分な正確さを示しましたが、教育歴が正確さに大きく影響していました2。区切りの点数や方法・言語がばらばらなため、一つの区切りを勧めることはできず、このレビューでは教育年数が6年未満の方への1点加算が提案されました。ただし日本を含む全地域に共通の採点ルールではなく、使用する版の公式手順に従います2,4。また、もともとのMoCAの区切り(26点未満)は脳卒中では合わないことが多く、適切な区切りは時期によって19〜27点と幅があると報告されています2。
脳卒中の薬の大規模な試験(EFFECTS試験)に参加した1,141人(年齢の中央値72歳、多くは軽症)で、発症2〜15日のMoCAと、6か月後の認知機能を比べた研究です3。
発症直後にMoCAが25点以下(基準より低い)だった方は67.0%でしたが、6か月後には48.6%に減っていました3。発症直後のMoCAは、6か月後も認知機能が低い方の89.7%を見つけられた一方、6か月後に基準以上だった方を発症直後にも基準以上と判定できた割合は54.6%でした(特異度)。発症直後に低得点だった764人のうち266人(約35%)は6か月後に基準以上でした3。
検査の点数が低いことは「認知症と診断された」という意味ではありません。発症直後は、疲れや体調、気分の落ち込みなども点数に影響します1,3。点数が気になるときは、担当の医師やリハビリ専門職に、どの項目が難しかったのかを含めて確認してみてください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
多くの研究は、失語症の方や、検査を最後まで受けられない方を除いて行われています。アジアのレビューでは11件中8件が失語症の方を除外し、7件は軽い脳卒中の方が中心でした2。そのため、重い障害がある方にそのまま当てはめることはできません1,2。
また、検査と詳しい検査の時期がずれていた研究や、症例対照研究(あらかじめ障害がある群とない群を集めた研究)も含まれ、正確さが実際より高く見積もられている可能性があります1,2。1,141人の研究も、短縮版を作ったのと同じ集団で検討しており、ほかの集団で同じ結果になるかは確かめられていません3。
点数から分かること・分からないことは?
MoCAやMMSEの点数から分かるのは「認知機能に低下があるかもしれない」という目安で、原因や生活への影響、これからの経過までは分かりません1,3。
・どの項目(記憶・注意・段取りなど)が難しかったか
・同じ検査をくり返したときの変化の目安
・家事や仕事など、生活の場面でどのくらい困るか3
・本人が感じている困りごと(6か月後の記憶・思考の自己評価で研究の基準以下だったのは23.5%で、検査で低かった割合より少なかった)3
段取りを考える力(遂行機能)の低下は、検査の点数以上に生活の場面で困りごとにつながることがあります。詳しくは脳卒中後の遂行機能障害と認知リハビリについて解説した記事で紹介しています。
どんな人は点数の見方に注意が必要?
脳卒中のあとは、認知機能そのもの以外の理由でも点数が低く出ることがあります1,2。次のような方では、点数をそのまま受け取らないことが大切です。
・利き手に麻痺がある方(書く・描く課題が難しい)1
・視野が欠けている・見えにくい方1
・疲れやすい、痛みがある、気分が落ち込んでいる方1
・教育を受けた年数が短い方2
・MMSEは軽い障害を見つけにくいとされています1
地域で暮らす方などを対象にした研究では、約85%の方が検査を最後まで受けられ、受けられなかった理由は失語症(24%)、認知症(15%)、利き手が使えない(9%)などでした1。言葉の障害がある方とのやりとりの工夫については、脳卒中後の失語症と家族の会話について解説した記事も参考になります。
いつ、どのくらいの間隔で検査する?
研究では、発症直後(2〜15日)の検査と6か月後の検査で結果が大きく変わる方が多く、1回の点数だけで判断せず、時間をおいて確かめることが大切だと考えられます3。

作業療法士の視点
MoCAやMMSEは、脳卒中後の認知機能の低下に気づくための便利な検査ですが、点数は失語症や手の麻痺、教育歴、体調などの影響を受けます1,2。また、発症直後に低かった点数が、時間とともに基準を上回った方もいました3。
大切なのは、点数の高い・低いだけで一喜一憂するのではなく、「どの項目が難しかったか」「生活の中で何に困っているか」を一緒に確かめ、必要な支援や練習につなげていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。認知機能の低下が気になる場合や、検査結果について詳しく知りたい場合は、主治医にご相談ください。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. MoCAの点数が低いと、認知症ということですか?
A. いいえ、MoCAはふるい分けの検査で、点数が低いだけで認知症と診断されるわけではありません1。詳しい検査や医師の診察で確かめる必要があり、失語症や手の麻痺、体調でも点数は低く出ます。
Q. MoCAとMMSEはどう違いますか?
A. MoCAは段取りを考える力の課題を含み、軽い認知機能の低下に気づきやすい検査とされています1。MMSEはもともと認知症を見つけるための検査で、軽い障害は見逃されやすいと報告されています。
Q. MoCAは何点以下だと低いのですか?
A. もともとの基準は26点未満ですが、脳卒中では適切な区切りが19〜27点と研究によって幅があり、一つに決められていません2。教育年数が短い方では点数を加えて調整することも提案されています。
Q. 発症直後に点数が低くても、良くなることはありますか?
A. 1,141人を追った研究では、発症直後に基準より低かった方は67.0%でしたが、6か月後には48.6%に減っていました3。1回の点数だけで先のことを決めつけないことが大切です。
Q. 失語症があっても検査は受けられますか?
A. 言葉で答える課題が多いため、失語症があると点数が低く出やすく、検査そのものが難しい場合もあります1,2。結果の解釈は、言葉の障害の影響を考えながら専門職と一緒に行います。
Q. 検査は何分くらいかかりますか?
A. MoCAやMMSEは、どちらも10分前後で行える短い検査とされています1。体調や疲れやすさによっては、休憩をはさんだり、日を改めたりすることもあります。
Q. 家族は検査結果をどう受け止めればよいですか?
A. 点数そのものより、どの項目が難しかったか、生活で何に困っているかを一緒に確認することが役立ちます1,3。気になる変化があれば、主治医やリハビリ専門職に伝えてください。
参考文献
4. MoCA Cognition. FAQ / Administration(2026年10月25日確認). 公式資料