
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中の後は、体の変化だけでなく、気分の落ち込み、不安、眠りにくさ、強い疲れといった「心とからだの負担」に悩む方が少なくありません。そうしたなかで「マインドフルネス(瞑想)が良いと聞いたけれど、本当に役立つの?」と気になる方もいるでしょう。この記事では、脳卒中後のマインドフルネスについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、期待できそうな面はある一方で、脳卒中に絞った質の高い証拠はまだ限られています。

・脳卒中後の疲れをまとめた質の高い総説では、マインドフルネスを含むさまざまな方法について、有効性を判断できるだけの十分な証拠はまだないと結論づけられています1。
・一般の方を対象にした解析では、マインドフルネス瞑想は睡眠の質に一定の手ごたえがある一方、確立した不眠治療と比べて優れているとは言えないと報告されています2。
・脳卒中の方の気分(抑うつ)に対しては、小規模な研究をまとめた解析で前向きな傾向が示されていますが、研究の質や数が限られ、確立した結論には至っていません3,4。
・強い気分の落ち込みや不安がある場合は、マインドフルネスだけに頼らず、主治医や専門機関に相談することが大切です。
マインドフルネスとは、「今この瞬間に起きている体の感覚や呼吸、気持ちに、良い悪いの評価をせずに気づく」練習のことです。代表的なものに、呼吸に意識を向ける瞑想や、体の各部分の感覚に順番に注意を向ける方法があります。医療の分野では、これを体系化した「マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)」や、考え方のくせに気づく認知療法と組み合わせた「マインドフルネス認知療法(MBCT)」といったプログラムが研究されています。
なお、ヨガや太極拳のように「体を動かしながら呼吸や感覚に意識を向ける」練習も、広い意味では"マインドフルな運動"として扱われることがあります。これは座って行う瞑想とは方法が異なるため、この記事では区別して説明します。体を動かすタイプに関心がある方は、脳卒中後のヨガについて解説した記事もあわせてご覧ください。
結論から正直にお伝えすると、脳卒中の方に絞ったマインドフルネスの研究はまだ数が少なく、質もばらついており、「これで確実に良くなる」とは言えません。分かっている範囲を、確からしさの高い順に整理します。
マインドフルネス瞑想そのものについては、脳卒中に限らない一般の方を対象にした解析があります。睡眠に悩む方1,654名を含む18件の試験をまとめた解析では、時間や関わりを合わせただけの比較(何もしない・雑談など)と比べると睡眠の質に一定の手ごたえ(中程度の確からしさ)がみられた一方、すでに確立した不眠の治療法と比べると明確な差はなく(低い確からしさ)、と報告されています2。

研究をていねいに読むと、期待しやすい面とはっきりしない面が分かれます。比較的手がかりがあるのは、ストレスの感じ方や睡眠、気分の落ち着きといった「主観的な負担」の部分です2,3。呼吸に意識を向けて一息つくことは、緊張や不安が強い場面で気持ちを整える助けになる可能性があります。気分の落ち込みが気になる方は、脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事もあわせて確認すると、選択肢の全体像がつかみやすくなります。
一方で、マインドフルネスによって麻痺そのものが軽くなる、といった体の機能への直接の効果は示されていません3。また、疲れに対しては、質の高い総説の段階では十分な証拠がないとされています1。つまり「気持ちの支えの一つ」としては取り入れる価値がありうる一方、体の回復やリハビリの代わりにはならない、という理解が大切です。不安が強い方は、脳卒中後の不安について解説した記事もあわせてご覧ください。
マインドフルネスは、道具がいらず、体への負担が少ないため、緊張や不安、眠りにくさなど「気持ちの負担」を和らげる工夫を探している方が、生活のなかで試しやすい方法です。短い時間から無理なく始められる点も特徴です。ただし、全員に同じように合うわけではなく、静かに座って自分の内側に注意を向けることが、かえって落ち着かない・つらいと感じる方もいます。
研究で用いられたプログラムは、8週間ほどかけて週1回程度のセッションと自宅での練習を組み合わせるものが多く見られます3。ただし「これだけやれば良い」という決まった正解はありません1,3。生活に取り入れる場合は、まず1回数分の呼吸に意識を向ける練習から始め、無理のない範囲で毎日続けてみる、といった進め方が現実的です。うまくできているかを気にしすぎず、注意がそれても、また呼吸に戻すこと自体が練習だと考えると続けやすくなります。
脳卒中の後は、姿勢を保つのがつらい、長く座れないといった事情もあります。その場合は、横になった姿勢や、いすに寄りかかった姿勢で行っても構いません。音声ガイドを使う、決まった時間に行う、といった工夫も役立ちます。気分の落ち込みや不安が強いときは、一人で抱えず、専門職に相談しながら、生活全体のなかで無理のない形を一緒に考えていくことをおすすめします。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Rusch HL, Rosario M, Levison LM, Olivera A, Livingston WS, Wu T, Gill JM. The effect of mindfulness meditation on sleep quality: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Ann N Y Acad Sci. 2019;1445(1):5-16. DOI:10.1111/nyas.13996. PMID:30575050. PMCID:PMC6557693.
3. Tao S, Geng Y, Li M, Ye J, Liu Z. Effectiveness of mindfulness-based stress reduction and mindfulness-based cognitive therapy on depression in poststroke patients - A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Psychosom Res. 2022;163:111071. DOI:10.1016/j.jpsychores.2022.111071. PMID:36347179.
4. Zou L, Sasaki JE, Zeng N, Wang C, Sun L. A Systematic Review With Meta-Analysis of Mindful Exercises on Rehabilitative Outcomes Among Poststroke Patients. Arch Phys Med Rehabil. 2018;99(11):2355-2364. DOI:10.1016/j.apmr.2018.04.010. PMID:29738744.
