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脳卒中後に転ぶのが怖いとき|転倒恐怖と運動の研究・安全な進め方

脳卒中下肢関連情報 読了目安 約10分 文・田中 光(作業療法士)
脳卒中後の男性が屋外歩行を作業療法士と安全に練習する場面
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表

田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立

結論:脳卒中後の転倒恐怖は珍しくなく、急性期では実際の転倒と小さな関連が報告されています。ただし、怖さが転倒を直接起こすとは証明されていません。運動で怖さが軽くなる可能性はありますが根拠の確実性は非常に低く、効果の持続も不明です。危険を避けつつ、大切な活動を小さな段階に分けて再開します。

「一度転んでから、歩くのが怖くなった」「転びそうで外に出られない」――脳卒中後、このような気持ちを抱える方は少なくありません。この記事では、「転倒恐怖」と実際の転倒との関係、運動で怖さが和らぐのかについて、研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します13。

脳卒中後の転倒恐怖とは

転倒恐怖(てんとうきょうふ)とは、「また転ぶのではないか」という不安や、「この動作をしても転ばずにいられる」という自信(バランスへの自信)が低下した状態を指します。脳卒中後は、麻痺やバランスの低下、実際に転んだ経験などが重なり、この不安を抱える方が少なくありません。
スウェーデンで脳卒中後の方279名を追跡した研究では、発症6か月の時点で41.9%の方が「転ぶのが怖い」と答えていました2。複数の研究をまとめたレビューでは、報告される割合は研究によって42%〜93.8%と幅があります5。転倒そのものへの対策については脳卒中後の転倒とリハビリについて解説した記事で扱っています。この記事では「怖さ」という気持ちの側面に焦点を当てます。
脳卒中後の男性が転ぶことへの不安を自宅で作業療法士に相談する場面

研究では何が分かっているか

結論から言うと、「転ぶのが怖い」という気持ちは実際の転倒と小さいながらも関連があり、運動によって怖さが和らぐ可能性が報告されています。ただし、その効果が長続きするかは分かっていません。
メタアナリシス 2024年

23件の研究(2,863名)をまとめたシステマティックレビューでは、脳卒中後に転倒恐怖がある方は、ない方と比べて転倒のリスクが約1.31倍(95%信頼区間1.14〜1.51)と、小さいながらも有意な関連がありました1。発症早期(急性期)では約1.44倍と関連がはっきりしていた一方、慢性期では関連が統計的に明確ではありませんでした(1.21倍、95%信頼区間0.96〜1.54)1。著者らは、転倒恐怖の評価を脳卒中後の支援の一部に組み込むことを勧めています1。
前向きコホート研究 2021年

先ほどのスウェーデンの研究では、6か月後の転倒恐怖と関係していた要因として、発症早期の姿勢の安定性(姿勢制御)の低さ(オッズ比2.60)と、脳卒中前の身体活動の少なさ(オッズ比2.04)が挙げられています2。つまり、バランスの状態や元々の活動量が、その後の「怖さ」にも関わっている可能性があります2。
メタアナリシス 2023年

脳卒中後の方を対象に運動の効果を調べた14件のRCT(1,211名)をまとめた研究では、運動によって転倒恐怖が和らいだと報告されています(標準化平均差0.48)3。特にバランスの点数が低い方や、週3回以上の運動で差が大きかったとされますが、エビデンスの確実性は「非常に低い」と評価されており、運動終了後3〜6か月の時点では差が見られなくなっていました3。
脳卒中以外の地域の高齢者を対象としたコクランレビュー(30件の研究)でも、運動は終了直後の転倒恐怖を「小〜中程度」和らげる可能性があり(標準化平均差0.37)、運動によって転倒が増えることはなかったと報告されています4。ただしこのレビューは脳卒中の方を対象から除いているため、参考情報としてご覧ください4。バランスの練習方法については脳卒中後のバランス訓練について解説した記事で詳しく紹介しています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
「怖いから動かない」状態が続くと、筋力やバランスがさらに低下し、かえって転びやすくなるという悪循環が起こりえます。一方で、「怖さ」は危険を知らせる大切なサインでもあり、無理に打ち消すものではありません。怖さを我慢して一人で動くのではなく、安全を確保しながら少しずつ「できた」を積み重ねることが大切です。

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

転倒恐怖の研究には、次のような限界があります。
1.転倒恐怖と転倒の関係を調べた研究の多くは一時点の調査(横断研究)で、「怖いから転ぶ」のか「転んだから怖い」のか、因果関係は確認できていないこと1
2.転倒恐怖の測り方が「はい・いいえ」の1問から、FES-I・ABCスケールといった質問票まで研究ごとに異なること15
3.運動の効果を調べた研究のエビデンスの確実性は低く、評価が自己申告のため偏りが入りやすいこと34
まだ分かっていないこと
運動で和らいだ転倒恐怖が、運動をやめた後も続くかどうかはまだ分かっていません。研究では運動終了後3〜6か月で差が見られなくなっていました3。また、どの種類の運動が最も合うのか、心理的な支援(考え方の整理など)をどう組み合わせるとよいのかも、脳卒中後の方での研究はまだ少ない段階です5。
エビデンスの質と限界
紹介した研究にはシステマティックレビューやメタアナリシスが含まれますが、その多くで「エビデンスの質は低い〜非常に低い」と評価されています13。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者の時期や重症度、運動内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。

何が変わりやすく、何は変わりにくいか

変わりやすいと報告されているもの
運動期間中〜直後の転倒恐怖・バランスへの自信(特にバランスが低めの方)3。

変わりにくい・研究ごとに差があるもの
運動終了後の長期的な転倒恐怖3、転倒の回数そのもの(転倒恐怖との関連は小さく、慢性期でははっきりしない)1。

どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

検討する場面があるケース
「転ぶのが怖くて外出や家事を控えるようになった」「一人で歩くのが不安で、家族の見守りがないと動けない」といった方では、バランスや歩行の練習を通じて怖さとの付き合い方を一緒に考える場面があります。
注意が必要なケース
実際に転倒を繰り返している方、急に歩きにくくなった・ふらつきが強くなった方、めまい・失神・血圧の変動がある方は、まず主治医に相談して原因を確認してください。気分の落ち込みや強い不安が長く続く場合は、脳卒中後の不安について解説した記事もあわせてご覧のうえ、専門職に相談することをおすすめします。

回数・頻度・期間の目安

脳卒中後の方の研究では、週3回以上の運動で転倒恐怖の差が大きかったと報告されています3。ただし、これは研究上の条件であり、体力や症状に合わせて調整が必要です。怖さが強い方では、手すりのある場所での立位練習、見守りのもとでの短い距離の歩行など、「安全に成功できる難易度」から始め、少しずつ範囲を広げていく進め方が考えられます。
脳卒中後の男性が自宅のカウンターにつかまり作業療法士と重心移動を練習する場面
脳卒中後の男性が家族と作業療法士の見守りで屋外歩行を段階的に練習する場面

まとめ|作業療法士の視点と安全上の注意

作業療法士の視点

作業療法士の視点では、怖さを点数だけで判断せず、玄関、浴室、買い物、人混み、階段など、どの場面で活動が止まっているかを確認します。手すり、杖、見守り、休憩場所を整え、本人が続けたい活動を安全な小さな段階に分けます。怖さを否定せず、実際の能力と環境の両方を評価します。

中止基準と医療機関へ相談すべき症状

練習中に胸痛、強い息切れ、失神しそうな感覚、急な麻痺・しびれ・言葉の出にくさ、普段と違う強い頭痛、強いめまい、転倒、関節の強い痛みが出た場合は中止してください。転倒後に頭を打った、意識がぼんやりする、嘔吐、立てないほどの痛みや変形がある、抗凝固薬を使用している場合は速やかに医療機関へ相談し、状況により救急要請を検討します。

「怖いから動かない」と「怖くても無理をする」の二択にする必要はありません。実際の転倒リスクを評価し、補助具や見守りを整えたうえで、本人が再開したい場面から段階づけます。恐怖が強く外出や睡眠に影響する場合は、リハビリ職だけで抱えず、主治医や心理職等への相談も選択肢です。

「転ぶのが怖い」という気持ちは、決して気の持ちようや甘えではなく、体の状態や経験から生まれる自然な反応です。研究でも、怖さと転倒には小さいながら関連があり、運動で和らぐ可能性が示されています。一方で、その効果が長く続くかはまだ分かっていません。怖さを否定せず、安全な環境で少しずつ自信を積み重ねることが大切だと考えています。
まとめ
・脳卒中後、約4割以上の方が転倒恐怖を感じているという報告があります25
・転倒恐怖と転倒には小さな関連があり、特に発症早期ではっきりしていました1
・運動で転倒恐怖が和らぐ可能性がありますが、エビデンスの確実性は低く、長期の持続は不明です3
・怖さを我慢せず、安全を確保しながら専門職と一緒に進めることが大切です

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。転倒が続く場合や体調に変化がある場合は、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年9月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。

Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ

転倒への不安や歩くときの心配について、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。

執筆・確認と運営上の立場

本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月24日に再確認しました。研究結果は個人の転倒を防ぐことや恐怖の軽減を保証するものではありません。繰り返す転倒や急な症状は医療機関へご相談ください。

田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表

執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.

よくある質問

Q. 脳卒中後に転ぶのが怖いと感じるのは普通のことですか?

はい、珍しいことではありません。研究では発症6か月後に約4割の方が転ぶのが怖いと答えていました。一人で抱え込まず、専門職に相談してください。

Q. 転ぶのが怖いと、実際に転びやすくなるのですか?

研究では、転倒恐怖がある方は転倒のリスクがやや高いという小さな関連が報告されています。ただし、怖さが原因なのか、転んだ経験が怖さにつながっているのかは分かっていません。

Q. 怖いなら、無理に歩かない方が安全ですか?

動かない期間が長くなると筋力やバランスが低下し、かえって転びやすくなる可能性があります。安全を確保したうえで、無理のない範囲から少しずつ動くことを専門職と相談するのがおすすめです。

Q. どんな運動をすると怖さが和らぎますか?

研究では歩行・バランス・筋力を組み合わせた運動などが調べられていますが、どの種類が最も合うかは分かっていません。状態に合った内容を専門職と一緒に選ぶことが大切です。

Q. 運動をやめたら、また怖くなりますか?

研究では、運動終了後3〜6か月で差が見られなくなっていました。続けやすい形で習慣にしていく工夫が大切だと考えられます。

Q. 家族はどのように声をかければよいですか?

「大丈夫だから歩いて」と怖さを否定するより、「どこが不安?」と気持ちを聞き、見守りのもとで一緒に練習する方が安心につながることがあります。関わり方は担当のセラピストに相談してください。

Q. 転倒恐怖はどうやって評価するのですか?

「転ぶのが怖いですか」という1問の質問や、FES-I、ABCスケールといった質問票が使われています。担当のセラピストに相談すると、現在の状態を確認できます。

参考文献

1. Pin TW, Winser SJ, Chan WLS, et al. Association between fear of falling and falls following acute and chronic stroke: a systematic review with meta-analysis. J Rehabil Med. 2024. PMID: 38226564
2. Hussain N, Hansson PO, Persson CU. Prediction of fear of falling at 6 months after stroke based on 279 individuals from the Fall Study of Gothenburg. Sci Rep. 2021. PMID: 34188105
3. Chiu CY, Ng MY, Lam SC, et al. Effect of physical exercise on fear of falling in patients with stroke: A systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2023. PMID: 36444416
4. Kendrick D, Kumar A, Carpenter H, et al. Exercise for reducing fear of falling in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2014. PMID: 25432016
5. Tian X, Mai YH, Guo ZJ, et al. Contributing factors and interventions for fear of falling in stroke survivors: a systematic review. Top Stroke Rehabil. 2024. PMID: 38566465

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