脳卒中後の家族が行うリハビリ|家族参加型運動の効果と限界

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の家族が行うリハビリ(家族参加型運動)とは?研究で分かっていることと限界を正直に解説

「退院後、家族の私たちも一緒に運動を手伝ったほうがいいの?」「家族がリハビリを手伝うと、本人の回復に役立つの?」——これはご家族からよく聞かれる質問です。近年、家族や介護者が本人の運動を手伝う「家族参加型運動(家族が行うリハビリ)」が研究されてきました。この記事では、家族が運動を手伝う取り組みについて、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、安全に行いやすく、ご家族が関わること自体に前向きな面がある一方、「家族が手伝えば必ず動きが良くなる」と言い切れる段階ではありません。

専門職の実演を見ながら家族と行う脳卒中後の運動
この記事の要点
・家族参加型運動とは、専門職が作った運動メニューを、ご家族や介護者が見守り・声かけ・手伝いをしながら、本人と一緒に自宅などで行う取り組みです。
・9件の研究をまとめた質の高い総説(コクランレビュー、患者と介護者333組)では、基本的な生活動作(着替えや移動など)に対する明確な上乗せ効果は示されませんでした1
・一方、立った姿勢でのバランスは家族参加型運動を行った群でやや良かったと報告されています(ただし証拠の質は低い段階です)1
・比較的新しい2つの試験では、主な目標だった移動の自己評価に差はなかったものの、本人の不安やご家族の気分に前向きな変化がみられました2,4
・11件をまとめた別の解析では、基本的な生活動作に良い方向の結果も報告されていますが、研究ごとに方法が異なります3
・全体として、家族が関わること自体は安全で介護負担を増やしにくい取り組みですが、専門職のリハビリの「代わり」ではなく「補い合うもの」と考えるのが現実的です1,2
SECTION 01
家族が行うリハビリ(家族参加型運動)とは何か

家族参加型運動(英語ではcaregiver-mediated exercise)とは、理学療法士・作業療法士などの専門職が作った運動メニューを、ご家族や介護者が見守り・声かけ・手伝いをしながら、本人と一緒に行う取り組みのことです。専門職が付き添う時間だけでなく、生活の中で運動する機会を増やすことをねらいとしています。手伝いの内容は、そばで見守って安全を確保する、回数や姿勢を声かけする、必要なところだけ体を支える、といった幅があります1

研究では、立ち座りや歩行、腕を動かす練習などを、1日30分から数時間、週2〜7日、数か月にわたって家庭や入院中に行う形が報告されています1。近年は、動画やアプリ、オンラインでの遠隔サポートと組み合わせた方法も試されています2,4。ご家族が本人を支える取り組みという点では、介護者自身の負担や気持ちを支える工夫も大切です。介護するご家族を支える視点については脳卒中後の介護者支援について解説した記事もあわせてご覧ください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、家族参加型運動は「安全に行いやすく、介護負担を増やしにくい」ことは比較的一貫して示されている一方、「本人の動作や生活の自立を確実に良くする」という強い証拠は、まだ十分ではありません。研究をみていきます。

研究から読み取れること
複数の研究をまとめた質の高い総説(コクランレビュー)では、家族参加型運動を調べた9件の研究が確認され、うち6件(患者と介護者333組)が統合されました。その結果、着替えや移動といった基本的な生活動作について、通常のケアに対する明確な上乗せの効果は示されませんでした(標準化平均差0.21、95%信頼区間 −0.02〜0.44)。一方で、立った姿勢でのバランス(バーグバランススケール)は家族参加型運動を行った群でやや良好でした(標準化平均差0.53、95%信頼区間0.19〜0.87、P=0.002)。介護者の負担が増えることもありませんでした。総説は「家族参加型運動は、リハビリの選択肢に加える価値があるかもしれない」としつつ、証拠の質は非常に低い〜中程度にとどまると評価しています1

比較的新しい2つの試験(オランダ)では、8週間の家族参加型運動を通常のケアに追加しましたが、主な目標だった移動の自己評価には差がみられませんでした。ただし、本人の不安やご家族の気分といった心理面には前向きな変化が報告されました2,4。また、11件の研究をまとめた別の解析(約2,120名)では、基本的な生活動作に良い方向の結果が報告されています(一方で不安・抑うつには差がみられませんでした)3
エビデンスの質と限界
これらの研究は、参加者が少なく、手伝いの内容・時間・期間が研究ごとに大きく異なります1,3。近年の2つの試験は、目標としていた人数を集めきれず(一方は新型コロナの影響もあり)、統計的な検出力が不足していた可能性が指摘されています。また、比較対象の通常ケアでも運動が行われるため、「家族が手伝ったこと」だけの効果を切り分けにくいという難しさもあります2,4。バランスや生活動作に良い方向の結果もありますが、証拠の質は全体に低く、研究間の差も大きいため、「家族が手伝えば必ず良くなる」と一般化することはできません1
まだ分かっていないこと
現在の研究では、家族参加型運動を「どんな運動を・1回どのくらい・週に何回・どの時期から」行うのが最も向いているのかは、十分に分かっていません1,2。どのような状態の方に最も合うのか、長期的にどう影響するか、ご家族の負担とのバランスをどう取るのが良いのかも、これからの検証課題です。心理面(本人の不安・ご家族の気分)への良い影響は複数の試験でみられていますが、これも今後さらに確かめる必要があります2,4
家族の見守りで自宅の運動を続ける様子
SECTION 03
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、家族参加型運動に現実的に期待できるのは、まず「運動する機会を増やしやすいこと」と「本人・ご家族の気持ちの面での支え」です。専門職が関わる時間には限りがあるため、生活の中で体を動かす機会が増えることには意味があります。また、ご家族が一緒に取り組むことで、本人の不安がやわらいだり、ご家族自身の気分に良い変化がみられたりした報告があります2,4。安全性の面でも、転倒などが特別に増えるという結果は示されていません1,4

一方で、「家族が手伝えば、生活動作の自立や歩行が確実に良くなる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません1,2。とくに近年の質の高い試験では、主な目標だった移動の自己評価に差が出ていません。ですから、家族参加型運動は専門職のリハビリの「代わり」ではなく、専門職が作ったメニューを土台に、生活の中で補い合う取り組みと位置づけるのが現実的です。自己管理の考え方は脳卒中後のセルフマネジメント(自己管理支援)について解説した記事、オンラインでの支援は脳卒中後の遠隔リハビリについて解説した記事もあわせて参考にしてください。

SECTION 04
どんな家庭に向いているか・注意したいこと

家族参加型運動は、退院後も家庭で運動を続けたい方、そばで支えられるご家族がいる方、専門職の訪問や通院だけでは運動量が足りないと感じている方に向いています。ご家族が本人の様子をよく知っているため、生活に合わせた声かけやタイミングの調整がしやすい利点もあります。

⚠ 気をつけたいこと
良かれと思った手伝いが、負担や事故につながることもあります。無理に動かす、痛みを我慢させる、ふらつきが強いのに一人で立たせる、といった進め方は避けてください。転倒しやすい方では、必ず支えられる位置や環境(手すり・椅子など)を整えてから行います。ご家族が頑張りすぎて疲れてしまうと長続きしません。介護負担が重くなりすぎないよう、専門職と相談しながら「無理のない範囲」を決めることが大切です。血圧が不安定な方、めまい・強い痛み・胸の症状がある方、骨がもろい方などは、始める前に主治医や担当のリハビリ専門職に相談してください。運動の種類・強さ・回数は人によって適切な範囲が異なります。
SECTION 05
家庭で取り入れるときの進め方の目安

研究では「これが正解」という決まったやり方は定まっていません1。家庭で取り入れる場合の基本は、まず、専門職が本人の状態を評価したうえで、安全にできる運動メニューを一緒に決めることです。ご家族は、そのメニューを土台に、見守り・声かけ・必要なところだけの手伝いを担います。最初は専門職に手伝い方(支える位置、危険なサイン、やめる目安)を実際に見せてもらい、まねをするところから始めると安心です。

大切なのは、量をこなすことよりも、痛みなく・安全に・続けられることです。体調やその日の疲れに合わせて回数を減らす柔軟さも必要です。動画やアプリ、オンラインでの相談を併用すると、やり方を確認しながら続けやすくなります2,4。うまくいかない日があっても、ご本人やご家族を責めないことが、長く続けるコツです。運動の内容は定期的に専門職に見直してもらい、状態に合わせて調整していきます。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
訪問の場では、ご本人だけでなくご家族にも「支える位置」「危ないサイン」「やめる目安」をその場でお伝えし、一緒に練習していただくことが多いです。ご家族が関わると、練習の様子や生活の変化を共有しやすく、声かけのタイミングも合いやすいと感じます。一方で、ご家族が張り切りすぎて疲れてしまったり、「もっとやらせたほうがいいのでは」と焦ってしまったりする場面もあります。私たちは、量を増やすことよりも、ご家族が無理なく続けられること、ご本人が痛みや不安なく取り組めることを優先し、手伝いの範囲を一緒に調整するようにしています。うまくいかない日があっても構わない、という前提でお伝えしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
ご本人の状態とご家族の手伝い方を一緒に確認しながら、無理のないリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。運動の種類・強さ・回数、ご家族が手伝う範囲は、麻痺の程度・体調・生活環境によって異なります。血圧が不安定な方、めまいや強い痛み、胸の症状がある方などはとくに注意が必要です。実施の前に、やり方を含め主治医や担当専門職に相談しながら進めてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
家族が運動を手伝うと、本人の動きは良くなりますか?
現時点では、家族参加型運動で生活動作や歩行が確実に良くなるとまでは示されていません。立った姿勢のバランスや基本的な生活動作に良い方向の結果もありますが、証拠の質は低く、研究間の差も大きいのが実情です。専門職のリハビリを土台に、生活の中で補う取り組みと考えるのがよいでしょう。
家族が手伝うと、介護の負担が増えませんか?
研究では、家族参加型運動によって介護者の負担が特別に増えるという結果は示されていません。むしろ、一緒に取り組むことでご家族の気分に前向きな変化がみられた報告もあります。ただし、無理をすると長続きしません。負担が重くなりすぎないよう、専門職と相談しながら範囲を決めてください。
どんな運動を手伝えばよいですか?
まずは専門職が本人の状態を評価し、安全にできるメニューを一緒に決めることが大切です。研究でも立ち座り・歩行・腕の運動など内容はさまざまで、決まった正解はありません。自己流で難しい運動を足すより、専門職が作ったメニューを土台に、見守り・声かけ・必要なところだけの手伝いを担うのが安全です。
どのくらいの頻度・時間で行えばよいですか?
研究では1日30分から数時間、週2〜7日と幅があり、最適な量は定まっていません。大切なのは量よりも、痛みなく・安全に・続けられることです。体調やその日の疲れに合わせて調整し、無理のない範囲から始めてください。具体的な目安は担当のリハビリ専門職に相談すると安心です。
オンラインやアプリの支援は役に立ちますか?
近年は、動画・アプリ・オンライン相談と組み合わせた家族参加型運動も試されており、やり方を確認しながら続けやすくする助けになります。ただし、これらを使えば動作が確実に良くなるという証拠はまだ限られます。困ったときにすぐ専門職に相談できる仕組みとして活用するとよいでしょう。
家族が手伝えば、専門職のリハビリは減らしてよいですか?
家族参加型運動は専門職のリハビリの「代わり」ではありません。研究でも、家族の手伝いだけで専門職のリハビリを置き換えられるとは示されていません。専門職の評価とメニュー作り、定期的な見直しを土台に、生活の中で補い合うものと考えてください。減らすかどうかは自己判断せず、担当の専門職に相談しましょう。
REFERENCES
参考文献
1. Vloothuis JDM, Mulder M, Veerbeek JM, Konijnenbelt M, Visser-Meily JMA, Ket JCF, Kwakkel G, van Wegen EEH. Caregiver-mediated exercises for improving outcomes after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016;12:CD011058. DOI:10.1002/14651858.CD011058.pub2. PMID:28002636. PMCID:PMC6463929.
2. Vloothuis JDM, Mulder M, Nijland RHM, Goedhart QS, Konijnenbelt M, Mulder H, Hertogh CMPM, van Tulder M, van Wegen EEH, Kwakkel G. Caregiver-mediated exercises with e-health support for early supported discharge after stroke (CARE4STROKE): A randomized controlled trial. PLoS One. 2019;14(4):e0214241. DOI:10.1371/journal.pone.0214241. PMID:30958833. PMCID:PMC6453481.
3. Choo WT, Jiang Y, Chan KGF, Ramachandran HJ, Teo JYC, Seah CWA, Wang W. Effectiveness of caregiver-mediated exercise interventions on activities of daily living, anxiety and depression post-stroke rehabilitation: A systematic review and meta-analysis. J Adv Nurs. 2022;78(6):1585-1598. DOI:10.1111/jan.15239. PMID:35451521.
4. Mulder M, Nikamp CDM, Prinsen EC, Nijland RHM, van Dorp M, Buurke J, Kwakkel G, van Wegen EEH. Allied rehabilitation using caregiver-mediated exercises combined with telerehabilitation for stroke (ARMed4Stroke): A randomised controlled trial. Clin Rehabil. 2024;38(11):1521-1533. DOI:10.1177/02692155241261700. PMID:39091094. PMCID:PMC11520259.