東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
研究と限界を正直に解説
パーキンソン病の方やご家族から、「食事中にむせることが増えた」「飲み込みにくさが心配」というご相談を受けることがあります。飲み込み(嚥下)の障害は、パーキンソン病の進行とともに生じやすい症状の一つで、誤嚥性肺炎のリスクにもつながるため、多くの方が気にされています。
近年、飲み込みの安全性には「呼吸のタイミング」も関わっていることが分かってきており、飲み込みの前後に息を吐くタイミングを整える「呼吸嚥下協調トレーニング」という新しいアプローチが研究されています。この記事では、その研究内容と、まだ分かっていないことを正直に整理します。
最終更新日:2026年8月16日
最新レビュー日:2026年8月16日
頻繁にむせる、食事中に咳き込む、飲み込みにくさで体重が減っている、発熱を繰り返すなどの症状がある場合は、自己判断でトレーニングを始めず、まず主治医や言語聴覚士など専門職の評価を受けてください。嚥下の障害は誤嚥性肺炎につながる可能性があり、専門的な評価が必要です。
健康な方の飲み込みでは、通常、飲み込みの前後で一瞬呼吸が止まり、飲み込んだ直後には「息を吐く」動作が続くことが多いとされています。息を吐きながら、あるいは吐いた直後に飲み込むことで、気道(空気の通り道)に食べ物や飲み物が入り込みにくくなると考えられています。
パーキンソン病では、この「呼吸と飲み込みの連携(協調)」がうまくいかず、飲み込みの直前や直後に息を吸ってしまうことがあり、これが誤嚥(食べ物や飲み物が気道に入ってしまうこと)のリスクを高める一因ではないかと考えられています。呼吸嚥下協調トレーニング(Respiratory-Swallow Training、RST)は、この「飲み込みの前後で息を吐く」というパターンを意識的に練習するアプローチです。
結論から先にお伝えすると、呼吸嚥下協調トレーニングは、単回のセッションでも飲み込みの安全性・効率性の指標を改善させたとする研究が発表されたばかりの、比較的新しいアプローチです。関連する呼気筋トレーニング(EMST)については、より以前から研究が積み重ねられています。
パーキンソン病の方23名を対象に、1回の呼吸嚥下協調トレーニングセッションの前後で、内視鏡下嚥下評価(FEES)を用いて飲み込みの安全性・効率性を比較したRCTでは、トレーニング後に安全性の指標(DIGEST Safety Grade)と効率性の指標(DIGEST Efficiency Grade)がいずれも有意に改善しました(それぞれp=0.012、p=0.010)。飲み込み前に息を吐いていた割合は62.4%から85.8%へ、飲み込み後に息を吐いていた割合は76.6%から89.6%へ、いずれも有意に増加しました1。
呼吸と飲み込みの土台となる呼気筋(息を吐く力に関わる筋肉)を鍛える呼気筋強化訓練(EMST)についても研究があります。パーキンソン病の方60名を、較正されたEMST機器を使う群と、機能を持たない見せかけの機器を使う群に分けたRCTでは、4週間(週5日、1日20分)のEMST後、誤嚥のリスクを示す指標(Penetration-Aspiration Scale)がEMST群で有意に改善しました(EMST群0.61点、見せかけ群0.43点の変化、p=0.001)2。
パーキンソン病の嚥下障害に対するリハビリテーション介入全体をまとめたコクランレビュー(18研究、1,216名)では、EMSTは見せかけの訓練と比べて4週間の訓練終了時点で飲み込みの安全性を改善する方向の結果でしたが、著者は「エビデンスの確実性は非常に低い」と評価しています。呼吸嚥下協調トレーニングを含め、この分野全体で大規模で質の高いプラセボ対照試験がまだ不足していると結論づけています3。
呼吸嚥下協調トレーニングを紹介した研究は、参加者23名の単回セッションのみを検証したものであり、複数回・長期間続けた場合にどうなるか、効果がどのくらい続くのかはまだ分かっていません。また、パーキンソン病の進行度(初期・中期・後期)によって効果に違いがあるのかも、今後の検証が必要な点です。
EMSTについても、トレーニングをやめた後にどのくらいの期間、効果が維持されるかを調べた研究では、3か月の休止後も呼気筋の力はある程度保たれる一方、飲み込みの安全性については改善する方もいれば変化がない・悪化する方もおり、維持プログラムの必要性が指摘されています。どのくらいの頻度で継続すればよいのかは、まだ確立していません。
パーキンソン病の嚥下リハビリ全体を対象にした2026年のコクランレビューでは、含まれた研究の多くが小規模かつ方法論的な限界(割り付けの隠蔽が不十分、報告が不十分など)を抱えており、EMSTを含む行動療法的アプローチについて「エビデンスの確実性は非常に低い」とはっきり述べられています3。呼吸嚥下協調トレーニングの研究も、参加者数が少ない単回セッションの試験であり、日常生活での誤嚥性肺炎の発生率そのものが減るかどうかまでは、この研究だけでは分かりません1。
2010年のEMST研究も、対象者は「嚥下障害が軽度〜中等度」の方が中心であり、より重度の嚥下障害がある方への当てはまりやすさは検証されていません2。研究結果をすべてのパーキンソン病の方に同じように当てはめることはできない、という前提で読んでいただく必要があります。
呼吸嚥下協調トレーニングは、専門的な内視鏡検査(FEES)を使いながら実施された研究であり、家庭で自己流に真似をすることはおすすめできません。安全性の評価や個別の指導は、言語聴覚士など専門職のもとで受けることが基本になります。
・飲み込みにくいと感じる食品が増えていないか
・声がガラガラする、痰がらみが増えていないか
・食事に時間がかかるようになっていないか
・原因不明の体重減少や発熱がないか
飲み込みの症状そのものについては、パーキンソン病の嚥下障害について解説した記事で全体像を整理しています。呼吸と嚥下は密接に関わっているため、パーキンソン病の呼吸筋トレーニングについて解説した記事もあわせてご覧いただくと、全体像がつかみやすくなります。
気になる変化がある場合は、まず主治医に相談し、必要に応じて嚥下機能の評価(内視鏡検査や造影検査など)を受けたうえで、専門職と一緒に安全な食べ方・トレーニング内容を検討することをおすすめします。
Journey Rehabでは、パーキンソン病の方にむせや飲み込みにくさがある場合、自己流のトレーニングを勧める前に、症状の変化、体重、発熱、食事時間、声の変化などを確認し、主治医や言語聴覚士による評価につなぐことを優先します。
訪問リハビリの立場では、専門的な嚥下評価そのものは行えないため、気になる変化があれば主治医や言語聴覚士への相談を早めにご案内し、日常生活の中での姿勢や食事のペース、呼吸のしやすさといった部分から、できる範囲のサポートを考えるようにしています。
呼吸嚥下協調トレーニングは、飲み込みの前後で息を吐くタイミングを整えることで、飲み込みの安全性・効率性を高める可能性がある新しいアプローチです。単回のセッションで指標の改善が報告されていますが、研究はまだ少なく、長期的な効果や誤嚥性肺炎そのものへの影響は分かっていません。気になる症状がある場合は、自己流で試すのではなく、専門職による評価を受けたうえで検討することが大切です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。嚥下の評価とトレーニング内容は個別に異なり、専門職による評価が必要です。頻繁なむせ、体重減少、発熱を繰り返す場合は、医師や言語聴覚士などの専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
