
この記事の結論
「歩くのが遅くなってきた。どの運動をすればいい?」「ダンスと筋トレ、どちらが歩くのに役立つの?」。パーキンソン病の方やご家族にとって、運動の種類や量は気になる点です。
この記事では、ひとつの運動方法の紹介ではなく、「歩く速さや歩く力に、どの種類の運動が、どのくらいの量で関わるのか」に焦点を当て、多くの運動を一度に比べた研究(ネットワークメタ分析)をもとに、分かっていることと限界を整理します。
目次
パーキンソン病の「歩く速さ」とネットワークメタ分析とは?
パーキンソン病の歩行障害とは、脳内のドパミンという物質が減ることで、歩幅が小さくなる、歩くのが遅くなる、足が出にくくなるなどの変化が起こる状態です1,2。
歩く速さ(歩行速度)は、外出や買い物などの生活のしやすさと関わる大切な指標で、研究では10mなどの決まった距離を歩く時間から測られます1。立ち上がって3m歩き、戻って座るまでの時間を測るTUG(Timed Up and Go)テストや、6分間に歩ける距離を測る6分間歩行テスト(6MWT)もよく使われます2,3。
ネットワークメタ分析(Network meta-analysis)とは、「AとB」「BとC」のように別々に行われた試験の結果をつなぎ合わせ、直接比べていない運動どうしも含めて、多くの種類を一度に比べる方法です1,2。たくさんの選択肢を比べられる一方で、間接的な比較を含むため、順位の結果には幅があります2。

研究では、どの運動が歩く速さに関わる?
結論から言うと、ひとつの運動だけが特別というより、有酸素運動・複数の要素を組み合わせた運動・筋力トレーニング・感覚を使う運動・心と体をつなぐ運動など、複数の種類で歩く速さが上がる傾向が報告されています1。
パーキンソン病の方を対象に、運動の種類と「量」が歩く速さとどう関わるかを調べた分析です1。運動の量は、運動の強さ(METs:安静時の何倍のエネルギーを使うかの単位)×時間×週の回数で表す「METs・分/週」で計算されました1。
歩く速さが最も大きく上がる傾向がみられたのは有酸素運動で、週1,400METs・分前後のときでした(標準化平均差1.22)1。複数の要素を組み合わせた運動と感覚を使う運動は週1,000METs・分前後、筋力トレーニングは週750METs・分前後、太極拳やヨガなどの心と体をつなぐ運動は週500METs・分前後で、それぞれ最もよい傾向がみられました1。
一方、バランス・歩行練習とダンスは、この分析ではどの量でも歩く速さのはっきりした変化はみられませんでした1。また、どの種類も、研究者がデータのばらつきから推定した、意味のある変化の目安(歩く速さで秒速0.19〜0.23m程度。全員に共通する基準ではありません)には、はっきり届いていませんでした1。
・複数の要素を組み合わせた運動(週1,000METs・分前後)1
・感覚を使う運動(週1,000METs・分前後)1
・筋力トレーニング(週750METs・分前後)1
・心と体をつなぐ運動(週500METs・分前後)1
・実感できる目安とされる変化に届くこと(どの種類でも、はっきりしませんでした)1
別の研究でも、同じ結果になる?
別のネットワークメタ分析では、ダンスが立ち歩きの速さ(TUG)で上位になるなど、「一番よい運動」の順位は研究によって入れ替わっています2。
歩行練習、ダンス、ノルディックウォーキング、水中運動、筋力トレーニング、気功、ヨガなど12種類の運動を比べた分析です(2025年12月までの研究を対象)2。
立ち歩きの速さ(TUG)は、ダンスで平均3.11秒、VR(バーチャルリアリティ)を使った練習で2.48秒、気功で1.54秒短くなり、ダンスが最も上位でした2。6分間歩行テストでもダンスが順位上は最上位でしたが、順位だけで他の運動より優れていると断定はできません2。運動症状の点数(UPDRS-III)は歩行練習、バランスの点数はノルディックウォーキングが最も上位でした2。
バランスと動きやすさに関わる8種類の運動を比べた分析です3。TUGでは、バランス練習、筋力トレーニング、持久力を含む感覚運動練習、太極拳・ヨガ・気功など、呼吸・姿勢・ストレッチ・瞑想を組み合わせた運動で、対照群より短くなる結果でした3。研究者らは、バランス練習を中心に、複数の種類の運動が役立つ可能性があるとまとめています3。
このように、測る指標(歩く速さ・TUG・歩ける距離)や、含める研究が違うと、上位になる運動も変わります1,2,3。順位よりも、「いくつもの種類の運動が、歩く力の一部に関わる可能性がある」と受け止めるのが現実的です。ダンスについてはパーキンソン病のダンスについて解説した記事で詳しく紹介しています。
どのくらいの量・頻度で行う?
2025年の分析からは、運動の種類ごとに「ちょうどよい量」が異なる可能性が示されていますが、個人に合わせた調整が前提です1。
週の回数や1回の時間の考え方はパーキンソン病のリハビリの頻度について解説した記事でも紹介しています。

どんな人は注意が必要?
運動は多くの方にとって大切ですが、次のような方は、種類や量を医師・リハビリ専門職と相談してから始めることが大切です。
研究で示された変化は集団の平均で、どの種類の運動でも、実感できる目安とされる変化にはっきり届いたとはいえません1。
運動中に胸の痛み、息切れ、めまい、転倒などがあれば中止してください。強い呼吸困難や胸の圧迫感、腕・背中・首・あごへ広がる痛みがあるときは、通常の診察を待たず救急対応が必要です。日本では119番へ連絡してください。それ以外の症状も主治医に相談し、再開の可否を確認しましょう4。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
2025年の分析では、54件中22件(40%)が偏りのリスクが低い研究で、20件(38%)は不明確、12件(23%)は高いと評価されました1。対象は平均年齢50歳以上・Hoehn–Yahr分類4未満などの条件があり、進行した病期へそのまま当てはめられません。また、本文の一部には有酸素運動の量を1,500とする記載もあり、1,400という数値は要旨・結果・結論に基づく研究上の推定値です。運動の強さ(METs)は平均的な値から定めたもので、年齢・体力・病気の進み具合による個人差は反映されていません1。
2026年の分析では、運動の時間や頻度が研究ごとに大きく異なり、量の分析は行われていません2。病気の進行度を報告していない研究もあり、症状が軽い方にだけ当てはまるのかどうかは判断できないとされています2。
2024年の分析では、同じ種類に分類された運動でも内容が大きく異なり、比べる相手(対照群)の内容もさまざまで、研究間のばらつきが大きく、TUGの筋力トレーニングと対照群の直接比較には出版バイアスもみられたことが限界とされています3。
どんな人に向いている?
研究結果からは、歩く速さを意識したい方には、体力に合った有酸素運動や、複数の要素を組み合わせた運動が選択肢になると考えられます1。
作業療法士の視点
最新の研究のまとめからは、有酸素運動をはじめ複数の種類の運動で歩く速さが上がる傾向が報告されています1。一方で、実感できる変化に届いたといえる種類ははっきりせず、「一番よい運動」の順位も研究によって変わります1,2。
大切なのは、順位にこだわりすぎず、ご本人が続けやすい運動を選び、量を少しずつ調整しながら、歩く速さなどを定期的に確かめていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動中に胸の痛み、息切れ、めまい、転倒などがあれば中止してください。強い呼吸困難や胸の圧迫感、腕・背中・首・あごへ広がる痛みがあるときは、通常の診察を待たず救急対応が必要です。日本では119番へ連絡してください。それ以外の症状も主治医に相談し、再開の可否を確認しましょう4。運動や薬の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. パーキンソン病で歩く速さを保つには、どの運動がよいですか?
A. 有酸素運動、複数の要素を組み合わせた運動、筋力トレーニングなど、複数の種類で歩く速さが上がる傾向が報告されています1。研究によって上位になる運動は変わるため、続けやすさや体力に合わせて選ぶことが大切です2。
Q. 有酸素運動はどのくらいの量が目安ですか?
A. 54件の研究のまとめでは、週1,400METs・分前後で歩く速さが最も上がる傾向がありました1。強さ×時間×回数で計算する目安で、個人差を反映していないため、少なめから始めて主治医やリハビリ専門職と調整します1。
Q. ダンスは歩くのに役立ちますか?
A. ダンスが歩くのに役立つかは、研究によって結果が分かれており、まだはっきりしていません1,2。2026年の分析ではダンスが立ち歩きの速さ(TUG)で最も上位でしたが、2025年の分析では歩く速さのはっきりした変化はみられませんでした1,2。
Q. 筋力トレーニングでも歩く速さは変わりますか?
A. 筋力トレーニングでも、週750METs・分前後で歩く速さが上がる傾向が報告されています1。立ち歩きの速さ(TUG)が短くなる結果も別の分析で示されていますが、研究間のばらつきは大きい状態です3。
Q. どのくらい続ければ変化が分かりますか?
A. 2026年の分析に含まれた研究の期間は3週間のものから24か月のものまであり、12週間など数か月の研究が多く含まれていました2。ただし変化の大きさや時期には個人差があるため、数週間ごとに歩く速さを測って確かめるのがおすすめです。
Q. 運動の順位が研究によって違うのはなぜですか?
A. 測る指標や含めた研究、運動の分け方が研究ごとに違うためと考えられます1,2,3。ネットワークメタ分析は間接的な比較も含むため、順位はあくまで目安として受け止めることが大切です2。
参考文献
4. NHS. Shortness of breath. 公式資料