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脳卒中後の手の麻痺に、rTMSとtDCSはどちらがよい?脳刺激の種類を比べた研究と限界を正直に解説

自費リハビリ情報 読了目安 約11分 文・
脳卒中後の腕の回復と脳刺激の種類による違いを紹介する画像
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

この記事の結論

脳卒中後の手や腕の麻痺に対する7種類の脳刺激を比べた2025年のネットワークメタ分析(28件・1,340人)では、高頻度rTMS・低頻度rTMS・陽極tDCSなどが偽の刺激より良い結果でしたが、この分析の腕の運動機能評価では、方法どうしの間にはっきりした差はありませんでした1。55件の分析では約95%の方が最後まで続けられていました3。「どれが一番か」はまだ決められない段階です。

「rTMSとtDCS、どちらを受ければいいの?」「病院によって勧められる方法が違うのはなぜ?」。手や腕の麻痺に対する脳刺激について調べていると、方法の多さに迷ってしまう方も多いと思います。

この記事では、手や腕の麻痺に対する脳刺激の「種類どうしの比較」に絞って、複数の方法を同時に比べたネットワークメタ分析をもとに、方法による違い、続けやすさと安全性、まだ分かっていないことを整理します。

目次

手の麻痺に使われる脳刺激にはどんな種類がある?

手の麻痺に対する脳刺激(非侵襲的脳刺激:Non-Invasive Brain Stimulation、NIBS)とは、手術をせずに頭の外から磁気や弱い電流を当て、腕や手の動きに関わる脳の働きを調整して、リハビリの練習を後押ししようとする方法です1,3。

rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)
頭に当てたコイルから磁気を繰り返し流す方法。損傷した側の活動を高めることを狙う「高頻度rTMS」、反対側の活動を抑えることを狙う「低頻度rTMS」、両方を組み合わせる「両側rTMS」があります1,2
TBS(シータバースト刺激)
rTMSの一種で、短い刺激をまとめて与える方法。iTBSには1回200秒ほどの方法があります。活動を高めることを狙う「iTBS」と抑えることを狙う「cTBS」があり、時間や反応は方法・個人で異なります1
tDCS(経頭蓋直流電気刺激)
頭に貼った電極から弱い電流を流す方法。活動を高めることを狙う「陽極tDCS」、抑えることを狙う「陰極tDCS」、両側に当てる方法などがあります1

一つひとつの方法については、脳卒中後のrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)について解説した記事と、脳卒中後のtDCSと手の麻痺について解説した記事で紹介しています。

「ネットワークメタ分析」とは、AとBを直接比べた研究だけでなく、AとC、BとCのように共通の比較相手(偽の刺激や通常のリハビリなど)を持つ研究も組み合わせて、複数の方法を一度に比べる分析方法です1。

専門職と机を囲んで相談する男性のイメージ
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

研究では、どの方法がよいと分かっている?

結論から言うと、28件の分析では、腕の運動機能でいくつかの方法が偽の刺激や通常のリハビリより良い結果でしたが、この評価での方法どうしの差は明確ではありません1。「順位」は出ていますが、確かな優劣とまでは言えない段階です。

ネットワークメタ分析 2025年(7種類・28件・1,340人)

手や腕の麻痺がある脳卒中の方を対象に、高頻度rTMS・低頻度rTMS・iTBS・cTBS・陽極tDCS・陰極tDCS・両側tDCSの7種類を比べた28件のランダム化比較試験をまとめた研究です1。

腕の運動機能(FMA-UE、66点満点)では、偽の刺激と比べて、高頻度rTMSが平均5.4点(95%信用区間0.96〜9.7)、低頻度rTMSが4.1点、陽極tDCSが3.8点高い結果でした1。「一番よい」確率が最も高かったのは高頻度rTMSでしたが、cTBSなど上位の方法との差は統計的にはっきりしませんでした1。日常生活動作(Barthel Index)では陽極tDCSが両側tDCSより良い結果でした。細かい手の動き(ARAT)ではiTBSが上位でしたが、これらは研究数が少ない結果です1。

出典:Zheng Y, et al. Front Neurol. 2025
ネットワークメタ分析 2025年(発症1か月以内・37件)

発症から1か月以内に脳刺激を始めた37件の研究をまとめた分析では、高頻度と低頻度を組み合わせて左右の脳に行う「両側rTMS」が、刺激を終えた時点と3か月後の腕の運動機能、日常生活動作で最も上位でした2。

一方、脚の運動機能では、どの方法も偽の刺激との差がはっきりしませんでした2。両側rTMSは一部の方法より良い結果も示しましたが、TBSなど人数の少ない方法もあり、全員に最適と断定できません2。

出典:Ni X, et al. Neurol Sci. 2025
ネットワークメタ分析 2026年(続けやすさ・安全性・55件・2,640人)

手や腕の麻痺に対する脳刺激の55件・2,640人をまとめ、最後まで続けられた割合と副作用を比べた研究です3。刺激を受けた群の完了率は94.9%で、比較群(95.3%)とほぼ同じでした。ただし「完了」には全回参加のほか、80%以上の参加や最終解析への参加とする研究も含まれます3。方法どうしの完了率にも、はっきりした差はありませんでした3。

有害事象を報告した42件では、刺激を受けた群の推定割合は16.4%(比較群6.5%)でしたが、多くは軽い頭痛や皮膚のピリピリ感で、副作用のためにやめた方は1.1%でした3。重い副作用は1件の研究のみで、rTMSの群で2件のけいれん発作が報告されています3。

出典:Sun J, et al. Front Neurol. 2026
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと

脳刺激は、それだけで手が動くようになる方法ではありません。研究の多くは、刺激と同じ時期に手や腕の練習を行っています1,2。また、「順位が上」であることは「その方法が確実に勝っている」という意味ではありません1,3。

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?

エビデンスの質と限界

7種類を比べた分析では、28件のうち何らかの盲検化の方法が記載されていたのは13件で、方法によっては研究数が少なく(細かい手の動きは6件、筋肉のこわばりは9件)、結果が不安定になりやすいと著者自身が述べています1。方法どうしを直接比べた研究は少なく、多くは間接的な比較です1。

発症早期の分析でも、刺激の期間・場所、脳卒中の重さが研究ごとに異なり、TBSの参加人数は少数でした。また、この論文は抄録と本文で総人数の記載が異なります2。続けやすさの分析では、4つの方法が1件の研究だけにもとづいており、順位は「仮説を立てる手がかり」として扱うよう注意されています。有害事象の報告方法にも大きな違いがあり、単純な安全性の順位づけはできません3。

まだ分かっていないこと
・ どの方法が、どんな方(麻痺の重さ・発症からの時期・損傷の場所)に最も合うのか1,2
・ 最適な刺激の強さ・回数・期間2
・ 刺激を終えて数か月以上たっても差が続くか(3か月以上の追跡は少ない)2
・ 方法どうしを直接比べた、大規模な試験での結果1

何が変わりやすく、何は変わりにくい?

研究をまとめると、「腕の運動機能(FMA-UE)」では多くの方法で良い結果が出ている一方、方法間の差は評価項目や発症時期で異なり、一律の優劣は決められません1,2。

良い結果が報告されているもの
偽の刺激や通常のリハビリと比べた腕の運動機能(高頻度rTMS・低頻度rTMS・陽極tDCSなど)1、発症早期の両側rTMSでの腕の運動機能・日常生活動作2
差がはっきりしないもの
28件の分析での腕の運動機能に関する方法間比較(rTMSとtDCS、高頻度と低頻度など)1、方法ごとの続けやすさ3
不確かさが大きいもの
細かい手の動きや筋肉のこわばりでの方法の違い(研究数が少ない)1、長期の経過2

腕の運動機能の評価(FMA-UE)やARATについては、脳卒中後の上肢機能の評価指標について解説した記事で紹介しています。

どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?

研究の対象は、手や腕に麻痺があり、刺激と並行してリハビリの練習を続けられる方が中心でした1,2。どの方法を選ぶかは、実施できる医療機関や医師の判断によって決まります。

検討される可能性がある方
・手や腕の麻痺があり、練習を続けられる方1
・発症早期から回復期・生活期まで、さまざまな時期の方で研究されています1,2,3
注意が必要なケース
・てんかん発作を起こしたことがある方(rTMSではけいれん発作の報告があり、注意が必要とされています)3
・頭痛や皮膚のピリピリ感が気になる方(研究をまとめた有害事象の推定割合はtDCSで26.6%、rTMSで11.1%。条件の違う研究の集計であり、この数字だけで安全性の優劣は決められません)3
・頭の中に金属がある方や、ペースメーカーなどの機器を使っている方

どのくらいの回数・期間で行う?

研究では、刺激を週4〜6回、2〜8週間ほど続ける方法が多くみられました1。方法によって1回の時間も異なります。

研究で用いられた方法の例(医療機関での実施条件であり、自己実施の手順ではありません)
1. 低頻度rTMS:1回20分、週4回を4週間(1,200発)1
2. iTBSの一例:1回200秒ほど、週5回を2〜3週間1
3. tDCS:この分析の表では2〜6週間、手や腕の練習と組み合わせて実施1
4. 発症早期の研究では、発症から1か月以内に刺激を始め、刺激終了時と3か月後に評価2

「どの方法か」と同じくらい大切なのが、刺激と組み合わせる練習の中身です。研究の多くは手や腕の練習を併用しています。生活で使いたい動作へのつなげ方は、担当者と個別に相談します1,2。

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作業療法士の視点

手の麻痺に対する脳刺激は、いくつかの方法で偽の刺激より良い結果が報告されていますが、「rTMSとtDCSのどちらが優れているか」は、今の研究でははっきり決められません1。研究参加者の完了率は高い一方、けいれん発作の報告や有害事象の把握方法の違いがあり、安全性の個別評価は欠かせません3。

方法の名前にこだわりすぎるよりも、受けられる医療機関で医師と相談して決め、刺激の時期に合わせて「生活で使いたい手の動き」を練習していくことが大切だと考えています。

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まとめ

・ 手の麻痺に対する脳刺激には、rTMS(高頻度・低頻度・両側)、TBS、tDCSなどの種類があります
・ 7種類を比べた28件・1,340人の分析では、高頻度rTMS・低頻度rTMS・陽極tDCSなどが偽の刺激より良い結果でした1
・ 一方、この28件の分析の腕の運動機能では方法間の差は明確でなく、順位は確かな優劣を示すものではありません1,3
・ 55件・2,640人の分析では約95%が最後まで続けられ、副作用の多くは軽い頭痛や皮膚の感覚でした3
・ どの方法が誰に合うか、最適な回数、長期の経過はまだ分かっていません1,2
免責事項

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。脳刺激治療を受けるかどうか、どの方法を選ぶかは、必ず主治医にご相談ください。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。

よくある質問

Q. rTMSとtDCSは、どちらが手の麻痺によいですか?

A. 紹介した28件の分析の腕の運動機能評価では、rTMSとtDCSの間にはっきりした差は示されていません1。どちらも偽の刺激より良い結果が報告されており、受けられる医療機関と医師の判断で選ぶことになります。

Q. いちばん効果が期待できる方法はどれですか?

A. 腕の運動機能では高頻度rTMSが「一番よい確率」が最も高い方法でしたが、他の上位の方法との差ははっきりしていません1。順位は目安であり、確実な優劣ではありません。

Q. 両側rTMSとはどんな方法ですか?

A. 損傷した側の脳を高頻度で、損傷していない側を低頻度で刺激する、2つを組み合わせた方法です2。発症1か月以内の研究では、腕の運動機能や日常生活動作で最も上位でした。

Q. 脳刺激の副作用はありますか?

A. 刺激を受けた方の約16%に副作用がみられましたが、多くは軽い頭痛や皮膚のピリピリ感でした3。副作用でやめた方は約1%で、rTMSではまれにけいれん発作の報告があります。

Q. 途中でやめてしまう人は多いですか?

A. 55件の研究をまとめた分析では、刺激を受けた方の約95%が最後まで続けられていました3。比較群とほぼ同じ割合で、刺激が理由で続けにくくなる傾向はみられませんでした。

Q. 脳刺激だけで手は動くようになりますか?

A. 脳刺激だけで麻痺した手が動くようになると保証できる研究結果は、今のところありません。研究の多くは刺激と同じ時期に手や腕の練習を行っており、練習と組み合わせることが前提です1,2。

参考文献

1. Yin Zheng, Jiazhen Liu, Xuxin Zhang, Jiani Xiaほか. Efficacy comparison of seven non-invasive brain stimulation techniques for upper limb motor dysfunction after stroke: a Bayesian network meta-analysis and systematic review. Frontiers in neurology. 2025. PubMed DOI 公開本文
2. Xueyi Ni, Zinan Yuan, Ruimou Xie, Xiaoxue Zhaiほか. Comparison of the efficacy of different protocols of repetitive transcranial magnetic stimulation and transcranial direct current stimulation on motor function, activities of daily living, and neurological function in patients with early stroke: a systematic review and network meta-analysis. Neurological sciences : official journal of the Italian Neurological Society and of the Italian Society of Clinical Neurophysiology. 2025. PubMed DOI 公開本文
3. Juan Sun, ZiLe Wang, Yiming Huang, Yilin Duほか. Completion rate and safety of non-invasive brain stimulation for upper limb dysfunction after stroke: a systematic review and network meta-analysis. Frontiers in neurology. 2026. PubMed DOI 公開本文
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