
この記事の結論
「倒れたときの場面が、ふとした瞬間に何度もよみがえる」「また発作が起きるのが怖くて、一人で外に出られない」「病院の話になると、胸がドキドキする」。脳卒中のあと、体の後遺症とは別に、こうした心のつらさを抱える方がいます。
脳卒中は、命の危険を感じるほどの突然の出来事です。そのため、事故や災害のあとと同じように、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出ることがあると分かってきました1,2。この記事では、どのくらいの方に起こるのか、生活にどう影響するのか、どこに相談すればよいのかを、研究で分かっていることと分かっていないことに分けて整理します。
目次
脳卒中後のPTSDとは?
脳卒中後のPTSD(心的外傷後ストレス障害:Post-Traumatic Stress Disorder)とは、脳卒中という命に関わる出来事をきっかけに、その記憶がよみがえる、思い出させるものを避ける、気分や考え方が否定的になる、緊張や興奮が続く、といった症状が1か月以上続き、強い苦痛や生活への支障がある状態です1。
脳卒中のあとは、気分の落ち込み(うつ)や不安もよくみられ、PTSDと重なって起こることも少なくありません2。不安とその対処については、脳卒中後の不安と運動療法について解説した記事でも紹介しています。

研究では、どのくらいの人に起こると分かっている?
結論から言うと、研究によって数字に幅はあるものの、脳卒中を経験した方の「おおよそ7〜8人に1人」程度にPTSDの症状がみられると報告されています1,2。
脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)から1か月以上たった方を対象に、その発作が原因のPTSDを調べた9件の研究(アメリカ・ヨーロッパ、平均64.5歳)をまとめた研究です1。
PTSDの割合は全体で13%(95%信頼区間11〜16%)でした1。発症から1年以内に調べた研究では23%(16〜33%)、1年以上たってから調べた研究では11%(8〜14%)と、時期によって差がありました1。また、質問票で調べた研究では28%、専門家の面接で診断した研究では6%と、調べ方によっても大きく異なりました1。
くも膜下出血を除く脳卒中・TIAの方を対象にした20報(17集団)をまとめたレビューです。頻度の推計は、そのうち17報・14集団の1,455人に基づきます2。PTSDの割合は2.9〜31%と幅があり、重みづけした平均は16.5%、統計的に統合した推計では14.2%(95%信頼区間9.0〜20.3%)でした2。
症状の強さの平均値は、多くの研究で軽度〜中等度でした2。また、多くの研究で症状は長引きやすい(慢性的な経過をたどる)とされた一方、3か月時点でPTSDがあった方のうち、発症12か月時点には43%・71%が改善していたという研究もありました2。このレビューの検索時点(2020年5月)までは、脳卒中後のPTSDの治療研究は含まれていませんでした2。その後、2022年にはPTSDのある18人を割り付けた小規模試験で、支持的な心理療法による症状改善が報告されました。ただし、治療の評価を終えたのは17人で、単施設・治療後1か月までの追跡です。誰にどの治療が適しているかを決められる段階ではありません4。
ここでの割合は、主に質問票で「PTSDの可能性がある」とされた方の割合で、医師が診断した数とは異なります1。症状に心当たりがあっても、自己判断で「PTSDだ」と決めつけず、つらさが続くときは専門家に相談してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
含まれた研究の多くは、ある一時点だけを調べた研究(横断研究)で、人数も少なく、入院中の方を中心に集めていました1,2。2013年のメタ分析では、1つの研究が参加者全体の約半分を占めていました1。
また、PTSDを調べる質問票は、脳卒中の方で十分に検証されていないものが多く、使われた質問票や調べた時期も研究ごとにばらばらです1,2。そのため、数字はあくまで目安で、すべての方に同じ割合で当てはまるわけではありません。
PTSDがあると、生活の何に影響しやすい?
PTSDの症状がある方では、生活の質が低い、薬を指示どおりに飲めていない、体の機能が低い、といった傾向が報告されています1,2,3。ただし、これらは「関連がある」ことを示したもので、PTSDが原因でそうなったとまでは言えません。
「また起きるのが怖い」という気持ちから、外出や運動を避けるようになることもあります。再発を防ぐための薬を続けることも大切なため、気持ちのつらさは体のケアと同じくらい大切にしたいポイントです。
どんな人は注意が必要?
2020年までの研究をまとめたレビューでは、うつ・不安や発症の受け止め方などとPTSDとの関連が報告されています2。これは本人の弱さや責任を意味せず、脳卒中の重症度が関係しないと断定することもできません。
・「また起きるに違いない」と再発の危険を強く感じている2
・発症の出来事を否定的に受け止めている2
・不安を感じやすい性格傾向、うまく対処しにくいと感じる2,3
・年齢が若い(研究によって結果が分かれる)2,3
・入院期間の長さや受けた治療2
・認知機能の低下2
一方で、心理的ストレス全般を含む研究では、介護者がいることとストレスの強さの関係は一様ではなく、支え方の工夫が大切だと考えられます3。ご家族の負担や支え方については、脳卒中後の家族・介護者支援について解説した記事で紹介しています。
いつ、どこに相談すればよい?
発症の場面がよみがえる、避けたい気持ちが強いなどの状態が1か月以上続き、眠りや外出、日常生活に影響しているときは、主治医に相談するタイミングです1。つらさが強い場合は、1か月を待たずに相談してください。研究者は、脳卒中後の診察の中で、PTSDの症状を日常的に確認するよう提案しています2。
気分の落ち込みに対する心理療法については、脳卒中後のうつと心理療法について解説した記事でも紹介しています。

作業療法士の視点
脳卒中のあとのPTSDは、研究によって幅はあるものの、決して珍しいものではないと報告されています1,2。一方で、その多くは質問票による推計で、脳卒中後のPTSDの最適な治療法はまだ確立していません2,4。
体のリハビリを進めるうえでも、「怖い」「思い出してつらい」という気持ちは大切な情報です。ひとりで抱え込まず、主治医やリハビリの担当者に伝えて、必要な専門家につないでもらうことが、安心して生活を広げていく第一歩になると考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。心の症状が続く場合や、つらさが強い場合は、主治医や精神科・心療内科などの専門家にご相談ください。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中のあとにPTSDになることはありますか?
A. はい、命に関わる出来事である脳卒中のあとに、PTSDの症状が出ることがあると報告されています。9件の研究をまとめたメタ分析では、全体で13%、発症1年以内では23%の方にみられました1。
Q. 倒れたときのことを何度も思い出すのはPTSDですか?
A. 思い出してつらい状態が1か月以上続き、生活に影響している場合は、PTSDの可能性があります1。ただし自己判断はせず、主治医や専門家に相談して確かめることが大切です。
Q. 脳卒中後のPTSDは自然に良くなりますか?
A. 時間とともに良くなる方もいますが、症状が長引く方も少なくないと報告されています2。3か月時点でPTSDがあった方の43%・71%が発症12か月時点に改善したという研究がある一方、多くの研究で慢性的な経過とされています。
Q. どこに相談すればよいですか?
A. まずは主治医(かかりつけ医・脳神経内科など)に「発症のことを思い出してつらい」と具体的に伝えてください。必要に応じて、精神科・心療内科や心理の専門家を紹介してもらえます。
Q. PTSDがあると、リハビリや生活に影響しますか?
A. PTSDの症状がある方では、生活の質の低さや薬の飲み忘れ、体の機能の低さとの関連が報告されています1,2。気持ちのつらさは、リハビリの担当者にも伝えてください。
Q. 脳卒中が重い人ほどPTSDになりやすいですか?
A. 2020年までの研究をまとめたレビューでは、脳卒中の重さや種類との関連は一定していませんでした2。重症度が関係しないと断定することはできません。うつや不安、再発への強い不安といった心理的な要因との関連が報告されています。
Q. 家族として何ができますか?
A. 話を否定せずに聞き、つらさが続くときは受診や相談を一緒に考えることが助けになります。周囲からの支えが十分にあることは、PTSDの起こりにくさと関連していました2。
参考文献
4. Che Jiang, Zhensheng Li, Chenggang Du, Xiwu Zhangほか. Supportive psychological therapy can effectively treat post-stroke post-traumatic stress disorder at the early stage. Frontiers in neuroscience. 2022. PubMed DOI 公開本文