
この記事の結論
「疲れてしまって、歩く練習をたくさんはできない」「頭の中で歩くイメージをするだけでも意味があるの?」。脳卒中のあと、体力や安全面から実際に歩く練習の量を増やしにくい時期に、こうした疑問を持つ方もいるでしょう。
この記事では、歩くことを目的にした運動イメージ(頭の中で歩く動きを思い浮かべる練習)について、複数の研究をまとめたコクランレビューやメタ分析、実際の練習方法が詳しく書かれたランダム化比較試験をもとに、分かっていることと分かっていないことを整理します。
目次
歩行のための運動イメージとは?
運動イメージ(Motor Imagery:MI)とは、実際には体を動かさずに、頭の中で動作を思い浮かべて練習する方法です4。動きを思い浮かべているときには、実際に動かすときと重なる脳の運動に関わる領域が働くことが報告されています4。
歩行を目的にした運動イメージでは、座って目を閉じ、「自分の目線で歩いている景色」を思い浮かべる見え方のイメージ(視覚イメージ)や、「足を前に出す・体重を乗せる感覚」を思い浮かべる体の感覚のイメージ(運動感覚イメージ)を行います3。多くの研究では、運動イメージだけでなく、実際に歩く練習と組み合わせています1。
手や腕の動きを目的にした運動イメージについては、脳卒中後の運動イメージ療法について解説した記事で紹介しています。この記事では「歩くこと」に絞って整理します。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、運動イメージを加えると歩く速さなどで良い結果が報告されている一方、研究の質が低いものが多く、確かな結論には至っていません1,2。
急性期から生活期まで、歩行に何らかの障害がある脳卒中の方を対象にした21件の研究(合計762人)をまとめた研究です1。練習期間は2〜8週間で、多くは運動イメージと実際の練習を組み合わせていました1。
他の練習と比べて、終了直後の歩く速さはやや良い結果でした(6件・191人、標準化平均差0.44)1。一方、下肢の運動機能(3件・130人)や移動能力(4件・116人)では差がはっきりしませんでした1。21件中20件で偏りのリスクが高い項目があり、結果の確かさは「非常に低い」と評価されています1。
通常のリハビリに運動イメージを加えた場合と、通常のリハビリのみを比べた23件のランダム化比較試験(合計1,109人)をまとめた研究です2。
下肢の運動機能(FMA-LE:Fugl-Meyer Assessment 下肢項目、12件・681人)、歩行の自立度(FAC:Functional Ambulation Category、7件・426人)、歩く速さ(8件・345人)などで、運動イメージを加えた群が良い結果でした2。結果の確かさは、下肢の運動機能が「中程度」、歩行の自立度や歩く速さが「低い」、バランスが「非常に低い」と評価されています2。
発症3〜12か月で、10m以上歩ける40人を2群に分けた試験です3。両群とも65分のサーキット形式の歩行練習を行い、その前に25分間、一方は運動イメージ、もう一方は健康教育を受けました(週3回・4週間)3。
4週間後、運動イメージの群では、麻痺側の歩幅、歩く速さ、歩数のテンポなどの歩行の指標と、股関節・膝の筋力がより大きく変化していました3。
初めての脳卒中の方を対象に、182人の結果を解析し、両群とも下肢ロボットを使った歩行練習を行い、一方は運動イメージ20分、もう一方はリラクセーション20分を加えた試験です(週5日・4週間)4。
運動イメージの群で、下肢の運動機能(FMA-LE)とバランス(BBS:Berg Balance Scale)がより大きく変化しました4。一方、治療後の歩く速さには群間の明らかな差はみられませんでした4。
練習場所を順番に回るサーキット形式の練習については、脳卒中後のサーキットトレーニングについて解説した記事で紹介しています。
運動イメージは、実際に歩く練習の代わりになるものではありません。研究のほとんどは、実際の歩行練習に「加えて」運動イメージを行っています。歩けるようになることを保証できる研究結果はありません。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
コクランレビューでは、含まれた研究のほとんどで偏りのリスクが高く、人数も少ないため、結果の確かさは「非常に低い」とされています1。メタ分析では、バランスの結果で研究ごとのばらつきが非常に大きいことも示されています2。
比べる相手(他の練習・健康教育・リラクセーションなど)や、イメージの方法・時間・期間が研究ごとに異なります1,2。すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくい?
研究をまとめると、「歩く速さ」や「下肢の運動機能」では良い結果が報告されやすく、「移動能力」や「長期の変化」ははっきりしない、という傾向です1,2。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象は、ある程度歩くことができ、指示を理解してイメージを思い浮かべられる方が中心でした3。体を動かさない練習ですが、集中による疲れが出る場合もあるため、体力や理解のしやすさに合わせて補助として検討します。
・認知機能検査(MMSE)が24点以上の方3
・運動イメージを思い浮かべる力が十分にある方3
・実際に歩く練習の時間を減らして、イメージだけに置き換えてしまう場合1
・ふらつきがある方が、イメージの直後に一人で歩く練習をする場合
コクランレビューで有害事象を報告した7件では、発生は報告されませんでした1。ただし安全性の情報は限られ、リスクがないことを保証するものではありません。
どのくらいの頻度で行う?
研究では「1回20〜25分程度を、週3〜5回、4週間」といった方法が用いられ、実際に歩く練習の前後に組み合わせていましたが、最適な量は分かっていません1,3,4。以下は研究条件であり、全員に同じ時間を勧めるものではありません。疲れや不調がある場合は休止し、担当の専門職に相談してください。
手本の動画などを見て動きを学ぶ方法については、脳卒中後の行動観察療法について解説した記事で紹介しています。

作業療法士の視点
歩行のための運動イメージは、実際の歩行練習に加えることで、歩く速さや下肢の運動機能に良い結果が報告されている方法です1,2。一方で、研究の質は低いものが多く、長く続く効果や生活の中での歩行への影響はまだはっきりしていません1。
体力や安全面から練習量を増やしにくい時期に、実際に歩く練習を土台にしながら、無理なく続けられる補助の方法として検討するのがよいと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 頭の中で歩くイメージをするだけで、歩けるようになりますか?
A. イメージだけで歩けるようになると保証できる研究結果はなく、研究のほとんどは実際の歩行練習と組み合わせています1。歩く練習を土台にした上乗せとして考えるのが基本です。
Q. 運動イメージで何が変わる可能性がありますか?
A. 研究では、終了直後の歩く速さや下肢の運動機能で良い結果が報告されています1,2。ただし結果の確かさは低く、移動能力や長期の変化ははっきりしていません1。
Q. 1回どのくらい、どのくらいの期間行えばよいですか?
A. 研究では1回20〜25分程度を週3〜5回、4週間行う方法が用いられました3,4。最適な量はまだ分かっていないため、担当の専門職と相談して決めてください。
Q. 運動イメージはどのように行うのですか?
A. 座って目を閉じ、自分の目線で歩く様子と、足を出す・体重を乗せる感覚を思い浮かべる方法が用いられています3。生活の場面(段差のある道など)を思い浮かべる段階に進める研究もあります4。
Q. 発症から時間がたっていても行う意味はありますか?
A. 発症から6か月以上たった生活期の方を含む研究でも、歩く速さで良い結果が報告されています2。ただし研究の質が低く、時期による違いは確定していません。
Q. 運動イメージに副作用やリスクはありますか?
A. 運動イメージの研究のうち副作用を報告した7件では、有害な出来事はみられませんでした1。ただし、イメージのあとに一人で歩く練習をする場合は、転倒に注意して見守りのもとで行ってください。