脳卒中後の行動観察療法(アクションオブザベーション)とは?上肢リハビリで研究されていること

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
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脳卒中後の行動観察療法(アクションオブザベーション)とは?上肢リハビリで研究されていること

「動作の映像を見るだけで、手のリハビリになるの?」——行動観察療法(アクションオブザベーション)は、こうした疑問を持たれやすい方法です。人が手や腕を動かす映像をよく見てから、自分でも同じ動作を練習する、という考え方にもとづいています。脳卒中後の上肢(腕や手)のリハビリで研究が進められている方法のひとつです。この記事では、行動観察療法について、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、回数や期間の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

タブレットで手を伸ばす動作映像を観察する様子
まず、取り組む動作を映像でよく観察します
この記事の要点
・行動観察療法は、人が手や腕を動かす映像をよく見てから、自分でも同じ動作を練習する方法です。
・複数の研究をまとめた解析では、腕や手の機能の指標で良い傾向が報告されています1
・一方で、日常生活動作(ADL)への効果ははっきりせず、根拠の確実性は「低い〜とても低い」とされています1
・1回30〜40分・週3〜5回・4週間以上といった、ある程度の量で行われた研究が多くみられます2
SECTION 01
行動観察療法とは

行動観察療法(アクションオブザベーション、動作観察療法)は、人がコップをつかむ、スプーンを使う、手を伸ばすといった日常的な動作の映像をよく見てから、自分でも同じ動作を練習する方法です。「見ること」と「実際に動かすこと」を組み合わせる点が特徴です。私たちの脳には、人の動作を見ているときにも、自分が動くときと近い部分が働く仕組みがあると考えられており、その働きを手がかりに動作の練習を後押しすることをねらっています。

よく似た方法に「運動イメージ(頭の中で動作を思い浮かべる)」や「ミラーセラピー(鏡を使う)」がありますが、行動観察療法は“実際の動作の映像を見る”点が中心になります。映像を見るだけで終わらず、そのあとに自分で動作を行うことがセットになっている研究が多くみられます1,2。麻痺した手をすぐに大きく動かすことが難しい方でも、まず「見る」ところから取り組みやすいことが利点とされています。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、行動観察療法は、腕や手の機能で良い傾向が報告されている一方、日常生活動作への効果ははっきりせず、根拠の確実性もまだ高くない、という段階です。期待できる部分と、まだ分かっていない部分を分けて理解することが大切です。

研究から読み取れること
16件の試験(574名)をまとめたシステマティックレビューでは、行動観察療法は、対照群と比べて腕の機能(標準化平均差0.39、95%信頼区間0.17〜0.61)や手の機能(平均差2.76、95%信頼区間1.04〜4.49)で良い傾向が報告されています1。一方で、日常生活動作(ADL)では、はっきりした差は確認されませんでした(標準化平均差0.37、95%信頼区間−0.34〜1.08)1。これらの根拠の確実性は「低い〜とても低い」と評価されており、今後の研究で結果が変わる可能性があります1。重い有害事象の報告はありませんでした1

29件の研究を整理した別のレビューでは、効果が出やすかった条件として、発症から少し時間が経ってから始めること、1回30〜40分・週3〜5回・4週間以上の量で行うこと、一人称の視点(自分が動かしているように見える映像)や音の手がかりを加えることなどが挙げられています2
映像を観察した後にコップへ手を伸ばす動作を練習する様子
映像を見たあと、同じ動作を実際に練習します
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究で良い傾向が見えやすいのは、腕や手の機能の指標です1。映像を見てから動作を練習することで、動かし方の手がかりを得やすいと考えられます。麻痺した手をすぐに大きく動かしにくい方でも、「見る」ところから取り組めるため、練習の入り口として使いやすい点も特徴です。

一方で、日常生活動作(ADL)全体への効果は、現時点でははっきり確認されていません1。腕や手の機能が変わっても、それが生活の中の動作にそのままつながるとは限らないためです。また、研究の質や対象者の条件にばらつきがあり、根拠の確実性はまだ高くありません1。すべての方に同じ変化が当てはまるわけではないこと、行動観察療法だけで完結させるより、実際の動作練習と組み合わせて使う方法として考えることが大切です。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

麻痺した手をすぐに大きく動かすことが難しく、練習の入り口を探している方には、「見る」ところから始められる行動観察療法は取り入れやすい方法です。実際の動作練習や課題指向型の練習と組み合わせて使うことが多く、研究でもそうした併用が一般的です1,2。映像と音を使うため、楽しみながら取り組みやすいという声もあります。

⚠ 注意したい人・気をつけたいこと
映像を見て理解し、集中を保つ必要があるため、注意の障害や強い疲労、見え方の問題(半側空間無視など)がある方では、映像の内容や長さ、見せ方を調整する必要があります。映像を見たあとの動作練習では、肩や手の痛み、亜脱臼、強いつっぱり(痙縮)に無理がかからないよう配慮します。行動観察療法は単独で完結する方法というより、ほかの練習と組み合わせて使うものと考えられています。今の状態に合うかどうかは個別に異なるため、開始前に主治医・担当の専門職に相談しましょう。
SECTION 05
回数・頻度・期間の目安

研究では設定に幅がありますが、良い傾向が報告された研究の多くは、1回30〜40分・週3〜5回・4週間以上といった量で行われています2。映像を見る時間と、そのあとに同じ動作を練習する時間をセットにする形が一般的です。発症から少し時間が経ってから始めた方が良い傾向が出やすかった、という整理もあります2

これらはあくまで研究上の目安です。麻痺の程度、注意の保ちやすさ、疲れやすさ、見え方の状態によって、無理なく続けられる量や映像の見せ方は人それぞれ異なります。映像の種類・長さ・練習量は、担当の専門職と一緒に調整していくことが大切です。

自宅でスプーンの動作映像を見ながら同じ動作を練習する様子
生活で使いたい動作に近い映像と実物を組み合わせます
SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
当施設では、動かし方のイメージを持ちにくい方や、自主トレーニングとして継続して取り組める方に、行動観察療法を提案することがあります。一方で、実際のリハビリ時間内に行動観察療法を中心的な方法として採用することは、現状ではほとんどありません。限られた対面時間では、身体の状態を直接確認しながら実際の動作練習を行うことを優先し、行動観察は必要に応じて練習の入り口や自主トレーニングの補助として位置づけています。映像を見るだけで終わらず、その後の具体的な動作練習へつなげることが重要だと考えています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
手のリハビリの進め方や、生活動作とつなげた練習の組み立てを、身体の状態を一緒に確認しながら考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。リハビリの内容は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
映像を見るだけで手が動くようになりますか?
行動観察療法は「見るだけ」で完結する方法ではなく、見たあとに同じ動作を練習することがセットになっています。研究では腕や手の機能で良い傾向が報告されていますが、効果を保証するものではありません。
運動イメージやミラーセラピーと何が違うのですか?
運動イメージは頭の中で動作を思い浮かべる方法、ミラーセラピーは鏡を使う方法です。行動観察療法は、実際の動作の映像を見る点が中心になります。
麻痺が重くても取り組めますか?
手を大きく動かすことが難しい方でも「見る」ところから始められる点が特徴です。ただし、注意の障害や見え方の問題がある場合は、映像の見せ方を調整する必要があります。
生活動作にも役立ちますか?
研究では、腕や手の機能では良い傾向がある一方、日常生活動作への効果ははっきり確認されていません。生活動作を目的にする場合は、実際の動作練習と組み合わせることが大切です。
どのくらいの頻度で行いますか?
研究では1回30〜40分・週3〜5回・4週間以上で行われたものが多くみられます。ただし無理なく続けられる量は人によって異なるため、専門職と相談しながら進めてください。
家でもできますか?
映像を使うため自宅でも取り入れやすい方法ですが、どんな映像を選び、どの動作を練習するかが大切です。安全で続けやすい方法を担当の専門職と決めると安心です。
REFERENCES
参考文献
1. Borges LR, Fernandes ABS, Oliveira Dos Passos J, Rego IAO, Campos TF. Action observation for upper limb rehabilitation after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2022;8(8):CD011887. DOI:10.1002/14651858.CD011887.pub3. PMID:35930301.
2. Zhang C, Li X, Wang H. Application of action observation therapy in stroke rehabilitation: A systematic review. Brain Behav. 2023;13(8):e3157. DOI:10.1002/brb3.3157. PMID:37480161.
3. Errante A, Saviola D, Cantoni M, et al. Effectiveness of action observation therapy based on virtual reality technology in the motor rehabilitation of paretic stroke patients: a randomized clinical trial. BMC Neurol. 2022;22(1):109. DOI:10.1186/s12883-022-02640-2. PMID:35317736.
4. Hsieh YW, Lee MT, Hsu YC, Wu KY, Chen CC. Digital Mirror Therapy and Action Observation Therapy for Chronic Stroke: A Pilot Randomized Controlled Trial. Occup Ther Int. 2025;2025:8741362. DOI:10.1155/oti/8741362. PMID:40151488.