
先に結論
運動療法はがんに伴う疲れを和らげる方法として、多くの研究で一貫した結果が出ています。ただし、効果の大きさは「小さめ〜中程度」で、疲れがゼロになるわけではありません。
抗がん剤や放射線治療を受けている間、または治療が終わったあとも「とにかく体がだるい」「少し動いただけで疲れてしまう」という状態が続く方は少なくありません。これは「がん関連倦怠感(がんに伴う疲れ)」と呼ばれ、治療中・治療後に多くの方が経験する、生活への影響が大きい症状のひとつです1。「疲れているなら休むべき?」「動いたほうがいい?」と迷う方も多いこのテーマについて、運動療法の研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します。
この記事でわかること
がんに伴う疲れと運動療法とは
がんに伴う疲れは、ふつうの疲れと違い、休んでもなかなか抜けにくいのが特徴です。治療が終わってから何年も続くことがあり、気分の落ち込みや不安、睡眠の乱れ、痛みなどと重なって強くなることもあります1。
以前は「治療中は安静に」と考えられることもありましたが、現在は国際的な専門家の会議で、がん治療中・治療後の運動は一般的に安全に行えると整理され、「できるだけ動かない時間を減らすこと(avoid inactivity)」が勧められています2。ここでいう運動療法は、ウォーキングや自転車こぎなどの有酸素運動と、ゴムバンドや自分の体重を使った筋力トレーニングが中心です2。
食事量が減って体重や筋肉が落ちている場合は、運動だけでなく栄養面の確認も大切です。高齢者の低栄養とリハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。

研究では何が分かっているか
結論から言うと、運動療法はがんに伴う疲れを和らげる方法として、多くの研究で一貫した結果が出ています。ただし、効果の大きさは「小さめ〜中程度」で、疲れがゼロになるわけではありません。
113件のランダム化比較試験(合計1万1525人)をまとめた分析では、運動療法(効果の大きさを表す値0.30)、心理的な支援(0.27)、運動と心理的支援の組み合わせ(0.26)はいずれも、治療中・治療後の疲れを有意に軽くしていました。一方、薬による治療(0.09)の効果は小さく、推定にも不確実さがあり、著者らは「運動と心理的支援は、これまで研究された薬よりも疲れに対して有効」とまとめています1。
研究を整理した専門家会議では、運動はがん治療中・治療後に一般的に安全であり、不安、気分の落ち込み、疲れ、体の動かしやすさ、生活の質に役立つと結論づけられました。疲れについては、中等度の有酸素運動を週3回・12週間以上続けると、治療中・治療後のどちらでも疲れが軽くなると報告されています。一方で、軽すぎる運動では疲れへの効果は弱いとされています2。
2013〜2023年の検索と過去の研究から選ばれた113件のランダム化比較試験をもとにしたガイドラインでは、治療中・治療後のどちらでも「医療者は運動(有酸素運動・筋力トレーニング、またはその組み合わせ)を勧めるべき」とされ、推奨の強さは「強い」、根拠の質は「中等度」と評価されています。運動は、ご本人の体力に合わせて調整し、指導付きでも自分で行うものでもよいとされています3。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
ガイドラインでも、治療中に運動を始める前には、がん治療の担当医と相談することが勧められています3。治療の種類や時期、血液検査の結果、骨への転移の有無などによって、避けたほうがよい運動や控えたほうがよいタイミングがあります。「体に良いから」と自己判断で強い運動を始めることは避けてください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
研究の数は多いものの、対象者の多くは乳がんの方で、次いで前立腺がんの方が中心です12。そのため、他の種類のがんや進行したがんの方に同じように当てはまるかは、まだ十分に確かめられていません2。また、多くの研究は「疲れが強い方」に絞って参加者を集めておらず、すでに強い疲れがある方で運動がどの程度役立つかははっきりしていない、とガイドラインでも指摘されています3。進行がんの方を対象とした研究では、運動で疲れに差が見られなかった試験もあります3。
・疲れに対して最も適した運動の種類・強さ・量(研究ごとに方法がばらばら)
・進行がんや、乳がん・前立腺がん以外のがんの方にどこまで当てはまるか
・すでに強い疲れがある方で、どの程度の変化が期待できるか
・運動をどのくらいの期間続ければ、効果が長く保たれるか
研究全体では一定の傾向がありますが、がんの種類や治療内容、体力は一人ひとり異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません23。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
がんに伴う疲れの強さは、多くの研究で運動により軽くなる傾向が示されています13。あわせて、体の動かしやすさ(身体機能)、不安や気分の落ち込み、生活の質にも運動が役立つと整理されています2。
抗がん剤による手足のしびれ(末梢神経障害)や、考えごとのしにくさ(認知機能)への運動の役割は、まだはっきりしていません2。また、疲れが完全になくなるわけではなく、効果の大きさは小さめ〜中程度です1。

どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
・治療中・治療後で、だるさのために動く量が減っている方
・担当医から運動について特に制限を受けていない方
・治療後に体力が落ち、日常生活や仕事への復帰に不安がある方
・自宅でできる運動を知りたい方
・骨への転移がある方、骨がもろくなっている方(衝撃の強い動きや、体を強くひねる・反らす動きは避ける必要があります2)
・発熱、強い息切れ、ふらつき、めまいなど体調が大きく崩れている日
・血液検査の値(白血球や血小板、貧血など)について担当医から注意を受けている方
・腕のむくみ(リンパ浮腫)がある方、手術直後の方(運動の内容に調整が必要です)
脳腫瘍の治療後のリハビリについては、脳腫瘍の治療後のリハビリテーションについて解説した記事で詳しく紹介しています。
回数・頻度・期間の目安
専門家会議の整理では、疲れに対して次のような運動量が研究で用いられています。中等度の有酸素運動(ややきついと感じる程度)を1回30分・週3回、筋力トレーニングを2セット(12〜15回)・週2回、いずれも12週間程度です。指導付きでも自分で行う運動でも、効果は同じくらいとされています2。
ただし、これは研究で使われた一例です。体力が大きく落ちている時期は、5〜10分程度の短い運動や、日常の家事・散歩から始めることも珍しくありません。
作業療法士の視点
つまり運動療法は、「疲れを消す治療」ではなく、「疲れと付き合いながら、動ける範囲を少しずつ保つ・広げるための方法」と考えると実態に近いでしょう。
