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脳卒中後の飲み込みにくさと「とろみ・食形態・姿勢の調整」とは?むせ・誤嚥への研究と限界を解説

自費リハビリ情報 読了目安 約11分 文・
「脳卒中後の/飲み込みにくさ/とろみ・姿勢の研究」とJourney Rehabの文字、高齢者と専門職が食卓で相談する場面を描いた生成サムネイル
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

先に結論

脳卒中後の飲み込みにくさがある方の検査では、とろみをつけると飲み込みの安全性が高まる結果が報告されています1。一方で、肺炎が減るかどうかなど長い目で見た影響は十分に分かっておらず、脱水などの注意点もあります23。

「退院のときに、お茶にはとろみをつけるように言われた」「とろみをつけると飲みたがらず、水分が足りているか心配」――脳卒中のあとに飲み込みにくさ(嚥下障害)が残ったご本人やご家族に向けて整理します。この記事では、飲み物にとろみをつける、食べ物の形を調整する、顎を引くなどの姿勢を工夫する、といった「代償的な方法」について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、脳卒中後の飲み込みにくさがある方の検査では、とろみをつけると飲み込みの安全性が高まる結果が報告されています1。一方で、肺炎が減るかどうかなど長い目で見た影響は十分に分かっておらず、脱水などの注意点もあります23。

とろみ・食形態・姿勢の調整とは

脳卒中のあとは、飲み込みに関わる筋肉の動きやタイミングがずれて、飲み物や食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が起こりやすくなることがあります。研究では、脳卒中で入院した方の約45%に飲み込みにくさがあると報告されています1。

サラサラした水やお茶は、口からのどへ流れるスピードが速く、飲み込む準備が整う前にのどへ届いてしまうことがあります。そこで、とろみ調整食品を使って飲み物の流れをゆっくりにしたり、食べ物を軟らかくまとまりやすい形にしたり、顎を軽く引いた姿勢で飲み込んだりする方法がとられます。これらは、飲み込みの力そのものを鍛えるのではなく、「今の飲み込みの状態に合わせて、安全に食べる・飲むための工夫」です。

飲み込みにくさに対するリハビリ全体の考え方については、脳卒中後の嚥下障害とリハビリについて解説した記事で紹介しています。日本では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類などで、食べ物やとろみの段階が整理されています。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
食事中に何度も強くむせる、食後に声がガラガラする、原因の分からない発熱が続く、体重が減ってきた、といった変化がある場合は、早めに主治医や言語聴覚士などの専門職に相談してください。むせがなくても気管に入っている「むせない誤嚥」もあります。とろみの濃さや食事の形は、自己判断で変えず、飲み込みの評価をもとに決めることが大切です。

飲み込みについて専門職と相談する高齢男性
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

研究では何が分かっているか

先にまとめると、「とろみをつけると、検査で安全に飲み込める割合が増えた」という報告がある一方、「長い目で見て肺炎や健康状態がどうなるか」については研究が少なく、結論が出ていません。

臨床研究 2019年(スペイン)

脳卒中後に飲み込みにくさがある120名を対象に、嚥下造影検査(レントゲンで飲み込みを確認する検査)で、サラサラの液体と、とろみの濃さを6段階に変えた液体を比べた研究です1。サラサラの液体で安全に飲み込めた方は41.2%でしたが、とろみをつけると、最も薄いとろみで71.9%、濃いとろみでは95.6%まで増えました1。サラサラの液体で気管に入った方は17.5%で、とろみをつけるとほとんどの濃さで減りました1。また、とろみをつけても、のどに残る量(咽頭残留)が増えることはありませんでした1。

ガイドラインのシステマティックレビュー 2020年(アイルランド)

2010〜2018年に発表された脳卒中の診療ガイドライン13件を調べ、とろみをつけた飲み物についての推奨と、その根拠を検証した研究です2。すべてのガイドラインが、とろみの使用を推奨していました2。しかし、推奨の根拠として挙げられた研究の多くは、とろみの使用を直接支持するものではなかったと指摘されています2。また、とろみの飲み物は味や飲みやすさの面で好まれにくく、生活の質や続けやすさに影響しうることも述べられています2。

ランダム化比較試験 2008年(アメリカ)

認知症またはパーキンソン病があり、サラサラの液体で誤嚥が確認された50歳以上の515名を対象に、「顎を引いた姿勢で飲む」方法と「とろみをつけた飲み物を飲む」方法を比べた研究です3。3か月間の肺炎の発生は、顎を引く方法で9.8%、とろみの方法で11.6%と、はっきりした差はありませんでした3。一方で、とろみの方法では、脱水(6%対2%)、尿路感染症(6%対3%)、発熱(4%対2%)がやや多く見られました3。

脳卒中の方を対象にした研究ではありませんが、とろみの濃さによる違いについて、認知症の方を対象にしたコクランレビューでも、濃いとろみはその場の誤嚥を減らしやすい一方で、その後の経過では好ましくない出来事が多かったと報告されています4。

顎を引く姿勢については、脳の損傷による飲み込みにくさがある方を対象にした小規模な研究で、顎を引くことで誤嚥を避けられたのは約半数だったという報告もあります5。姿勢の工夫が合うかどうかは、人によって大きく異なると考えられます。

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

とろみ・食形態・姿勢の調整に関する研究には、次のような限界があります。

1.2019年の研究は、検査の場での飲み込みを調べたもので、肺炎が減るかどうかなど長い期間の経過は分かりません1
2.同じ研究では、安全のため誤嚥が起きた時点で検査を止める方法をとっており、すべての方がすべての濃さを試したわけではありません1
3.ガイドラインはとろみの使用を一致して推奨していますが、その根拠となる研究は十分ではないと指摘されています2
4.肺炎を比べた大規模な研究は、脳卒中ではなく認知症やパーキンソン病の方が対象で、追跡は3か月と短く、何もしないグループとの比較はありませんでした3
5.認知症の方を対象にしたまとめでは、研究が2件のみで、根拠の質は低いと判定されています4
まだ分かっていないこと

脳卒中後の飲み込みにくさがある方にとって、どの濃さのとろみが最も合うかは、まだ決まっていません1。とろみや食形態の調整を続けることで、肺炎や栄養状態、生活の質が長い目で見てどう変わるかも、十分に検証されていません14。また、とろみの調整をいつ・どのように元に戻していくのがよいかについても、研究は限られています。

エビデンスの質と限界

その場の飲み込みの安全性については比較的はっきりした結果がありますが、長期的な影響については研究が少なく、研究の対象者も脳卒中以外の方が含まれています34。この研究結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。

何が変わりやすく、何は変わりにくいか

変わりやすいと報告されているもの

とろみをつけると、検査の場で安全に飲み込める方の割合が増え、気管に入る方が減る結果が報告されています1。飲み込みの反射で気道が閉じるまでの時間が短くなることも示されています1。

変わりにくい・研究ごとに差があるもの

肺炎が減るかどうかは、はっきりしていません34。のどに残る量は、とろみをつけても変わりませんでした1。また、とろみの飲み物は好まれにくく、飲む量が減って脱水につながるおそれがあります23。

つまり、とろみ・食形態・姿勢の調整は「飲み込みを元に戻す方法」ではなく、「今の飲み込みの状態で、安全に食べる・飲むことを支える方法」と考えるのが実際に近いと思います。口の中を清潔に保つことも、誤嚥したときの肺炎のリスクに関わると考えられています。脳卒中後の口腔ケアについて解説した記事もあわせてご覧ください。

どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か

検討する場面があるケース

研究で対象になってきたのは、嚥下造影検査などで、サラサラの液体を飲み込むときに誤嚥やその危険が確認された方です13。病院や施設での評価をもとに、とろみや食形態の指示を受けて退院した方は、その内容を自宅でどう続けるかを専門職と相談する意味があります。

注意が必要なケース

とろみの飲み物を嫌がって飲む量が減っている方、尿の回数や量が減っている方、便秘や発熱がある方は、脱水に注意が必要です3。また、とろみ調整食品は、水分の種類や時間によって濃さが変わることがあります。指示どおりの濃さを作れているか、作る人によって差が出ていないかも確認しておきましょう。

家族と一緒に食事の環境について専門職と相談する場面
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。

とろみの濃さ・続け方の目安

2019年の研究では、とろみの濃さを6段階に分けて比べ、この研究で設定した粘度150〜800 mPa·sの範囲が、飲み込みの安全性を高めるうえで有用な範囲と考えられると述べられています1。濃すぎるとろみは、飲みにくさや好ましくない出来事が増える可能性があります34。

濃さの決め方

飲み込みの評価(嚥下造影検査や内視鏡検査、専門職による評価など)をもとに決めます。自己判断で濃くしたり薄くしたりしないことが大切です。

水分量の確認

とろみの飲み物は飲む量が減りやすいため、1日にどのくらい飲めているかを記録しておくと、相談のときに役立ちます23。

姿勢の工夫

顎を軽く引く姿勢が合う方もいますが、効果が見られるのは一部の方に限られるという報告もあり、専門職に確認してから取り入れます5。

見直しのタイミング

飲み込みの状態は時間とともに変わることがあります。むせ方や食事の様子が変わったら、とろみや食形態の見直しを相談しましょう。

最適なとろみの濃さや見直しの時期はまだ分かっておらず、上記はあくまで目安です1。飲み込みに関わる舌の力をつける練習については、脳卒中後の舌圧トレーニングについて解説した記事で紹介しています。

作業療法士の視点

とろみや食形態の調整は、安全に食べるための大切な工夫ですが、「おいしくない」「飲みたくない」という気持ちが生まれやすく、生活の楽しみや水分量にも影響します。研究からは、その場の飲み込みの安全性を高めやすい一方で、長期的な影響はまだ十分に分かっていないことが分かります。主治医や言語聴覚士の評価をもとに、ご本人の好みや生活の状況も含めて、続けやすい方法を一緒に考えていくことが大切だと考えています。

食卓の椅子に安定して座る高齢女性
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
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まとめ

・脳卒中後の飲み込みにくさがある方の検査では、とろみをつけると安全に飲み込める方の割合が増えました1
・脳卒中のガイドラインはとろみの使用を推奨していますが、その根拠は十分ではないと指摘されています2
・肺炎を比べた研究では、顎を引く方法ととろみの方法で、はっきりした差はありませんでした3
・とろみの飲み物は飲む量が減りやすく、脱水などに注意が必要です3
・とろみの濃さや食事の形は、飲み込みの評価をもとに専門職と相談して決めましょう

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。リハビリや運動の方法については、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。

よくある質問

Q. とろみはずっとつけ続けないといけないのですか?

飲み込みの状態は時間とともに変わることがあります。とろみをやめられるかどうか、薄くできるかどうかは、飲み込みの評価をもとに主治医や言語聴覚士と相談して決めてください。

Q. とろみは濃いほうが安全ですか?

研究では、とろみをつけると安全に飲み込める方が増えましたが、濃すぎると飲みにくくなったり、好ましくない出来事が増えたりする可能性も報告されています。濃ければ濃いほどよいとは限りません。

Q. とろみをつけると飲んでくれません。どうすればいいですか?

とろみの飲み物は好まれにくいことが知られています。飲む量が減ると脱水につながるおそれがあるため、飲める量を記録し、温度や味の工夫も含めて専門職に相談しましょう。

Q. 顎を引いて飲めば、とろみはいりませんか?

顎を引く姿勢が合う方もいますが、研究では誤嚥を避けられたのは一部の方に限られていました。姿勢だけで代わりになるかどうかは、検査や専門職の評価で確認する必要があります。

Q. むせなければ大丈夫ですか?

むせずに気管に入ってしまう「むせない誤嚥」もあります。原因の分からない発熱や、食後の声の変化などがあれば、主治医に相談してください。

Q. 家族が作るとろみの濃さが毎回違ってしまいます。

とろみ調整食品は、量や混ぜ方、時間によって濃さが変わりやすいです。計量スプーンを使う、作り方を紙に書いて共有するなど、誰が作っても同じ濃さになる工夫をしておくと安心です。

参考文献

1. Mireia Bolivar-Prados, Laia Rofes, Viridiana Arreola, Sonia Guidaほか. Effect of a gum-based thickener on the safety of swallowing in patients with poststroke oropharyngeal dysphagia. Neurogastroenterology and motility. 2019. PubMed DOI 公開本文
2. Arlene McCurtin, Pauline Boland, Maeve Kavanagh, Dominika Lisieckaほか. Do stroke clinical practice guideline recommendations for the intervention of thickened liquids for aspiration support evidence based decision making? A systematic review and narrative synthesis. Journal of evaluation in clinical practice. 2020. PubMed DOI 公開本文
3. JoAnne Robbins, Gary Gensler, Jacqueline Hind, Jeri A Logemannほか. Comparison of 2 interventions for liquid aspiration on pneumonia incidence: a randomized trial. Annals of internal medicine. 2008. PubMed DOI 公開本文
4. Eadaoin Flynn, Christina H Smith, Cathal D Walsh, Margaret Walshe. Modifying the consistency of food and fluids for swallowing difficulties in dementia. The Cochrane database of systematic reviews. 2018. PubMed DOI 公開本文
5. R Terré, F Mearin. Effectiveness of chin-down posture to prevent tracheal aspiration in dysphagia secondary to acquired brain injury. A videofluoroscopy study. Neurogastroenterology and motility. 2012. PubMed DOI
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