
先に結論
画面で重心を見ながらの練習は、左右の体重のかたよりを小さくすることには役立つ可能性がありますが、7件の研究をまとめたレビューでは、バランス検査の点数や生活の自立度までははっきり変わりませんでした1。
「立っていると、いつの間にか良いほうの足にばかり体重がのっている」「鏡や画面を見ながら練習すると、まっすぐ立てている気がする」――脳卒中のあと、立つ・歩くことに不安がある方やご家族に向けて整理します。足の裏にかかる重さを測る台(フォースプレート)や、ゲーム機のバランスボードを使い、自分の重心の位置を画面で見ながら練習する方法は「視覚フィードバックを使ったバランス練習」と呼ばれます。この記事では、この練習について研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを、作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、画面で重心を見ながらの練習は、左右の体重のかたよりを小さくすることには役立つ可能性がありますが、7件の研究をまとめたレビューでは、バランス検査の点数や生活の自立度までははっきり変わりませんでした1。
この記事でわかること
視覚フィードバックを使ったバランス練習とは
脳卒中のあとは、麻痺のある側の足に体重をのせにくくなり、立っているときに良いほうの足へ体重がかたよることがよくあります1。このかたよりは、手足の動きや日常生活の自立度と関係があると報告されていますが、関係の強さはそれほど大きくなく、ほかの要素も大切だと考えられています1。
視覚フィードバックを使った練習では、足元の台が左右・前後の重さのかかり方を測り、その結果を画面上の点やゲームのキャラクターとして映します。本人は画面を見ながら「点を真ん中に保つ」「的に向かって体重を移す」といった課題に取り組みます。研究で使われている形は、主に次の3つです。
立ち上がりの動作そのものの練習については、脳卒中後の立ち上がり練習について解説した記事でも詳しく整理しています。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、画面で重心を見ながらの練習は「左右のかたより」を小さくする方向の結果が出やすい一方、「歩く・動くときのバランス」や「生活の自立度」への上乗せははっきりしない、というのが現時点での全体像です。
脳卒中のある方を対象に、フォースプレートでの視覚または聴覚のフィードバックを使った立位バランス練習と、ほかのバランス練習を比べたランダム化比較試験7件(参加者246名)をまとめた研究です1。視覚フィードバックを使った練習では、立っているときの左右の対称性が良くなりました(標準化平均差−0.68、95%信頼区間−1.31〜−0.04)1。一方で、動きながらのバランス(バーグバランススケール)や、立ち上がって歩いて戻るまでの時間(Timed Up and Go)、生活の自立度、立っているときの体の揺れには、はっきりした差がみられませんでした1。
身につけるセンサーで歩き方を測り、その場で音や画面で知らせる「リアルタイムフィードバック」を使った歩行練習のランダム化比較試験13件(304名)をまとめた研究です2。通常の練習と比べて、バーグバランススケール(標準化平均差0.44)やTimed Up and Go(標準化平均差−0.36)で良い結果が報告され、著者らは「中程度の質のエビデンス」と評価しています2。一方、日常生活動作(修正バーセル指数)でははっきりした差はみられませんでした2。立った姿勢での練習ではなく、歩行練習を中心にした研究である点に注意が必要です。
片麻痺のある方53名を、傾く台と画面を使ったゲーム形式のバランス練習(1日20分・週5日・3週間)のグループと、同じ時間の通常のバランス練習のグループに分けた研究です3。どちらのグループでもバランスや歩く速さの検査は良くなりましたが、2つのグループの間には差がありませんでした3。著者らは「通常の練習と同じ程度」と結論づけています3。
脳卒中のある方を、バランスボードで左右の重さを見ながら立ち上がり練習をするグループと、通常の立ち上がり練習をするグループに分けた研究です(40名が参加し30名を解析)4。どちらも1日20分・週5日・6週間行い、その前に30分の一般的な理学療法も受けていました4。画面を見ながら練習したグループでは、下肢の筋力、バランス、歩行、生活の質で、通常の練習より大きな変化が報告されています4。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
画面に集中していると、足元や周りの物への注意が向きにくくなることがあります。研究は専門職がそばについた状態で行われており、ご自宅でゲーム機などを使う場合も、転倒しにくい環境づくりと見守りが前提になります。家庭用のゲームを使った運動については、脳卒中後のエクサゲーミングについて解説した記事で安全な使い方を整理しています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
視覚フィードバックを使ったバランス練習の研究には、次のような限界があります。
どのような方(麻痺の重さ、発症からの期間、注意や視野の状態など)に最も合うのか、どのくらいの回数や期間で行うのがよいのかは、まだ分かっていません12。また、立った姿勢での「かたより」を小さくすることが、転倒の減少につながるかも十分に検証されていません1。
コクランレビューは質の高いまとめ方ですが、2004年までの研究が対象で、その後に増えた機器やゲームを使った研究は含まれていません1。2025年のレビューは中程度の質と評価されていますが、多くの研究で参加者が少なく、結果の精度には限りがあります2。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や練習内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
立っているときの左右の体重のかたよりは、視覚フィードバックを使うと小さくなりやすいと報告されています1。歩きながらのフィードバックでは、バランス検査や立ち座りから歩くまでの時間で良い結果がみられた研究もあります2。
動きながらのバランス、生活の自立度、立っているときの体の揺れでは、通常のバランス練習との差がはっきりしませんでした1。ゲーム形式の練習も、通常の練習と同じ程度の結果でした3。日常生活動作への上乗せも確認されていません2。
つまり、視覚フィードバックは「特別な方法だからバランスが大きく変わる」というより、「自分の体重のかかり方に気づき、練習の量や意欲を支える道具の一つ」と考えるのが実際に近いと思います。かたよりに気づいたあと、それを実際の立ち上がりや歩行、家事の動作の中で使えるようにしていく練習が大切です。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で主に対象になってきたのは、手すりなしで1分程度立っていられる方や、見守りがあれば立ち上がりができる方です14。「自分ではまっすぐ立っているつもりなのに、片方の足に体重がかたよっている」と指摘される方や、練習に飽きやすくゲーム形式なら続けやすい方では、検討する意味があります。バランス練習全体の進め方は、脳卒中後のバランス訓練について解説した記事もあわせて参考にしてください。
支えなしで立つことが難しい方、強いめまいがある方、視野の欠け(半盲)がある方は、研究の対象から外れていることがあります4。血圧が変動しやすい方や、立っているとすぐに疲れてしまう方も、休憩の入れ方や練習時間を調整する必要があります。急に立てなくなった、ふらつきが強くなったなどの新しい変化があるときは、練習ではなく、すぐに医療機関を受診してください。

回数・頻度・期間の目安
紹介した研究では、1回20分程度の練習を週5日、3〜6週間行う形が使われていました34。多くの場合、通常のリハビリに上乗せする形で行われています4。
ただし、最適な回数や期間はまだ分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です12。実際には、専用の機器がなくても、体重計を2台並べて左右の重さを確かめる、鏡の前で姿勢を確認するなど、生活の中でできる「気づきの工夫」を、専門職と相談しながら取り入れていくことになります。
作業療法士の視点
視覚フィードバックを使った練習は、自分の体の状態を「見える形」にしてくれる点で、とても分かりやすい方法です。一方で、研究からは、台の上で左右のかたよりが小さくなっても、それだけで歩くときの安定や生活の自立が大きく変わるとは言い切れないことが分かります。かたよりに気づくことをきっかけに、実際の生活動作の中で練習を重ねていくことが大切だと考えています。
