
「足に触れていないのに焼けるように痛い」「しびれが強くて眠れない」「車いすに座っていると別の場所も痛む」。脊髄損傷後の痛みには複数の原因が重なることがあります。長く続いていても、すべてを神経の痛みとして片付けず、変化と生活への影響を確認する必要があります。この記事では、神経障害性疼痛に対する指針と研究をもとに、医療への相談と日々の対処を整理します。
- 神経障害性疼痛と、筋肉・関節・内臓などによる痛みの違い
- 非薬物療法に期待できる範囲と、研究の限界
- 活動・睡眠・車いす環境の整理と、受診や救急が必要な変化
しびれや痛みの種類を、最初に確かめる
神経障害性疼痛は、体の感覚を伝える神経系の損傷や病気によって起こる痛みです。脊髄損傷後には、焼ける、電気が走る、刺されるような痛みなどとして感じられることがあります。ただし、しびれがあることだけで神経障害性疼痛と診断できるわけではありません。[1]
肩や手首の使い過ぎ、姿勢や関節の負担、皮膚の傷、便秘や尿路の問題などによる痛みもあります。神経障害性疼痛と別の痛みが同時に起こることもあり、原因によって必要な対応が変わります。痛みが新しく出た、いつもと違う、急に強くなった場合には、従来の痛みとして扱わず相談しましょう。
医療者へは、場所、性質、始まった時期、持続時間、動作や排泄との関係、皮膚の変化、発熱などを伝えます。検査や診察を含めて評価し、治療が必要な原因を見逃さないことが、その後のリハビリを安全に進める土台になります。

診療指針から分かること:痛みと生活を両方扱う
CanPainSCIの2021年更新版(2022年公表)は、成人の脊髄損傷後の神経障害性疼痛を対象に、入院・外来・地域生活での評価と治療を整理した指針です。薬物療法の推奨に加え、活動、睡眠、気分への影響を確認し、多職種で支える考え方が示されています。[1]
薬の選択では、効果だけでなく眠気、めまいなどと活動への影響を医師が検討します。痛みが残るからと薬を自己中止したり、練習の前後に自己判断で量を変えたりしないでください。リハビリは、処方と別々に進めるのではなく、治療方針や副作用を共有しながら組み立てます。
一般原則と、治療効果の証拠を区別する
指針は、セルフマネジメント、認知行動療法、教育や運動を含む包括的な疼痛管理も検討しています。ただし、これらの一般原則の一部は専門家の意見に基づく推奨です。すべての方法に、痛みを直接減らす強い比較試験の証拠がそろっているわけではありません。[1]
痛みの点数が変わらなくても、対処する見通しが立つ、活動への支障が減ることには意味があります。一方で、生活面を支えることを理由に、痛みの訴えや必要な医学的評価を軽く扱わないことも大切です。
非薬物療法の研究:運動・心理的支援・刺激療法の限界
古いレビューと新しいレビューを合わせて読む
2014年のCochraneレビューは、薬を使わない慢性痛の治療16試験、616人を検討しました。神経障害性の痛みだけでなく、肩などの痛みも含まれ、全体として研究の質に課題がありました。肩の痛みに対する運動の結果を、脊髄由来の神経障害性疼痛へそのまま当てはめることはできません。[2]
2025年のレビューは、外傷性脊髄損傷がある成人の慢性痛を対象に26研究を採用し、行動・身体的な介入15件と刺激介入11件を整理しています。認知行動療法などを包括的な支援の選択肢として扱う一方、小規模な試験が多く、介入や測定方法がそろっていない点を指摘しています。このレビューもすべてが神経障害性疼痛だけの研究ではありません。[3]
痛みが「気のせい」という意味ではない
認知行動療法は、痛みがあるときの考え方、行動や対処を整理する方法です。痛みを我慢させることや、原因を本人の性格に求めることではありません。痛みへの対処や生活への支障を支える可能性と、痛みの強さそのものの改善を区別して相談します。[1,3]
脳刺激・電気刺激を自己流で試さない
tDCS、rTMS、TENSなどは異なる方法です。CanPainSCIでは一部に条件付きで検討できる推奨がありますが、推奨の強さは弱いものもあり、装置・方法・対象が違います。2025年レビューも刺激療法の標準化と証拠の不足を指摘しています。研究の存在だけで家庭用機器の購入や自作を勧めることはできません。[1,3]
目標の立て方:痛みの点数と活動への支障を分ける
痛みの強さに加え、「夜に何度目が覚めたか」「食事中どれくらい座れたか」「外出を取りやめたか」など、本人が困っている活動を一つ選びましょう。痛みをゼロにすることだけが目標になると、変化が小さいときに支援の意味を見失いやすくなります。
記録では、場所・性質・強さ、睡眠、活動、薬の変更や眠気などを必要な範囲で残します。痛みと活動の関係は人によって異なり、記録だけで原因を断定することはできません。それでも、受診やリハビリで具体的な相談をする助けになります。[1]
例えば「午後の作業後に痛みが強く、夕食まで横になる」という場合、作業姿勢、休息の取り方、用具の配置、車いすの状態などを一緒に確認します。何をどこまで行えるかを、本人の希望と身体への負担の両方から検討します。
これは一般的な整理例です。特定の利用者が改善した症例ではなく、誰にでも同じ配分や姿勢を勧めるものでもありません。痛みの原因と皮膚・循環の状態を確認し、その人に合う計画を立てます。

生活への応用:姿勢、休息、睡眠の環境を整える
車いす・机・移乗の負担を確認
座位での体の傾き、腕を置く位置、机の高さ、移乗や車いす操作の負担を見直します。クッションは体に合うか、皮膚の圧迫に問題がないかを専門職と確認してください。姿勢調整で筋肉や関節の負担が変わることと、神経障害性疼痛が治ることは同じではありません。
活動を一度に詰め込まない
調子がよい日にすべてを行い、翌日ほとんど動けなくなる場合には、活動と休息を計画的に分ける方法を相談できます。痛みがあるときに動くべきか休むべきかは、原因や身体の状態によって異なります。痛みを押して回数を増やす練習にせず、途中の変化も確認しましょう。
眠りの困りごとも伝える
寝つき、夜間の目覚め、昼間の眠気、夜間の姿勢や介助を整理します。薬の影響や呼吸など医学的な確認が必要な場合もあります。生活の工夫だけで解決しようとせず、主治医へ伝えましょう。熱さを感じにくい部位に温熱器具を当てて眠ることは避けてください。
受診・救急が必要な変化を、いつもの痛みと分ける
新しい痛みや体調変化
発熱、皮膚の傷や腫れ、尿の変化、強い腹部症状、いつもと違う痛み、新たな筋力や感覚の変化は、早めに医療機関へ相談してください。排泄や皮膚の問題などが隠れることもあり、「神経の痛みだから仕方がない」と決め付けないことが大切です。
自律神経過反射を知っておく
特に胸髄第6レベル以上の脊髄損傷では、自律神経過反射に注意が必要です。突然の強い頭痛、顔や首の発汗・紅潮、普段より急な血圧上昇などが起こり、生命に関わることがあります。血圧上昇以外の症状が乏しい場合もあります。[4]
こうした症状があれば活動を中止し、119番など緊急の医療につなげてください。血圧上昇が疑われる場合には、可能なら体を起こし、締め付けを緩め、本人の緊急時の計画に従います。処方されていない薬を飲む、慣れていない排泄処置を行うなど、自己流の対応で受診を遅らせないでください。[4]
胸の痛み、息苦しさ、意識の変化などの緊急症状も救急へ連絡します。本人・家族・支援者で、損傷の状態、普段の血圧、緊急連絡先、医療者からの指示を共有しておくと役立ちます。

作業療法の視点:やりたい活動へ戻る道筋を考える
作業療法では、痛みが生活のどこに影響しているかを具体的にし、動作、道具、環境や支援の組み合わせを考えます。食事、整容、仕事、外出などから本人が大事にしたい活動を選び、できる部分と負担が大きい部分を整理します。
例えば机に向かう活動なら、物の配置、腕の支え、時間の分け方、介助の頼み方を検討できます。練習量を増やすだけでなく、身体の負担を減らして活動へ参加する方法も選択肢です。皮膚、排泄、睡眠などを含め、必要に応じて医師・看護師・理学療法士・心理職などと情報を共有します。[1]
Journey Rehabの訪問自費リハビリでは、ご自宅での動作や活動の困りごと、車いすを使う環境の調整を相談できます。薬の処方や脳刺激治療の提供を案内するものではありません。皮膚保護については、車いす生活と褥瘡予防の記事も、相談時の確認事項と合わせてご覧ください。
まとめ:原因を確認し、生活への支障を一緒に減らす
脊髄損傷後の神経障害性疼痛は、原因の評価と薬物療法、生活面の支援を組み合わせて考える必要があります。非薬物療法の証拠には限界があり、運動や刺激療法だけで痛みが消えると断言することはできません。
痛みの強さ、眠り、座る時間、外出などへの影響を本人の言葉で整理し、新しい症状を見逃さず、適切な医療につなげましょう。痛みを軽く扱わず、本人が大切にしたい活動と負担を確認しながら支援を調整していくことが重要です。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の診断・治療方針は主治医や担当専門職にご相談ください。当社サービスの案内を含みます。画像は著者写真を除き生成イメージです。文献確認日:2026年10月12日。
よくある質問
Q. しびれがあれば神経障害性疼痛ですか?
A. しびれだけで診断はできません。痛みの性質と部位、神経学的所見や他の原因を医療機関で確認します。
Q. リハビリで痛みをなくせますか?
A. 消失を保証できません。原因に応じた治療と組み合わせ、痛みの強さに加え生活への支障を減らす目標も考えます。
Q. 痛みがあっても運動を続けるべきですか?
A. 痛みの原因や体調によって異なります。新しい痛みや悪化があれば中止して相談し、量や方法は個別に決めます。
Q. 認知行動療法は痛みが気のせいという意味ですか?
A. 違います。痛みを否定せず、対処や行動を整理して生活への支障を支える方法です。医学的な評価も並行して行います。
Q. 市販の電気刺激器で同じ効果が得られますか?
A. 研究機器や設定、対象者と同じとは限りません。感覚・皮膚へのリスクもあるため、自己判断で導入せず相談してください。
Q. 急な頭痛や発汗は痛みの一部でしょうか?
A. 特に高位の脊髄損傷では自律神経過反射の可能性があります。急な強い頭痛、発汗・紅潮や血圧上昇は緊急に医療へつなげ、119番などへ連絡してください。
参考文献
- Loh Eldon, Mirkowski Magdalena, Agudelo Alexandria Roa et al.. The CanPain SCI clinical practice guidelines for rehabilitation management of neuropathic pain after spinal cord injury: 2021 update. Spinal Cord. 2022. DOI: 10.1038/s41393-021-00744-z. 公式資料を読む / PubMed
- Inga Boldt, Inge Eriks-Hoogland, Martin W G Brinkhof et al.. Non-pharmacological interventions for chronic pain in people with spinal cord injury. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2014. DOI: 10.1002/14651858.CD009177.pub2. 公式資料を読む / PubMed
- Linda Ehrlich-Jones, Elise Olsen, Angelika Kudla et al.. Behavioral/Physical and Stimulation Interventions for Chronic Pain Following Spinal Cord Injury: A Systematic Review.. Topics in Spinal Cord Injury Rehabilitation. 2025. DOI: 10.46292/sci24-00053. 公式資料を読む / PubMed
- Andrei Krassioukov, Todd A Linsenmeyer, Lisa A Beck et al.. Evaluation and Management of Autonomic Dysreflexia and Other Autonomic Dysfunctions: Preventing the Highs and Lows: Management Of Blood Pressure, Sweating, And Temperature Dysfunction. The Journal of Spinal Cord Medicine. 2021. DOI: 10.1080/10790268.2021.1925058. 公式資料を読む / PubMed