
結論:多系統萎縮症(MSA)のリハビリでは、ふらつきや動きにくさへの練習と、生活のやり方・補助具・介助の調整を組み合わせます。失調や歩行が改善する可能性を示す研究はありますが、MSAに限った根拠はまだ少なく、病気の進行を止める効果は確立していません。立ちくらみを我慢して運動量を増やさず、血圧・嚥下・呼吸の状態を医療チームと確認しながら進めることが大切です。
「ふらつきがあるけれど、どのくらい運動してよいのか」「立ち上がると目の前が暗くなる」「着替えやトイレをできるだけ自分で続けたい」。MSAでは、歩く能力だけを見ても、こうした困りごとへの答えは決まりません。
同じMSAでも、失調が目立つ人、動作の遅さやこわばりが目立つ人、自律神経症状が生活を大きく制限する人がいます。この記事は、ご本人・ご家族がリハビリの目的と安全を担当者に相談するための情報です。研究の設定をそのまま自宅で再現する運動メニューではありません。
この記事で分かること
- MSA-CとMSA-Pで、参考になる研究と直接の根拠がどう違うか
- 失調の検査結果と、転倒・日常生活・病気の進行を分けて考える理由
- 起立性低血圧と仰臥位高血圧を踏まえた、練習前の確認
- 着替え・移動・トイレなどを支える作業療法と家族の工夫
MSAでは、運動と自律神経の問題を一緒に考える
MSAは、動作の遅さやこわばりなどのパーキンソン症状、小脳性の失調、自律神経の障害が組み合わさる進行性の神経疾患です。主な運動症状により、失調が目立つMSA-C、パーキンソン症状が目立つMSA-Pと呼ばれます。ただし、両方の症状が混ざることもあります。[4, 6]
「ふらつく」という言葉にも違いがあります。足や体幹の動きを調整しにくい、方向転換で姿勢が崩れる、立ち上がったときに血圧が下がり目の前が暗くなる、といった問題は、対応が同じではありません。転びそうになる時間帯、姿勢、食事との関係、薬の服用後かどうかを一緒に整理します。[4, 5]
リハビリの目標は、ご本人が続けたい生活から決めます。例えば「寝室からトイレまでの移動を安全にする」「座って着替えを終える」「短い会話で用件を伝える」などです。病気の進行を止める治療として説明するのではなく、その時点の症状と環境に合わせて動き方を支えます。[4]
MSA-Cのふらつきに、運動療法はどこまで期待できるか
失調を扱ったレビューには、複数の病気が混ざっている
2025年に公表されたレビューは、変性性の小脳失調に対する理学療法の18試験を集めています。失調の尺度SARAを解析できた315人では、理学療法側が対照側より平均1.41点低く、95%信頼区間は0.66〜2.16点低い範囲でした。SARAは0〜40点で、高いほど失調が強い尺度です。[1]
筋力・協調運動・歩行・生活動作などを組み合わせる練習や、バランス、有酸素運動に可能性が示されました。ただし、対象には脊髄小脳失調症など複数の疾患が含まれます。MSA-Cだけの平均改善量を示した結果ではなく、MSA-Pへそのまま当てはめる根拠でもありません。[1]
レビューは、主要結果の確実性を「非常に低い」と評価しています。試験ごとの内容や比較条件が大きく異なり、偏りの懸念もあるためです。「平均で点数が下がった」ことから、MSAのご本人にも同じ改善や転倒減少が起こると約束することはできません。[1]
新しい在宅運動の試験も、MSAへの直接性は限られる
2025年の別の試験では、さまざまな小脳失調のある62人を、在宅の自転車運動とバランス練習の各31人に無作為に分けました。6か月のSARA変化は自転車運動側に有利で、群と時間の交互作用による差は−1.53点(95%信頼区間−2.44〜−0.61)でした。疲労や有酸素能力にも差がみられました。[2]
一方、MSA-Cの参加者は2人だけで、2人とも自転車運動側に割り付けられています。この試験からMSA-C単独の有効性を判断できません。歩行速度やバランス検査は、両群の差が明確ではありませんでした。[2]
参加者は、支えなしで立てることや安全に自転車に乗れることなどの条件を満たし、不安定な心血管疾患などがある人は除外されました。最初の6か月は定期的な電話支援もあります。「在宅」という言葉だけで、安全確認なしに高い運動強度を試してよいとは考えないでください。[2]

MSA-Pを対象にした研究は、小さな予備研究から
MSA-Pの10人と、病期などを合わせたパーキンソン病の10人に、5日間の入院理学療法と、その後5週間の自宅練習を行った予備研究があります。歩行を機器で測った指標や質問票は改善しましたが、運動症状を評価する臨床尺度では改善がみられませんでした。[3]
この研究にはパーキンソン病の比較集団があります。ただし、MSAの人を「リハビリを行う群」と「行わない群」に無作為に分けた試験ではありません。人数も少ないため、自然な変動や評価への慣れと介入の効果を十分に分けられません。[3]
この結果は、MSA-Pの人にも個別にリハビリを検討する手掛かりです。パーキンソン病で有効だった練習を、同じ量・同じ効果の見込みでMSAへ移す説明は避け、血圧や姿勢、疲労の反応を見ながら調整します。[3, 4]
研究の改善と、自宅でできることは別に確かめる
研究からまだ決められないことがあります。MSAの病型や進行段階ごとの最適な運動量、効果が続く期間、自宅での転倒をどこまで減らせるか、病気の進行への影響は十分に分かっていません。[1, 2, 3]
SARAの点数、歩行速度、バランス検査、生活の自立度は、それぞれ違う結果です。失調の点数が少し良くなっても、夜間のトイレで立ちくらみが起これば、生活上の危険は残ります。検査の変化と一緒に、実際の場所・時間帯で困りごとがどう変わるかを確認します。
在宅運動の試験では、定期的な支援が終わると、目標どおり続ける人の割合が下がりました。続けた人の成績が良かったことには、継続できる体調や生活条件の違いも関わり得ます。練習を休んだ人を責めるのではなく、症状・疲労・介助・環境を見直す材料にします。[2]
研究で重大な有害事象が報告されなかったことも、すべてのMSAの人に安全という証明ではありません。運動療法の可能性と、個別の安全判断を一緒に扱う必要があります。[1, 2]
立ちくらみがあるときは、まず血圧と安全を確認する
起立性低血圧と、横になったときの高血圧を分ける
MSAでは、自律神経の働きによる血圧調節が難しくなり、起立性低血圧が生じることがあります。朝、食後、暑い環境、運動の前後などで症状が変わる場合もあります。立つときの症状だけでなく、横になると血圧が高くなる「仰臥位高血圧」が併存する場合もあるため、対応を一つに決めつけません。[4, 5]
主治医・看護師・担当療法士と、どの姿勢で、いつ血圧を確認するか、どの症状や値で活動を中止するか、症状が出たときの姿勢を事前に決めます。血圧を測るために、一人で無理に立つ必要はありません。転倒の危険がある測定は、医療職の評価や介助のもとで行います。
立ちくらみや目の前が暗くなる感じが出たら、立位練習を中止し、近くの人の支援で転倒を避けられる安全な姿勢を取ります。平らに横になることが合わない血圧状態や薬の影響もあるため、事前に共有した対応に従ってください。症状が強い、繰り返す、休んでも改善しない場合は医療機関へ相談します。[4, 5]
水分・塩分・腹部の圧迫は、自己判断で増やさない
起立性低血圧のレビューでは、腹部を圧迫する装具などの非薬物的な対応が検討されています。ただし、原因疾患が混ざる小規模研究が多く、靴下や姿勢の工夫も同じ程度の根拠があるわけではありません。圧迫の部位や強さ、装着の可否は、医療職と確認します。[5]
水分や塩分の調整は、心臓・腎臓の病気、水分制限、仰臥位高血圧、飲み込みの状態を踏まえて決めます。研究に出てくる水分量や運動回数を、一律の家庭内の処方にしません。血圧の薬やパーキンソン症状の薬も、自分で増減・中断しないでください。[4, 5]
立ちくらみ一般の考え方は、脳卒中後の起立性低血圧の記事でも説明しています。MSAでは自律神経障害や仰臥位高血圧の状態を別に確認する必要があります。

生活では「量を増やす」前に、動作と環境を整える
移動:距離だけでなく、方向転換と休む場所を見る
寝室からトイレまでの移動では、歩ける距離のほか、立ち上がり、扉の開閉、方向転換、便座へ座るところまで確認します。血圧症状が出る時間帯には、短い動線や休む場所、介助を組み合わせることも考えます。
手すり・歩行器・車椅子は、ご本人の動き方と住環境に合わせて選びます。補助具を使えば必ず安全になるわけではありません。高さ、ブレーキ、狭い場所の操作、介助者が立つ位置を担当者と確認し、床の物や滑りやすさも見直します。
着替え・洗面:座ってできる工程を増やす
立ってズボンを上げる場面などでふらつくなら、座って行う方法や、衣類の形・置き場所を相談します。椅子は高さや背もたれ、肘掛け、固定・安定性を確認します。キャスター付きの椅子を使う場合も、動かない状態を確保する必要があります。
大切なのは、動作を速く終えることだけではありません。途中で休める、手を伸ばしすぎない、必要な援助を頼める、といった条件を整え、ご本人が担いたい工程を残すことです。これは一般的な生活動作の考え方で、特定の利用者の改善例ではありません。
食事・会話:むせや声の変化を生活の課題として共有する
むせ、食事時間の増加、食べる量の減少、声が小さくなる・話しにくくなる変化は、主治医や言語聴覚士へ相談します。食形態、姿勢、伝える手段は個別に評価します。水分を増やす前にも、飲み込みの状態の確認が必要です。[4, 6]
失調へのリハビリ全体については、脊髄小脳変性症・失調のリハビリの記事も参考になります。MSAでは、その内容に加えて自律神経・嚥下・呼吸の問題を医療チームと確認してください。

作業療法では、続けたい生活と支援の分担を考える
作業療法では、ご本人が大切にしている活動を聞き、動作の練習だけでなく、道具・環境・休憩・介助の組み合わせを検討します。状態が変わったときには、以前の方法にこだわらず、生活の目的を保ちながらやり方を見直します。
例えば「全部の着替えを一人で行う」という目標を、体調に合わせて「上衣は自分で、下衣は必要な部分を介助」「朝は座って短い工程から」に変えることがあります。練習の成果は、検査の点数に加えて、負担や安全性、本人の納得で確認します。
MSAのケアでは、主治医、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの連携が大切です。家族が一人で対応を抱えず、困る動作や時間帯を共有し、サービス・福祉用具・住環境の調整を相談します。[4]
Journey Rehabでは、相談内容を踏まえて、ご自宅での生活動作や環境に関する支援を検討します。MSAの診断、血圧の治療、嚥下・呼吸の医学的判断を代わりに行うものではありません。以下は当社のサービス案内です。
練習を中止する症状と、医療機関へ相談する変化
立ちくらみ、目の前が暗くなる、冷汗、強い息切れ、胸の痛み、新しい痛み、急に強くなるふらつきがあれば練習を中止してください。「慣れるまで続ける」と考えず、安全な姿勢を確保して、決めておいた相談先へ連絡します。[4, 5]
転倒が増えた、むせが増えた、食事・水分が取りにくい、声が変わった、夜間に新しい高い呼吸音が出る、呼吸が止まるように見えるといった変化は、早めに主治医へ伝えます。MSAでは嚥下や上気道の問題への評価も必要です。[4, 6]
意識がない・戻らない、急な呼吸困難、強い胸痛、突然片側の手足に力が入らない・ろれつが回らないなどは、119番へ連絡してください。急な症状を、MSAのいつもの症状と決めつけないことが大切です。通報後は指令員の指示に従います。[7]
まとめ:研究を手掛かりに、安全と生活を一緒に見直す
MSAのリハビリには、失調や歩行を支える可能性があります。ただし、他の疾患を含む結果、少人数のMSA研究、検査での改善を区別し、病気の進行抑制や生活の改善を保証しない説明が必要です。
ご本人が続けたい生活を出発点に、血圧・疲労・嚥下・呼吸を確認し、練習、補助具、環境、家族の援助を組み合わせます。状態に合わせて方法を変えることも、リハビリの大切な役割です。
よくある質問
MSAのリハビリで病気の進行を止められますか?
病気の進行を止める効果は確立していません。リハビリは、症状に合わせて動作や生活を支えるために検討します。研究で失調の点数が改善しても、病気そのものの進行抑制を示す結果とは限りません。
MSA-CとMSA-Pは、同じ練習をすればよいですか?
症状が重なることはありますが、失調、動作の遅さ、血圧の変動などの組み合わせが異なります。他の失調症やパーキンソン病の研究を参考にするときも、ご本人の評価に合わせて内容・量・介助を調整します。
自宅で高強度の自転車運動を始めてもよいですか?
まず主治医や担当療法士に安全性を相談してください。在宅運動の試験は参加条件と支援を伴い、MSA-C参加者も少数でした。研究の回数や心拍数を、自己判断で運動量の目安にしないでください。
立ちくらみが出たら、練習を続けて慣らすべきですか?
続けずに中止し、支援を受けて転倒を避けられる安全な姿勢を取ります。仰臥位高血圧や薬の影響もあるため、症状が出たときの対応を医療チームと決めておきます。繰り返す・強い・改善しない症状は医療機関へ相談してください。
水分や塩分を増やせば、立ちくらみは防げますか?
一律には決められません。心臓・腎臓の病気、水分制限、仰臥位高血圧、飲み込みの状態を踏まえる必要があります。増やす量や圧迫具の使用、薬の調整は医療職と確認してください。
歩きにくくなっても、作業療法で相談できることはありますか?
あります。着替え、食事、トイレ、移動、会話など、続けたい活動について、道具・環境・介助・休憩の組み合わせを相談できます。状態に合わせた方法や家族の負担を、医療・介護チームと一緒に見直します。
参考文献
- Matsugi A, et al. Effects of physiotherapy on degenerative cerebellar ataxia: a systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2025;15:1491142. doi:10.3389/fneur.2024.1491142.
- Barbuto S, et al. Home Training for Cerebellar Ataxias: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2025;82(11):1162–1170. doi:10.1001/jamaneurol.2025.3421.
- Raccagni C, et al. Physiotherapy improves motor function in patients with the Parkinson variant of multiple system atrophy: A prospective trial. Parkinsonism Relat Disord. 2019;67:60–65. doi:10.1016/j.parkreldis.2019.09.026.
- Goh YY, et al. Multiple system atrophy. Pract Neurol. 2023;23(3):208–221. doi:10.1136/pn-2020-002797.
- Eschlböck S, Wenning G, Fanciulli A. Evidence-based treatment of neurogenic orthostatic hypotension and related symptoms. J Neural Transm. 2017;124:1567–1605. doi:10.1007/s00702-017-1791-y.
- 難病情報センター. 多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17).
- 厚生労働省. こんな時は迷わず119へ.
本文は一般的な情報です。個別の診断・治療・練習の可否は医療機関・担当者と相談してください。本記事には株式会社Journey Rehabのサービス案内を含みます。参考文献の確認日:2026年10月8日。