
結論:Shaker法(頭部挙上訓練)とCTARは、飲み込みに関わる筋肉へ抵抗をかける訓練の選択肢です。脳卒中後の嚥下指標が改善した研究はありますが、CTARなら誰でも安全、首を鍛えれば食事を再開できるとは言えません。嚥下の評価と首・全身状態を確認し、方法・負荷・中止条件を専門職と決めることが先です。
「退院時に頭を持ち上げる体操を教わったが、首がつらい」「CTARというボールの訓練に変えてもよいのだろうか」。嚥下訓練を続けたい本人や家族にとって、効果だけでなく、何のための運動か、無理なく続けられるかは大切な疑問です。
この記事では、脳卒中後の嚥下障害について医療機関に相談している方へ、Shaker法とCTARの違い、比較研究の読み方、頸部への負荷を含む相談のポイントを整理します。回数や強さを一律に指定する運動手順書ではありません。飲み込み・むせ全体の対応は、脳卒中後の嚥下障害と家庭での工夫も参照してください。
この記事で分かること
- Shaker法とCTARが目指す働きと、食事中の「あご引き」との違い
- 検査での誤嚥・喉頭侵入、経口摂取、肺炎を分けた研究の読み方
- 首の痛み・疲労があるときの相談と、自宅で確認したい条件
Shaker法とCTARの違い
どちらも、あごの下の筋肉を使う訓練
食べ物を飲み込むときには、舌骨や喉頭が動き、食道の入り口が開くなど、多くの動きが協調します。Shaker法とCTARは、その一部を担う舌骨上筋群などを抵抗運動で働かせることを目指します。筋肉を使うことと、食べ物を安全に飲み込めることは同じ意味ではなく、検査所見に合う目的を立てる必要があります。[1][2]
Shaker法:仰向けで頭を持ち上げる方式
一般に、仰向けの姿勢で頭を持ち上げる運動として用いられます。あごの下だけでなく首の筋肉にも負担がかかり、姿勢を保つことが難しい人がいます。名称が同じでも、持ち上げ方、保持、反復、休憩の設定は本人の評価に合わせます。[1][3]
CTAR:座位で、あごを抵抗に押し当てる方式
CTARはChin Tuck Against Resistanceの略です。一般に座って、あごの下に置く器具などの抵抗に対して力を出します。研究ではボール、抵抗棒、ゲーム付きの調整可能な機器などが用いられており、器具の硬さや抵抗が同じとは限りません。家にあるボールに置き換えれば同じ条件になるわけではありません。[2][3]
食事中の「あご引き」と混同しない
CTARは抵抗を加える訓練であり、食べ物を飲み込む際の姿勢調整としての「あご引き」とは区別します。食事中にあごを引く方法も、すべての嚥下障害に適するわけではありません。訓練をしながら水を飲む、食事中に器具をあごへ挟むなどの自己流の組み合わせは避け、食事の姿勢は評価した担当者の指示を確認してください。[1]
どんな状態を評価してから選ぶか
むせる理由を「筋力不足」と決めつけないことが出発点です。飲み込みには感覚、動きのタイミング、口や舌の働き、注意・理解、呼吸や全身状態なども関わります。必要に応じた嚥下造影検査(VFSS)や嚥下内視鏡検査(FEES)を含め、医師・言語聴覚士などが、何を改善する訓練なのかを検討します。むせが少ないだけでは誤嚥の有無を判断できません。[1]
- 飲み込みの目的:どの動きや検査所見に対して行うのか。改善を何で確かめるか。
- 首と姿勢:頸椎の病気、痛み、装具、手術歴、仰向けや座位を保つ難しさはあるか。
- 実施できる条件:説明を理解して再現できるか、器具を扱えるか、息を止めすぎないか、疲労を伝えられるか。
- 食事との関係:訓練の許可と、食事・水分の許可や形状の指示を分けて確認する。
これらは家庭で適応を判定するチェックリストではなく、相談時に共有する項目です。例えば、研究で頸部痛がある人を除いていたなら、同じ訓練を首が痛む人にも安全と説明することはできません。首の病気や術後の制限がある場合は、開始前に主治医へ確認します。[3]

比較研究で分かったこと
CTARのレビュー:嚥下指標には改善の可能性
Liuらの系統的レビューは、脳卒中後の嚥下障害を対象とする9研究・548人を確認しました。8研究がランダム化比較試験、1研究が準実験研究で、統合解析には8研究が入りました。対象者の発症からの時期、器具、負荷、併用療法はそろっていません。[2]
CTARとShaker法を比べた統合では、嚥下造影で気道への入り込みを評価するPASの変化について、CTAR側が平均0.49点低い結果でした(平均差−0.49、95%信頼区間−0.83〜−0.16)。PASは8段階の尺度で、通常は低い方が気道への侵入が軽いことを表します。この平均差だけから、個人にとって十分な改善か、肺炎が減るかまでは判断できません。[2]
通常の嚥下療法などにCTARを追加した比較でも、PASの改善を示す結果がありました。一方、経口摂取の統合結果には研究間の大きなばらつきがあり、CTARとShaker法の食事摂取尺度FOISの直接比較は1研究で、有意差が示されませんでした。検査指標での差と、食事をどこまで口から取れるかの差は分けて考えます。[2]
小規模RCT:続けやすさにも目を向ける
Parkらの2019年の評価者盲検RCTでは、ゲーム付きCTARとShaker法を、通常の嚥下療法を併用して4週間比較しました。本文では46人が登録され、最終的に37人を解析しています。検査の嚥下指標やFOISに、両群の有意差は示されませんでした。小さな試験で「有意差がない」ことは、両者が同じ効果だと証明した意味にはなりません。[3]
ゲーム付きCTARでは意欲・楽しさの評価が高く、必要な努力や疲労の評価は低い結果でした。Shaker法の群では4人が一時的な首の痛み、疲労、不快感で脱落しています。ただし、頸椎の痛みなどがある人はあらかじめ除外され、調整可能な機器を使用した研究です。一般的なボールのCTARや首に持病がある人にも同じ結果が得られるとは言えません。[3]
検査・食事・肺炎は別々の結果
- PASなどの検査指標:検査で用いた食品・水分の条件で、気道への入り込みなどを評価します。日常のすべての食事を保証する値ではありません。
- FOISなどの経口摂取:口から取る食事の範囲や制限を評価します。検査の改善と必ず同じように変わるとは限りません。
- 肺炎や生活:肺炎、栄養状態、本人の満足、家族の負担には別の確認が必要です。CTARとShaker法の比較結果から肺炎予防や食事再開を約束しません。
研究の限界と最新の更新
2025年のネットワークメタ解析は33試験・1,341人をまとめ、CTARやShaker法に嚥下機能改善の可能性を示しています。ただし、検索は2022年9月までで、掲載年までの全研究を含むわけではありません。33試験中19試験は全体のバイアスリスクが高いと評価され、異なる検査・介入を直接・間接に比べています。順位を「自分にはCTARが一番合う」という結論にはできません。[4]
2026年8月のコクラン更新版も確認しました。公表要旨では181試験・11,500人を扱っていますが、さまざまな嚥下療法の総数であり、CTARとShaker法だけの比較人数ではありません。行動的な療法の結果もまとめられていますが、CTAR固有の効果に置き換えられません。本記事では、この更新版については要旨で確認できる範囲を参考にしています。[5]
CTARの研究では、短い期間の介入、小規模な参加者、通常療法との併用、発症時期や訓練条件の違いが残ります。長期にどれだけ食事や生活の利益が続くか、どの負荷が最適かは十分に確立していません。研究の効果量や実施期間は、本人へそのまま当てはめる処方ではありません。[2][3]
例えば、4週間の試験があるからといって、4週間続ければ食事の制限を外せるという意味ではありません。慢性期の方、認知面の問題がある方、頸部疾患を併せ持つ方では、研究の対象条件と自分の状態がどの程度違うかも担当者と確認します。
首への負荷と生活での確認
痛みを我慢して回数を達成しない
処方された訓練でも、首の痛み、頭痛、めまい、息苦しさ、強い疲労が出たら中止して相談します。「効いているから痛い」と考えて押し切らないでください。CTARは座って行う方式でも、無条件に負担が軽いわけではなく、器具、抵抗、姿勢や実施時間で変わります。
相談時は、いつから、どの動きで、首のどこに、どのような不快感が出るかを伝えます。負荷を変える、他の方法へ切り替える、いったん休止するなどの判断は担当者と行います。首を強く反らしたり、家族が頭を押して抵抗を増したりする自己流の変更は避けてください。
短い記録で、練習と食事を分けて相談する
- 訓練名・指示された条件、使った器具、実施できた範囲と休憩。
- 首の痛み・疲労・めまいなどが出た場面と、その後の経過。
- 食事では、指示された条件でのむせ・声の変化、食事時間、量、体調の変化。
- 本人が困っていることと、担当者へ確認したいこと。
一般例として、「Shaker法の途中から首がつらくなり、夕食まで疲れが残る」なら、回数不足を責めるより、その条件と経過を共有します。一方、「訓練が楽になったから、水分のとろみを外す」とは判断しません。訓練の実施しやすさと、飲食の条件の変更は別の相談です。この例は説明用で、実在の症例や当社の治療実績ではありません。

作業療法士が支えること
作業療法士は、座位を保つ、器具へ手を届かせる、手順を理解して続ける、生活時間の中へ無理なく組み込むといった動作・環境を確認します。例えば、片手では器具を準備しにくい、椅子が合わず姿勢が崩れる、説明書を見ても手順が分からないといった問題を、担当チームと共有して調整します。
目標は回数をこなすことだけでなく、本人が負担や希望を伝えられ、必要な評価や支援につながることです。嚥下の診断や食事許可は医療機関の評価に基づき、医師・言語聴覚士・看護師・管理栄養士などとの連携を優先します。自費リハビリの生活相談を、肺炎や急な飲み込みの悪化の診療に代えることはできません。

中止・受診の目安
訓練を止めて担当者へ相談する
首・胸の痛み、めまい、吐き気、息苦しさ、強い疲労、いつもと違う頭痛があれば、その場で訓練を中止します。症状が続く・繰り返す場合は医療機関へ連絡し、再開の可否を確認してください。頸椎の病気や装具、手術後の制限がある方は、開始前の確認が必要です。
飲み込みや全身状態の悪化は受診の相談を
食事中のむせや湿った声が増える、発熱、せき・痰、息切れ、食べる量や水分量の減少がある場合は、練習を増やして解決しようとせず、早めに医療機関へ相談します。食事中に息苦しくなるなどの変化があれば無理に続けません。すでに飲食を止める指示がある場合は、訓練をしたことを理由に再開しないでください。[1]
急な呼吸困難や新しい麻痺は119番
食べ物が詰まり声が出ない、十分に呼吸できない、意識がおかしい場合は直ちに119番通報し、指令員の指示に従います。強い胸痛や冷汗を伴う息苦しさも、救急要請が必要な症状です。突然の顔のゆがみ、片側の手足の力の入りにくさ、ろれつの回りにくさなど、新たな脳卒中が疑われる症状も救急対応が必要です。[6][7]
まとめ
Shaker法とCTARには、脳卒中後の嚥下指標を改善する可能性を示す研究があります。ただし、検査での差、口から食べられる範囲、肺炎や長期の生活は別の結果です。CTARを誰にでも優先する、首が痛くても続ける、練習後に食事制限を自己判断で外すという使い方はできません。
担当者と「何を改善する訓練か」「首と全身状態に合うか」「負荷・休憩・中止条件は何か」「いつ、どの評価で見直すか」を確認しましょう。本人の希望と負担を共有し、必要な医療評価と生活環境の調整を合わせて進めることが大切です。
よくある質問
CTARの方がShaker法より良いのですか?
PASという検査指標でCTARを支持する統合結果はありますが、食事摂取や肺炎まで一律に優れているとは言えません。首の状態、訓練の目的、姿勢や器具の条件を含めて選びます。
首が痛いときはCTARに変えればよいですか?
自己判断で変更せず、いったん中止して担当者へ相談します。CTARでも負担は生じ得ます。首に痛みがある人を除いた研究の結果を、そのまま安全の根拠にはできません。
何回・何秒行えばよいですか?
研究の回数・抵抗・期間は一定ではなく、最適な量は確立していません。処方した担当者に目的、負荷、休憩、中止条件を確認し、この記事から一律の回数は指定しません。
CTARは食事中にあごを引くことですか?
抵抗に対して力を出す訓練と、食事中の姿勢調整は区別します。食べ物や水分を取りながら自己流でCTARを行わず、食事の姿勢は評価した担当者に確認してください。
訓練できれば、とろみや食事制限を外せますか?
訓練を実施できることだけでは判断できません。食事・水分の条件は嚥下の再評価を含めて医療機関へ相談し、指示なく変更しないでください。
発症から数年経過していても同じ効果がありますか?
研究では発症時期や対象条件が異なり、長期経過した方の利益を一律には判断できません。現在の飲み込み、首・全身状態と生活上の目標を評価して相談します。
参考文献
- American Speech-Language-Hearing Association. Adult Dysphagia. Practice Portal(年記載なし). 評価・訓練・姿勢調整の各節。
- Liu J, Wang Q, Tian J, et al. Effects of chin tuck against resistance exercise on post-stroke dysphagia rehabilitation: A systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2022;13:1109140(2023年1月公開). PMID:36698882. DOI:10.3389/fneur.2022.1109140.
- Park JS, Lee G, Jung YJ. Effects of game-based chin tuck against resistance exercise vs head-lift exercise in patients with dysphagia after stroke: An assessor-blind, randomized controlled trial. J Rehabil Med. 2019;51(10):749–754. PMID:31515567. DOI:10.2340/16501977-2603.
- Zhang B, Wong KP, Guo C, et al. Effects of Non-Pharmacological Interventions on the Swallowing Function of Patients With Post-Stroke Dysphagia: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. J Oral Rehabil. 2025;52(1):109–120. PMID:39532528. DOI:10.1111/joor.13901.
- Wilkinson G, Everton LF, Bath PM, Benfield JK. Swallowing therapy for dysphagia in acute and subacute stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2026;8(8):CD000323. PMID:42573047. DOI:10.1002/14651858.CD000323.pub4(要旨確認).
- 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」。
- 消防庁「応急手当WEB講習」気道異物への対応。
文献確認日:2026年10月10日。一般的な情報であり、個別の診断・治療や食事許可を行うものではありません。訓練の適否は医療機関・担当者と相談してください。