
この記事の結論
「手の感覚が鈍いと、動きも良くなりにくいと聞いた」「電気刺激は筋肉を動かすものだけではないの?」。脳卒中後の手の麻痺について、こうした疑問を持つ方もいるでしょう。
電気刺激には、筋肉を収縮させて動かす方法のほかに、筋肉は動かさずに「感覚」だけを刺激する方法があります。この記事では、手の練習と組み合わせて研究されている反復末梢感覚刺激(RPSS)について、分かっていることと分かっていないことを整理します。
目次
反復末梢感覚刺激(RPSS)とは?
反復末梢感覚刺激(RPSS:Repetitive Peripheral Sensory Stimulation)とは、手首などの皮膚の上から末梢神経に弱い電気刺激を繰り返し行い、筋肉はほとんど動かさずに、ピリピリとした感覚だけを生じさせる方法です1。
手からの感覚の入力を増やすことで、手を動かす脳の領域が働きやすくなり、その後の手の練習の効果を高めることがねらいです1。研究では、手首の正中神経などに、1ミリ秒の短い電気を10Hzで5回続けるまとまりを1秒に1回のペースで、2時間行う方法が多く用いられています1,2。これは研究条件の紹介であり、家庭用機器を自己判断で設定・使用する手順ではありません。
筋肉を収縮させて手指を動かす電気刺激(NMES)とは目的も強さも異なります。NMESについては、脳卒中後の手の電気刺激(NMES)について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、発症から時間がたった生活期の方を中心に、手・腕の動きで良い結果が報告されていますが、研究の数と人数が少なく、まだ研究段階の方法です1。
同じ方法(10Hzの刺激のまとまりを1秒に1回)でRPSSを行った5件の研究(合計95人、平均56.9歳)をまとめた研究です1。5件中4件は、発症から6か月以上(平均約3年)たった方が対象でした1。
偽の刺激や刺激なしと比べて、手・腕の動きの評価全体で良い結果がみられ(標準化平均差0.67)、生活期の方だけに絞ると、より大きく、研究間のばらつきのない結果でした(標準化平均差1.04)1。手の力や麻痺の程度といった体の機能と、物をつかむなどの動作の評価の両方で良い結果でした1。重い副作用の報告はありませんでした1。ただし2010年の試験では接触皮膚炎、皮膚の赤み、軽い手首の不快感が各1人で報告されており、安全性の確認は必要です2。
発症2か月目の22人を、手首の正中神経へのRPSSを「感じない程度の弱い強さ」で行う群と「ピリピリ感じる強さ」で行う群に分け、刺激の直後に手の課題の練習を行った試験です(週3回・1か月、通常のリハビリに追加)2。
1か月後、手の動作のテスト(ジェブセン・テイラーテスト)は、意外にも「感じない程度の弱い強さ」の群でのみ良くなっていました2。ただしこの差は2〜3か月後には小さくなっており、著者らは、刺激の強さと量の関係を調べる研究が必要だとしています2。
中等度〜重度の手の麻痺がある生活期の方(解析20人)を対象に、手首を伸ばす練習(機能的電気刺激を使用)の前に、RPSS、脳への電気刺激(tDCS)、その組み合わせ、偽の刺激を、それぞれ1回ずつ行って比べた試験です3。
どの組み合わせでも、偽の刺激と比べて練習の効果を高めることはできませんでした3。著者らは、1回の刺激のみで人数も少なかったことを限界に挙げ、麻痺の重さに合わせて方法を調整する必要があるとしています3。
RPSSは、刺激だけで手が動くようになる方法ではありません。研究の多くは、刺激の直後に手の練習を行うことで、練習の効果を高めることをねらっています。刺激を受けることで手を使う練習の時間が減ってしまわないよう注意が必要です。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
メタ分析に含まれた研究は5件・合計95人と少なく、1つの研究あたり8〜36人の小規模なものでした1。本物の刺激ではピリピリ感が出る一方、比べる刺激では出ないため、受ける人がどちらを受けているか気づいてしまう可能性があり、結果に偏りが生じうると指摘されています1。
発症から間もない方を対象にした研究は1件だけで、刺激の強さによって結果が変わる可能性も示されています1,2。すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくい?
研究をまとめると、生活期の方では手・腕の動きの評価で良い結果が報告されやすく、重い麻痺の方や長期の変化ははっきりしない、という傾向です1,3。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象は、発症から半年以上たった生活期の方が中心でした1。重い麻痺の方では、少なくとも1回の刺激では差がみられませんでした3。
・発症2か月目の方(1件の研究)2
・刺激の直後に手の練習を行える方2
・電極を貼る部分に傷や皮膚トラブルがある場合
・腕・手がほとんど動かない場合(手首を自力で全く伸ばせない方は当該試験の対象外)3
・刺激を受けることで、手を使う練習の時間が減ってしまう場合
手の感覚そのものを練習する方法については、脳卒中後の手の感覚再学習について解説した記事で紹介しています。
どのくらいの頻度で行う?
研究では「1回2時間の刺激を安静にした状態で行い、その直後に手の練習をする」方法が多く、回数は1回から12回まで幅がありました1,2。
感覚レベルの電気刺激をつっぱりや歩行に用いる方法については、脳卒中後のTENSについて解説した記事で紹介しています。

作業療法士の視点
反復末梢感覚刺激(RPSS)は、手の練習の前に感覚の入力を増やすことで、生活期の方の手・腕の動きに良い結果が報告されている方法です1。一方で、研究は小規模で数も少なく、最適な強さ・回数や長期の効果はまだ分かっていません1,2。
どのような方法を組み合わせる場合でも、ご本人が生活の中で手を使いたい場面を目標に、手を使う練習そのものを十分な量で続けることが大切だと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 感覚の電気刺激だけで、手が動くようになりますか?
A. 刺激だけで手が動くようになると保証できる研究結果はなく、研究の多くは刺激の直後に手の練習を組み合わせています1,2。練習の効果を高める補助として調べられている方法です。
Q. 筋肉を動かす電気刺激(NMES)とは何が違うのですか?
A. RPSSは筋肉をほとんど動かさず、ピリピリした感覚だけを生じさせる弱い刺激で、感覚の入力を増やすことがねらいです1。NMESは筋肉を収縮させて手指を動かすことを目的とした刺激です。
Q. 1回どのくらいの時間、何回くらい行うのですか?
A. 研究では1回2時間の刺激を安静にした状態で行う方法が多く、回数は1回から12回まで幅がありました1,2。最適な回数や期間はまだ分かっていません。
Q. 刺激は強いほうがよいのですか?
A. 強いほうがよいとは限らず、発症2か月目の試験では「感じない程度の弱い強さ」の群でのみ手の動作のテストが良くなっていました2。最適な強さを調べる研究が必要とされています。
Q. 重い麻痺でも意味はありますか?
A. 中等度〜重度の麻痺の方を対象にした試験では、1回の刺激の上乗せで差はみられませんでした3。反復刺激の研究もありますが、この試験から繰り返した場合の効果は判断できません。適切な刺激の組み合わせや量は確定していません。
Q. 自宅用の電気刺激器を使ってもよいですか?
A. 自宅用の機器を自己判断で使うことは避け、まず担当の医師やリハビリ専門職に相談してください。研究では、刺激の強さや電極の位置を専門職が確認したうえで行われていました2。