
結論:脳卒中後に外出が減ったときは、歩く力に加えて、移動手段、道の状況、不安、行きたい場所を一緒に確認します。訪問による外出支援で外出回数が増えた研究はありますが、生活の質まで良くなるか、どの方法が最も合うかは確かではありません。「一人で歩くこと」だけを目標にせず、必要な付き添いや道具を使い、本人が望む外出と安全を両立する方法を相談しましょう。
「家の中は歩けるようになったけれど、外にはほとんど出ていない」「バスに乗るのが怖くて、以前の店に行けない」。退院後の外出は、歩行練習が進むだけで自然に再開できるとは限りません。玄関から目的地に着き、用事を済ませて帰るまでには、いくつもの動作と判断があります。
この記事は、地域で暮らす脳卒中後の本人と家族に向け、元気な日に無理に遠くへ行く方法ではなく、外出を妨げている条件を整理して相談するためのものです。研究で試された支援と、生活に合わせて検討する工夫を分けて紹介します。
この記事で分かること
・外出の回数、歩行能力、生活の質を分けて考える理由
・訪問による外出支援の研究結果と、まだ分からないこと
・経路や付き添いを相談する具体例と、中止・受診の目安
家の中で歩けても、外出が難しい理由
屋外では、段差や傾斜、混雑、信号の時間、扉を開ける動作、荷物の持ち運びが重なります。家の廊下とは違い、歩きながら周囲の人や車に注意を向ける場面もあります。歩く速さや持久力を測ることは役立ちますが、その数値だけで実際の外出を安全に行えるかは決まりません。[3]
「歩ける」と「行きたい場所に行ける」は別の目標
歩行能力は、条件を整えた場所でどれだけ歩けるかという力です。外出の実行には、その力を使える環境、交通費、同行者、道具、休める場所なども関わります。さらに社会参加は、出かけた先で友人と話す、買い物を選ぶ、趣味を楽しむといった生活の中身です。歩数や外出回数が増えても、望む活動ができたかは別に確かめます。[4]
自信を失ったことや、転倒への不安が障壁になる場合もあります。本人の気持ちを「気にしすぎ」と片づけず、何が起こると心配なのかを具体的に聞きます。脳卒中後の転倒恐怖について解説した記事も、相談内容を整理する参考になります。

訪問による外出支援の研究で分かること
2004年:168人の試験で外出の増加を報告
英国で、発症から36か月以内の地域在住者など168人を無作為に分けた試験です。全員に初回の作業療法として助言・励まし・交通情報を提供し、介入群にはさらに、目標の相談、歩行補助具などの工夫、外出への付き添いを含む訪問支援を行いました。期間は3か月以内、最大7回でした。[1]
4か月後に「望むだけ外出できている」と回答する割合は、介入群で高く、相対リスクは1.72(95%信頼区間1.25〜2.37)でした。直前1か月の外出回数の中央値は37回と14回で、10か月後にも差がありました。一方、余暇活動や気分には明確な差がありません。外出の自己申告が中心で、担当者や地域が変わっても同じ結果になるかには留保が必要です。[1]
2014年:568人の多施設試験では主要評価に差なし
英国15施設で、もっと外出したいと希望する脳卒中後の568人を対象にした試験です。全員が助言・個別の交通情報・外出日誌を受け、介入群には4か月間に最大12回の支援を追加しました。実際の訪問回数の中央値は7回でした。[2]
主な評価である健康関連の生活の質の「社会生活機能」に、6か月後の明確な差はありませんでした。日常生活動作、気分、外出への満足度にも差は確認されませんでした。外出回数には調整後の解析で介入群に有利な結果が出ましたが、担当療法士の影響があり、単純に全員の回数が増えるとはいえません。研究者は、このプログラム全体の臨床的有効性・費用対効果は示されなかったと結論しています。[2]
この2つの試験は、外出の機会を支える可能性と、その結果が生活全体の満足や機能に広がるとは限らないことを示しています。「訪問を受ければ外出が増え、生活の質も高まる」とひと続きの効果にして説明することはできません。
研究の限界:効果と安全性の不確かさ
2015年レビューと2024年レビューの読み方
2015年のコクランレビューは、地域での歩行練習など5試験・266人をまとめ、社会参加、歩行速度、歩行距離、歩く自信への効果を確立するには根拠が足りないとしました。研究数と人数が少なく、介入や評価方法も異なり、根拠の質は低いと評価されています。[3]
2024年には、障害のある成人への屋外移動支援22試験・2,675人を含むレビューが公表されました。13試験が脳卒中を対象とし、前述の試験も含まれます。短期の生活活動への関与に前向きな結果はあるものの、屋外での活動、社会参加、生活の質、安全性の多くは依然として非常に不確かでした。人数が増えたレビューでも、偏りや評価方法の違いが残っています。[4]
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
・どのような症状や生活条件の人に、どの支援が合うか
・何回、どのくらいの期間行うとよいか
・外出が増えた結果、本人が望む役割や楽しみが続くか
・転倒などの有害な出来事を増やさずに実施できるか
研究で差がなかったことは、「支援は無意味」や「安全が証明された」という意味ではありません。外出回数は日誌など本人の記録に頼る部分があり、支援を受けたという期待も影響し得ます。また、英国などで行われた支援を、日本の道路・交通・家族の状況へそのまま当てはめることはできません。[2][4]
外出前に確認する、体・環境・本人の希望
英国NICEの脳卒中リハビリガイドラインは、本人にとって意味のある活動・参加の目標を設定し、必要や希望に合う地域参加プログラムへの紹介を検討するよう勧めています。外出回数だけを一律に増やす指示ではありません。[5]
体調と認知・感覚の条件
歩行や立ち上がり、バランスだけでなく、視野、注意、道順の理解、疲労、痛み、排泄の心配も伝えます。屋内では問題が目立たなくても、人混みで周りを見落とす、疲れると足が引っかかる、話を聞きながら止まれないなど、場面ごとの困り方があるためです。
経路と帰り方
家から店までの距離だけでなく、玄関、坂、横断歩道、休憩場所、トイレ、店内の通路、帰りの交通手段を確認します。雨や暑さ、混雑する時間帯で条件も変わります。「途中で続けられなくなったとき、誰に連絡し、どう戻るか」まで決めておくと相談が具体的になります。
本人が望む目的と、必要な手助け
「毎日散歩する」よりも、「近所の店で好きな品物を自分で選びたい」のように目的を聞きます。往路は付き添いと歩き、帰路は車を使う方法でも目的がかなうことがあります。杖、歩行器、車いす、同行者を使うことを失敗とせず、本人の希望と安全から方法を選びます。
買い物や公共交通を使う生活の具体例
以下は相談を具体化するための例です。この順番や量に治療効果が証明されているという意味ではなく、実施できる範囲は担当者と確認します。
近所への買い物を再開したい
まず店までの経路と店内を分けて考えます。疲れが強ければ、移動に車や車いすを使い、店内で選ぶ活動に力を残す選択もあります。初めから荷物を持って往復する必要はありません。同行者が荷物を担当する、空いている時間を選ぶ、休める場所を確認するなど、負担の原因を一つずつ調整します。
バスや電車の利用が心配
停留所まで行けても、待つ、段差を越える、席まで移動する、支払いをするという別の課題があります。まず混雑しない場所で経路と手順を相談し、交通事業者の利用案内も確かめます。乗り遅れそうだからと急いだり、走行中に無理に立ったりせず、必要な介助と代わりの移動手段を用意します。
趣味や人とのつながりを取り戻したい
行くことだけで疲れ切るなら、滞在時間や活動の内容も含めて見直します。会場の入り口、椅子、トイレ、話を聞きやすい場所を事前に確認し、本人が参加したい部分に合わせて予定を組みます。脳卒中後の地域・社会参加について解説した記事では、外出先で続けたい役割の考え方も整理しています。

外出日誌と回数・期間の考え方
記録は「回数」と「目的・負担」を並べる
日誌には、行き先と目的、移動手段、付き添い、途中の不安や休憩、帰宅後と翌日の疲れを簡単に残します。行けなかった日も、天候、交通、体調などの理由が分かれば役立ちます。細かな点数づけが負担なら、短い言葉や印を家族と付ける形でもかまいません。
2014年の試験では両群に日誌と情報提供があり、日誌だけを使う群と使わない群を比べていません。したがって「日誌をつければ外出が増える」とは断定できません。ここでは担当者と状況を共有する道具として考えます。[2]
研究の訪問回数を、自分の必要回数に置き換えない
研究では3〜4か月の支援が行われましたが、6〜7回で一人外出できるという意味ではありません。目標、経路、症状、家族の協力によって必要な内容は違います。試した後に、目的がかなったか、負担や危険が増えていないかを振り返り、距離、手伝う工程、時間帯を見直します。回数をこなすこと自体を目標にしないことが大切です。

作業療法士の視点とJourney Rehabでの相談
作業療法では「どれだけ歩けるか」とともに、「どこへ行き、何をしたいか」を出発点にします。外出を準備・移動・目的地での活動・帰宅に分けると、本人が自分で行いたい部分と、道具や周囲の協力で補う部分が見えやすくなります。家族も、すべて代わりに行うか、すべて一人で任せるかの二択にする必要はありません。
Journey Rehabへの相談では、行きたい場所、現在の移動手段、転倒やヒヤリとした場面、主治医・担当者からの注意点を伝えてください。生活の中でどの動作や環境を確認するかを整理します。訪問支援は医療機関での病状評価を置き換えるものではなく、特定の回復や一人外出を保証するものでもありません。
安全上の注意・中止基準・受診の目安
外出練習を中止する目安
転びそうになった、ふらつきが増えた、普段と違う痛み・息切れ・動悸・強い疲労が出たときは、その場で安全な場所に止まり、付き添いに伝えます。予定を優先して歩き続けたり、一人で無理に帰宅したりしないでください。休んでも戻らない症状や繰り返す症状は、医療機関へ相談します。
始める前・続ける途中で医療機関に相談する症状
繰り返す転倒、立つと強いめまいがする、最近増えた息切れやむくみ、発熱、以前より急に疲れやすいなどの変化がある場合は、距離を延ばす前に原因を確認します。血圧など個別の中止基準を指示されている方は、その基準を守ります。薬の量や飲む時間を自己判断で変えないでください。
突然の神経症状や強い胸痛は救急対応
急な片側の手足・顔の麻痺やしびれ、言葉が出ない・理解しにくい、急な見え方の変化、突然立てないほどのふらつき、経験したことのない激しい頭痛は、脳卒中を疑う緊急の症状です。すぐに119番で救急要請し、症状が始まった時刻を伝えてください。短時間で治まっても様子見をせず対応します。強い胸痛、重い呼吸困難、意識を失う場合も救急要請が必要です。[6][7]
2014年の試験では転倒した人の割合は両群でほぼ同じでしたが、研究全体の268人/568人に転倒の記録がありました。これは外出時だけの転倒数ではなく、その人の転倒確率を示す数字でもありません。2024年レビューでも有害事象の報告は限られ、安全性の不確実性が指摘されています。差がなかったという理由で、見守りや環境の確認を省くことはできません。[2][4]
まとめ
脳卒中後の外出支援は、歩行練習に加えて、交通手段、環境、不安、本人が望む活動を組み合わせて考えます。外出回数に前向きな結果を示す研究はありますが、生活の質や長期の効果、安全性まで確立したわけではありません。行きたい場所と困る工程を担当者に伝え、必要な付き添いを使いながら、目的と負担を振り返って方法を調整しましょう。
よくある質問
Q. 退院してすぐに外出練習を始めてよいですか?
一律の開始日はありません。体調、歩行や移乗、注意・見え方、外出先の条件を主治医・担当者と確認します。屋内で歩けるだけで一人外出を決めず、最初に必要な同行や道具を相談してください。
Q. 一人で外出できるまで、何回の訪問が必要ですか?
研究の訪問回数からは決められません。研究での最大7回・12回は試験の設定であり、一人外出に必要な回数ではありません。安全な移動方法と、望む用事ができるかを目標ごとに見直します。
Q. 車いすやタクシーを使うと歩く力が落ちますか?
外出の手段と、身体機能を保つ練習の計画は分けて相談します。移動で疲れ切って目的の活動ができなくなる場合には、道具や交通手段が選択肢になります。この記事で紹介した研究から、個人の歩行能力の変化を予測することはできません。
Q. 家族はいつまで付き添えばよいですか?
本人の自信だけで判断せず、交通や段差への対応、危険時に止まる・助けを呼ぶ行動、帰路の余力を確認します。同行を減らす時期は専門職と相談してください。付き添いが続いても、本人が選ぶ・会う・楽しむという目的は大切にできます。
Q. 外出日誌をつけるだけでも効果がありますか?
日誌単独の効果は、ここで紹介した研究では確かめられていません。外出した目的、困った場面、疲れや介助を共有する材料として使い、記録の負担が大きければ項目を減らします。
Q. 外出が増えれば、気分や生活の質も良くなりますか?
そうとは限りません。568人の試験では、外出回数の解析に前向きな結果があっても、生活の質や気分に明確な差はありませんでした。回数とともに、本人が楽しめたか、負担や不安が増えていないかを確認します。
参考文献
資料確認日:2026年10月4日。研究結果は対象集団と比較条件を踏まえて紹介しています。生活の具体例は個別相談のための例です。記事には当社サービスの案内を含みます。
- Logan PA, Gladman JRF, Avery A, Walker MF, Dyas J, Groom L. Randomised controlled trial of an occupational therapy intervention to increase outdoor mobility after stroke. BMJ. 2004;329:1372–1375. PMID: 15564229. DOI: 10.1136/bmj.38264.679560.8F. PubMed / 全文
- Logan PA, Armstrong S, Avery TJ, et al. Rehabilitation aimed at improving outdoor mobility for people after stroke: a multicentre randomised controlled study (the Getting out of the House Study). Health Technol Assess. 2014;18(29):1–113. PMID: 24806825. DOI: 10.3310/hta18290. PubMed / 全文
- Barclay RE, Stevenson TJ, Poluha W, Ripat J, Nett C, Srikesavan CS. Interventions for improving community ambulation in individuals with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015;CD010200. PMID: 25767912. DOI: 10.1002/14651858.CD010200.pub2. PubMed / 全文
- Ringsten M, Ivanic B, Iwarsson S, Månsson Lexell E. Interventions to improve outdoor mobility among people living with disabilities: A systematic review. Campbell Syst Rev. 2024;20:e1407. PMID: 38882933. DOI: 10.1002/cl2.1407. PubMed / 全文
- National Institute for Health and Care Excellence. Stroke rehabilitation in adults. NG236. 2023. 1.2.7(目標設定)、1.17.3・1.17.6(地域生活・参加)。 公式資料
- American Stroke Association. Stroke Symptoms. 緊急症状の確認。日本の緊急通報番号に合わせ本文は119番と表記。 公式資料
- 厚生労働省. こんな時は迷わず119へ. 救急車の要請が必要な症状。 公式資料