
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「麻痺した手は使わずに、動く手だけで生活してしまう」「両手を一緒に動かす練習って意味があるの?」——脳卒中の後、手のリハビリについてはこうした疑問がよく聞かれます。麻痺した側と動く側の両方を同時に動かす「両側上肢トレーニング(両手動作練習、バイラテラルアームトレーニング)」は、近年の研究で検討が進んでいる方法のひとつです。この記事では、両手を使うリハビリについて、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、回数や期間の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・複数の研究をまとめた解析では、通常のリハビリと比べて腕の運動機能の指標で良い傾向が報告されています1。
・一方で、片手だけを集中して使う練習(片側練習)と比べると、明確な差は確認されていません1。
・慢性期で麻痺が比較的軽い方、練習量が多い場合に良い傾向が出やすいと報告されています1。
両側上肢トレーニング(バイラテラルアームトレーニング、両手動作練習)は、麻痺した側の腕・手と、動く側の腕・手を「同時に」動かす練習です。たとえば、両手で同じ動き(左右対称)を繰り返す方法や、両手で1つの物を持ち運ぶ・タオルをたたむといった「両手を協力させる生活動作」を使う方法などがあります。動く側の手の動きが、麻痺した側の動きを引き出す“手がかり”になることをねらった考え方です。
脳卒中の後は、麻痺した手を使わずに動く手だけで生活が成り立ってしまい、麻痺側を使う機会がさらに減る、ということが起こりがちです。両手を使う練習は、日常生活の多くの動作が本来「両手で行うもの」である点に着目し、生活に近い形で麻痺側を動かす機会をつくることを目的としています。さまざまな研究で、その効果や向き不向きが検討されています1,2。
結論から正直にお伝えすると、両側上肢トレーニングは、通常のリハビリと比べると腕の運動機能で良い傾向が報告されていますが、「片手だけを集中して使う練習」と比べて特に優れている、とまでは言えない、という整理です。どんな人に、どのくらいの量で行うかによって、結果に差が出る点に注意が必要です。
上肢リハビリの多くの方法を比較した大規模なネットワークメタアナリシス(176試験・6,781名)でも、両側上肢トレーニングは通常ケアより良い傾向(平均差5.2、95%信頼区間2.2〜8.1)を示し、20の方法のうち上位に位置づけられています2。ただし、上位の方法どうしは信頼区間が大きく重なっており、「どれが一番」とは言い切れないと著者は述べています2。

研究で良い傾向が見えやすいのは、腕の運動機能の指標です1,2。とくに慢性期で麻痺が比較的軽い方、練習量を多く確保できた場合に変化が出やすいと報告されています1。両手を使う生活動作はもともと数が多いため、生活の中に練習を組み込みやすいことも利点と考えられます。
一方で、片手だけを集中して使う練習と比べて明らかに優れているとは確認されておらず1、また麻痺が重い方や発症から間もない時期では、両手練習の利点がはっきり出にくいとも報告されています1。手先の細かい動作や日常生活動作(ADL)全体への効果については、研究の数や対象者の条件が限られており、すべての方に同じ変化が当てはまるとは限りません。「両手練習か、片手練習か」を二者択一で選ぶより、本人の状態や目的に合わせて使い分ける視点が大切です。
麻痺した手を生活の中で使う機会を増やしたい方、両手を協力させる動作(物を運ぶ、洗う、たたむなど)を練習したい方には、取り入れやすい方法です。研究では、慢性期で麻痺が比較的軽い方、ある程度の練習量を確保できる方で良い傾向が報告されています1。動く側の手が“見本”になりやすいため、左右で同じ動きから始めやすいことも特徴です。
研究では設定に幅がありますが、良い傾向が出やすかったのは練習量が多い場合で、目安として週7時間以上、または合計30時間以上といった量が報告されています1。1回あたりは、通常のリハビリに両手練習を組み合わせて行うものが多くみられます。大切なのは「ただ長く続ける」ことよりも、本人が両手をしっかり使える課題を選び、無理のない範囲で量を確保していくことです。
これらはあくまで研究上の目安です。麻痺の程度、疲れやすさ、肩や手の痛み、生活リズムによって、無理なく続けられる量は人それぞれ異なります。課題の種類・難易度・量は、担当の専門職と一緒に調整していくことが大切です。


修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Saikaley M, Pauli G, Sun H, et al. Network Meta-Analysis of Non-Conventional Therapies for Improving Upper Limb Motor Impairment Poststroke. Stroke. 2022;53(12):3717-3727. DOI:10.1161/STROKEAHA.122.040687. PMID:36252104.
3. Pollock A, Farmer SE, Brady MC, et al. Interventions for improving upper limb function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(11):CD010820. DOI:10.1002/14651858.CD010820.pub2. PMID:25387001.
4. Gnanaprakasam A, Karthikbabu S, Ravishankar N, Solomon JM. Effect of task-based bilateral arm training on upper limb recovery after stroke: A systematic review and meta-analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2023;32(8):107131. DOI:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2023.107131. PMID:37148628.
