田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
脳卒中後のぶん回し歩行はなぜ起こる?原因別の見方とリハビリ介入
脳卒中後に「足を外へ回して歩いてしまう」「歩き方をきれいにしたい」と相談されることは少なくありません。この歩き方は、一般にぶん回し歩行、医学的にはcircumduction gaitと呼ばれることがあります。
大切なのは、ぶん回し歩行を「悪い癖」と決めつけないことです。つま先が上がらない、膝が曲がらない、太ももが前に出にくい、骨盤を持ち上げないと足が引っかかるなど、背景には複数の原因があります。
この記事では、脳卒中後のぶん回し歩行の原因、効果が報告されている介入、トレッドミル練習の考え方、そして「何が一番有効か」を、研究と現場経験の両方から整理します。
公開日:2026年6月11日 最終更新日:2026年6月11日
執筆・内容確認:田中 光(作業療法士)
最初に確認してほしいこと:
本記事は一般的な情報提供です。診断や医療行為の代替ではありません。歩行中の転倒、急な麻痺の変化、強い痛み、息切れ、胸痛、意識の変化がある場合は、主治医や担当のリハビリ専門職へ相談してください。
▲ ぶん回し歩行は、歩き方だけでなく、つま先・膝・股関節・骨盤の動きを分けて確認します。
SECTION 01
ぶん回し歩行は「足が引っかからないための代償」として出ることがある
ぶん回し歩行は、麻痺側の足を前に出すときに、脚を外側へ回すように振り出す歩き方です。足をまっすぐ前に出せないというより、「まっすぐ出そうとするとつま先が引っかかる」「膝が曲がらず足が長いままになる」ため、体が別の方法で足を通している場合があります。
2025年の急性期脳卒中者を対象にした縦断研究では、歩行開始時から10〜14日後にかけて、大腿の外への動きと骨盤挙上が減り、麻痺側の膝屈曲が増えたことが報告されています。また、大腿の外への動きの減少は足関節運動機能の変化と、骨盤挙上の減少は膝関節運動機能の変化と関連していました。1
原因として見たいポイント
・つま先が上がりにくい:足部下垂、足関節背屈筋の弱さ、感覚の低下
・膝が曲がりにくい:stiff-knee gait、太もも前面の過活動、足首の硬さ
・太ももが前に出にくい:股関節屈曲筋力、麻痺側で体を支える力、推進力の低下
・骨盤を持ち上げてしまう:足を短くする代償、体幹・骨盤の使い方
・外へ回す動きが強い:神経学的な運動パターン、分離運動の難しさ、歩行速度の影響
さらに、膝が曲がりにくい歩行では、単純に「膝が曲がらないから股関節を外へ回している」とは言い切れないことも報告されています。膝屈曲制限に対する代償として骨盤挙上が関わる一方、股関節外転の強さには神経学的な運動パターンなど別の要素が関わる可能性があります。2
▲ 足首、膝、股関節、骨盤のどこで足を通しているかを見ると、介入の優先順位が立てやすくなります。
SECTION 02
効果が報告されている介入:原因別に選ぶ
ぶん回し歩行そのものを一つの介入で消す、というより、原因に合わせて介入を組み合わせます。研究で比較的報告が多いのは、歩行練習、短下肢装具(AFO)、機能的電気刺激(FES)、トレッドミル練習、膝が曲がりにくい歩行へのボツリヌス療法などです。ただし、どの介入も適応や優先順位は個別性が高く、麻痺の程度、感覚、痙縮、関節可動域、転倒リスク、生活目標を合わせて判断します。
メタ解析・ガイドライン
足部下垂に対するAFOとFESを検討した2020年のメタ解析では、AFOもFESも歩行速度を高める可能性が示されました。一方で、バランスへの結果ははっきりせず、AFOとFESのどちらが全体として優れているとは言えない結果でした。3 2021年の臨床実践ガイドラインでも、AFOとFESはいずれも歩行速度、移動能力、動的バランスに対して強い根拠があると整理されています。4
つま先が引っかかる場合:AFO・FES・足関節練習
AFOは足首の位置を補助し、FESは歩くタイミングに合わせて筋肉を刺激します。AFOを使った三次元歩行分析の研究では、前足部接地、ぶん回し、反対側のつま先立ち代償が減ったことが報告されています。5 一方で、股関節を外へひねる動きが増えた結果もあり、装具をつければ歩容がすべて整うわけではありません。AFOやFESは皮膚状態、感覚、筋反応、装具の硬さ、歩行場面との相性を見ながら適応判断が必要です。足関節背屈、荷重、歩行練習を合わせて考えます。
膝が曲がりにくい場合:膝屈曲、足関節、痙縮評価
stiff-knee gaitでは、膝が十分に曲がらず、足を外へ回したり骨盤を持ち上げたりしやすくなります。直筋大腿へのボツリヌス療法を検討したRCTでは、膝の最大屈曲角度と膝関節可動範囲が増え、6分間歩行にも小さな変化が示されました。6 ボツリヌス療法は医療行為であり、すべての膝の曲がりにくさに適応するものではありません。痙縮、筋活動、筋力、歩行目標を評価したうえで、医師・専門職と相談します。
歩行速度・距離を上げたい場合:中等度から高強度の歩行練習
慢性期の脳卒中などを対象にした歩行機能の臨床実践ガイドラインでは、歩行速度や一定時間内の歩行距離を高める目的で、中等度から高強度の歩行練習が推奨されています。7 ただし、速度を上げる練習だけで歩容が必ず整うわけではありません。
SECTION 03
トレッドミルは有効?悪くなる?答えは「使い方次第」
トレッドミル練習は、歩行量を確保しやすく、速度や時間を調整しやすい方法です。免荷式トレッドミルとFESを組み合わせたメタ解析では、免荷式トレッドミル単独よりも、歩行速度や歩行機能などで良い結果が報告されています。8
一方で、「トレッドミルなら何でも良い」とは言えません。慢性期歩行者の歩行速度・距離を目的にしたガイドラインでは、免荷式トレッドミルやロボット歩行練習は、中等度から高強度の歩行練習より優先されるものではないと整理されています。7
トレッドミルで注意したいこと
速度を上げると、歩幅や推進力が良く見える一方で、膝屈曲、骨盤挙上、左右差など一部の歩容指標が目立つことがあります。速く歩く練習は大切ですが、ぶん回しを減らしたい場合は、動画や歩行分析で「どの代償が増えているか」を確認しながら進めることが重要です。
実際、速く歩くことで脳卒中後の歩容指標がすべて神経典型的な歩き方に近づくわけではなく、膝屈曲や骨盤挙上などでは差が広がる場合があることも報告されています。9 そのため、トレッドミルは「歩行量と速度を作る道具」として有用ですが、「歩容を整える練習」と組み合わせて使う方が現実的です。
▲ トレッドミルは歩行量を確保しやすい一方、歩容の確認を合わせて行うことが大切です。
SECTION 04
何が一番有効?目的別に第一候補は変わる
正直に言うと、脳卒中後のぶん回し歩行に対して「全員にこれが一番」と言える介入はありません。ぶん回しは原因ではなく、結果として見えている歩き方だからです。
歩行速度を上げたい
第一候補は、本人の安全性に合わせた中等度から高強度の歩行練習です。トレッドミル、屋外歩行、坂道、階段、方向転換などを目的に合わせて組み合わせます。
つま先の引っかかりを減らしたい
AFO、FES、足関節背屈練習、靴の調整を検討します。装具は「楽にする道具」であると同時に、歩行量を増やすための道具にもなります。
膝が曲がらない歩き方を変えたい
膝屈曲、足関節、股関節、直筋大腿や下腿三頭筋の過活動、推進力を分けて評価します。痙縮が関わる場合は、医師と相談しながら医療的選択肢も含めて考えます。
きれいに歩きたい
歩行速度、足の通し方、左右差、疲労、安全性を分けて目標にします。最初からすべてを同時に狙うより、歩行量を作る時期と、歩容を整える時期を分けた方が進めやすいことがあります。
SECTION 05
Journey Rehabでの現場経験:きれいさと速さは、時にトレードオフになる
Journey Rehabでの訪問リハビリにおける経験
ぶん回し歩行は、脳卒中後の方からよく相談される悩みです。「もっときれいに歩きたい」「人目が気になる」「外で歩くと疲れる」と話される方が多くいます。
ただ、同じぶん回しに見えても、原因は一人ひとり違います。膝が曲がらない方、太ももが上がりにくい方、つま先が上がらない方、麻痺側で支える時間が短い方など、どこが課題かを評価できないと介入が難しくなる場面があります。
もう一つ大切なのは、「きれいに歩く」と「歩行速度を上げる」が、いつも同時に進むとは限らないことです。現場では、まず歩行速度や歩行量を上げることに専念し、そのあと歩容を整えていく流れになることがあります。逆に、最初から歩容だけを細かく修正しすぎると、歩く量が減り、体力や自信が育ちにくいこともあります。
そのためJourney Rehabの訪問リハビリでは、「いまは速さを狙う時期か」「足の通し方を整える時期か」「屋外で安全に歩く時期か」を本人と相談しながら、目標を小さく分けて進めることを大切にしています。
SECTION 06
まとめ:ぶん回し歩行は、原因を分けて考える
脳卒中後のぶん回し歩行は、つま先、膝、股関節、骨盤、麻痺側で支える力、歩行速度、感覚、痙縮などが重なって起こります。見た目だけで原因を決めつけると、介入がずれてしまうことがあります。
この記事の要点
・ぶん回し歩行は、足を引っかけないための代償として出ることがある
・原因は、足首、膝、股関節、骨盤、痙縮、感覚、歩行速度などに分けて見る
・AFOとFESは、足部下垂や歩行速度に対する研究報告が多い
・トレッドミルは有用な場面があるが、歩容確認と組み合わせることが大切
・「何が一番有効か」は、歩行速度を上げたいのか、つま先を引っかけたくないのか、きれいに歩きたいのかで変わる
免責事項:
本記事は脳卒中後の歩行リハビリに関する一般的な情報提供を目的としています。診断、治療、医療行為の代替ではありません。運動や装具、FES、トレッドミル練習、痙縮への対応を検討する際は、主治医や担当のリハビリ専門職へ相談してください。AFO、FES、ボツリヌス療法などは適応判断が必要であり、自己判断で開始・変更するものではありません。研究内容は2026年6月時点で確認できる情報に基づいています。
歩行やリハビリの進め方についてご相談ください
「自分の歩き方の原因を知りたい」「今の身体に合った運動を知りたい」「生活動作や歩行について相談したい」など、専門職に相談したいことがあればお気軽にご相談ください。
執筆者・内容確認:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
質問リスト
Q1. ぶん回し歩行は治した方がよいですか?
A. まずは原因と生活上の困りごとを確認します。足を引っかけないための代償として役立っている場合もあるため、無理に形だけを変えるのではなく、安全性、速度、疲労を合わせて考えます。
Q2. トレッドミルをするとぶん回し歩行は悪くなりますか?
A. 一概には言えません。歩行量や速度を作る助けになる一方、速度を上げることで一部の代償が目立つこともあります。動画や専門職の評価を使いながら進めることが大切です。
Q3. 装具を使うと歩き方は悪くなりませんか?
A. 装具は足を支え、つま先の引っかかりや歩行量を助けることがあります。ただし、種類や硬さが合っているか、筋活動や歩行練習とどう組み合わせるかを定期的に見直すことが重要です。
Q4. FESはぶん回し歩行に役立ちますか?
A. 足部下垂があり、歩くときにつま先が上がりにくい方では検討されることがあります。適応は皮膚状態、感覚、筋反応、歩行能力によって異なるため、専門職と確認してください。
Q5. きれいに歩く練習と速く歩く練習はどちらが先ですか?
A. 目標によります。外出範囲を広げたい時期は歩行量や速度を優先し、その後に歩容を整えることがあります。転倒リスクが高い場合は、安全性を最優先にします。
Q6. 自主トレでできることはありますか?
A. 足首を上げる練習、膝を曲げて足を通す練習、麻痺側で支える練習などがあります。ただし転倒リスクがあるため、最初は担当のリハビリ専門職に内容と環境を確認してもらいましょう。
参考文献
1. A Longitudinal Study of Physical Function Factors Related to Lower Limb Circumduction During Gait in Acute Stroke Patients with Hemiparesis. Sensors. 2025. DOI: 10.3390/s25237309. PMID: 41374684.
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2. Campanini I, et al. Hip circumduction is not a compensation for reduced knee flexion angle during gait. J Biomech. 2019. DOI: 10.1016/j.jbiomech.2019.02.026. PMID: 30876735.
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5. Effects of ankle-foot orthosis on gait pattern and spatiotemporal indices during treadmill walking in hemiparetic stroke. Int J Rehabil Res. 2023. DOI: 10.1097/MRR.0000000000000602. PMID: 37755385.
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