脳卒中後の上肢リハビリ|代償動作はどこまで許容してよい?

· 脳卒中上肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の上肢リハビリ
代償動作はどこまで許容してよいのか?

脳卒中後の上肢麻痺では、肩をすくめる、体幹を前に倒す、肘や手首を固めるなどの代償動作がよく見られます。結論から言うと、代償動作は「すべて禁止」でも「何でも許容」でもなく、目的と重症度に応じて調整するものです。

脳卒中後上肢麻痺のリハビリで療法士がリーチ練習を見守る場面
代償動作は「すべて禁止」ではなく、目的や重症度に合わせて調整していきます。
この記事の要点
・重度麻痺では、最初から完全な運動だけを求めると練習量が不足しやすい
・課題指向型訓練では、成功と失敗が混ざる「少し難しい」課題設定が重要
・代償は、生活動作の達成には役立つ一方、過剰に固定化すると運動の質や痛みに影響することがある
・電気刺激や除重力環境は、代償を減らしながら反復量を確保する手段になり得る
SECTION 01
代償動作は「悪」ではない

脳卒中後の上肢麻痺では、腕や手の力、感覚、協調性が低下します。そのため、目的物に手を伸ばすときに体幹を前へ倒したり、肩甲帯を挙上したり、肘を伸ばす代わりに肩や体幹で距離を稼いだりします。

研究では、機能的な課題を達成する能力の改善には、神経学的な回復だけでなく、代償戦略も含まれると整理されています。つまり、生活動作を成立させるという意味では、代償は一部必要な戦略です。一方で、過剰な体幹代償や肩のすくみが習慣化すると、運動の質が高まりにくくなったり、痛み・可動域制限につながる可能性があります。

研究の見方

上肢の回復を評価する研究では、「課題ができたか」だけでは、回復と代償を区別しにくいことが指摘されています。リーチ動作の運動学的研究では、体幹変位や肩肘協調など、運動の質も合わせて見る必要があります。¹,²

SECTION 02
課題指向型訓練は「ちょうど難しい」が大切

課題指向型訓練では、ただ同じ運動を繰り返すだけでなく、本人にとって意味のある課題を、少し挑戦的な難易度で練習します。運動学習の考え方では、簡単すぎる課題は学習情報が少なく、難しすぎる課題は成功体験や反復量が得にくくなります。

臨床では「10回中6〜7回程度成功する難易度」が使いやすい目安です。ただし、これは絶対的な数字ではありません。研究では70%成功を目標に難易度を自動調整したロボット訓練や、患者能力と課題難易度を合わせる方法が検討されており、いずれも「能力に対して難しすぎず、簡単すぎない」設定の重要性を支持しています。³,⁴

課題指向型訓練で姿勢と上肢の使い方を確認しながらリーチ練習を行う場面
課題の距離、高さ、物品、姿勢を調整しながら、成功と修正が混ざる難易度を探します。
難易度調整の目安
簡単すぎる:10回中9〜10回成功。速度・距離・物品・姿勢などを少し難しくする。
ちょうどよい:10回中6〜8回成功。少し失敗があり、修正しながら反復できる。
難しすぎる:10回中0〜3回成功。代償が強く、疲労や痛みが出るなら課題を下げる。
SECTION 03
重度麻痺では、まず反復量を確保する

重度麻痺では、手指や肘の随意運動が乏しく、最初から「代償を全く使わずに正しい運動だけ」を求めると、ほとんど練習できないことがあります。この段階では、代償を完全に禁止するよりも、痛みや過緊張を増やさない範囲で、動かす経験と反復量を確保することが現実的です。

ただし、何でも許容するわけではありません。特に、肩の痛みが出る、肩甲帯挙上が強すぎる、体幹前屈だけで課題を達成している、手を使う目的が失われている場合は、課題設定を下げる必要があります。

注意したい代償
・痛みを伴う肩のすくみや引き上げ
・体幹を倒すだけで腕がほとんど働いていないリーチ
・手関節や手指を強く固めたまま行う反復
・努力量が高すぎて息止め、過緊張、疲労が強くなる練習
SECTION 04
電気刺激は「代償を減らして反復する」助けになる

重度麻痺では、本人の努力だけでは十分な筋収縮が出にくいことがあります。その場合、除重力位で電気刺激を併用し、手関節背屈、肘伸展、肩周囲筋の活動を補いながら反復する方法は臨床的に使いやすい選択肢です。

上肢に対する機能的電気刺激や神経筋電気刺激については、複数のシステマティックレビューで、運動機能やADL指標への有用性が検討されています。研究ごとに方法や対象者は異なりますが、電気刺激は「本人の随意努力を置き換えるもの」ではなく、随意運動・課題練習と組み合わせる補助として考えると現場に取り入れやすいです。⁵,⁶

電気刺激を併用しながら脳卒中後の上肢リハビリを行う場面
随意運動が乏しい時期は、電気刺激などを併用して反復量を確保することがあります。
SECTION 05
Journey Rehabでの考え方
当施設での臨床上の考え方

ここからは、研究で示されている考え方と当施設での臨床経験を合わせた整理です。代償動作を細かく修正しすぎると、十分な反復量を確保しにくくなる場面があります。そのため、重度麻痺で筋出力が乏しい時期には、痛みや過緊張を増やさない範囲で一定の代償を許容しながら、まず動かす経験を増やすことを大切にしています。

一方で、座位でのリーチ練習や抗重力位の課題に進んできた段階では、代償を観察しながら難易度を細かく調整します。たとえば、物品の高さ・距離・重さ・把持しやすさ、座位姿勢、机の高さ、肘の支持、電気刺激の有無を変えながら、「成功できるが少し難しい」課題にします。

まとめ

代償動作は、生活を成立させるためには必要になることがあります。しかし、回復を目指す練習では、代償が強すぎると腕や手を使う練習になりにくいこともあります。大切なのは、代償をゼロにすることではなく、「今の目的に対して、その代償が役に立っているのか、邪魔をしているのか」を見極めることです。

免責事項

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。リハビリ内容は、発症時期、麻痺の程度、痛み、感覚障害、既往歴などにより適切な方法が異なります。実施前には担当医師やリハビリ専門職へご相談ください。研究情報は執筆時点の内容であり、今後変わる可能性があります。

上肢麻痺のリハビリについてご相談ください

「今の身体に合った運動を知りたい」「生活動作や上肢の使い方を相談したい」など、お気軽にご相談ください。身体の状態を一緒に確認しながら、リハビリの進め方を考えます。

田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
よくある質問
Q. 代償動作は全く許さない方がよいですか?
A. 全く許さない、という考え方は現実的ではありません。特に重度麻痺では、練習量を確保するために一定の代償を許容する場面があります。
Q. どのくらいの難易度がよいですか?
A. 目安としては10回中6〜8回程度成功する課題が使いやすいです。成功が多すぎる場合は少し難しくし、失敗が多すぎる場合は課題を下げます。
Q. 電気刺激はどんな時に使いますか?
A. 随意収縮が弱く、本人の努力だけでは反復が難しい場合に、筋活動を補助しながら練習量を増やす目的で使うことがあります。
参考文献
1. Schwarz A, et al. Quantifying Quality of Reaching Movements Longitudinally Post-Stroke: A Systematic Review. Neurorehabil Neural Repair. 2022. PMCID: PMC8902693.
2. Barth J, et al. Relationships between accelerometry and general compensatory movements of the upper limb after stroke. J Neuroeng Rehabil. 2020. PMCID: PMC7576735.
3. Maier M, et al. Principles of Neurorehabilitation After Stroke Based on Motor Learning and Brain Plasticity Mechanisms. Front Syst Neurosci. 2019. PMCID: PMC6928101.
4. Woodbury ML, et al. Matching Task Difficulty to Patient Ability During Task Practice Improves Upper Extremity Motor Skill After Stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2016. PMID: 27117385. PMCID: PMC5278766.
5. Howlett OA, et al. Functional electrical stimulation improves activity after stroke: A systematic review with meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2015.
6. Eraifej J, et al. Effectiveness of upper limb functional electrical stimulation after stroke for the improvement of activities of daily living and motor function: a systematic review and meta-analysis. Syst Rev. 2017. PMCID: PMC5331643.
7. French B, et al. Repetitive task training for improving functional ability after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016. PMID: 27841442. PMCID: PMC6464929.