
この記事の結論
「リハビリの効き目を高める薬があると聞いた」「パーキンソン病の薬を飲むと、麻痺が早く良くなるの?」。脳卒中のあと、こうした疑問を持つ方もいるでしょう。その代表的な薬が、脳の中でドパミンという物質に変わる「レボドパ」です。
レボドパはもともとパーキンソン病の治療薬ですが、ドパミンが「動きを覚える」ことに関わることから、脳卒中後のリハビリと組み合わせる研究が20年以上続けられてきました1。この記事では、2019年と2025年に発表された大規模な試験を中心に、分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
目次
レボドパとは?なぜ脳卒中のリハビリで注目されたの?
レボドパ(levodopa、L-ドパ)とは、脳の中でドパミンに変わり、不足したドパミンを補う飲み薬です。多くは、脳に届きやすくするカルビドパという成分と組み合わせた配合薬として使われます1,2。
ドパミンは、動きを学ぶことや「うまくいった」という手応え、脳の回路のつながり方の変化(可塑性)に関わる物質です1。そのため「リハビリ中にドパミンを増やせば、練習で動きを覚えやすくなり、麻痺の回復が進むのではないか」と考えられてきました1,2。
2001年には53人を対象にした小規模な試験で、理学療法にレボドパを加えた群のほうが運動機能の回復が良かったと報告されました1。その後の試験では同じ結果が確認されなかったものの、スイスの4つのリハビリ施設を調べた研究では、464人中114人(25%)がリハビリを後押しする目的でレボドパを処方されていたほど、実際の現場で使われてきました1。
この記事で取り上げるのは、パーキンソン病などの症状がない方に、麻痺の回復を後押しする目的でレボドパを使う研究です。パーキンソン症状などの治療としてレボドパを処方されている方は、自己判断で中止・減量せず、必ず主治医に相談してください。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、これまでで最も大きな2つの試験では、リハビリにレボドパを加えても、偽薬(有効成分を含まない薬)を加えた場合と比べて、手足の運動機能や歩行の自立に差はみられませんでした1,2。
発症7日以内で、手足の麻痺があり入院でのリハビリが必要な610人(年齢の中央値73歳)を、レボドパ群(307人)と偽薬群(303人)に分けた二重盲検試験です1。レボドパ100mg/カルビドパ25mgを最大1日3回、漸増・漸減を含む39日間飲み、同時に課題指向型の練習を含むリハビリ(1日3回程度、レボドパ群は平均約79回・約45時間、偽薬群は約77回・約44時間)を受けました1。
3か月後の運動機能(Fugl-Meyer評価〔FMA〕、100点満点)は、レボドパ群が中央値68点、偽薬群が64点で、発症時の点数で調整した差は−0.90点(95%信頼区間−3.78〜1.98)と、はっきりした差はありませんでした1。研究チームが「患者さんにとって意味のある差」とした6点には届いていません。腕・脚それぞれの点数、日常生活の自立度(mRS)、移動能力、生活の質の評価にも差はみられませんでした1。
イギリスの51施設で、発症5〜42日(平均18日)に10m以上歩けなかった593人(平均68.5歳)を対象にした二重盲検試験です2。レボドパ配合薬または偽薬を、理学療法・作業療法の45〜60分前に飲む方法で最大6週間続けました2。
8週後に一人で歩けるようになった方は、レボドパ群41%、偽薬群45%で差はありませんでした(オッズ比0.78、95%信頼区間0.53〜1.15)2。腕の動き、日常生活動作、認知機能などにも良い傾向はみられず、練習中の嘔吐はレボドパ群でやや多い結果でした(6.2%対3.2%)2。
「効果が遅れて出てくるのでは」という疑問に答えるため、2回以上の評価があった576人を対象に、発症直後から6か月後までの経過を調べた解析では(6か月時の運動評価は381人)、両群とも時間とともに点数が伸びた一方、回復の進み方(カーブ)にレボドパによる違いはみられませんでした3。
また、脳卒中後に多い強い疲れ(脳卒中後疲労)についても、5週時点で疲労がある方の割合はレボドパ群26.8%、偽薬群29.4%で、はっきりした差はありませんでした(456人の解析)4。疲労の解析は探索的で、服薬を一定割合以上続けて評価に回答した方が中心であり、全員をそのまま比べた解析ではありません。
脳卒中後の疲れやすさへの向き合い方については、脳卒中後の疲労と活動量の調整について解説した記事で詳しく紹介しています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
2つの試験はどちらも、偽薬を使い、患者さんも評価する人もどちらの薬か分からない「二重盲検」で行われた、規模の大きな試験です1,2。ESTREL試験では3か月までに死亡した28人を除く582人(95.4%)が主要解析の対象となり、さまざまな条件で解析しても結果は同じでした1。このため「平均的には上乗せの差はない」という結果は、比較的信頼できると考えられます。
一方で、ESTREL試験はスイスのみ、DARS試験はイギリスのみで行われ、薬の飲み方(1日3回の継続か、練習前だけか)や対象者(発症からの日数、歩けるかどうか)も異なります1,2。血液中の薬の濃度や遺伝的な違いは調べられておらず、6か月の経過の解析は事後的な解析(あとから追加した分析)です1,3。
何が変わりやすく、何は変わりにくい?
大規模な試験の範囲では、レボドパを加えて「変わった」とはっきり言える項目は見つかっていません。一方、リハビリを続けた両方のグループでは、時間とともに運動機能が伸びていました1,3。
リハビリの点数の見方については、脳卒中後の上肢機能の評価指標について解説した記事でFugl-Meyer評価などを紹介しています。
どんな人は注意が必要?
現時点では、麻痺の回復を目的に「誰にでも勧められる薬」とは言えません1,2。研究の対象になったのは、もともと生活が自立していて、発症から間もない時期にリハビリを受けていた方でした。ESTRELは入院リハビリが必要な方が対象で、DARSには地域でのリハビリも含まれていました1,2。
・ESTRELでは入院リハビリが必要な方、DARSでは病院や地域で理学療法・作業療法に参加できる方1,2
・脳梗塞と脳出血の両方(DARS試験ではくも膜下出血を除く)1,2
・吐き気や嘔吐が出やすい方2
・混乱や幻覚などが出やすい方、ほかに多くの薬を飲んでいる方
・パーキンソン病などで、すでにレボドパを飲んでいる方(自己判断での変更は避ける)
薬の開始・中止・量の変更は、必ず主治医の判断で行います。リハビリの担当者に「薬を飲み始めてからふらつきが増えた」などの変化を伝えることも、安全に練習を続けるうえで大切です。
どのくらいの量・期間で調べられた?
研究で用いられた方法は、「発症早期に、数週間、リハビリと並行して飲む」形でした1,2。どちらの方法でも、偽薬との差はみられていません。以下は研究条件であり、ご自身で服薬の量や時間を変更するための説明ではありません。
これらの結果は、薬を自己判断で追加する根拠にはなりません。両群の改善には自然回復も含まれるため、練習だけの効果を切り分けた試験ではありませんが、状態に合わせたリハビリを続けることは大切です。リハビリの量と時間の考え方は、脳卒中リハビリの量と時間について解説した記事で紹介しています。

作業療法士の視点
レボドパは「リハビリの効き目を高める薬」として期待されてきましたが、合わせて約1,200人を対象にした2つの大規模な試験では、運動機能や歩行への上乗せはみられませんでした1,2。一方で、特定の方に合う可能性や、別の使い方での結果は、まだ分かっていません1,2。
回復を支える中心は、今のところ、生活の目標に合わせた練習を続けることです。薬について気になることがあれば主治医に相談し、リハビリでは「どの動作を、どのくらい練習するか」を一緒に確認していくことが大切だと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。薬の開始・中止・量の変更は、必ず主治医にご相談ください。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. レボドパを飲むと、脳卒中後の麻痺は早く良くなりますか?
A. 大規模な2つの試験では、リハビリにレボドパを加えても麻痺や歩行の回復に差はみられませんでした1,2。現時点で、麻痺の回復のために勧められる根拠は乏しいと考えられます。
Q. ESTREL試験とはどんな研究ですか?
A. スイスで発症早期の脳卒中の方610人を対象に、レボドパと偽薬を比べた二重盲検試験です1。39日間、1日3回飲みながらリハビリを受け、3か月後の運動機能に差はありませんでした。
Q. レボドパの副作用にはどんなものがありますか?
A. 研究では、吐き気や嘔吐、立ちくらみ・失神、混乱などの副作用がみられた方がいました1,2。重い有害事象の数は偽薬と同程度でしたが、体調の変化があれば主治医に相談してください。
Q. パーキンソン病でレボドパを飲んでいます。やめたほうがよいですか?
A. パーキンソン症状などの治療で処方されているレボドパは、自己判断でやめたり減らしたりしないでください。この記事の研究は、パーキンソン症状などがない方に麻痺の回復目的で使った場合の結果で、症状の治療で処方されている場合とは目的が異なります。
Q. 時間がたってから効果が出ることはありますか?
A. ESTREL試験で6か月後まで経過を追った解析では、回復の進み方にレボドパによる違いはみられませんでした3。ただし、これはあとから追加した解析で、1年以上の経過は分かっていません。
Q. 脳卒中後のだるさ(疲労)には役立ちますか?
A. ESTREL試験の追加解析では、5週時点で疲労がある方の割合に、レボドパと偽薬ではっきりした差はありませんでした4。疲労への対応は、活動量の調整など別の方法も含めて考えます。
Q. では、回復のために何を大切にすればよいですか?
A. 研究では、両方のグループとも課題指向型のリハビリを続ける中で運動機能が伸びていました1,3。生活の目標に合わせた練習を、無理のない量で続けることが土台になると考えられます。