
先に結論
脳卒中後の飲み込みにくさがある方の検査では、とろみをつけると飲み込みの安全性が高まる結果が報告されています1。一方で、肺炎が減るかどうかなど長い目で見た影響は十分に分かっておらず、脱水などの注意点もあります23。
「退院のときに、お茶にはとろみをつけるように言われた」「とろみをつけると飲みたがらず、水分が足りているか心配」――脳卒中のあとに飲み込みにくさ(嚥下障害)が残ったご本人やご家族に向けて整理します。この記事では、飲み物にとろみをつける、食べ物の形を調整する、顎を引くなどの姿勢を工夫する、といった「代償的な方法」について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、脳卒中後の飲み込みにくさがある方の検査では、とろみをつけると飲み込みの安全性が高まる結果が報告されています1。一方で、肺炎が減るかどうかなど長い目で見た影響は十分に分かっておらず、脱水などの注意点もあります23。
とろみ・食形態・姿勢の調整とは
脳卒中のあとは、飲み込みに関わる筋肉の動きやタイミングがずれて、飲み物や食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が起こりやすくなることがあります。研究では、脳卒中で入院した方の約45%に飲み込みにくさがあると報告されています1。
サラサラした水やお茶は、口からのどへ流れるスピードが速く、飲み込む準備が整う前にのどへ届いてしまうことがあります。そこで、とろみ調整食品を使って飲み物の流れをゆっくりにしたり、食べ物を軟らかくまとまりやすい形にしたり、顎を軽く引いた姿勢で飲み込んだりする方法がとられます。これらは、飲み込みの力そのものを鍛えるのではなく、「今の飲み込みの状態に合わせて、安全に食べる・飲むための工夫」です。
飲み込みにくさに対するリハビリ全体の考え方については、脳卒中後の嚥下障害とリハビリについて解説した記事で紹介しています。日本では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類などで、食べ物やとろみの段階が整理されています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
食事中に何度も強くむせる、食後に声がガラガラする、原因の分からない発熱が続く、体重が減ってきた、といった変化がある場合は、早めに主治医や言語聴覚士などの専門職に相談してください。むせがなくても気管に入っている「むせない誤嚥」もあります。とろみの濃さや食事の形は、自己判断で変えず、飲み込みの評価をもとに決めることが大切です。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、「とろみをつけると、検査で安全に飲み込める割合が増えた」という報告がある一方、「長い目で見て肺炎や健康状態がどうなるか」については研究が少なく、結論が出ていません。
脳卒中後に飲み込みにくさがある120名を対象に、嚥下造影検査(レントゲンで飲み込みを確認する検査)で、サラサラの液体と、とろみの濃さを6段階に変えた液体を比べた研究です1。サラサラの液体で安全に飲み込めた方は41.2%でしたが、とろみをつけると、最も薄いとろみで71.9%、濃いとろみでは95.6%まで増えました1。サラサラの液体で気管に入った方は17.5%で、とろみをつけるとほとんどの濃さで減りました1。また、とろみをつけても、のどに残る量(咽頭残留)が増えることはありませんでした1。
2010〜2018年に発表された脳卒中の診療ガイドライン13件を調べ、とろみをつけた飲み物についての推奨と、その根拠を検証した研究です2。すべてのガイドラインが、とろみの使用を推奨していました2。しかし、推奨の根拠として挙げられた研究の多くは、とろみの使用を直接支持するものではなかったと指摘されています2。また、とろみの飲み物は味や飲みやすさの面で好まれにくく、生活の質や続けやすさに影響しうることも述べられています2。
認知症またはパーキンソン病があり、サラサラの液体で誤嚥が確認された50歳以上の515名を対象に、「顎を引いた姿勢で飲む」方法と「とろみをつけた飲み物を飲む」方法を比べた研究です3。3か月間の肺炎の発生は、顎を引く方法で9.8%、とろみの方法で11.6%と、はっきりした差はありませんでした3。一方で、とろみの方法では、脱水(6%対2%)、尿路感染症(6%対3%)、発熱(4%対2%)がやや多く見られました3。
脳卒中の方を対象にした研究ではありませんが、とろみの濃さによる違いについて、認知症の方を対象にしたコクランレビューでも、濃いとろみはその場の誤嚥を減らしやすい一方で、その後の経過では好ましくない出来事が多かったと報告されています4。
顎を引く姿勢については、脳の損傷による飲み込みにくさがある方を対象にした小規模な研究で、顎を引くことで誤嚥を避けられたのは約半数だったという報告もあります5。姿勢の工夫が合うかどうかは、人によって大きく異なると考えられます。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
とろみ・食形態・姿勢の調整に関する研究には、次のような限界があります。
脳卒中後の飲み込みにくさがある方にとって、どの濃さのとろみが最も合うかは、まだ決まっていません1。とろみや食形態の調整を続けることで、肺炎や栄養状態、生活の質が長い目で見てどう変わるかも、十分に検証されていません14。また、とろみの調整をいつ・どのように元に戻していくのがよいかについても、研究は限られています。
その場の飲み込みの安全性については比較的はっきりした結果がありますが、長期的な影響については研究が少なく、研究の対象者も脳卒中以外の方が含まれています34。この研究結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
とろみをつけると、検査の場で安全に飲み込める方の割合が増え、気管に入る方が減る結果が報告されています1。飲み込みの反射で気道が閉じるまでの時間が短くなることも示されています1。
肺炎が減るかどうかは、はっきりしていません34。のどに残る量は、とろみをつけても変わりませんでした1。また、とろみの飲み物は好まれにくく、飲む量が減って脱水につながるおそれがあります23。
つまり、とろみ・食形態・姿勢の調整は「飲み込みを元に戻す方法」ではなく、「今の飲み込みの状態で、安全に食べる・飲むことを支える方法」と考えるのが実際に近いと思います。口の中を清潔に保つことも、誤嚥したときの肺炎のリスクに関わると考えられています。脳卒中後の口腔ケアについて解説した記事もあわせてご覧ください。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で対象になってきたのは、嚥下造影検査などで、サラサラの液体を飲み込むときに誤嚥やその危険が確認された方です13。病院や施設での評価をもとに、とろみや食形態の指示を受けて退院した方は、その内容を自宅でどう続けるかを専門職と相談する意味があります。
とろみの飲み物を嫌がって飲む量が減っている方、尿の回数や量が減っている方、便秘や発熱がある方は、脱水に注意が必要です3。また、とろみ調整食品は、水分の種類や時間によって濃さが変わることがあります。指示どおりの濃さを作れているか、作る人によって差が出ていないかも確認しておきましょう。

とろみの濃さ・続け方の目安
2019年の研究では、とろみの濃さを6段階に分けて比べ、この研究で設定した粘度150〜800 mPa·sの範囲が、飲み込みの安全性を高めるうえで有用な範囲と考えられると述べられています1。濃すぎるとろみは、飲みにくさや好ましくない出来事が増える可能性があります34。
飲み込みの評価(嚥下造影検査や内視鏡検査、専門職による評価など)をもとに決めます。自己判断で濃くしたり薄くしたりしないことが大切です。
とろみの飲み物は飲む量が減りやすいため、1日にどのくらい飲めているかを記録しておくと、相談のときに役立ちます23。
顎を軽く引く姿勢が合う方もいますが、効果が見られるのは一部の方に限られるという報告もあり、専門職に確認してから取り入れます5。
飲み込みの状態は時間とともに変わることがあります。むせ方や食事の様子が変わったら、とろみや食形態の見直しを相談しましょう。
最適なとろみの濃さや見直しの時期はまだ分かっておらず、上記はあくまで目安です1。飲み込みに関わる舌の力をつける練習については、脳卒中後の舌圧トレーニングについて解説した記事で紹介しています。
作業療法士の視点
とろみや食形態の調整は、安全に食べるための大切な工夫ですが、「おいしくない」「飲みたくない」という気持ちが生まれやすく、生活の楽しみや水分量にも影響します。研究からは、その場の飲み込みの安全性を高めやすい一方で、長期的な影響はまだ十分に分かっていないことが分かります。主治医や言語聴覚士の評価をもとに、ご本人の好みや生活の状況も含めて、続けやすい方法を一緒に考えていくことが大切だと考えています。
