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脳卒中後の着替えが難しいとき|更衣練習の研究と生活での工夫

自費リハビリ情報 読了目安 約9分 文・田中 光(作業療法士)
安定した椅子に座る高齢男性が支援者の見守りでカーディガンの袖に腕を通す

袖が見つからない、麻痺側の腕が引っかかる、ズボンを上げるときにふらつく。脳卒中後の着替えには、同じ「できない」という言葉では表せない困りごとがあります。毎朝の動作なので、本人の負担だけでなく、家族の出勤や外出の準備にも影響します。この記事では、練習法の比較研究と診療ガイドラインを手がかりに、何を評価し、生活ではどう調整するかを整理します。

着替えが難しくなる理由を工程ごとに見る

手の動きと姿勢の問題

更衣には、衣服を選ぶ、広げる、袖に手を入れる、肩まで引き上げる、留め具を扱うといった工程があります。麻痺側の腕を支えにくい、手で布をつかみにくい、肩に痛みがあるなど、難しさが出る場所は異なります。ズボンや靴下では足元に手を伸ばす姿勢や、衣服を引き上げるときの立位バランスも関わります。ひとつの動作ができても、着替え全体を安全に完了できるとは限りません。

注意・衣服の向き・手順の問題

衣服の前後や左右を捉えにくい、片側の袖を見落とす、途中で次の動作が分からなくなることもあります。これを単に「手が動かないから」と説明すると、必要な支援を見落とします。NICEの脳卒中リハビリガイドラインは、生活動作の観察と認知面の評価を合わせ、更衣の手順を整える方法や片手で着る方法、補助具などを挙げています。1

相談では実際の衣服を使う

病院で扱えた練習着と、自宅の細い袖・小さなボタンの服では負担が変わります。お気に入りの服を着たいのか、朝の準備を短くしたいのか、本人の希望を先に確認します。麻痺だけでなく生活動作を扱う考え方は、脳卒中後の作業療法について解説した記事でも紹介しています。

高齢男性が作業療法士と机上の衣服の前後や袖の位置を確認する
生活・作業場面を説明するためのイメージです。特定の利用者や研究参加者の写真ではありません。

研究から分かること

70人のDRESS試験:特定の方法の優位性は確定していない

Walkerらの2012年のDRESS試験では、脳卒中後に更衣の困難と認知面の問題が続く入院患者70人を、認知面の検査と動作中のエラー分析に基づく練習群36人、通常の機能的な更衣練習群34人に割り付けました。両群とも週3回、6週間の計画でした。6週時点の更衣評価では、どちらの群も開始時から向上しましたが、主要評価項目の群間差は統計的に明確ではありませんでした。2

研究が示すのは「比べた2方法」の結果

認知面を考慮した群では、視覚的な無視の検査により大きな変化が見られました。ただし、それが着替えの自立を確実に高めたとは言えません。右半球損傷の小さな部分集団では更衣成績に有利な傾向がありましたが、優位性を証明する結果ではありません。両群に練習があるため、練習をしない場合との比較や、自然な回復分を分離した評価にもなっていません。2

ガイドラインは個別の生活動作への対応を重視する

NICEは、日常生活動作に困難がある脳卒中後の人へ作業療法を提供し、機能を使う練習と、片手動作・補助具などの代償的な方法を検討するよう勧めています。家族への介助方法の指導も含まれます。ガイドラインの提案と、特定の練習法の効果が試験で確定したことは区別して読む必要があります。1

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

生活で試す前に確認したいこと

安定した座位と足元を先に整える

着替える場所には動きにくい安定した椅子を用い、足が支えられるか、床が滑らないかを確認します。車輪付きの椅子や低すぎる座面では、前かがみや立ち上がりの際の危険が増えます。座位でも後ろや横へ傾く人は、ひとりで試さず見守りや介助を担当者と決めます。ズボンの上げ下ろしは立位になる場合があり、上衣の練習が安全でも同じ方法では進められません。

肩と腕を引っ張らない

袖を通すために麻痺側の手を強く引く、肩を無理に上げる、関節の抵抗を押し切る方法は避けます。痛みがあれば、腕の支え方、服の大きさ、着る順番を確認してから進めます。肩の痛みや腫れが新たに出た場合は練習量だけの問題と決めつけず、担当医や専門職へ相談します。安全に支える位置は人によって変わるため、家族は実際に指導を受けます。

急ぐ朝と練習の時間を分ける

外出前に長い練習を追加すると、疲労や焦りで姿勢が崩れやすくなります。急いでいる日は必要な介助を使って生活を優先し、余裕がある時間に一工程を確認する選択もあります。疲れ方が大きい場合の考え方は、脳卒中後の疲労と活動調整の記事も参考になります。

着替えの準備として机に広げた前開きのカーディガンと安定した椅子
生活・作業場面を説明するためのイメージです。特定の利用者や研究参加者の写真ではありません。

衣服・手順・介助の具体的な工夫

衣服を準備する工程を減らす

はじめは本人が着たい服の中で、袖口や胴回りに余裕があり、前後が分かりやすいものを検討します。衣服を一度に山積みにせず、必要なものを順番に置きます。片側を見落とす人には、本人が見つけやすい配置や目印を専門職と試します。目印を付ければ全員に役立つわけではないため、実際に見つけられたかを確認します。

声かけは一度にひとつ

「腕を入れて、肩まで引いて、次は反対」と続けて言うと、途中の動作に集中しにくい場合があります。「この袖に手を入れましょう」のように一工程を示し、反応を待ちます。言葉で分かりにくければ、服を指す、見本を示すなどの方法を相談します。同時に複数人が声をかけることも避け、何が役立ったかを共有します。

麻痺側から着る方法にも個別確認が必要

麻痺側の袖から通す方法は練習で用いられますが、痛みや関節の動き、注意の向け方によって調整が必要です。脱ぐときも無理に腕を後ろへ引かないようにします。記事の手順をそのまま模倣せず、本人の衣服と姿勢で専門職に確認してください。立ってズボンを上げることが不安定なら、無理に片手で完結させず、どこを支えどこを介助するかを決めます。

補助具は使えるかまで確かめる

ボタンの操作具や靴下を履く補助具は、片手での操作を助ける場合がありますが、握る力、理解、感覚、衣服との相性が必要です。購入前に試せる機会があれば利用し、準備や片付けまで本人と家族が続けられるかを確認します。「道具がある」と「毎朝使える」は同じではありません。これは生活への適用例であり、特定の道具による改善を今回の試験が証明したものではありません。

作業療法士の視点:できる工程を生活に残す

全介助か完全自立かの二択にしない

服を選ぶ、袖を見つける、片方の腕を通すなど、本人が安全にできる工程は残し、難しいところだけ手伝う方法があります。家族がすべて代行すると準備は速くなりますが、本人の選択や動作の機会が減る場合があります。一方、疲れや痛みを我慢して全部を本人に任せることも適切ではありません。本人の希望、家族の負担、安全のバランスを相談します。

自宅では「いつも通り」を観察する

訪問場面では、寝室の椅子、衣服を取る収納、脱いだ服の置き場、洗面所への移動などを一連の生活として見ます。家族がどこで手を出すか、本人がどこで止まるかを確認し、手の練習だけでは見えない課題を整理します。Journey Rehabで提供する支援の範囲は、リハビリ内容の案内で確認できます。医療での評価や治療と合わせて検討します。

小さな変化を同じ条件で振り返る

同じ服、同じ椅子、近い時間帯で、難しかった工程と手助けを短く記録します。本人が着たい服を着られたか、肩の痛みが増えていないか、翌日に疲れが残らないかも見ます。うまくいかなかったときは回数を増やす前に、衣服・声かけ・姿勢を見直します。生活の目標とずれた練習を続けないことが大切です。

高齢男性が椅子に座ってカーディガンを着る工程を家族と確認する
生活・作業場面を説明するためのイメージです。特定の利用者や研究参加者の写真ではありません。

安全上の注意・中止と受診の目安

まとめ

脳卒中後の着替えは、手の機能、姿勢、注意、衣服、生活の時間配分を合わせて考える動作です。研究では特定の認知面を考慮した方法の優位性は確定していませんが、困る工程を観察して個別に調整することは診療ガイドラインで重視されています。本人が選ぶ・行う機会を残しつつ、痛みやふらつきを避ける方法を担当者と確認しましょう。

本記事は一般的な情報提供であり、診断や個別の治療指示ではありません。当社サービスの案内を含みます。研究結果は個人の効果を保証せず、診断・治療方針は主治医や担当医療者にご相談ください。文献確認日:2026年9月28日。

よくある質問

Q. 麻痺側から袖を通せば必ず着替えられますか?

A. 必ずではありません。肩の痛み、姿勢、衣服の向き、注意などによって難しさが変わります。実際の服で、腕を引かずにできる方法を作業療法士と確認してください。

Q. 毎日何分練習すればよいですか?

A. 全員に共通の最適時間は決まっていません。研究の頻度を家庭の処方にせず、疲れと生活上の必要性に合わせて、一工程から担当者と相談します。

Q. 手が少し動けば着替えも自立できますか?

A. 手の動きだけでは決まりません。衣服の準備、手順、座位・立位の安定、留め具の扱いまで安全にできるかを確認します。

Q. 家族が手伝うと回復を妨げますか?

A. 必要な介助を使うことが直ちに回復を妨げるとは言えません。安全にできる工程を本人に残し、難しい部分だけ手伝うなど、本人と家族の負担を調整します。

Q. 認知面の問題があると練習しても意味がありませんか?

A. そうとは言えません。工程を単純にする、配置を整える、ひとつずつ合図を出すなど個別の方法を検討します。ただし、特定の方法で自立できるとは保証できません。

Q. 着替えの途中に肩が痛くなったら?

A. いったん中止し、無理に腕を引いて終えないでください。腕の支え方や衣服を見直し、痛みが続く、新たな腫れがある場合は担当医に相談します。

参考文献

  1. NICE. Stroke rehabilitation in adults. NG236. 2023. Recommendations 1.1.6, 1.5.3–1.5.4, 1.16.1–1.16.2. 出典を確認する
  2. Walker MF, Sunderland A, Fletcher-Smith J, et al. The DRESS trial: a feasibility randomized controlled trial of a neuropsychological approach to dressing therapy for stroke inpatients. Clin Rehabil. 2012;26:675–685. PMID: 22180445. DOI: 10.1177/0269215511431089. 出典を確認する
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