
結論:高齢者の転倒対策では、足の痛みや皮膚、履物の適合も確認します。足のケア、靴・足底板の調整、足の運動を組み合わせた研究には転倒回数が減った結果がありますが、大規模試験では主要な結果に明確な差がありませんでした。「この靴だけで転倒を防げる」とは言えません。
「靴が当たって痛い」「かかとをつぶして履いている」「足元を見ようとするとふらつく」。こうした困りごとは、歩く量や外出のしやすさにも関わります。転倒が心配なとき、筋力や住まいだけでなく、足と履物にも目を向けることが役立ちます。
この記事では、地域で暮らす高齢者に対する足部の専門的な複合介入の研究を取り上げます。特定の靴のおすすめランキングや、足の病気の自己診断ではなく、医療機関・リハビリ専門職に何を伝え、生活の中でどこを確認するかを整理します。
- 足のケアを組み合わせた研究の結果と限界
- 靴の適合、履く動作、足の観察を生活につなげる方法
- 練習を止める症状と、医療機関に相談する目安
足の痛み・靴は、転倒とどう関係するか
痛みがある場所と、困る場面を分けて考える
足の指、爪、足裏、かかとなどの問題で、靴を履く、体重をかける、方向を変える動作が難しくなることがあります。ただし、痛みの場所だけで原因は決まりません。靴ずれ、皮膚や爪の問題、関節・神経・血流の問題などを区別するには医療的な評価が必要です。足の痛みがあることと、次の転倒の原因が足であることも同じではありません。
転倒の評価に、足と履物を含める
NICEの2025年ガイドラインは、包括的な転倒評価で確認する項目に「履物と足の状態」を含めています。歩行・バランス、薬剤、立ちくらみ、視力なども評価対象です。足だけに原因を絞らず、必要な対策を本人の状態に合わせて考える位置づけです。1
住まいの危険をどう調べるかは自宅の転倒危険評価の記事で扱っています。本記事はその中でも、足の症状、靴の適合、履く動作、専門的な足のケアに焦点を絞ります。かかとの痛みの運動療法全般とは、対象と目的が異なります。

研究結果:靴だけでなく足への複合介入
305人の試験:転倒回数は減ったが、転倒者の割合は明確でない
Spinkらの2011年のランダム化比較試験は、生活に支障のある足の痛みと転倒リスクを持つ、地域在住の高齢者305人を対象にしました。通常の足のケアに、足底板、靴の助言と購入補助、自宅での足・足関節の運動、転倒予防教育を加え、12か月追跡しています。2
転倒率の比は0.64(95%信頼区間0.45~0.91)で、介入群の転倒率が相対的に36%低い結果でした。一方、一度以上転んだ人の割合や骨折には、統計的に明確な差がありませんでした。36%という値は、靴を変えた人全員の転倒リスクが36ポイント下がる意味ではありません。2
1,010人のREFORM試験:主要評価項目に明確な差がない
2017年のREFORM試験は、英国・アイルランドで足のケアを利用する65歳以上の1,010人を対象にしました。足・足関節の運動、足底板、必要な場合の新しい靴などを通常ケアに加えています。12か月の転倒率は介入群で低い方向でしたが、調整後の比0.88(95%信頼区間0.73~1.05)で、主要評価項目に明確な群間差は示されませんでした。3
副次評価項目では、2回以上転倒した人の割合は27.6%対34.6%と介入群で低い結果でした。一方、足の痛みは介入群で増加しました。副次的な良い結果だけを使って「効果が確立した」とせず、不利益も含めて読み取る必要があります。3
研究をまとめても、靴単独の効果とは言えない
Wylieらの2019年のシステマティックレビューは9研究、6,502人を含みます。この全員が同じ介入を受けたわけではありません。足への複合介入3研究をまとめた転倒率の比は0.77(95%信頼区間0.61~0.99)でしたが、施設と地域の研究が混在しており、地域在住の全員に同じ効果があるとは言えません。単一の足部介入では、転倒率の明確な減少は示されませんでした。4
2026年の小規模試験でも、転倒そのものの差は明確でない
クッションの少ない靴を段階的に使う方法を調べた65人の試験では、バランス評価の改善が報告されました。しかし、1年間の転倒発生には明確な群間差がなく、転倒の差を検出するには規模が不足していました。評価テストの改善を転倒予防の証明に置き換えず、薄底の靴や裸足での練習を自己判断で始めないでください。8
ここでいう「転倒率」は、同じ人が何度も転んだ場合も数え、観察した時間に対して考える指標です。「転倒した人の割合」と分けて読むと、研究間の違いを理解しやすくなります。
研究の限界と、まだ分からないこと
どの要素が効いたのかは切り分けられない
足底板、靴の調整、運動、教育、通常のケアが一緒に行われています。結果から「靴だけ」「爪のケアだけ」「足指の運動だけ」の効果を取り出すことはできません。痛みが軽くなれば転倒が必ず減る、という因果関係も、この研究だけでは確定しません。2–4
対象者と日本の支援体制には違いがある
2011年の試験は、足の痛みがあり、日頃から足の専門的なケアを受けている人が中心でした。REFORM試験は末梢神経障害や認知症、パーキンソン病などを除外しています。神経疾患や感覚低下がある人に同じ方法をそのまま当てはめられません。また、海外のpodiatryという足部の専門的サービスと、日本の医療・リハビリ体制は同一ではありません。2,3
転倒の自己申告と、続けられた量の違い
参加者は介入を受けたことを知っており、転倒の記録は本人の申告に基づいています。靴や足底板、運動をどれくらい使い続けたかにも差があります。レビューでは介入の実施状況の報告不足や、評価に関するバイアスの懸念がありました。小さな差を過大に解釈せず、長期の骨折予防まで保証しないことが大切です。2–4
2026年にはこのテーマのコクランレビュー計画書が公表されていますが、これは結果をまとめた完成版レビューではありません。本記事では、新しい効果の数値として扱っていません。7
生活での具体例:足と靴を確かめる
以下は研究の数値を個人に当てはめる処方ではなく、相談や観察を進めるための具体例です。オーストラリアの2025年ガイドラインは、足の痛み・問題の評価と、本人に合う安全な履物、必要な専門支援を勧めています。5
靴を履く前:足と靴の中を見る
左右の足に、新しい赤み、水ぶくれ、傷、腫れ、爪が当たる場所がないかを確認します。靴の中に異物がないか、中敷きが折れていないかも見ます。足裏が見にくい場合は無理に片足立ちにならず、安定して座り、鏡や家族の手を借りる方法を相談します。感覚が鈍い人では「痛くないから大丈夫」と判断しません。6
履いたとき:長さだけでなく、幅・かかと・留め具
靴のサイズ表示だけで決めず、指先や変形部分が圧迫されないか、かかとが抜けないか、留め具を本人が扱えるかを見ます。2025年ガイドラインでは、低く安定したかかと、足を支える構造、溝のある靴底、使いやすい留め具などを挙げています。靴ひもを結べない場合は、結ぶ必要のない調整可能な留め方も候補です。5
むくみ、装具、足の変形がある場合は、普段使う靴下や装具も含めて専門職と適合を確認します。単に大きい靴に変えると、靴の中で足が動く場合があります。かかとを踏む使い方でよいか、きつさを我慢して履き続けていないかも見直してください。
帰宅後:歩けた距離と、足に残った変化
新しい靴を履いた日は、脱いだ後の皮膚の変化、痛み、疲れ方を確認します。「店で少し歩けた」ことと、「買い物をして帰宅できた」ことは別です。どの靴で、どこを、どの程度歩いて、どこがつらくなったかをメモすると相談しやすくなります。痛みや傷が出た靴を、慣らすために無理して履き続けないでください。

作業療法士の視点:履いて外出するまで
選んだ靴を、本人が履けるかまで確かめる
作業療法士の視点では、靴を買うところで支援は終わりません。玄関まで移動する、座る、足を入れる、留め具を締める、立ち上がる、扉を開けるという一連の動作を確認します。片手の使いにくさ、股関節の動き、視力、理解しやすい手順などによって、扱いやすい靴は変わります。
例えば立ったまま履くとふらつく場合、安定した椅子に座る方法を検討します。長い靴べらは候補ですが、届く長さか、足を無理に押し込まないか、使い終えた用具が通路に残らないかまで確かめます。これは生活動作を考えるための例で、特定の用具による転倒予防効果が研究で確立したという意味ではありません。
外出の目的を残しながら方法を調整する
買い物、通院、散歩では、歩く距離や荷物、休める場所が違います。「足が心配だから外出を全部やめる」ではなく、医療的な問題を確認したうえで、短い動線、休憩、付き添い、荷物の持ち方を相談します。靴の変更後は、屋内での方向転換や玄関の段差も、安全な範囲で確認します。
Journey Rehabへの相談では、足の病気の診断や傷の治療は医療機関につなぎ、生活動作と環境、本人が使える方法を考えます。訪問での支援をご検討の方は訪問自費リハビリの流れと料金をご覧ください。
足の運動・足底板を取り入れる前に
研究の運動量を、そのまま個人の開始量にしない
研究では足と足関節の運動が組み込まれていますが、痛み、皮膚の状態、感覚、循環、歩行能力によって安全に行える内容は変わります。「足指を毎日たくさん動かせばよい」とは言えません。まず医療者やリハビリ担当者と適応を確認し、痛みやふらつきを起こさない方法と量から考えます。足だけの運動で、全身のバランスや他の転倒要因を置き換えないことも大切です。
足底板を入れた後は、靴全体を再確認する
中敷き・足底板を足すと、靴内の空間やかかとの収まり方が変わります。足底板が足と靴に合うかは、店頭の商品説明だけでは判断できません。使い始めに赤み、痛み、しびれ、歩きにくさが生じたら、そのまま続けず処方・調整した専門職へ相談します。REFORM試験で足の痛みが増えた点も、導入後の確認が必要であることを示しています。3
家族は運動回数を監督するより、どの場面で困るか、新しい症状がないか、履物を使い続けられるかを共有します。本人が足を見せにくい、介助されることに抵抗がある場合には、確認する時間や方法を相談し、尊厳とプライバシーに配慮します。

安全上の注意・中止と受診の目安
練習や歩行確認を、その場で中止する目安
新しい痛み、増える痛み、靴ずれ、しびれの増悪、めまい、冷や汗、胸痛、強い息切れ、転びそうなふらつきが出たら、練習や歩行確認を中止します。安全な場所に座り、症状が続く・強い場合は医療機関へ相談してください。用具が滑る、椅子が動く、靴が脱げる場合も、その状態で練習を続けません。
糖尿病・感覚低下・血流の問題がある人は自己流の処置を避ける
糖尿病などで足の感覚が鈍いと、傷や熱さに気づきにくくなります。たこ・うおのめを刃物で削る、市販の除去薬で処置する、熱い湯で足を温める方法を自己判断で行わないでください。傷、赤み、腫れ、水ぶくれ、熱感、色の変化などに気づいたら早めに医療機関へ相談し、受診を運動や靴選びで先延ばしにしません。6
急いで医療機関につなぐ症状
急に足が冷たく青白くなる、急な強い痛みや感覚・動きの変化、広がる赤みと発熱、膿、体重をかけられないほどの痛みは、靴の問題だけと考えず速やかに医療機関へ相談してください。9,10意識障害、強い胸痛や呼吸困難、突然の片側の麻痺・言葉の出にくさなどは119番へ連絡します。
転倒を繰り返す、失神する、歩き方が急に変わった場合も、足のケアだけで様子を見ないでください。原因不明の転倒や失神には医療的な評価が必要です。薬を自己判断で減らす・やめることも避けます。1,5
まとめ
高齢者の足と履物の確認は、転倒対策の一部です。足のケア、靴・足底板、足の運動を組み合わせた研究には有利な結果がありますが、主要評価項目で差が明確でない試験や、足の痛みが増えた報告もあります。靴だけに効果を期待せず、足の状態を医療者に相談し、履く動作と実際の生活での使いやすさまで確かめましょう。
本記事は一般的な情報提供であり、診断や個別の治療指示ではありません。株式会社Journey Rehabのサービス案内を含みます。研究結果は個人の効果を保証しません。文献確認日:2026年10月2日。
よくある質問
Q.転ばない靴はありますか?
転倒を完全に防ぐ靴はありません。足に合い、かかとや留め具を適切に使えて、歩く場所に合うことを確かめます。足の問題だけでなく、身体の状態や環境も評価します。
Q.高価なインソールを買えばよいですか?
価格や「転倒予防」という表示だけでは判断できません。足底板を加えると靴の収まりも変わります。痛み、感覚低下、変形、装具がある場合は特に、医療機関や調整を担う専門職へ相談してください。
Q.足が痛い日は運動を続けるべきですか?
新しい痛みや増悪があるときは無理に続けません。傷や腫れなどの変化を確認し、原因と再開方法を担当者に相談します。痛みを我慢するほど転倒予防効果が高くなるという根拠はありません。
Q.室内のスリッパも見直した方がよいですか?
脱げやすさ、足への当たり方、靴底、本人が安全に履けるかを確認します。慣れた履物を急に替えると動作も変わるため、足の状態と室内の床、歩き方に合わせて相談してください。
Q.糖尿病で痛みがないなら足は大丈夫ですか?
感覚低下があると、傷があっても痛みを感じない場合があります。無理のない姿勢で足を観察し、変化があれば医療機関に相談します。自分で見えない場合は鏡や家族の支援を検討してください。6
参考文献
- NICE. Falls: assessment and prevention in older people and in people 50 and over at higher risk. NG249. 2025. Recommendations. 出典を確認する
- Spink MJ, Menz HB, Fotoohabadi MR, et al. Effectiveness of a multifaceted podiatry intervention to prevent falls in community dwelling older people with disabling foot pain: randomised controlled trial. BMJ. 2011;342:d3411. PMID: 21680622. DOI: 10.1136/bmj.d3411. 出典を確認する
- Cockayne S, Adamson J, Clarke A, et al. Cohort Randomised Controlled Trial of a Multifaceted Podiatry Intervention for the Prevention of Falls in Older People (The REFORM Trial). PLoS One. 2017;12:e0168712. PMID: 28107372. DOI: 10.1371/journal.pone.0168712. 出典を確認する
- Wylie G, Torrens C, Campbell P, et al. Podiatry interventions to prevent falls in older people: a systematic review and meta-analysis. Age Ageing. 2019;48:327–336. PMID: 30615052. DOI: 10.1093/ageing/afy189. 出典を確認する
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- Menz HB, Dyer SM, Lamb SE, Sherrington C. Podiatry for preventing falls in older people in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2026;8:CD016193. レビュー計画書。PMID: 42549634. DOI: 10.1002/14651858.CD016193. 出典を確認する
- Futrell E, Chevan J. Effects of Long-Term Minimal Footwear Use on Fall-Risk and Fall Incidence in Older Adults. Gerontology. 2026. PMID: 41468314. DOI: 10.1159/000550264. 出典を確認する
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