脳卒中後の「反張膝」は良くなる?原因別のリハビリ方法と自主トレ【療法士解説】

脳卒中の後、リハビリを経て歩けるようになった方でも、以下のようなお悩みをお持ちではありませんか?
- 「歩くたびに膝がカクンと後ろに入ってしまう」
- 「膝が突っ張って、ピンと伸び切ったまま曲がりにくい」
- 「歩きにくく、すぐに疲れてしまう」
このような歩行パターンは、専門用語で「反張膝(はんちょうひざ)」と呼ばれ、脳卒中後に多く見られる症状の一つです。
この記事では、現役の療法士が以下のポイントを分かりやすく解説します。
この記事でわかること
- 反張膝の正体:なぜ膝だけの問題ではないのか?
- 2つのタイプ:あなたの反張膝はどのタイミングで起きている?
- 最新エビデンス:効果的なリハビリ(固有感覚など)の紹介
※免責事項:本記事は情報提供を目的としており、医師による診断・治療の代替ではありません。症状や治療の適応は個別に異なるため、必ず主治医や担当療法士と相談しながら進めてください。
反張膝(はんちょうひざ)とは?
反張膝(Genu Recurvatum)とは、歩行中に体重を支える場面(立脚期)において、膝関節が通常よりも過剰に伸び切ってしまう状態(膝が逆側に反るような状態)を指します。
これは決して珍しい症状ではありません。研究によると、脳卒中後に歩行が可能な方の約20〜68%に見られる一般的な歩行障害の一つと報告されています(Geerars M,2022)。
そのままにしておくと危険?反張膝のデメリット
臨床現場において、反張膝は「歩きにくい」という感覚的な訴えだけでなく、放置すると身体に様々な悪影響を及ぼすため、リハビリでも優先的に介入していくことが多い症状です。
具体的には、以下のようなリスクがあります。
膝の痛みと変形(身体的負担)
- 膝が伸び切る衝撃が繰り返されることで関節に負担がかかり、将来的な痛みや変形(変形性膝関節症など)につながる恐れがあります。
歩行機能の低下
- スムーズな体重移動ができなくなるため、歩く速度が遅くなったり、左右のバランスが悪くなったりします。
- 過剰な力を使うため、エネルギー消費量が増え、すぐに疲れてしまいます。
外見への影響
- 膝が突っ張る独特の歩き方は、見た目の歩容(歩く姿勢)にも影響を与えます。
「膝の問題だから膝を治せばいい」と思われがちですが、実は膝以外の場所に原因が隠れていることがほとんどです。次章から、そのメカニズムを詳しく解説します。
結論:反張膝は「膝の問題」だけではありません
「膝が伸びてしまうのだから、膝の筋肉を鍛えれば良くなる」そう思われることが多いですが、実は反張膝は「膝」そのものではなく、「足首」や「股関節」、「感覚」の問題が組み合わさって起きているケースがほとんどです。
最新の研究では、以下の要素が複雑に関係していると言われています。
- 足首の問題:特につま先が下がってしまう(尖足・底屈)状態
- 感覚の問題:固有受容感覚(膝がどのくらい曲がっているかを感じる能力)
- 全身のバランス:股関節や体幹(胴体)の支える力
そのため、最近の研究論文(Geerars M,2022)では、単に筋トレをするだけでなく、「固有感覚(プロプリオセプション)」へのアプローチを追加することが有望であると報告されています。
反張膝が起こる原因
反張膝の原因は単一ではなく、筋力の低下、痙縮(筋の筋緊張)、固有受容感覚の障害などが複合的に関与します。主な原因は以下の通りです。
● 筋力低下:
◦ 膝関節屈曲筋(もも裏の筋肉 [ハムストリングス])の弱化
足を支える部分にかけて膝を制御する力が不足することで、反張膝を招きます。(Geerars M,2022)
◦ 股関節伸展筋(お尻の筋肉 [大殿筋])の代償動作
歩きの推進力が不足している場合、大殿筋(お尻の筋肉)が過剰に活動して膝を後ろに引っぱられ、結果として膝が伸び切ってしまうことがあります。(田中惣治,2016)
◦ 前脛骨筋(すねの筋肉)と大腿四頭筋(太もも前面)の弱化
歩きの中で踵が着いた直後にこれらの筋肉の働きが不足すると、前方への推進力が生まれず、膝が後ろの方向に崩れてしまいます。(田中惣治,2016)
● 痙縮(筋緊張の亢進):
◦ 下腿三頭筋(ふくらはぎ)の痙縮・過活動
つま先が下がった状態で固定されると、膝から下の正常な動きが阻害され、代償として反張膝が生じます。(Okada K, 2024)
● 体幹機能の低下:
◦ 足が地面に着いた直後に膝過伸展が起こるケースでは、体幹の機能低下が関与していることが示唆されています。(Okada K, 2024)
● 固有受容感覚の障害:
◦ 膝の位置を把握する感覚が鈍麻し、膝の制御が困難になることも指摘されています。(Geerars M,2022)
セラピストとして、細かく筋力や筋緊張の検査を行い、どの要素が影響が強く出ているかを詳しく評価しています。中には、1つの問題だけではなく、これらの要因が複合的に影響し合い、反張膝が生じている患者さんも少なくありません。
そのため、詳細な原因については、ご自身だけではなく、担当のセラピストにも相談してから確認してください。
臨床で多い反張膝パターン
反張膝は、「どのタイミングで膝が伸びきるか」によって大きく2つ(またはそれ以上)のパターンに分類され、それぞれ原因となる機能障害が異なります。(田中惣治,2016)
① 初期膝伸展パターン(Extension Thrust Pattern in Loading Response: ETP-LR)
● 特徴:踵が地面についた直後から膝が過伸展するパターン。
● 原因:前脛骨筋(すねの筋肉)と大腿四頭筋(太ももの筋肉)のうまく働かず、踵が着いた直後からの衝撃吸収と前方への重心移動(ヒールロッカーの機能低下)が適切に行われないことが主因です。また、体幹機能の低下も関連しているとされています。
● どんな人に多い?
臨床的には、比較的運動麻痺の程度が重度な方やバランス機能が低い方、ふくらはぎの筋緊張が高い方によく見られます。
膝が折れる(崩れる)のを防ぐために、無意識に膝をロックさせて棒のようにして支えようとする代償動作としても現れます。
② 中期膝伸展パターン(Extension Thrust Pattern in Single Stance: ETP-SS)
● 特徴:足が地面に着いた後、体重を片足で支える時に反張膝が生じるパターン。
● 原因:腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)の過剰な活動により、足関節が前方へ倒れる動きが阻害され(アンクルロッカー機能の低下)、下腿が前傾できずに後ろに引っ張られてしまうことが原因です。また、不足した推進力を補うために大殿筋(お尻の筋肉)が過剰に働き、膝を後方に引いてしまう代償動作も見られます。
● どんな人に多い?
臨床的には、ある程度お一人で歩ける方や、杖なし歩行を目指している方によく見られます。
「歩けるけれど、何かぎこちない」「長く歩くと膝裏やふくらはぎが痛くなる」という方はこのタイプが多いです。
タイプによって対策は全く違います
教科書的にはこのように2つに分けられますが、実際の臨床現場ではこれらが混ざっている方や、微妙なタイミングのズレがある方もいらっしゃいます。
重要なのは、「反張膝=膝の装具」と短絡的に考えないことです。
- パターン①の人:かかとの着き方の練習や筋緊張をコントロールする練習を行う必要があります。加えて、体幹機能を向上することで改善が得られやすいことが多いです。
- パターン②の人:太ももの裏の筋肉が過剰に働かないような適切な運動の学習や足首の柔軟性を高めることが解決の糸口になることが多いです。
ご自身がどちらのタイプに近いかを知ることは、正しい自主トレを選ぶための第一歩です。ぜひ、担当のセラピストに「私の膝が伸びているのは、かかとが着いた直後ですか?それとも体重が乗ってからですか?」と聞いてみてください。
反張膝に対する具体的な運動の方法
科学的に推奨される反張膝のリハビリ・運動療法
研究データ(Geerars M,2022)において、反張膝への介入として最も有望視されているのは「固有受容感覚(プロプリオセプション)へのアプローチ」です。
簡単に言うと、「膝をガチッとロックして骨で支える」のではなく、「筋肉でコントロールして、膝をわずかに曲げた状態で支える感覚」を脳に再学習させるトレーニングです。
ここでは、エビデンスレベルが高いものから順に、自宅でも意識できるポイントを交えて紹介します。
・固有受容感覚・制御トレーニング(最重要)

脳卒中後は「膝がどこにあるか分からない」感覚のズレが生じていることが多いため、視覚や体性感覚を使って脳のズレを修正します。
①Prowling(プラウリング/膝曲げ歩き)
システマティックレビューで中等度のエビデンス(有効性)が示されている方法です。
- 方法: 体幹を少し前傾させ、常に膝を軽く曲げた状態(中腰に近い状態)を保ちながら歩きます。
- 狙い: 膝を完全に伸ばさない(ロックさせない)状態で体重を支える練習です。常に太ももの筋肉に刺激が入るため、膝のコントロール能力が養われます。
【実施する時のポイント】
初めは膝を深く曲げた状態から始めて徐々に、膝の曲げる角度を浅くしていくと段階的に練習することができます。その際に、踵が浮かないように足裏全体で体重を支えられているかを確認しながら行うといいです。
② 部分スクワット・片脚スクワット

- 方法: 何かに掴まりながら、膝を軽く曲げ伸ばしします。深くしゃがむ必要はありません。
- 実施のポイント:重要なのは回数ではなく、「戻すとき」です。立ち上がる際に、勢いよく膝をピーンと伸ばし切ってしまう方が非常に多いです。「膝が伸び切る手前で止める」「常に膝のお皿周りの筋肉が働いているのを感じる」ように、ゆっくり動作を行いましょう。
③ バイオフィードバック(自宅での工夫)
臨床では角度計やアラームを用いますが、自宅では「鏡」や「動画撮影」が代わりになります。
- 方法:全身鏡の横で足踏みやスクワットを行い、自分の膝が「逆側に反っていないか」を目で見て確認しながら動きます。視覚情報を脳へのフィードバックとして利用します。
- 実施のポイント:お尻の横に出っ張っている骨(大転子)・膝・くるぶしにシールを貼って動画で撮ったときに膝の位置がわかるようにするとやりやすいです。
2. 原因パターン別:筋力強化とストレッチ
前章で解説した「タイプ」に合わせて、重点的に行うメニューを変えるとより効果的です。
A. 「初期膝伸展パターン(着地直後)」の方
かかとが着いた瞬間の衝撃に耐えられていないタイプです。
- 前脛骨筋(すね)の強化: つま先を上げる練習を行い、かかとからの着地を促します。
- 大腿四頭筋(もも前)の強化: 椅子に座って膝を伸ばす運動などで、着地時のブレーキ力を養います。
- 体幹トレーニング: 良い姿勢を保つことで、足への過度な負担を減らします。
B. 「中期膝伸展パターン(体重が乗ってから)」の方
足首の硬さが邪魔をして、膝を後ろへ押し込んでいるタイプです。
- 下腿三頭筋(ふくらはぎ)のストレッチ: これが最も重要です。アキレス腱を伸ばし、足首が柔らかく前へ倒れる(背屈する)動きを引き出します。
- ハムストリングス(もも裏)の強化: 立った状態で膝を後ろに曲げる運動などを行い、膝が伸びすぎるのを防ぐブレーキ役を育てます。
3. その他の専門的なアプローチ
これらは専用の機器やセラピストの介助が必要ですが、リハビリ施設などで相談する際の選択肢となります。
- 全身振動刺激(Whole Body Vibration): 振動マシンの上でスクワット姿勢をとることで、固有感覚受容器を刺激し、制御能力を高める報告があります。
- チュービング・ガイダンス: トレッドミル歩行中に、膝の裏にゴムチューブをかけ、セラピストが軽く前へ引くことで、膝が過伸展しない感覚を誘導しながら歩く高度な練習です。
装具療法についての考え方

「装具をつけると筋力が弱るのでは?」と心配される方もいますが、反張膝において装具は「進行予防」と「正しい動きの学習」のために非常に重要です。
1. 膝装具(サポーター・KAFOなど)
- エビデンスと臨床実感: 研究では「歩行速度改善の限定的エビデンス」とされていますが、臨床的には、物理的に膝が逆反りするのを防ぐため、「膝の痛み」や「変形の進行」を防ぐ効果は非常に高いと感じます。また、装具が当たる感覚が「これ以上伸ばしてはいけない」という合図(フィードバック)になります。
2. 短下肢装具(AFO・足首の装具)
- 役割: 特に「中期膝伸展パターン」の方において、足首が伸びきってしまう(底屈)のを防ぐ機能付きの装具や、足首の角度を調整できる装具を使うことで、結果的に膝の過伸展が抑制されるケースが多くあります。
- 推奨: 漫然と使い続けるのではなく、定期的にセラピストに適合(今の身体に合っているか)を確認してもらいましょう。
まとめ:正しい「理解」と「意識」が改善の近道
反張膝は、単に膝が悪いのではなく、「いつ膝が伸びるか(着地直後か、体重が乗ってからか)」によって原因も対策も異なります。
ただやみくもに歩く量を増やしても改善しません。以下の3点を意識した、質の高い練習が重要です。
- 原因を知る: 自分のタイプに合った筋トレやストレッチを選ぶ。
- 感覚を磨く: 「膝をわずかに曲げたまま保つ」感覚を脳に再学習させる。
- 道具を使う: 必要に応じて装具を使用し、悪い癖を定着させない。
自己流のトレーニングは悪化のリスクもあります。「私の場合はどうなんだろう?」と迷われた際は、ぜひ専門家(療法士)に相談し、二人三脚で改善を目指しましょう。
参考文献
Geerars M, Minnaar-van der Feen N, Huisstede BMA. Treatment of knee hyperextension in post-stroke gait. A systematic review. Gait Posture. 2022 Jan;91:137-148.doi: 10.1016/j.gaitpost.2021.08.016. Epub 2021 Aug 24. PMID: 34695721. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0966636221002915?via%3Dihub
田中惣治,山本澄子.片麻痺者の歩行パターンの違いによる歩行時の筋電図・運動力学的特徴.バイオメカニズム,23:107–117,2016.https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/23/0/23_107/_pdf/-char/ja
Okada K, Haruyama K, Okuyama K, Tsuzuki K, Nakamura T, Kawakami M. Categorizing knee hyperextension patterns in hemiparetic gait and examining associated impairments in patients with chronic stroke. Gait Posture. 2024 Sep;113:18-25.doi: 10.1016/j.gaitpost.2024.05.025. Epub 2024 May 23. PMID: 38820765. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0966636224001681?via%3Dihub
執筆者情報

株式会社Journey Rehab 代表|田中 光
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍
▪️経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
▪️ 研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
▪️論文執筆
