はじめに

脳卒中の後遺症といえば、手足の麻痺や言語障害を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際には、「感覚障害」も極めて重要な後遺症の一つです。たとえば「足裏の感覚が鈍い」「触れているのに感覚がない」といった状態は、転倒リスクの増加や運動麻痺の回復遅延につながることがあります。
この記事では、脳卒中後の感覚障害、とくに上肢に焦点をあてて、科学的に効果が示されている自宅でできるリハビリ方法を紹介します。
上肢の感覚障害とリハビリ
①触ってわかる力を取り戻す「SENseプログラム」

【方法】
・週3回 × 6週間、上肢の感覚再教育を実施
・2点識別、物体の形や素材の区別、視覚を遮断して位置感覚の訓練などを行う
【効果】
・2点識別が 6.4mm → 3.9mm に改善
・効果は6か月後も持続
【ポイント】
感覚障害へのリハビリで最も実施されているリハビリ方法です
②電気刺激と感覚訓練の組み合わせ

【方法】
・週5回 × 8週間の自宅訪問型訓練
・20Hzの電気刺激(手や指)
・触覚、位置覚、振動覚、立体認識の訓練を実施(視覚遮断)
【効果】
・感覚スコアが全体で20%以上改善(統計的に有意)
・2点識別 +22%、立体認識 +27% など
【ポイント】
③電気刺激+運動のリハビリ

【方法】
・正中神経への20Hz電気刺激を2時間/日、10日間実施
・その後、腕の運動リハビリを実施
・触覚識別、他動運動の方向識別の訓練を含む
【効果】
・触覚、位置覚、運動機能のすべてに改善が見られた
・特に触覚識別での改善が顕著
【ポイント】
感覚機能の刺激と運動訓練をセットにすることで、脳の再学習が促進されます。
まとめ
脳卒中による手の感覚障害に対しては、
・感覚を再教育する「SENSeプログラム」
・電気刺激と触覚訓練の組み合わせ
・運動と感覚入力を組み合わせたアプローチ
など、科学的に効果が示された方法がいくつかあります。
特に注目すべきは、発症から半年以上経過した慢性期でも感覚機能の改善が認められている点です。
「もう治らない」とあきらめず、的確な訓練を継続することで、生活の質を取り戻すことは可能です。
Journey Rehabでは、こうした最新の研究をもとに、感覚障害の方に合わせたオーダーメイドのリハビリを提供しています。
ご興味のある方は、お気軽に体験からご相談ください。
引用文献
・Carey, L. M., Macdonell, R. A. L., & Matyas, T. A. (2011). SENSe: Study of the effectiveness of neurorehabilitation on sensation: A randomized controlled trial. Neurorehabilitation and Neural Repair, 25(4), 304–313.
・Yekutiel, M., & Guttman, E. (1993). A controlled trial of the retraining of the sensory function of the hand in stroke patients. Journal of Neurology, 240(5), 240–246.
・Conforto, A. B., Ferreiro, K. N., Tomasi, C., dos Santos, R. L., Moreira, V. L., & Marie, S. K. N. (2007). Effects of somatosensory stimulation on motor function after subacute stroke. Neurorehabilitation and Neural Repair, 21(1), 20–26.
▪️執筆者情報
**株式会社Journey Rehab 代表|田中 光**
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍
▪️経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
▪️ 研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表